偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
予想の通り雨は昼前には止んだ。ただ風が強いため寧ろそちらの方が危険だったかもしれない。
余計なことを考えずに今はオーディオコメンタリーの準備だ。
ここに来て先輩達ですらやったことのない試みをするため、今日は余裕を持った行動をしている。
「そうだ。吟子部長」
「どうしたの改まって?」
「折角だしオーディオコメンタリー、映像付きにしません?あとで合成してワイプ芸配信として残せるように」
「ここに来てそれ言う!?」
「良いものを作るためにはギリギリでも妥協はしない」
「良いこと言った風にしてるけど今思いついたでしょ」
「常日頃から思考を巡らせるからこそ土壇場で発想が生まれるんです」
オーディオコメンタリーというちょっと緩い企画になったためかセラス先輩が軽い調子で百生部長に絡んでいる。
「まぁSOUND ONLYの画像だけだと味気ないしカメラ回すだけだからそれほど手間は掛からないんじゃない?」
安養寺先輩がまあまあととりなすように言うと百生部長もため息を吐きつつも頷く。
「そうだけどさ。映像付けるなら衣装のワンポイントを持ってくるとかそういう工夫もできたでしょ?」
「ギリギリだと結局は妥協になる、か」
「でもやらないよりは映像が賑やかになるんじゃないかな?」
「でも観てもらうのってFes×ReC:LIVEの方がメインでしょ?コンセプトがぼやけちゃうんじゃない?」
桂城先輩、徒町先輩も議論に加わりこんな土壇場なのにどんどんと時間が溶けていく。
折角早めに配信用のスタジオ入りしたのに勿体ない。
「なら配信はSOUND ONLYの画面にしつつ撮影はする。後日ワイプ付きのオーディオコメンタリーバージョンのFes×ReC:LIVEを配信、でどうかなセラス?」
「・・・そうですね。今日のは2窓という状況になりますし、それが良さそうですね」
「あの、セラス先輩。思いつきもいいですけど」
「マイカちゃんストップストップ〜!?」
流石に小言の一言も、と思った所で葵に止められる。いや、言うべき所はそれこそ妥協しちゃだめでしょ。
「なんだか懐かしいね。初めて会った時にも花帆先輩に小言言ってたよね」
先輩達は揃って苦笑をもらした。
「土壇場でも何か気になることがあったら言っていいよ。採用するかは別として言いたいことを言える環境っていうのが大事だから」
「それ私みたいに思いつきで口にしちゃう人間には助かるっす」
「それに、折角余裕を持った行動してるんだから。その時間を使わないと勿体ないでしょ」
そう言って百生部長は私の肩にポンッと手を置いた。
まぁ部長が確固たる理由があってそうしているなら私としては何も言えない。
こういうしっかりしているところに私は居心地の良さを感じているのだから。