入れようと思ったけどカットした部分を膨らませて書きました。
内容はかぐやが月に帰る際に少佐が参戦したらという話です。
前回登場しなかったタチコマと9課のオジサンたちもちょっとだけ出ます。
内務省公安9課は国際救助隊の名目で設立された政府直属の非公式部隊である。本部は新浜市にあり、今日も独立攻性の部隊として秘密裏に操作を続けていた。
「おーっす、戻ったぞ~」
「あっ、バトーさんだ!!」
「バトーの旦那、遅かったじゃないの」
「色々あってな」
9課のラボに入ってきたのは義眼の大男でサイボーグのバトーである。彼を出迎えたのは攻撃型装甲外骨殻タイプの思考戦車であるタチコマ。そして、9課のメンバーの中で唯一生身の所帯持ちであるトグサであった。
「少佐はまだ帰ってねぇのか?」
「ツクヨミにダイブするって言って出てったよ」
「またか!?最近多いな」
ラボの中に入ったバトーは周囲を見渡して『少佐』もとい草薙素子を探す。トグサはバトーに素子がツクヨミにダイブしていることを伝えると、彼は不満そうにそう漏らしていた。
「ツクヨミは全世界登録ユーザー1億人、その影響力は今や9大ネットワークを凌ぐ勢いだ。それに、独自のルートを持ってる情報屋も多い。情報を探るにはうってつけの場所だぜ。俺もアカウント持ってるしな」
「イシカワじゃねえか…」
そんな2人の会話に入ってきたのは、9課のメンバーの中で最年長で髭を蓄えた初老の男性、イシカワである。彼はツクヨミを情報収集にはうってつけの場所と言い、自身もちょくちょく利用していることを示唆した。
「確か少佐は前にツクヨミの管理者に接触するとか言ってたな…」
「管理者ぁ?」
「そもそもツクヨミはどこの企業が作ったのかどころか、誰が作ったのかすらも公開されていない。噂は色々あるが、今のところどれも信憑性には欠ける。だが接触すると言ってたってことはアテがあるのかもな」
イシカワは以前素子が言っていたことを思い出す。彼女はツクヨミの管理者に接触するためにツクヨミにダイブしているそうだが、その管理者の正体を知る者は存在しないとされていた。だがイシカワは素子言うことを信じていた。
「管理者ってこの娘のことか?」
“ヤオヨロ~!仮想空間「ツクヨミ」管理人の月見ヤチヨです!今宵もみんなをいざなっちゃうよ~!”
イシカワとバトーがツクヨミの管理者の話をしていたところで、トグサはタブレットにとある映像を映す。そこにはヤチヨの姿が映っていた。
「いや、コイツは管理AIで管理者じゃない」
「じゃあ、少佐はコイツを作ったヤツに会おうとしてるってことか?」
「そういうことになるな」
だがイシカワは彼女のことを管理者ではなく管理AIだと訂正する。素子が会う相手はヤチヨではなくヤチヨを作成した存在であるという認識である。
「ツクヨミのアカウント持ってねぇのによく知ってるな」
「最近娘がよく彼女の動画を見てるんだ。歌も歌ったりしてさ」
「所帯持ちってやつは…」
イシカワはツクヨミのアカウントを持っていないはずのトグサがヤチヨのことを知っていたことに驚いていた。トグサがヤチヨを知っていたのは彼の娘が彼女にハマっていたからである。それを聞いてバトーは所帯持ちの彼に、生温かい視線を向けていた。
「何だ、お前らまだ残ってたのか?」
「サイトーにパズ、ボーマまで…」
「少佐と課長以外全員揃っちまったな」
3人が話していると、丁度サイトーとパズとボーマの3人のメンバーもやって来る。サイトーは仕事が終わってもラボに残っている3人に若干呆れていた。
「コイツ、最近少佐がツクヨミに潜ってばっかりで相手してくれないから拗ねてんだ。だから俺たちで慰めてやってんだよ」
「あぁ…どうりで気分が乗ってねぇと思ったぜ」
「そんなんじゃねぇって!!」
サイトーの言葉にイシカワはバトーを慰めるためだと返す。彼の答えにパズは笑いながら納得していると、バトーから否定の言葉が飛んだ。
