偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
楽しいって気持ちを最後に抱いたのは果たしていつの事だったのか。
煌びやかなステージ。沢山の声援。共にステージに並ぶ仲間。
スクールアイドルになって同じものが揃っている筈なのに、どうしてあの時と同じ気持ちになれないのか?どうして、笑顔になれないのか?
どうして、どうして、どうして?
「何があったか知らないけど思いっきり表情に出てるんですけど」
「セラス先輩」
昨日まともな返答が出来なかった私は結局まとまらない自問自答に苦しめられて寝不足。せめと胃に何か入れなければと朝一番で食堂に来たところセラス先輩と遭遇してしまった。
「1年生同士で喧嘩でもした?それとも今日のパフォーマンスが不安とか?」
一見すると眠そうな深窓の令嬢といったセラス先輩だが、こんな早朝だと言うのにブロンドヘアに隙はなく、意思を宿した空色の瞳は真理を見抜かんと私を見詰めていた。
「色々です」
「まぁいいけど。なんて言うと思った?」
「はい?」
「そんな死んだ面構えしてる後輩を放っておける訳ないじゃん」
セラス先輩は食券機の前に立って好きなもの食え、とお金を投入した。
「自分の事喋りたくないってもの分かるけど、一晩中悶々として解決しないなら別の視点が要る。違う?」
感情論ベースな喋り方とか裏腹にぐうの音も出ないことを言う。まるで既にこういった経験があるかのように。
「・・・スクールアイドル楽しいか聞かれて、答えられなかった」
楽しくないの?とかそんなこと?とか言わずにセラス先輩はただ頷いて先を促してくれた。
「スクールアイドルをやって感じることが沢山ある。今まで無視してたことを意識するようになった。凄く自分が進んでる気がしてる。でも、それって楽しいってことなのかなって」
例えるなら骨折した場所をリハビリで少しづつ動かしているような、そんな感じだ。でもそれは機能回復であって楽しいとかとは違う気がしてならない。
「たまたまスクールアイドルっていう手段と出会ったからそれそのものが楽しいのか自信が無いって感じかな」
「遠からずです」
「例えば、ここで何度でも好きなものを頼める、となったらどう選ぶ?」
セラス先輩はさらに投入する金額を増やして食券機を指し示した。
「金額は考えないものとする」
「・・・それは気分とか昨日なに食べたとか、こっちよりはこれかなって感じで」
「消去法でってこと?」
「まぁ、はい」
「消去法で選ばれたそれって嫌いなものだってことある?」
「そんな決め方ありなんですか?」
「嫌いではない、というのが確定しているなら好きかもしれないじゃん」
んな暴論な、とは思いながらもどこか説得力がある。
確かにこれまで何も自分を変えさせるような出逢いがなかった中で、Bloom Garden Partyで日野下花帆先輩というスクールアイドルと、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブと出逢えた。心を動かした人達のしていることが特別に思えた。
他の何をするではなく、自分で選んで、やってみて、退屈ではない何かを感じている。それをーーーー
「楽しいって、言っていいんでしょうか?」
「それは自分で決めることだよ。でも、言ってみて違うなって思ったら、言わないようにすれば良いだけじゃん」
例え消去法だとしても、手段だとしても、昔の感じたそれとは違っていたとしても、小指の先に引っ掛かる何か。他では変えがたい何かに名をつけるなら、それはーーーーー
「楽しい・・・かもしれないです」
「・・・ほら、好きなの頼んでいいから本番までにシャキッとしな」
「ありがとうございます」
ピッ、と私か奢ってもらったのはフルーツパンチ。
ヒントだけこっそり教えてくれたセラス先輩に感謝を込めて。ありがたくごちそうになった。