超攻殻姫!   作:H2O(hojo)

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攻殻側は少佐しか出ません。


超攻殻姫!

あらゆるネットが眼根を巡らせ

光や電子となった意思を

ある一方向に向かわせたとしても、

"孤人"が

複合体としての"個"となる程には

情報化されていない時代…

 

A.D.2030

 

夢と希望の電脳空間「ツクヨミ」。その仮想空間を見渡せる場所に、ある1人の女性が現れる。

 

「ここに来るのも久しぶりだわ…」

 

彼女の名は草薙素子。内務省公安9課に所属するエージェントである。アバターの姿はピンク色の髪に、紫と白を基調とした衣装を身に纏っている。

 

「ヤオヨロ~!久しぶりだね、モトコ。元気にしてた?」

 

「そうね。それなりに」

 

彼女の隣に現れたのは、「ツクヨミ」の管理AIにして8000歳を生きているという少女である月見ヤチヨであった。2人の間柄は友達とまではいかないにせよ、それなりに見知った者同士のような感じである。

 

「それで、今日はいったい何しにツクヨミまで来たのかなぁ~?もしかしてヤッチョと遊んでくれるとか?」

 

「アンタと遊んだことなんて今まで一度もなかったと思うけど?」

 

「えぇ~つまんないなぁ、もうっ」

 

ヤチヨは素子に顔を近づけ、イタズラっ子のような笑みを浮かべて素子の反応に期待する。だが彼女は素っ気ない返しをしたため、ヤチヨはガッカリしていた。

 

「ここに来たのは仕事の延長。ある事件について情報を集める必要があるから。それだけよ」

 

「あぁ~例の公安9課の活動ってやつ?大変だね、正義の味方は」

 

「正義の味方ね…別に私はそんなつもりはないんだけど」

 

彼女がツクヨミに来た目的は、ある事件の情報を調べるためであった。オフでも仕事の続きをする彼女に、ヤチヨは同情していた。だが本人は特段気にしておらず、彼女が自身を正義の味方と言ったことには否定的であった。

 

「そういえば、最近起きた戦車の暴走事故、あれ解決したのモトコたちでしょ?カッコよかったよ〜!」

 

そう言ってヤチヨはその時の映像を素子に見せる。彼女は素子が公安9課で何をしているのかを何故か知っていた。

 

「この画角…アンタあの思考戦車に張り付いてた陸自のジガバチのカメラに枝を付けてたのね。そのうち攻性防壁に焼かれても知らないわよ?」

 

「だいじょーぶ!!電子の歌姫ヤチヨには、その程度問題ナッシング!!」

 

「軍の防壁をすり抜けてそんなテンションでいられるのはアンタだけでしょうね…」

 

素子はヤチヨが映した映像を見て、彼女が事件時に監視のために張り付いていた陸上自衛軍の対戦車ヘリのガンカメラをハッキングして覗いていたことを即座に理解する。素子はヤチヨの軽率な行動に対し忠告するが、彼女はどこ吹く風、ダブルピースをして胸を張る。そんな彼女の様子を見て、素子は呆れていた。

 

「ヤチヨはモトコにもツクヨミを楽しんで欲しいんだけどな…」

 

先ほどからつれない態度の素子にヤチヨは寂しそうにそう言う。

 

「柄じゃないわ」

 

だが彼女はそっぽを向いてそう返した。

 

「ヤチヨはこの8000年でたくさんの悲劇を見てきたの。特にここ150年は心が折れそうになるくらいの悲劇がたくさんあった」

 

「4度目の世界大戦で国土の一部は核によって沈み、沖縄は海の藻屑へと消えた。米国は3つに分断され、相変わらず世界では紛争が絶えない。凶悪な電脳犯罪は増え続ける一方。まったく、私はいつ暇になるのかしらね」

 

ヤチヨは8000年間この国と共に歩み、人の起こした悲劇をたくさん見てきたと語る。特に第一次世界大戦から第四次非核大戦の間の期間は心が折れそうになったと目を伏せていた。

 

「だからこそヤチヨはツクヨミを作ったの。そんな辛く苦しい現実を忘れて、ここではみんなが表現者として楽しめるようにね」

 

「残念ながら私はリアリストなんでな」

 

「そっか…。でもヤッチョはそんなモトコのことも好きだよ?」

 

「ありがとう」

 

