偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
令沢葵は悩んだ結果、みらくらぱーく!に所属することとなった。世界中を、というスケール感に心惹かれたからだ。
「私、我慢したくないんです」
「ぅん?」
相手あってのみらくらぱーく!だと、姫芽と葵は配信のための録画準備をしていた。自分達がどんなものと対峙するのか、それを実感するために。
「昔から何でも欲しがっちゃう子だったんです、私は」
「何でも」
「そう。何でも。自分が持ってないものは全部」
自嘲気味に語る葵に姫芽は作業の手を動かしながら黙って続きを促した。
「ある程度は上手く付き合えるようになったんです。そんな衝動とも。でも、やっぱり誤魔化しでしかなくて」
配信機材のセットアップを整え、カメラが葵に向く。録画こそしていないが、そのレンズには葵が正面から映っていた。
「それで世界中を夢中にって聴いて思ったんです。それって世界を手に入れるってことと同じなんじゃないかって」
そう言った葵の表情はとても人には見せられない、恍惚とした笑みを浮かべていた。その夕陽のような瞳に少しの狂気を忍ばせて。
「これはパンドラの箱開けちゃった感じ?」
「そんな災害みたいに言わないでください。それに、私みたいなのも夢中にしたんですから、みらくらぱーく!の面目躍如じゃないですか」
まぁ確かに、と姫芽は妙に納得した。
これまで出会ったこと無い癖のある人もまたみらくらぱーく!にとっては夢中にするべき対象なのだ。
「よろしくお願いします、安養寺先輩」
「こちらこそよろしくね~葵ちゃん」
葵の語り口調。そして様子からこれまで散々自分の性分に振り回されたんだろう。
姫芽はそんな葵をがっかりさせないよう、飲み込まれないよう気合いを入れた。油断出来ない一年になる。そんな波瀾万丈の予感に舌舐りして。
「それじゃ早速自己紹介配信の録画、やろっか」
「今年は生配信ではないのがちょっと残念ですね」
リアルタイムでの反応がどんなものになるのか葵は純粋に興味があったし、自分が手に入れる(夢中にする)相手のことを生の反応で知りたくもあった。
「どっかしらのタイミングで街に繰り出してそこから生配信しよっか」
姫芽は自分が入部する前の年、学校でネット禁止令が出た時に学校外のレンタルスタジオから配信をしていた事を思い出した。忘れもしない藤島慈お誕生日配信だ。予算的に頻繁には出来ないにしてもたまにならありだろう。
「賛成です」
「生配信に向けて、とりあえずはカメラに慣れよっか。それと操作にも」
生配信がいつになるかは分からないけれど、漠然とでも目標があればモチベーションにつながる。
「それじゃ早速、撮ってみようか」
ここがスタートのボタンだよ、と示すと葵は恐る恐るボタンを押した。
「はじまってるかな?みなさんこんばんはー。蓮ノ空女学院106期生 令沢葵です」
見様見真似。でも確かな一歩に葵は凄く心が弾んでいた。