家事スキル皆無な学校一の美少女に目をつけられた件。   作:荒井竜馬

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第16話 抜き打ち家探し、彼女さん

「そうだった、三月君の抜き打ち家事力チェックしないと」

 

「初耳なうえに、そんな使命感に駆られるように始めないでくれ」

 

 水瀬さんの機嫌が少し直って、お昼ご飯を食べ終えると急に水瀬さんがそんな事を言い始めた。

 

「だめだよ。今日三月君の家で集まることにした理由の一つだもん」

 

「初耳なんだが」

 

「初めて言ったもんね」

 

 水瀬はそう言うと、あたかも自身の考えが正しいかのように言葉を続けた。

 

 ピンと人差し指を立てた話し方は、紅茶が大好きな某刑事ドラマのなんとか下警部のようだった。

 

「さて、問題です。三月君は私の家に来て、私が恥ずかしがるようなことをしましたね。それはなんでしょうか」

 

 水瀬は微かに朱色に染められた頬で、子供をしつけるような口調でそんなことを口にした。

 

「……サラダが手料理じゃないことを教えたことか?」

 

「違いますー。それとサラダは手料理ですー。私の十八番ですー」

 

 水瀬は人差し指を交差させ、バツの形を作ってこちらに向けた。

 

 どうやら、まだサラダは水瀬の十八番料理として健在みたいだ。

 

 サラダは料理なのだろうか?

 

「っていうと、あれかな? 冷蔵庫の中に、固形物がほとんどないことに驚いてたことか?」

 

「違いますー。最近は教えてもらった料理の作り置きとか、たまにありますー」

 

 初めて水瀬の家の冷蔵庫を見たとき、ナメック星人なのかと思うくらい液体しか入っていなかった。

 

 そんな水瀬が作り置きをしているとは、少しだけ感慨深いものがある。

 

「あっ、あれか、水瀬さんがナスに強い恨みを持っていることをーー」

 

「ちーがーう! ナスに恨みなんて持っていないもん! 三月君、わざとはぐらかしてるでしょ!」

 

 水瀬は俺の回答を聞き終える前に割って入ると、こちらに抗議の目を向けてきた。しばらく俺のことをじっと睨んでいたが、俺が答えないでいると、やがて大きなため息をついた。

 

 それから、水瀬は恥じらうように頬を朱色に染め、ぽつぽつと言葉を漏らした。

 

「だからぁ、私のし、下着見たりとか、あったでしょ?」

 

「お、おう。まさか、水瀬さんからその話題に触れるとは思わなかったけどな」

 

「だ、だって、三月君がいつまで経っても言わないからっ」

 

 水瀬は俺とぱちりと目が合うと、一層体温を上げたように顔を赤らめた。あの時の記憶が一気に蘇ってきたのだろうか。

 

「まーた勝手に自滅してる」

 

「うーー、三月君が、私に恥ずかしいことを無理やり言わせてるんだもん、私悪くないもん」

 

「水瀬は俺を変態の鬼畜に仕立て上げたいのか? そうなのか?」

 

「と、とにかくっ、何が言いたいかと言うと、急に家探しをされれば恥ずかしい物を見られたりするものなの! そんな体験を三月君にもしてもらいますっ」

 

 宣言するように言い終えた水瀬の話を聞く限り、勝手に家探しをしたことの仕返しをさせろということみたいだ。

 

 俺の場合は勝手に家探しをしたというよりも、状況がそうさせただけであって、不可抗力なのだけれども。

 

 おそらく、それを言った所で今の水瀬が止まる気はしない。

 

「いや、別に恥ずかしい物なんてないと思うけどな」

 

「ふん! そうやって余裕をかましていればいいさ! すぐに三月君が恥ずかしくなるような物を見つけてやるんだから!」

 

 水瀬はいつになくやる気になっているようで、闘志のようなものをめらめらと燃やしているように思えた。

 

「別にいいけど、どこから見ていく?」

 

「え、あれ? なんかそんな乗り気で来られると、こっちも困るんだけどな」

 

「俺にどうしろ言うんだ」

 

 こうして、家主同伴の家探しがスタートしたのだった。

 

 本当に一体どうしてこうなった?