そんな現実の苦しさを少しでも忘れて欲しくて、ヤチヨはツクヨミを作ったと語る。しかし、素子は自分のことをリアリストだと返す。ヤチヨは少し残念がったあと、そんな彼女のことも好きだと答えた。

 

「それで…想い人とは会えた?」

 

「えぇっと…まぁ、一応…ね」

 

「歯切れが悪いわね。隣に別の相手でもいたの?」

 

「いやぁ…そういうわけじゃないんだけど…」

 

ヤチヨが8000年生きているのは、ある人と再び巡り会うためである。彼女は素子にそのことを明かしており、素子はそのことについて気に掛けていた。しかし、ヤチヨの回答を誤魔化し、気まずい顔をしていた。

 

「ところでモトコさぁ~ん?ヤチヨのボディはまだ時間かかりそうですかね?」

 

「今の技術ではアンタのゴーストを義体に移すことは不可能ね。月人のゴーストは容量が大きすぎて電脳がパンクするわ」

 

「そっかぁ…残念」

 

ヤチヨは気を取り直して、両手をすりすりしながら素子に擦り寄る。彼女は電脳世界の管理AIだがゴーストを保持しており、現実世界の肉体を欲していた。しかし義体や電脳の技術が進歩した現在でもヤチヨの膨大なゴーストを移せるだけの電脳は開発できておらず、彼女を現実世界へ誘うことは不可能だと素子は断言した。その事実を伝えられたヤチヨは見るからにがっかりしていた。

 

「それじゃあ行くわ」

 

「えぇ~!?もう行っちゃうの?」

 

「言ったでしょ。調べることがあるから来たって」

 

その後いくつか言葉を交わした後、素子はこの場から離れようとする。そんな素子をヤチヨは名残惜しそうに引き留めるが、彼女の目的は情報の収集であるためツクヨミに潜らなければならないのである。

 

「まぁしょうがないか…じゃ、またね!」

 

ヤチヨに見送られ、素子はツクヨミへと潜っていった。

 

 

 

 

 

「い~ろ~は~!私のために新しい曲作ってぇ~お願~い!!」

 

「そんな時間ないってば…!!」

 

電脳世界ツクヨミにてヤチヨカップで優勝しヤチヨとコラボライブをするために、ライバーとして活動を始めていたかぐやは、彩葉に新曲の作製をねだっていた。

 

「私も彩葉の新曲聞きたいなぁ~」

 

「私も~」

 

「真実に芦花まで…」

 

さらに2人の隣にいる真実と芦花もかぐやに同調し始めたため、彩葉は困ってしまった。

 

「…!!」

 

4人で談笑しているところに、偶然素子が通りかかる。彼女はかぐやのことを見て何かに気付いた様子であった。

 

「キルゾーンに踏み込んでるわよ」

 

「へ…?」

 

そして素子はすれ違いざまにそう言う。だがかぐやは彼女の言葉の意味が分からず首を傾げた。

 

「ちょっと…アナタ一体何を言って…」

 

「何この人…?」

 

「さぁ…?」

 

彩葉はいきなりかぐやが変な人に絡まれたと思い、かぐやの前に手を出して彼女を守る仕草をする。芦花と真実の2人も、素子のことを怖がっていた。

 

「かぐや、大丈夫?何かされてない?」

 

「うん。だいじょう…」

 

彩葉はかぐやを心配して声をかける。だが、かぐやが大丈夫だと言おうとした瞬間、身体が硬直し始めた。

 

「──────────────」

 

「ちょっとかぐや…?かぐやっ!?アンタかぐやに何したの!?」

 

そしてかぐやは完全にフリーズする。さらには彼女の周囲に「危険」や「CAUTION」といった文字が浮かび上がる。かぐやに異常が起きたのを見た彩葉は素子に鬼の形相で詰め寄った。

 

「とにかく…かぐやをどうにかしないと…!!」

 

「待て!!彼女とネットとの接続を絶つな!!」

 

「はぁッ!?いい加減にしてよ!!こっちはアンタのせいで大変なの!!」

 

彩葉はかぐやを元に戻そうと、彼女とのネットの接続を絶とうとする。しかし、素子はそれを強い口調で止める。だが彩葉は彼女の言う事を聞こうとはしなかった。

 

「チッ…!!このままだとその娘の電脳が吹き飛ぶぞ!!」

 

「えっ…?」

 

自分の言う事を聞きそうにないため、素子は彩葉を押しのけてかぐやに近づく。彩葉は電脳が吹き飛ぶという言葉を聞いて、一気に顔色が変わっていた。

 