「ツクヨミならたまに俺も潜るぜ」
「以外だな」
「あそこは内部通貨でギャンブルができるからな。小遣い稼ぎには丁度いい」
「お前ポーカーとかつえぇもんなぁ」
サイトーがツクヨミにログインしていることを、バトーは意外に感じていた。彼は時々ツクヨミで『ふじゅ~』を賭けたギャンブルに興じているようである。
「しっかし、最近の若者にはこういうのが流行ってんのか?俺には理解できねぇぜ」
「ハッ…いかにも時代に取り残された年寄りらしいセリフだな」
「あんな旧車好き好んで転がしてるんだ。うちのご老体よりよっぽど時代遅れだぜ」
「ったく…お前ら言わせておけば…!!」
バトーがツクヨミの映像を見て首を傾げていると、ボーマとパズが時代遅れの人間だと彼を揶揄う。そんな2人にバトーは顔を引きつらせながら拳を握っていた。
「ねぇねぇトグサ君。このヤチヨって子、本当にボクたちと同じAIなの?」
「さぁ…?少なくとも本人はそう言ってるみたいだぜ?」
「そうは見えないんだけどなぁ…」
彼らが話している横でタチコマはヤチヨの映像を見て、彼女がAIなのか疑問に感じていた。彼から見たヤチヨはAIには見えないようだ。
「AIじゃなかったら誰かが彼女を演じているわけだろ?だったらそれこそ少佐が会いたがっている管理者である可能性は低くなる。管理者がわざわざそんなことをする意味はないからな。まぁ、管理者が好き好んでそういうキャラを演じてる可能性が無いわけじゃないけど」
「確かにそうだね」
もしヤチヨが本人の言うAIではなく誰かが演じている場合、素子が会おうとしている管理者からは遠ざかるとトグサは考えていた。彼は演者はあくまで演者であり、基本的には管理者が演者を兼ねる可能性は極めて低いという結論に至っていた。
「まっ、少佐の情報収集の結果に期待するとしようぜ」
かぐやの卒業ライブの数日前、仮想空間ツクヨミにて
「で、一体何の用?」
「もぉ~少しはアイスブレイクとかないの?」
「アンタには必要ないわ」
ヤチヨは素子をツクヨミに呼び出していた。彼女は素子の相変わらずの素っ気ない態度に不満を漏らしていた。
「実はモトコにお願いがあるんだけど…」
「わざわざ私を呼び出すくらいだし、そんなことだろうとは思ってたわ」
ヤチヨが素子をツクヨミに呼んだのは、彼女に頼みたいことがあったからである。そもそもヤチヨが素子を呼び出すこと自体珍しいため、彼女は何となくその事を察していた。
「モトコはかぐやと彩葉には会ってるから知ってるよね?」
「えぇ」
「2人のこと、もう一度助けて欲しいんだ」
ヤチヨのお願いとは、かぐやと彩葉を助けて欲しいというものであった。
「それは一体どういう意味?」
「かぐやは数日後、月からお迎えが来るの」
「それはアンタがかぐやって娘と『同じ』だから?」
「あはは…もうそこまで知ってるんだ。凄いねモトコは」
ヤチヨは数日後の卒業ライブの日に月からかぐやのお迎えが来ることを打ち明ける。素子はヤチヨとカグヤが同一人物であることを電脳に潜ったことで突き止めており、ヤチヨは彼女の洞察力に感心していた。
「それでその迎えからかぐやを守れっての?」
「さっきから聞いてりゃ失礼だぞオマエ!!いくらヤチヨの友達だっていっても限度があるからな!!」
「こ~らFUSHI、ダメでしょ?」
「けどぉ…」
「モトコがいないと私たち機能停止しちゃうんだから、ね?」
先ほどから偉そうな態度を続ける素子に、ヤチヨの肩に乗っているFUSHIはいよいよ痺れを切らす。だがそんなFUSHIを、ヤチヨは制止するのであった。現在ヤチヨの本体を管理しているのは素子であり、生殺与奪の権を握っていると言っていい。無論、素子が彼女たちを機能停止するつもりは微塵もないのだが。
「お迎えってのはコイツらよね?」
「うん。素子もあの時会ってるよ。もっともこの子たちはただの一兵士に過ぎないけど」
