偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
あの日、錦上さんと話してからずっともやもやとした感情が胸の中で渦巻いていた。勝手に状況が動いて解決してくれれば良かったとさえ願った。
誰かがスクールアイドルクラブに入部して、DOLLCHESTRAに所属して、それでタイミングが合った時に錦上さんに出過ぎたことをぬるっと謝る。そうなって欲しかった。
けど、結局スクールアイドルクラブに入部したのは錦上さんと令沢さんだけ。DOLLCHESTRAに所属する人はいなかった。
「私は」
103期のDOLLCHESTRAの、足掻き、踠き、そして願う、そんな歌が好きだった。
あの重みを感じることで自分の悩みとかそんなものちっぽけなものだと思うことができた。
あの人たちになれなくても、真似をするだけで強くなれた気がした。
でもそんなものはハリボテだ。ちょっとしたことですぐに仮面が剥がれてしまった。
「なんでこんなことに」
昨日、日曜だというのに街に繰り出す気持ちにもなれず、誰かと話す気にもならない。だからまたカワウソでも探そうか、と蓮ノ湖周辺をぼんやりと歩いて歩いて、無心になった頃、学校から見て対岸まで来た辺りでカワウソどころではない人出会ってしまった。
スクールアイドルクラブの徒町小鈴とセラス・柳田・リリエンフェルトだった。
そして今日、誘われるまま私はスクールアイドルクラブの部室の前まで来ていた。
扉を開ければいよいよ逃げ出せない。今ならまだ誰にも見付かっていないし、そもそも入部もしてない部外者が何しに来たのか分からない。
昨日、徒町先輩に色々と言葉を掛けて貰ったことは覚えてる。けど、パニックになりすぎて内容が頭に入ってこなかった。ただ、なんとなく頷いて、それで今日、ここに来なければならないと言うことだけは体が覚えていた。
「あ、来たんだ」
悶々と扉の前にいると部室に来た錦上さんに見付かってしまった。判断が遅すぎた。
「DOLLCHESTRA入るんだ?」
「いや、そんなの烏滸がましいといいますか、触れて良いものではないといいますか」
「うだうだ言ってないで入るよ」
意外とさっぱりした性格なのか、錦上さんは私の腕を掴むとそのまま私ごと入室した。
「紫輪さん、来てくれたんだ」
すると中に居た徒町先輩は歓迎するように明るく声を掛けてくれた。
「はい。一応」
「小鈴、その子は?」
「昨日合った有識者です」
「有識者?」
有識者とは?と百生吟子さんが小首を傾げているけれど、私も分からない。昨日の私は一体何を話したのだろう?
「私よりDOLLCHESTRAのこと観察してた。ぴえん」
「セラス・メンブレ・リリエンフェルトかい?」
「第三者視点としてかなりのものがあったから練習に付き合って貰おうと思って」
と、いう事らしい。
「あのでも私みたいな部外者の、それも素人の視点なんていりますか?」
「わかんない」
「はい?」
「わかんないけど、紫輪さんに見て貰いたいなって、なんとなく思ったんだ。私が入学して早々、湖横断しようとしたみたいに理屈じゃない衝動がそう思ったんだ」
そうキラキラした星のような瞳で真っ直ぐに見つめられると私にはそれが正しい事なんじゃないかと思えてしまう。
「そういう訳で、暫くの間、よろしく頼むヨ」
徒町先輩はどこかの誰かさんのような口調でそう話を締めくくった。