「かぐやちゃんに一体何が起こってるんですか?」

 

「相手の電脳を直接乗っ取るゴーストハックだ。彼女は今、何者かに電脳をハッキングされている」

 

「じゃあ一体どうすれば…」

 

「私が直接この娘の電脳に潜りこんで、ゴーストハックを解除する」

 

真実は素子にいろはに何が起こっているのかを尋ねると、彼女はゴーストハックだと答える。かぐやがゴーストハックされているという事実を知って狼狽えている芦花を横目に、素子はかぐやの額に手を当てて彼女の電脳に潜り始めた。

 

「かぐや…無事でいて…」

 

 

 

 

 

(何?この娘の電脳…フィルタリングも防壁もまったくない。普通の人間の電脳じゃないわ)

 

かぐやの電脳に潜った素子は、彼女のその異様な電脳に驚愕する。電脳化している者はたとえ一般人であっても、ゴーストハックを防ぐために防壁が貼られている。だがかぐやにはセキュリティがまったく掛けられていなかったのである。さらには普通の人間の電脳とは構造も違うようである。

 

(まぁいい。多少電脳の構造が違うようだが、ソレ用に一から防壁アレイを組み上げれば済む話だ)

 

だが素子はかぐやの電脳の構造を気にせず全感覚マスクを自身にかけ、かぐやに打ち込むための防壁アレイを構築しはじめる。

 

(よし。まずはコイツを打ち込んで電脳の主導権を奪う)

 

素子は組み上げた防壁アレイをかぐやの電脳に打ち込んだ。

 

『かぐやっほー!かぐやだよー!』

 

『自分でハッピーエンドにする!!そんで、ハッピーエンドまで彩葉もつれてく!!』

 

(これは…この娘の記憶ね)

 

かぐやの電脳を掌握するなかで、素子は彼女の記憶に触れる。

 

『■■■■■■■■■■■■■…』

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■…』

 

(何だこの記憶は…?いや、コイツまさか…!!)

 

さらに素子はかぐやの別の記憶に触れる。それを見た瞬間彼女は何かに気付いたようだ。

 

(そうか…お前、そういう事か)

 

かぐやの記憶の一部を読み取った素子は、彼女も月人であることを理解した。

 

(まあいいわ。これで彼女の電脳の主導権は取り戻した。後は逆探してコイツの脳をハッキングしたヤツを見つけ出す)

 

かぐやの電脳をハッカーから取り戻した素子は、次の行動に移る。彼女はかぐやの電脳をハッキングした者の正体を突き止めるため、逆探知を開始した。

 

(いた…何だ?コイツ…)

 

「・・・・・・」

 

素子の前に現れたのは、頭が灯篭になっている白い身体を持った謎の存在であった。

 

(スゥ…)

 

「おい待て!!」

 

(存在が消失しただと…?)

 

しかし謎の存在は素子のことを認識するやいなや、すぐにその場から消え去ってしまった。

 

(ヤツは一体…)

 

 

 

 

 

「かぐや!!大丈夫?かぐや!?」

 

「う~ん…ふぇ?」

 

「起きた!!良かったぁ…」

 

素子がゴーストハックを解除した後、彩葉はかぐやの無事を確かめるために彼女の身体を揺する。かぐやが目を覚ますと、彩葉は彼女のことを抱きしめた。

 

「いろは?どしたの?」

 

「な、何でもない!!」

 

「えぇっ~!?何でよぉ~」

 

彩葉に抱きつかれたかぐやは、彼女の安堵の表情を見て何が起こっていたのか理解できず首を傾げる。人目を憚らずかぐやに抱きついていたことに気が付いた彩葉は、恥ずかしくなってすぐに彼女から離れた。

 

「無事のようね。それじゃ…」

 

「「いやいやいやいや!!」」

 

「・・・・・・」

 

かぐやの無事を確認した素子は、その場から離れようとする。だが真実と芦花が彼女の前に回り込み、それを阻止した。

 

「かぐやちゃんを助けていただいたのに、お礼も無しに帰すわけにはいかないですから」

 

「別に礼なんか要らないわ」

 

「それじゃあ私たちの気が収まらないというか…」

 

2人はかぐやを助けて貰った素子にお礼をするべきだと思い彼女を引き留める。だが、彼女自身はお礼は必要ないと思っていた。

 

「行っちゃうの…?」

 

「はぁ…分かったわよ」

 

