偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
今日は初めての一年生だけの配信録画。
物が散らかってしまった葵とちょっとまだ人にはお見せできないとみおんが拒否したため、この日は私の部屋での配信だ。
こういう時、物が少ないと役に立つ。
「なんというか、質実剛健?」
「効率厨でこうなってるのなら可愛げがあったんだけどねー」
これが華も恥じらう女子高生の部屋に対する感想なのだから国語力というのは大切なのだなぁと思う。
「ほら。カメラのセットから。ちゃんと3人映るようにね」
「先輩達の配信だと広そうに見えたけど、意外と距離感近いね」
「これでも広角なんですけどね」
ベッドや棚、机はどの部屋も共通だから先輩方のお部屋配信の時の機材配置で正しい筈だ。
四苦八苦しながらも見様見真似で機材の位置整えると今日の流れを確認する。
「トークテーマはOPENING!Fes×LIVEの感想会」
「本番のこと、本番前のこと、終わった後の事、それぞれで印書的なことを話す、と」
「あとは配信で映ってるお気に入りシーンの紹介」
慣れているならテーマだけ決めてフリーで話せるのだろうけど私達は何分まだ駆け出しだ。それも、一人配信ならいざ知らず、3人で上手く流れを止めないようにともなると更に難しいだろう。
私は本番の時に感じたことを思い出す。
ステージ袖にいる時の今まで感じたことの無いなんとも言えないモヤモヤ感。何かを、自分にも夢中になれる何かを見付けたいと蓮ノ空へと来た私にとっての手掛かりとなるもの。
部長はそれを大切な感覚だと言ってくれた。
ライブ前のモヤモヤ、初めての見た景色に心臓が跳ねるような感覚、歌っている時の苦しさと苦しくてももっと声を出したいという渇望、終わった瞬間に吹き出る汗と身体の芯から中々抜けない熱。たった一時間弱の出来事には沢山の初めてがあった。
ライブが終わった後には膝を付き合わせて部長が話を聴いてくれた。まるで魔法の鏡のように。
今までこんな風に根気よく付き合ってくれる人は居なかった。腐れ縁の葵も付き合いが長いだけに逆に直感的に捉えられてしまって言語化できなかった。
ここで感じたのものはもしかしたら他でも感じることができるのかもしれないけれど、こうしてそれに向き合ってくれる人が居るのはきっと蓮ノ空のスクールアイドルクラブだけだと思う。
スクールアイドルをやるにはもしかしたら理由が弱いかもしれない。けど、代えの利かない誰か、というのは文字通り掛け替えの無いものだ。
「マイカ、楽しそうだね」
ニヤニヤと私の頬を葵がつついてくる。地味にネイルが刺さるから止めて欲しい。
「まあ、そうかもね」
「素直なこともあるもんだ」
「令沢さんもご機嫌そうじゃないですか」
「SNS見る限り反応は上々みたいだからね。全体評価が多くて私の個人評価はあんまり多くないけど」
私と別の土俵でスクールアイドルをしている葵はやや物足りなそうだ。
「私は新しいDOLLCHESTRAを見ることができて良かったです。その中に自分がいるというのはにわかに信じられないけど」
「そう言えば、人数的には103期と同じ編成だけど振付は変えたんだね」
どうして?と私も思っていた疑問を葵が訊ねた。
「らしくないから、かな。私達は尊敬する人から受け取ったもので自分の羽根を整えないといけないんだ。DOLLCHESTRAは居場所だから。いつかちゃんと居場所から飛び出て次の人が入れるように」
辿々しく、けれどもちょっと吹っ切れたように紫輪さんは答えた。背伸びはしない、取り繕った様子の無い小さな紫輪さんのままで。
「ところで、これ纏まりそう?」
どうやら録画まで辿り着くにはまだまだ時間が掛かりそうである。
生配信できた頃が羨ましい、と素直にそう思った。
今日はなんとか更新できましたが、明日は分かりません。
ライブ楽しみます