偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
形から入る、というのを時に人は安易だと言うだろう。実際そうかもしれない。けれども私はそれを愚かしいとは思わない。どんな形であれ最初の一歩を踏み出すことこそに価値があるのだから。
「という訳でどうかな?似合うかい?」
「あの、なんで私が?」
「第三者視点が欲しかったからね。それならキミが一番信用できる」
今回私がFes×LIVEで披露する新曲にはラップ要素があるため、ちょっとストリート風味な衣装にしようと思っている。
夏らしさと曲のテンポ感を考えた結果ラフな感じが良いだろうという結論になったのだ。
今日はスリーズブーケは吟子が各方面へ中止した場合の対応などの連絡で忙しいため、体の空いている錦上くんを拝借し街に繰り出している。
「私、ストリートとか古着とか全然分からないんですけど」
「なに。ライブで着るものだから普段使いとかは全く気にしなくていいんだ。ただステージ栄えしそうかどうかを教えて欲しい」
錦上くんはため息を吐きつつもなんだかんだ付き合ってくれる。令沢くんが言うようになんだかんだ付き合いが良い。
「トワイライト公演になりますし、そうですね・・・色味はもう少しビビッドにしてもいいと思います」
ふと思い立って私はちょっと悪戯心が働いてしまう。
「どれが似合うか選んでくれるかい?」
「え?自分のステージ衣装人に選ばせるんですか?」
「これも練習だよ。自分のことで選べなくても人のことなら選べるかもしれないだろう?ちょっとハードルを下げたところから練習するというのは真っ当な方法論じゃないかな?」
自己表現の最たるものである表情。そのうちの笑顔を見失った錦上くんはそれに端を発したのか自分の気持ちを素直に表に出せないようになっていた。
吟子は根気強くそれを改善するため、事ある事に錦上くんがその時思ったことのを言語化させたり、何かを選ばせたりと練習しているのだ。いつかそれが回り回って笑顔を取り戻せるようになると信じて。
そんな事情をある程度知っているのなら同期として機会は無駄にしたくない。私達104期生が蓮ノ空の生徒でいられる時間はそれほど長くはないのだ。
「あ、ちなみにだけどいかがわしい服装は駄目だよ。お姉さんといっても高校生なんでね」
「・・・それ去年水着でライブした人のセリフなんですか?」
「浜辺では水着というのは正装だよ。それに知らないのかい?パンツじゃないから恥ずかしくないもん、という格言が世の中にはあるんだ」
「いや、恥ずかしいと思ってください」
心底呆れたように、ゴミを見るような目で見られるのは、なんともうん。こういうのが好きだという人の気持ちも少しは分かる。
こういう負の感情は素直にだせるんだよなぁと思いながら私は逆着せ替え人形遊びに興じるのだった。