だが結局素子はかぐやに残念そうに見つめられながらそう言われたため、折れることにしたのであった。

 

 

 

 

 

「まぁお礼って言っても私たち学生なんで、ここでくつろいでいただくことくらいしかできないんですが…」

 

「な、何だったらふじゅ〜を…」

 

「いらないわよ」

 

「で、ですよね…」

 

4人に連れられ素子はツクヨミ内にある真実の部屋へと案内される。彩葉はかぐやを助けて貰ったお礼にツクヨミ内の通貨である「ふじゅ〜」を支払おうとするが、子供からお金を受け取るような真似はしないと素子に断られた。

 

「おねーさん!助けてくれてありがとう!!私はかぐや!!月から来たの!!」

 

「そういうキャラ!!キャラです!!あ、私は彩葉って言います。さっきはごめんなさい…」

 

「真実で~す」 「芦花で~す」

 

「素子よ」

 

一同は互いに自身の名前を紹介する。彩葉は先ほど素子に怒鳴ってしまったため、ちょっと落ち込んでいた。

 

「ところで…素子さんは何故ツクヨミにダイブしているんですか?」

 

「ライバー?それとも誰か推しがいるの?」

 

「私は表現者でも観客でもないわ。私がここに来たのはある事件について調べるためよ」

 

彩葉は素子が何故電脳空間ツクヨミにダイブしているのかを尋ねる。かぐやは彼女自身がライバーなのか、推し目当てにダイブしているのかと予想する。だが素子は彼女の予想とは違い、事件の情報を調べるためと答える。

 

「事件…ってことは素子さんは警察の人なんですか?」

 

「まぁそんなところかしらね」

 

「おぉ~お巡りさんだ~」

 

公安9課は内務省直属の秘密組織である。そのため素子たちは捜査するときは警察と名乗ることが多い。今回も彼女は彩葉とかぐやに警察の人間であると答えた。

 

「それで一体何の事件を調べているんですか?」

 

「これよ」

 

彩葉の問いに対し、素子は1枚の画像を表示した。

 

「あっ!このマーク見たことある!!最近チャットでもよく使ってるよね!!」

 

「確かに…最近やたらとよく見るな…」

 

「「・・・・・・」」

 

その画像を見てかぐやと彩葉はツクヨミで最近よく見るマークだと言う。だが真実と芦花は2人とは違い、深刻そうな顔を見せた。

 

「そういえばこれ、何が元ネタだっけ…」

 

「『笑い男事件』。6年前、マイクロマシンメーカーのセラノゲノミクス社の社長であるアーネスト・瀬良野氏の誘拐から端を発したマイクロマシンメーカーへの企業脅迫事件よ」

 

「あぁ~思い出した。テレビで事件の映像を何度も見たことある。てか、まだ犯人捕まってなかったんだ…」

 

彩葉はこのマークについて思い出そうとしていると、素子が「笑い男事件」について説明し始める。彼女の説明を聞いて、彩葉は6年前の事を思い出していた。

 

「あの~彩葉?」

 

「最近ニュース見てる…?」

 

「え?そう言えばかぐやの世話とかで忙しくて、あんまそういうの気にしてなかったな…」

 

彩葉にとって笑い男事件は6年前に話題になった事件という認識である。しかし、真実と芦花はそんな彩葉を驚いた目で見ていた。

 

「この事件は戦後最大の企業脅迫事件として世間を騒がせたが、笑い男が犯行終了を宣言した後は、人々の記憶の片隅に残る程度のものだった。先日まではな」

 

「それってどういう…?」

 

「最近復活したんだよ、笑い男」

 

「えっ…!?」

 

先日まで「笑い男事件」に対する世間の認識は彩葉と同じものであった。しかし、その笑い男が復活したのである。芦花から笑い男の復活を聞いた彩葉は、唖然としていた。

 

「同一人物かどうかは置いておいて、笑い男は再び世間に現れた。しかも今回もまたセラノ絡みときた」

 

そう言って素子は笑い男が再び世間へ現れた映像を映し出す。

 

“相変わらずですね、大堂総監。初めまして、ですけど、僕が誰だか分かりますよね?”

 

“お、おい!どうしたんだ竹川!”

