偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
入学してから約一週間。どの学校でも慣れ始めたころにやってくる"噂話"が盛り上がる期間だ。
どこそこには何がある"らしい"。誰それがどうだった"らしい"。かしらかしらご存知かしらといった具合だ。
これは何も誰かを嵌めようだとかではなく新しく見聞きした不確実な情報を親切心で共有する過程で生まれるものなのだが、今日のあたし 紫輪みおんはその噂に踊らされに来ていた。
なんでも学校敷地に程近い蓮ノ湖の湖畔にはカワウソがいるとかなんとか。
特定の部活に所属するつもりのない私としては是非ともお近づきになりたいと放課後の時間を費やし足を運んでいた。幸い今日は天気も良かったしね。
裁縫糸だけ持参して道中の森で良い感じの棒を広い、ちょっと乙女的には無しよりのウネウネを捕獲して準備万端だ。
「確かカワウソの好物にザリガニってあるから、まずは現地調達だね」
わりと野生児である私だけど中々それを発揮する機会がない。
小学校の頃はもっと自由だったのに、中学に上がると途端にみんな色気付いた。高校ともなるともはやそれが常識だと言わんばかりだ。
私は人よりそういう、精神的な年齢層の身に付け方、とでもいうものが人より遅いと自覚しているから、側だけでも取り繕うようにはしているけど、そう、なんだが窮屈なのだ。
「釣れませんねぇ・・・なんてね」
拾った棒と裁縫糸と、名状しがたいウネウネを使ってザリガニ釣り。こんなところ見られたらたぶん引かれるだろうなぁ。
「ーーーーーーーーーーーー」
釣糸を垂らすと湖面には向こう側に見える校舎が映っているのをぼんやりと眺めて一人のほほんとしていると、何やら大きな声が校舎の方から届いた。
一方的に聞き覚えがある声。DOLLCHESTRAの徒町小鈴のものだ。何をしているのか分からないけど、とてつもない声量だ。太陽であれ?っぽい言葉が聞こえる。その後、本当に微かにだけど他の子の声がさざめきのようにが届いた。たぶんスクールアイドルクラブの体験入学でなにかやっているのだろう。
「やっぱ違うんだよなぁ」
これは個人的な心情だし、優劣とかでは決してない。単純に好みの問題なのだが、こういうからっとしたDOLLCHESTRAは私にイマイチ刺さらない。
どこか歪みのあるような、閉塞感のような、そんなDOLLCHESTRAに私は今も心惹かれている。
きっとこれまでも代替わりする度に私と同じような感覚になる人は沢山いるのだろう。だからこそ自分達の色を出すべきところは出し、歴代の曲も次代へ繋げていく。そうやって蓮ノ空のスクールアイドルはファンを増やし続けていたのだろう。
「とは言え、やっぱ自分の好きな方向性になってくれたら、と思うのはワガママなのかな?」
新入生の色が加わって、今年のDOLLCHESTRAがそういう方向性になってくれたら良いなぁ、なんて、釣れない釣り竿を眺めながらそう思った。