偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
あと1週間後には期末テストが始まるとなると大手を振って羽を伸ばせるのは今日が最後となる。
そんな話をマイカさんと葵さんにしたが、2人ともピンときていない様子だった。曰く、別に期末テストっていってもちょっとやれば平均点は取れるから羽を伸ばすほど気負いや疲れは感じないのだとか。
「そもそも羽を伸ばすって何するつもりなの?」
「そ、それはですね・・・・・・」
「なんでそこで照れが入る」
とか2人に詰められているけれど、なんだかんだ付き合いがいいのでこのやり取りはバスの中の出来事だったりする。
曲がりくねった山道を蓮ノ空生しか乗せてないバスは賑やかにダウンヒルする。
「来月は夏合宿で海沿いまで行くみたいですし、新しい水着が欲しくなったりとかしまして〜」
「え?合宿って水着必要?」
「マイカちゃん、海行くんだよ?合宿だよ?」
やれやれ、と葵ちゃんが溜息を吐く。私も最近その気持ちが少し分かるようになってきた。
マイカさんには基本的に遊びが無いのだ。
「海に入る入らないかは別にして水着の一着持っててもいいんじゃないでしょうか?蓮ノ空はプールの授業も無いから学校の水着も無いし」
「必要になる時が思い浮かばないんだけど」
「去年の先輩たちは夏のライブを水着衣装でやってたし、ライブで使うかもよ?」
「ええ・・・水着で人前に出るのとかちょっと恥ずかしいんだけど?」
「そのまま着るんじゃなくて中に仕込んでおくとかは?ライブで水鉄砲使ったりとか水の演出取り入れたりとかする時が来たら使えるじゃん」
私と葵さんの言葉にむむ、と眉を寄せて考え込むマイカさん。
基本的に遊びが無いマイカさんがスクールアイドルをやっているということがちょっと不思議な感じがする。別にスクールアイドルが遊びだなんて言うつもりはないけれど、合理主義の気があるマイカさんからすれば合理とは正反対のジャンルに足を踏み込んているのだから。
「これでもマイカちゃん、無駄だって思っても一応確かめようって付き合ってくれるようになったんだよ?出会ったときは岩だったよ。岩柱だったよ」
「葵が余りにもしつこいから付き合った方がカロリー抑えられるの。知ってる?人を完全に無視するのって結構エネルギー使うんだよ?」
「マイカさん、顔」
この人は笑顔は作れないのにどうしてこう、悪い顔はすぐに作れるのだろうか?
冗談はさておき、と柄にもないことを言ったと少し頬を高揚させてマイカさんは改めて言い直した。
「葵がしつこく誘ってくるから根負けしてそれ以来、ね。ところで葵ってなんでそんなに私に構うの?あんまり人に興味ないタイプでしょ?」
「めっちゃズバリ聞くね。でもそれが気になる程度には興味持ってもらえたと思うと感動だよ」
「どうしてなの?」
「私ね。普通の人に興味ないの」
「・・・マイカさん。これって例のアレでは?」
「厨二ってやつ?やめてよ。もう高校生なんだよ?」
「それ不治の病らしいんで高校とか無いみたいですよ」
「待て待て待て待って。なんでそうなるかな!」
焦った様子の葵さんに私達は胡乱な目を向けてしまう。いや、別に悪いとかそういうものじゃないけど、急に普通の人に興味ないとか言われると困惑するというか。
「なんにせよ、つまりは葵は私が普通じゃないと思ったわけだ」
「そうだね。同学年の子たちの中でも異彩を放ってたよ」
「なんとなく分かるかもです。周囲にバリア張ってそうな感じ」
「私、大抵の人のことは共感できなくても理解はできると思ってたの。でもマイカちゃんは全然違った。だから興味もったの」
「その割には内面に踏み込んでは来なかったよね?」
「たぶんそれしたら嫌がられるだろうなって、それだけは理解出来たからね」
「うん。そうだったろうね」
ただのお買い物のつもりでの雑談がなんだか怪しい方向に向かっている。
でもいずれはこの二人のことをもっと知れたらいいなと、私はバスに揺られながらそう思った。