 

“僕はね大堂さん、最早貴方達の世界に関わるべきではないと考えていたんですよ。その掃き溜めの様な世界に付き合っていると、本当に嫌になっちゃうんだ。だから、あんたらの茶番劇にだって、あれからずっと口出ししなかったでしょ?全部解ってたのに。言ってみれば、大いなる無駄に疲れちゃったんです。残念ながら”

 

笑い男二度目の出現はインターセプター不正使用疑惑の会見であった。

 

「あっ!!あのマークだ!!」

 

「うわっ、マジか。全然知らんかった…」

 

かぐやは映像の笑い男のマークを見て無邪気に興奮する。一方彩葉は自分が知らない間にこんな大事件が起こっていたことにショックを受けていた。

 

「この後も大変だったんだよ。この人の暗殺予告で笑い男がいっぱい現れてさぁ。一応は無事だったみたいだけど」

 

「暗殺予告ぅ!?」

 

「でも結局大元の犯人は仲間に殺されたって聞いたよ?」

 

「殺されたぁ!?」

 

この会見で笑い男は大堂警視総監の暗殺を予告する。そして予告当日、大量の笑い男を名乗る模倣犯が現れ、世間を震撼させたのである。衝撃の展開に彩葉は驚きっぱなしであった。

 

「私はこの事件の裏にある陰謀を探るために情報を集めている」

 

「どうしてそのいんぼーってやつがあるって分かるの?」

 

「そう囁くのよ、私のゴーストが」

 

素子は笑い男事件の裏に潜む陰謀を探るためにツクヨミに来たのである。かぐやは何故笑い男事件に陰謀があるのかと問うと、素子は自身のゴーストがそう囁くからと答えた。

 

「勿論それだけじゃなく、こちらで掴んでいる情報もいくつかあるけど…」

 

「ふーん。かぐやにはよく分かんないけど、応援してるよ!!頑張ってね!!」

 

「ちょっと…!!すみません…」

 

「フフッ…ありがとう」

 

笑い男事件の真相を調べようとしている素子に対し、かぐやは純粋に応援すると言って彼女と握手する。彩葉はかぐやのことを失礼だと思って止めようとするが、素子は構わず笑って礼を述べた。

 

「そろそろ行くわ」

 

「えぇ~!?もう行っちゃうの?」

 

「か~ぐ~や~?あんまり素子さんに迷惑かけないの!!」

 

かぐやはブリーフィングルームから出ようとする素子の腕を掴んで引き留める。そんな天真爛漫なかぐやを彩葉は迷惑をかけないようにと叱るのであった。

 

「それと最後に…」

 

「えっ…」

 

そう言って素子は彩葉のことを見つめる。その瞬間素子と彩葉の意識だけが別の空間へと移行した。

 

 

 

 

 

「えっ!?何?どこここ!?」

 

「悪いわね驚かせちゃって」

 

いきなり別の空間に飛ばされた彩葉は周囲を見渡して驚いていた。

 

「ここは私の電脳ロビーよ。どうしてもアナタに話しておくことがあって…」

 

「話しておくこと…ですか?」

 

素子は彩葉に話しておくことがあり、彼女を自分の電脳ロビーに連れてきたのである。

 

「あのかぐやって娘と、ツクヨミの管理者AIのヤチヨから目を離すな」

 

「えっ…?かぐやとヤチヨ…?どうして?」

 

「アナタはそのうちあの2人の真実に辿り着くわ。その時に後悔しないために、よくあの2人のことを見ておきなさい」

 

素子は彩葉にかぐやとヤチヨから目を離すなと伝える。ヤチヨの事情と、先ほどかぐやの電脳で潜ったときに得た情報で素子はかぐやとヤチヨの関係をある程度推測していた。そして彩葉もいつかそこに辿り着くであろうと思い、素子はそう伝えたのである。

 

「それと、これを渡しておくわ」

 

「な、何ですかコレ?」

 

「私の外部記憶よ。ロックが掛かっているけど、鍵はヤチヨが持ってるからその時が来たら彼女に開けてもらいなさい」

 

「は、はぁ…」

 

さらに素子は彩葉に自身の外部記憶を渡す。いきなり外部記憶を渡され、しかもそれを開ける鍵をヤチヨが持っていると聞いた彼女は困惑しつつもそれを受け取った。

 

「それじゃ、もう二度と会うこともないでしょうけど…」

 

「えっ!?ちょっと!?」

 

(これでアイツとの義理は果たせたかしらね…)

 

そう言って素子は彩葉を元のツクヨミに戻した。

 

 

 

 

 

「いろはぁ~?どうしたの?」

 

「えっ!?いや、何でもない」

 

