偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
週明けには撫子祭、ということで今日から本格的に設営になる。台風対策は十中八九必要なくなる公算だが、記録映像として残せるため各クラスとも効率的に作業を進めているように見える。
なんなら記録映像を作りがてら各クラスの写真を納めて写真付きのフロアマップを学校の入口付近に設置してもいいかもしれない。あとで実行委員会に進言しよう、かと思ったが、これ以上土壇場で仕事を増やすのも良くないかとその案を取り下げた。それにあまり案内が親切過ぎても面白さを奪ってしまう。ちょっと足りないくらいが丁度良かったりするのだ。
「姫芽ちゃん、買ってきたよ」
そんな設営風景を眺めながら私は部室に戻った。昨日収録したFes×ReC:LIVE用の映像を姫芽ちゃんと編集していたのだが休憩がてら飲み物を持ってきて欲しいとお使いを頼まれていたのだ。
「お帰り~。お、これこれ~」
甘いことで有名な黄色地に焦げ茶色の柄が特徴的なマックスコーヒーを手渡す。校内では売っていないのでわざわざ姫芽ちゃんは買溜めしているのだ。
「くぅ~脳ミソに染み渡る~」
「ヤバい人みたいだから外では言わない方がいいと思うよ」
「このガツンとくるデロデロの甘さなんだよ、頭脳労働で必要なのは」
言い分は分かるけれどちょっと私はそこまでの糖分を欲したことは無い。
「いずみんももどうよ?効くぜぇ?」
「いざという時のために取っておくよ。姫芽ちゃんもいったん休憩してきたら?」
「そだねー。そうする」
姫芽ちゃんは伸びするとよっこいしょ、と立ち上がる。所作の節々から疲れ、というか老いが見え隠れしている。華のスクールアイドルが。
「どこら辺まで進んだかだけ教えてくれないかい?」
「あとはドルケと最後の全体曲」
「了解。ゆっくり休んでね」
「さんきゅー」
そういって姫芽ちゃんは棚からヨガマットを取り出すと床に敷いて寝転がった。
スケジュール変更が堪えているのだろう。それに7月のコスプレイベントに向けてマルチタスクで動いているみたいだから余計にだろう。
そっとしておこうと私は空いた席に座って編集作業を引き継ぐ。
数アングルのカットを見比べて映像に差し込んでいくのだが、とにかく目を皿にしなければならないので気を張って見なければならない。
現地開催のFes×ReC:LIVEなら基本的に全体俯瞰になるので編集は少なくて済むのだが、今回は配信で使う想定なので手抜けない。それが例え今回は使うことが無さそうでもだ。
画面の中でかつての相方の姿を観て、柄にもなくちょっと目頭が熱くなるのを感じる。
一時感情が枯れていた反動からか、最近どうにも涙腺が弱くなったように思う。
だがそれは、使命感とかしがらみから解放され本当の意味で自分のためにスクールアイドルをする姿はかつて人の夢に乗っかっていた頃に幻視していたそれなのだ。