 

 

 

「とりあえず、クローゼットの中が定番かな!」

 

「何の定番なんだ、それは」

 

 ウキウキ気分で家探しを始めると言いだした水瀬。そして、その後ろには家主である俺が同伴していた。

 

 以前、水瀬の家に行ったときはクローゼットの中がぐちゃぐちゃだった。水瀬も俺を同類だと思っているのか、にやにやとした表情でクローゼットに手をかけていた。

 

「本当にいいの? 開けちゃうよ?」

 

「別に見られて困るものは入ってないし、いいぞ」

 

「えっと、その、下着が入ってたりしないかな、と」

 

「なんだ、水瀬は俺のパンツが見たいのか?」

 

「ち、違うよ! ただその配慮というか、入ってたらどうしようかな、とか色々想像しちゃって、」

 

「想像したのか、変態め」

 

「ちがっ! ~~っ。わ、私の下着に顔擦りつけたりしてたくせにっ!」

 

「さすがにそこまではしてないぞ!」

 

 確かに、前に水瀬のクローゼットに入ったとき、水瀬の下着が俺の顔の前にあった。しかし、擦りつけたりとか紳士の風上に置けないようなことはしていない。

 

 そこまでしていたら、こうして顔を合わせることもできないわ!

 

「そこ、まで?」

 

「言葉の綾だ!」

 

 俺は水瀬がまた自滅してしまう未来を予測して、水瀬が深く考える前にその思考を停止させた。

 

 そのかいあって、水瀬はなんとか頬を微かに赤らめただけで、踏みとどまったらしい。水瀬はそのまま俺からぷいっと視線を外し、ゆっくりクローゼットを開けた。

 

「……綺麗だね」

 

「まぁ、普通だろ」

 

 開けられたクローゼットの中は特に散らかっている訳もなく、整理整頓された服が掛けられているだけだった。

 

 特別な収納術で収納されているわけでもないので、見ても面白いものではない。

 

「なんかつまらないクローゼットだね」

 

「クローゼットに面白さを求める方もどうかと思うぞ」

 

 そんなこんなで我が家の家探し終了。かと思っていたのだが、水瀬はクローゼットの扉を閉めると、ふむと小さく頷いた。

 

 その目はまだ俺を辱めるべく闘志に燃えているようだった。

 

「次、ベッドの下見てみよう!」

 

 何か名案を思い付いたと言わんばかりに、水瀬は小さくパチンと手を叩くとベッドの方に向かって行った。

 

「ベッドの下? 別に面白い物はないぞ?」

 

「分かってるんだから! 男子って言うのは、ベッドの下に色々隠したりするって聞いたことあるし!」

 

 そんな令和では通用しないレトロな知識を披露すると、水瀬は膝をついた屈みこんだ姿勢でベッドの下を覗き込んだ。

 

 ……水瀬は、自分がどんな服装をしているのか覚えているのだろうか?

 

 ベッドの下を覗き込む水瀬は、ロングスカートを履いている。だから、スカートの中が見えるということはない。それゆえ、水瀬も何も問題はないと思っているのかもしれない。

 

 しかし、ロングスカートとは言えども、スカート姿。

 

 当然、ベッドの下を覗き込もうと屈みこめば、微かではあるがお尻のラインが強調される。

 

 別に下着のラインが見えているわけではないが、その体制はお尻の形が分かってしまう訳で。

 

 学校一可愛い女の子のそんな姿を見せられて、何も感じないほど俺もピュアではないのだ。

 

 思春期、ここに極まれり。

 

「本当に何もないんだね。少しつまらな……ん? どうしたの?」

 

「いや、別に何も。ただ疲れたから座ってるだけだ。気にしないでくれ」

 

 別に、立っていることが難しくなって隠すために座ったわけではない。ええ、本当に。多分、きっと。

 

「ふーん。なんか三月君の家って、家探しのし甲斐がない家だね」

 

「そんなものはなくていいだろ」

 

 もう飽きたのか、これ以上探すところがなくなったのか。水瀬はうろうろとしながら勉強机の方に向かって行った。

 

「うーん、これじゃあ三月君を辱めることができないなぁ。あ、三月君の家ってパソコンあるんだ」

 