素子の電脳ロビーには時間の概念がないため、3人には彼女たちが別の電脳空間で会話していたことには気づいていなかった。

 

「あれ、素子さんは?」

 

「あっ…いなくなっちゃった…」

 

そして素子もこの場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

それから約1か月後。かぐやは月へと帰り、彩葉はヤチヨの真実を知る。

 

「あっ…そういえば」

 

「どうしたの?」

 

「素子さんから貰ったものがあったんだった。鍵はヤチヨが持ってるって…」

 

彩葉はヤチヨとの会話の中で、以前素子から外部記憶を渡されたことを思い出した。

 

「はいこれ。開けて」

 

「えぇっ!?いきなりだなぁ…。えぇっとパスワードは確か…」

 

“2501”

 

彩葉にせっつかれ、ヤチヨは素子の外部記憶へアクセスするためのパスワードを思い出す。その数字は大した意味はないはずだったが、ヤチヨはすぐに思い出すことができた。

 

「開いた…」

 

パスワードを入力したことにより、素子の外部記憶のロックが開く。

 

「うわっ!?数字とか知らない単語がたくさん…」

 

「モトコ…」

 

外部記憶には彩葉の知らない単語や、意味を理解できない数字の羅列がたくさん並んでいた。だがヤチヨはその難解なデータを見て、彼女に想いを馳せていた。

 

「ねぇヤチヨ、これって一体…?」

 

「これはね、あのタケノコ…『もと光る竹』を構造解析したデータと、私のゴーストに関する記録だよ」

 

素子が彩葉に渡したものは、ヤチヨに関するデータであった。

 

「えっ…?あの人、ヤチヨの正体知ってるの!?」

 

「うん。ツクヨミから私の本体がいる場所を逆探知されて、この部屋に乗り込んできたの」

 

「ま、マジか…」

 

ヤチヨから外部記憶の中身を聞いた彩葉は、まず彼女の秘密を素子が知っていることに驚く。素子は超ウィザード級のハッキング能力を駆使し、ヤチヨの本体がある場所を逆探知し、自らその場所へ乗り込んだのである。

 

「でもモトコは私のことを世間に公開するようなことはしなかった。『大衆にスキャンダルを提供するのは私の仕事じゃない』って言って…」

 

「私は素子さんとは一度しか会ったことないけど、何と言うか…あの人らしいな」

 

「そうでしょ?」

 

だが素子はカグヤの正体を知っても、それを世間に公開しなかったとヤチヨは語る。彼女はヤチヨの真実を知りたかったのであって、知った後どうしようという気は無いのである。

 

「私、やりたいことができた!!」

 

そう言って彩葉は立ち上がった。

 

 

 

 

 

「ねぇ彩葉、今朝のニュース見た?」

 

「ううん。見てない」

 

「ちょっと気になることがあってさ」

 

それから数日後。学校からの帰り道、芦花と真実は彩葉に今朝のニュースについて尋ねる。ニュースを見ていないと言う彩葉に、芦花はスマホの画面を見せた。

 

“内務省公安9課、笑い男事件に関与か”

 

「相変わらず物騒だな…」

 

芦花見せた記事は公安9課が笑い男事件に裏で関与していたというものであった。さらには9課が武装蜂起を計画していたとして、軍により鎮圧されたとも記載してあった。その記事をみた彩葉は、物騒な世の中だと眉を顰めていた。

 

「このニュースがどうかしたの?」

 

「前にかぐやちゃんを助けてくれた美人のお姉さんいたじゃん?」

 

「うん…」

 

彩葉はこのニュースが自分たちとどういう関係があるのか分からずにいた。しかし芦花の話を聞いて、彼女は嫌な予感がし始めていた。

 

“公安9課所属 草薙素子 射殺”

 

「…!!」

 

彩葉の目に飛び込んできたのは、公安9課のメンバーの写真と名前、そして射殺されたという事実であった。それを見た彼女は唾を吞み込み、身体から冷や汗が噴き出した。

 

「素子さん…?」

 

「やっぱり、彩葉もそう思うよね…」

 

「そんな、射殺って…」

 

「で、でも同じ名前の別人だって可能性もあるし…」

 

「私もそう信じたいよ。けど…」

 

彩葉は頭の中で目の前の彼女の写真と、あの日あったアバターの素子を重ねていた。真実が別人の可能性もあると言うが、彩葉は公安9課の草薙素子という人物と、かぐやを助けてくれた素子さんが同一人物であるということを確信してしまった。