そう言って素子は以前かぐやの電脳に潜った際に見かけた灯篭頭の異形の存在を投影する。彼らは月人の尖兵であり、密かにツクヨミ内でかぐやを連れ戻そうと機会を伺っていたのである。
「コイツらの能力とアンタの構造解析したデータを鑑みても、かぐやの帰還を防ぐのは私でも不可能よ。技術レベルが違い過ぎるわ」
「ハンッ!!地球の超ウィザード級ハッカー様も大したことないな!!」
素子は月人とヤチヨのデータを解析した結果、自分ではかぐやを守るのは不可能だと結論付ける。そんな彼女に対し、FUSHIは挑発をし始めた。
「やれやれ…」
「おあぁぁぁぁぁぁ!?」
「もぉ~FUSHIったら…」
そんなFUSHIに素子は呆れつつ、攻性防壁を流し込む。するとFUSHIはその身をよじらせ悶絶し始めた。
「かぐやが月に帰ることはツクヨミの管理者であるヤチヨでも防げないのは分かってる。だからモトコには彼女が少しでも長くこっちにいられるように時間を稼いでもらいたいの」
かぐやの帰還を止められないことはヤチヨも理解していた。そのため、彼女は素子に迎え相手に時間を稼ぐことを依頼した。
「報酬は?」
「やっぱり必要?」
「前にも言ったように、アンタのメンテナンスもツクヨミにダイブするのも私にとって重要な情報源という意味があるからよ。タダじゃやらないわ」
ヤチヨの依頼に対し、素子は報酬を要求する。彼女たちの間柄であっても、仕事を引き受ける以上タダではやらないのである。
「しょうがないなぁ~どんな情報が欲しいの?」
「CIAの機密情報にアクセスできる暗号コード」
モトコにそう言われヤチヨはしょうがなくそれを承諾する。そして素子は報酬に米帝情報局の暗号コードを要求した。
「そ、それはちょっと…」
「アンタと知り合いだったのは一つだった頃の『アメリカ合衆国』のCIAの情報員でしょ?『ワールドワイドウェブ』だってそう。アンタが今の『米帝』に義理立てする必要はないはずよ」
しかし、ヤチヨはCIAの情報員に恩義があるため暗号コードを教えることを渋っていた。そんな彼女に素子は昔のCIAと今のCIAは違うと言って、説得しようとする。
「分かった。報酬は私が何とかする。だから、2人を助けて」
「交渉成立だな」
結局ヤチヨが折れ、素子の参戦が決まった。
かぐやの卒業ライブ当日
「くっ…!!このままじゃかぐやが月に連れてかれちゃう!」
彩葉たちはかぐやを守るために月人と戦っていたが、彼らの猛攻により劣勢に立たされていた。
『モトコ、お願い!!』
「いいだろう」
そんななか、ヤチヨの呼び声と共に草薙素子がツクヨミに現れた。
「「「素子さん!!」」」
「久しぶりね。アンタたち」
彼女の登場に彩葉と芦花と真実の3人は喜びの表情を見せる。
「あの人って確か…」
「俺たちに『笑い男』について聞いてきた女だ」
「あぁ~思い出したかも」
一方ブラックオニキスの3人も、以前素子と会ったことがあるようで彼女のことを思い出していた。
「どうしてここに?」
「とある人物から仕事を依頼された。それだけよ」
「まさかヤチヨが…?」
彩葉は何故素子がここに来たのかを尋ねる。彼女はヤチヨのことをぼかして仕事を依頼されたと答えるが、彩葉はヤチヨが呼んだのではないかと察していた。
「でもこれで素子さんが来てくれたから百人力だね!」
「残念だけど、あの娘をアレから守るのは今の技術力では不可能よ」
「えぇっ!?そんな…」
素子が来てくれたことで芦花はかぐやの帰還を阻止できると希望を持つ。しかし、素子はそれを否定し、真実はそれを聞いてがっかりした。
「じゃあ一体何しに来たの?」
「私が5分持たせてやる。それから何分持つかどうかはお前たちの頑張り次第だ」
「オイオイ、アンタ正気か?あの大軍勢相手に…」
月人を追い返すのは不可能だという素子に、乃依は何しに来たのかと尋ねる。それに素子は5分間月人の攻撃を防ぐといい、アキラから正気を疑われていた。
“全感覚マスクが展開されました”
「えっ!?何、全感覚マスクって!?」
