偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
練習とは別枠で趣味に付き合って欲しい、と後輩から改まって頼まれたら断るのは無粋というもの。先輩としてドンと構えて大きな背中を見せるものである。
「それで、どうしたのその格好は?」
いつもの青いカーディガンではなく、見覚えのあるベージュのカーディガンを嬉しそうに身に纏ったみおんちゃん。髪型も二つのお団子っぽい結びを解いてお下げを作っている。
「こないだ遂に見付けたんですよ、あの伝説の"さやカーディガン"と同じやつ」
よほど嬉しいのか丁寧に制服にアイロンまでかけてカーディガンを羽織り、頼んでもないのにくるりと一回転してみせた。
「そこで、合わせをして欲しいんですけど」
「私が綴理先輩役!?」
徒町もそれなりに成長したと思っているけど、流石にこう、物理的な距離は計れないというか、流石に配役に無理がある気がしてならない。
「現実はともかく、写真とかなら撮りかたでなんとかできるので」
「なんだか釈然としない気がしますが、とにかくこれもチャレンジです」
去年、さやか先輩が日野下インストールとかいうトンチキをしていたのを思い出した。
なにやってんだと思いつつ、俺自身が月牙になる事だ、みたいな発想そのものは嫌いではなかった。
こんどは私が夕霧インストールをすることになろうとは。
「折角だし私も髪をほどこうかな」
側頭部から後頭部に掛けて編み込んでいる髪をほどく。それをみおんちゃんは驚いたような顔で見ていた。
「大人っぽ」
それなりに良い反応をしてくれるので私も素直に嬉しい。
「それでどうすればいいの?」
「とりあえずこれを」
スッ、と差し出されたのは浅めのグローブと濃い目のタイツ。そしてチョーカーだ。
「夕霧綴理セットっす」
「夕霧綴理セット!?」
「ただ、それっぽいってだけで若干再現度が足らないのと、星のヘアアクセが見付からなくて」
あー、と心当たりのある物品が頭によぎるけど、数があるわけでもないので持ってきても半端になるだけだ。
「とりあえずお納めください」
「お、おお。なんというか畏れ多い」
でも格好いいなと思っていたグローブに指を通すとちょっとテンションが上がる。そして疼く。
腕右腕を付き出して指を1本ずつ折り込んで拳を作りたくなるような衝動。
「いいっすね。似合ってますよ」
「え、へへ。そうかな」
だんだんその気になってきて全部着ける頃にはなんかポーズを決めていた。
「そうそう。それです。ノってきましたね」
カシャ、カシャ、とここぞと写真を撮りまくるみおんちゃんだけど、私一人撮ってもらってもしょうがない。
「ほら、言い出しっぺなんだから2人で撮ろうよ」
その後は2人で"氷上を舞う群青と紅蓮の炎"ポーズしたりとか振付の印象的なシーンを真似したりとかやっているとあっという間に時間が経っていた。
「こういうの初めてやったけど、こんなに楽しいと思わなかったよ」
「なんか、気持ちが引っ張られるっていうんですかね。一段上の存在になった気になれるというか」
撮った写真を見るといつもの自分とは表情が全然違う。もちろん、それで即ち綴理先輩のように見えるかと言えば別の話なのだが。
「でも、私は誰かではなく私にならないといけないんですよね?」
「そうだね。こないだのライブはその一歩だったと思う」
「は、恥ずかしい」
「そんなことないよ。凄くキラキラした"希望的プリズム"だったよ」
「解釈違いを自分がするとは・・・」
「じゃあ、今度やる時はみおんちゃんがみおんちゃんのまま解釈に近づくように頑張ろうよ」
トライアンドエラーは望むところ。幾らでも付き合う。それこそ練習以外のことだって。
先輩達にして貰って嬉しかったことを、今度は徒町が誰かにする番なのだから。