 

「「「・・・・・・」」」

 

3人はそのまま黙って家路につくのであった。

 

 

 

 

 

「ヤチヨ!!素子さんが…素子さんが!!」

 

家に帰った彩葉は、即座に電脳空間ツクヨミにログインする。

 

「うん。知ってるよ。電脳空間でも世間のニュースくらいは入ってくるからね」

 

「やっぱり、そうなの?」

 

「うん。かぐやを月人から助けてくれたあの人は、内務省公安9課の草薙素子だよ」

 

彩葉の反応を見たヤチヨは、彼女があのニュースを見たのだと理解する。そしてヤチヨは彼女が知りたいであろう事実を、ハッキリと口にした。

 

「それじゃあ、笑い男事件に関与して、武装蜂起を計画していたっていうあの報道は?」

 

「あれは嘘だよ。モトコは…公安9課はそんなことしない。あの報道はモトコたちのことを邪魔だと思っている人たちが仕掛けた陰謀だよ」

 

それを聞いた彩葉はニュースの記事の内容についてヤチヨに詰め寄る。ヤチヨはいつもの態度とは打って変わって、真面目な顔で9課に関する記事のことを否定した。

 

「彩葉にも見せてあげる」

 

そう言って、ヤチヨは彩葉の周囲に映像を映し出し始める。

 

「こ、これって…」

 

そこに写っていたのは、素子が公安9課として活動している姿であった。

 

“世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ口を噤んで孤独に暮らせ。それも嫌なら…”

 

テロリストを足蹴にし銃口を向ける姿。

 

“やるだけやってみるわよ!”

 

暴走した思考戦車へと単身向かっていく姿。

 

“訓練としては最高だな。老後を集中治療室で過ごしたくなければ、そのまま大人しくしていろ!”

 

ゴーストハックされたSPを身体を張って止める姿。

 

“小遣い稼ぎにしてはたちが悪いわ。こういう手合いは法の手に委ねても、うやむやにされるのがオチよ。ちょっととっちめてやるわ”

 

臓器を盗んだ医学生を捕まえようとしている姿。

 

“サイトーォォォォ!!ソイツを寄越せぇぇぇぇ!!!”

 

怒髪天を衝き、仲間に対戦車ライフルを寄越せと叫ぶ姿。

 

“そう囁くのよ、私のゴーストが”

 

そして、自身のゴーストの囁きを信じて攻性に事態に対処する姿。

 

「す、スゲェ…」

 

彩葉の思ったことがそのまま口に出る。

 

「いや待って…この映像、もしかしてもしかすると国家機密ってヤツなんじゃ…」

 

「アハハ…そう言えば勝手に公開したら『電脳を焼く』って脅されてるんだった」

 

(そういうところはやっぱりかぐやだよ…)

 

だが直後、彩葉は正気に戻り、今見た映像の重大さに気付く。そして国家機密の情報を他人に公開したことを苦笑いで済ませるヤチヨを見て、彼女がかぐやであることを再認識した。

 

「じゃあさ、素子さんが射殺されたっていうのも嘘だったりしない?」

 

「それは分からない。直接射殺された現場を見たわけじゃないからね」

 

「そっか…」

 

ヤチヨの話を聞いて、彩葉は素子が射殺されたという報道も嘘ではないかと期待する。しかしヤチヨは彼女が射殺された現場を見ていないため、分からないと答えた。

 

「でも、多分モトコは生きてる」

 

「どうして…?」

 

「ヤチヨのゴーストがそう囁いてるから…」

 

素子の生死は分からないと言ったヤチヨであったが、心の内では生きていると信じていた。彼女のゴーストはそう囁いていた。

 

 

 

 

 

「あの…!!」

 

「・・・・・・」

 

それから3か月後、新浜市街を1人歩く素子に声をかける少女が1人…。

 

「…何の用?」

 

「あの…いや、えっと…」

 

声をかけられた素子が振り返ると、目の前には制服を来た女子高生が気まずそうに立っていた。

 

『ヤオヨロ〜!!モ・ト・コ!!久しぶり〜元気してたぁ〜?』

 

『ちょッ…ヤチヨ!?』

 

『はぁ…アンタね』

 

2人の間に微妙な空気が流れている所に、ヤチヨが電脳通信で登場する。彼女の声を聞いた素子は、ようやく事情を理解し、目の前の少女が以前自身の外部記憶を渡した彩葉であると気づいた。

 