「攻撃に対する防御機能だ。これで少しはヤツらの攻撃を受けれるはずだ」
素子はブラックオニキスの冷めた視線を気にせず、全員に全感覚マスクを展開する。全感覚マスクという聞きなれない言葉に彩葉は戸惑っていた。
「そろそろアレを押しとどめるのも限界だ。あの娘を簡単に渡したくなかったら精々気張れ!!」
密かにかぐやの周囲に展開していたバリアが剥がれそうだと感じた素子は一同に発破をかけ、月人の大群の元へ送り出した。
“攻性防壁1024種展開中”
「「「「「…ッ!?」」」」」
(私の組んだ攻性防壁はある程度通用するようね。だが相手はこの惑星の常識を遙かに凌駕するような電子生命体だ。どこまで持つか…)
彩葉たちを送り出した後、素子は月人たちに攻性防壁を流し込む。彼女の攻性防壁は月人の電脳を破裂させ、彼らを次々と意味消滅に追い込んだ。しかし、それだけの能力を持ってしても、素子は警戒を緩めることはなかった。
「はぁぁぁぁぁ!!」
(月人の動きが鈍くなってる!!理屈はよく分からないけど、きっと素子さんがやってくれてるんだ!!)
「えりゃぁぁぁぁ!!」
(あの攻性防壁、人が死ぬ威力だよな?前に警察関係者だって言ってたけど、本当に警察なのか?)
彩葉とアキラ、もとい朝日の兄妹は2人で力を合わせて月人を倒していく。彩葉が素子に感謝しているなか、アキラは素子の使う攻性防壁の威力に驚いていた。
“ウイルス解析状況、共食いが進行中。14種中和。2種進行中。1種未特定”
「・・・・・・」
ツクヨミの空中では、責任者らしき月人がウイルス感染のアナウンスを聞いていた。彼には表情を表す機能が存在しないため、素子のことをどう感じているかは不明である。
「おっと…この全感覚マスクってやつも中々の性能じゃん。まぁKASSENなんかで使ったらチート扱いでアカBAN確定だろうけど」
一方乃依は素子の全感覚マスクの性能に感心していた。彼の被弾を無効化したそれだが、大会等で使用すれば違反行為になるだろうと嘆いていた。
“支援防壁展開。攻性防壁512種中和。残り512種も解析中です”
「~~~~~~~~~~~~~♪」
(あっ、あの人ってあの時のお姉さんじゃん!!彩葉たちを助けに来てくれたんだ!!)
かぐやは卒業ライブを続けている最中、素子が会場にいることに気付いていた。彼女は即座に素子が彩葉たちを助けにきたことを理解していた。
“攻性防壁の全中和を確認。ウイルスも全て無効化完了しました”
「やはり、この程度しか持たなかったか…」
素子の参戦から5分後、彼女の展開した攻性防壁とウイルスが全て無力化される。彼女はそのことを悲しむわけでも悔しがるわけでもなく、ただ事実として受け入れていた。
「「「「「・・・・・・」」」」」
そしてその直後、灯篭型の月人たちが素子のことを取り囲む。
「…ッ!!貴様ら、私のゴーストラインに触れようとしたな?」
「「「「「!?」」」」」
さらに月人たちは素子のゴーストへ触れようとする。だがその直後、突如月人たちの身体の自由が効かなくなる。彼らは素子によってゴーストハックを受けていた。
「消えろ」
(((((スゥ…)))))
そして月人たちは自分の武器で自ら首を刎ね、消滅してしまった。
『悪いが私の役目はここまでだ。後は満足するまで足掻いてみなさい』
『素子さん。ありがとうございました!!』
『礼はいらないわ。私は私の目的のためにこの仕事を引き受けたに過ぎないから』
依頼を果たした素子はその場から離れようとする。彩葉は助けてくれた彼女にお礼を述べるが、彼女は礼は不要というスタンスを崩さなかった。
『じゃあな』
そう言って素子はその場から姿を消した。
その後、かぐやの卒業ライブは無事『成功』し、ファンたちに惜しまれながら彼女は卒業していった。
終わり
月とは技術レベルが違うので結末は変えられないですが、超ウィザード級ハッカーの面目躍如ってところですかね。