偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
新年度早々なのだが、今日の私も出来ないことが沢山あった。
卒業したさやか先輩から教わったレシピでフレンチトーストを作ろうとして牛乳に水没しただけのパンが出来上がった。それはそれで美味しかった。
今年初めてクラスメートになった子の名前を間違えた。よく間違えられると板倉じゃなく坂倉な彼女は笑って許してくれた。
数学の先生にX^n+Y^n=Z^nを質問された。分からないと答えたら先生も解説出来ないと言われ思わず宇宙猫の顔になった。
でも出来ることが去年よりもっと増えたと思えることもあった。
スクールアイドルクラブに入部体験に来た子と体験用のトレーニングメニューをこなしたら去年よりもずっと自分のスコアが良くなっていた。
普段の練習では体感的に捉えていたそれを数字として見るとやはり実感がわく。
そういう1つ1つの成功体験が私をスクールアイドルクラブのユニット"DOLLCHESTRA"の徒町小鈴だと胸を張って言える根拠になっている。
「でも、みんな平然と着いてこられるの凄いよね。徒町、入部したての頃はヘロヘロだったのに」
「ん~、そうだったようなそうじゃなかったような。体力尽きて倒れても直ぐに回復してリスタートしてたじゃん」
寮の入浴時間、湯船に浸かりながら今日を振り返り感嘆の声を漏らすと、隣にいた安養寺姫芽ちゃんが私にそう言う。ゾンビアタックみたいとか言うな。
「ラブライブ!優勝から大型イベントの開催とここ2年の活躍は派手だったからね~」
それだけ注目が集まれば必然的に志の高い人が自然と集まり、そういう人は大抵自分でトレーニングとかもしているものだ。既に基礎体力が付いていても不思議ではない。
「でも、それ自分達で言っちゃうんだ」
「客観的事実だしね」
客観的事実、謙遜でも過大評価でもなくありのままの事実をキチンと捉えること。それもまた必要なのだと徒町はこの2年で学んだ。"なんか"ではない徒町。私は私を認められるようになったのだ。
「今日来てくれた子達、みんな残ってくれるかな?」
「どうだろうね?残ってくれたら嬉しいけどねぇ」
未来にしか答えのない問いは大浴場の湯気に隠れるように消えていく。
「姫芽ちゃんはどんな子が来てくれたら嬉しい?」
「んー、めぐるりを越える人?」
「存在するの!?」
姫芽ちゃんの所属するスクールアイドルクラブ内ユニット"みらくらぱーく!"を卒業した先輩であるめぐるりコンビを姫芽ちゃんは神のように崇めている。
「めぐるりは絶対だからねぇ」
たぶんだけど良い意味で誰が来てもいいと構えているのだろう。それこそ彼女達の歌っているように"ドンと来いだよ"、と。
自分から話を振っておいて難だけど、それは私も同じだった。
「めぐちゃん、るりちゃん・・・」
隣で両手を合わせて拝みだす姫芽ちゃんから視線を逸らして、働き者の白い湯気をぼんやりと見上げながらぐで~っとお湯を堪能するのであった。