「一杯奢るわよ。どうせそっちのタケノコ女に振り回されてるんでしょうから」

 

『えーヒドイなぁ…タケノコ女だなんて。ヨヨヨ~ヤチヨ泣いちゃう』

 

「メンダコ女のほうが良かったかしら?」

 

「あはは…」

 

路上で立ち話をするわけにもいかないので、素子と彩葉はとりあえずカフェに移動する。このカフェは以前笑い男と、瀬良野社長が議論を交わした場所であった。素子はヤチヨに振り回されている彩葉に同情していた。

 

「ごゆっくりどうぞ~」

 

「で?私に一体何の用?」

 

「あのぉ~ですね…」

 

テーブルに飲み物が運ばれた直後、素子は彩葉にそう尋ねる。すると彩葉はこれまでのことを彼女に語り始めた。

 

「そういうわけで、私決めたんです。かぐやのための義体を作ろうって」

 

「そう」

 

彩葉はヤチヨの真実を知り、自らの手で彼女の義体を作り出すことを心に誓い、進路を変更したのである。彼女の話を聞いた素子は、そのことを知っていたかのように頷いた。

 

「なので素子さんがくれた情報はありがたく使わせていただきます。私とかぐやのためにわざわざありがとうございました」

 

「別に礼を言われるほどのことじゃないわ。アレは私よりアナタが持っていたほうがいい。そう感じただけよ」

 

「そうですか…」

 

そして彩葉は素子から渡された外部記憶について、彼女に礼を述べる。しかし素子は単に自分より彩葉がその情報を持っていたほうがいいと判断しただけだと答えた。

 

「ともかく…生きてて良かったです。あの報道を見た時、私心配で…」

 

『ヤチヨは信じてたよ?モトコは生きてるって』

 

「それはどうも」

 

彩葉は素子が死んだと報道されたとき、心配だったと打ち明ける。ヤチヨも口では信じていたと語っているが、実際は今日まで彼女の足取りを必死で追いかけており心配していたのは言うまでもない。

 

「今の私は記録上死んだ人間扱いになっているわ。公安9課も現状は無期限活動休止状態よ。まぁそれも公安9課の存在が世間へ知られてしまったが故の措置だけど」

 

「そうなんですか…」

 

素子は実際には生きているが、記録上は射殺された扱いである。これは公安9課長の荒巻大輔が、9課の存在が世間に露呈し特殊部隊規制法案が施行されると判明した瞬間に、9課を再び秘密組織として再起するために一度壊滅させたのである。

 

「そう言えば、私のことよく分かったわね」

 

「うっ…!?」

 

(マズイマズイマズイマズイ…!!私が素子さんに関する情報を知ってるってバレたらヤチヨの脳が焼かれる!!)

 

素子はツクヨミ上でしか会ったことがないにも関わらず、現実世界の自分を見つけ出したことに感心する。だが彩葉はツクヨが機密情報を自分にバラしたことを思い出し、冷や汗をかいていた。

 

「まぁどうせ、どっかの誰かが教えたんでしょうけど…」

 

『ギ、ギクッ!?』

 

なお、素子はどうせヤチヨが教えたのだろうと考えており、実際その通りであった。

 

「本当だったらアンタたちの電脳に疑似記憶を埋め込んで、私たちに関する記憶を消すところだけど、運が良かったわね。今はこういう状況だから、今回だけは許してあげるわ」

 

「『ふぅ~』」

 

本来ならば2人の記憶を消すところなのだが、今は一時的に9課の存在が知られている状態である。そのため、素子は今回だけは許すことにした。それを聞いて、2人は安堵の息が漏らすのであった。

 

「それじゃ、私は帰るわ」

 

「また会えますか?」

 

「さぁ、どうかしらね…」

 

素子はそう言って席を立つ。彩葉は彼女にまた会えるかと尋ねると、素子はカフェの窓の景色を眺めた。

 

「ネットは広大だわ…」

 

最後に素子はそう言って、その場から離れるのであった。

 

 

 

 

 

それから10年後の2040年。酒寄彩葉は旧世代の性能を遙かに凌駕する電脳を搭載した、YC型義体とKG型義体の開発に成功する。

 

5年後、この義体の開発により、人間から新たなる存在へと進化した者が現れる。

 

 

 

 

 

『ポスト・ヒューマン』の誕生である。

 

 

 

 

 

終わり




攻殻世界が厳しすぎてあんまハッピーエンドって感じじゃないな...
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