偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
明日から始まる中間テスト。全部活動はテスト期間ということで活動停止しており、放課後は真っ直ぐ寮に戻り勉強に励む。のだが私は一人部室へと足を運んでいた。
見慣れた部室だが、はじめてここに足を踏み入れた時は感動のあまり床になったものだ。花帆先輩にそれを見られてしまったのは痛恨の極みだけど。
閑散とした部室にいると普段は思い出さないような事が頭を掠めるけれども、今日思い出さないといけないのは4月のことだ。4月度の活動記録の閉め作業をまだ出来ていなかったのだ。
わざわざテスト期間に部活動のことをやる必要はないのだけど、こう、なんと言うか私にもテスト前に部屋を片付けたくなるあれとか、そういうのが人並みにあるのだ。
気付けば5月も中旬なので先月のことは早急に片付けねばと思い至ったのだ。まぁ、あとはOPENING!Fes×LIVE絡みのことのみだからそれ程量があるわけでもないし直ぐに終るだろう。
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泉~セラスパートを舞台袖で見守りながら私は傍にいる錦上さんに声を掛けた。
「どう?初めてのステージに上がった感想は?」
「ちょっと怖いです」
「それはなんで?」
「・・・失敗するかもと思ったから」
「・・・なるほど。じゃあ失敗したらダメなの?」
「ダメと言うか、折角練習したので成功させたいですよね、普通」
「不恰好より完成度が好ましい。そう言うこと?」
「まあそう言うことになるかと思います」
なんとなくだけど本心とはちょっと違う気がする。けれどもそう大きく外れてもいないと思うので一つ一つ解き明かそうと質問を重ねていた。
自分の心が分からなくなっている子。Bloom Garden Partyで心を動かす何かを感じてスクールアイドルクラブに来てくれた子だ。詳しいことはまだ本人からも花帆先輩からも聞けていない。だけどこの子は前を向くために頑張っているのは分かるから、私はその手がかりを見逃さないように問い掛ける。
「じゃあ泉やセラスを見てどう思う?」
「泉さんは大人な印象ありましたけど、何か印象変わりましたね。あんな風に無邪気な表情出来る人だと思ってなかったです」
「羨ましそうだね?」
「そう見えるんですか?」
「いや、鎌掛けた」
するとちょっと眉を曲げる錦上さん。
この子は不機嫌とかそういう感情は顔に出やすいのだけど、笑顔だけはまだ見たことがない。
「そろそろセラスの出番も終わる。準備するよ」
「はい」
セラスパートももう落ちサビ。間も無く私達はスリーズブーケの出番だ。
出番が近付くにつれ錦上さんの呼吸が浅くなっていく。
「私達はアイドルではなくスクールアイドルだから。今この瞬間を見せるんだよ。必死でも良い。みっともなくても良い。今伝えたいこと。それを出せるだけで良い」
「でもそれだとさっきまでの話しは何だったんですか?」
「良いこと教えてあげる。個人の目標とスクールアイドルだからこそのスタンスって、一致しなくても共存できるんだ」
誰かさんの影響か悪戯心のある兎が乗り移ったのか、柄にもなく舌ペロしてしまった。
あまりにもあざとい、と後悔しそうになったけど、その時の錦上さんの狐に化かされたかのような顔は初めてみた表情で、良いものが見れたなら安いものだと思った。
「それじゃドキドキを探しにいこうか」
セラスパートの曲が終わるとステージには誰もいなくなる。
"役目を終えた笹舟が 訪れた大迷宮"
曲が始まってから最初に私一人、迷い込むようにステージに上がる。光の方へ、風の方へ、行き先の分からないまま闇雲に進み、また捌ける。
"形は忘れたけど 大切なもの乗せてきたんだよ"
入れ替りで錦上さんがステージに上がり、と交互に私達はステージを駆け巡る。
お互いがお互いに気付かないまま、私達はやがて同じ時間にステージに居るようになり背中合わせに舞う。
"でも進みたいんだよ"
切実に、そんな感情が錦上さんの青い瞳に映る。動いている。何かを感じて、揺さぶって、いずれはそれが問いになる。
"見上げた水面の空に 月が揺れる"
106期スリーズブーケ最初の曲"水面ラビリンス"
ここを抜けたとき、あなたが笑顔でありますように。
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ちょっと主観的願望がたぶんに入っているけれど、活動記録には事実と同時にその当時の人が何を感じてどうしたという情報も大切なので、特に修正の必要はない。