「あると何かと便利なんだよ。家探しをやめて何か動画でも観るかい?」

 

 特別観たい動画があるわけではないが、俺は現在立ち上がることができない。それゆえに、無理やりにでも座って何かをする方向に変えなくてはならないのだ。

 

 口調が少し硬くなってしまうのも、勘弁して欲しい。

 

「うーん。まぁ、これ以上探す場所もないかな。うん、少し動画でも観ようか」

 

「よしそうしよう。ぜひ、そうするべきだね。水瀬さん、パソコンをこっちに持ってきてくれるかい?」

 

「いいけど、なんか三月話し方おかしいよ?」

 

 水瀬に心配されるくらい不自然になっていたっぽいが、水瀬は俺のパソコンを持って俺の隣に座った。これで、しばらくは立ち上がる必要はなくなった。

 

 そんな煩悩にまみれた提案だったのだが、ここで一つ気がついたことがあった。

 

 そういえば、並んで座るのは初めてだな。

 

 俺達はパソコンの画面で動画を見るために、並んで座っていた。

 

 ただ隣に座っているだけ。パソコンは大きくはないし、ローテーブルだって大きくはない。自然と俺達の距離は近くなり、少し手を伸ばせば触れてしまうような距離。

 

 水瀬からする甘い香りは俺の鼻腔をくすぐり、改めて水瀬との距離を意識させる。

 

 当然、こんな状態で平常心を保つことは不可能である。

 

 どくどくと激しい心臓の音はうるさいし、鼓動が速まってせいかいつもよりも息遣いが荒くなった気さえする。呼吸を浅くして、息遣いを整えようとしたが、一向に整う気がしない。

 

 ちらりと水瀬の様子を見てみると、気のせいかもしれないが水瀬の様子も大人しいように思えた。俺の隣で借りてきた猫のように座っている。

 

 水瀬も俺の体温の上昇に当てられたように、微かに頬を赤らめているように見えた。

 

 そんな水瀬の様子を窺っていると、不意に水瀬がこちらを向いた。

 

「えっと、三月君? 何か観ないの?」

 

「み、観るぞ! えっと、な、何を観ようか考えていたところだ!」

 

「そう、なの? 確かに無料で観れる動画って多いしね。そうだ、少し借りていい?」

 

 水瀬はそう言うと、マウスを操作してカーソルを検索の場所に持っていき、クリックをした。それから体を少し伸ばして、タイピングをするような姿勢を取る。

 

「好きなお笑い番組、が、ある、の」

 

「水瀬?」

 

 そんな水瀬の様子を見ていると、急に水瀬が固まったように動かなくなった。何事かと思い、俺も水瀬と同じようにパソコンの方に視線を向けた。

 

「ん?」

 

 見てみると、パソコンの画面には『最近の履歴』というものが表示されていた。検索バーにカーソルを合わせてクリックすると、どうやらそれは表示されるらしい。

 

 女子相手にパソコンを見せたことなんてなかったから、今まではただの便利機能でしかなかった。

 

 しかし、今この瞬間はこの機能を強く呪う他なかった。

 

『足コキ 二次元』『素人 videos』『エロマンガ サブスク』

 

 表示された『最近の履歴』にはそんな検索履歴が残っていた。

 

 ……詰んだわ。

 

「えっと、三月君って、女の子の足が、好きなの?」

 

 水瀬は微かに脚をもじりと動かすと、確認するような視線をこちらに向けてきた。そんな脚の動きと視線にどきりとしながら、俺は無理やり誤魔化せる術はないかと頭をフルで稼働させた。

 

「いや、これは違くてだな……あっ」

 

 俺に視線を向けた水瀬はマウスに手を乗せたままだった。何の手違いか、水瀬は少しだけマウスを下にずらしたのち、マウスをクリックしてしまったらしい。

 

 最近の履歴の一番上にあった『足コキ 二次元』をクリックしてしまったのだった。

 

「え? あっ……~~~~っ!」

 

 パソコンの画面には検索ワード通りの結果が表示されていた。

 

 なんのいたずらか、いきなりそんな画像が数枚画面に現れたのだから水瀬もさぞ驚いたことだろう。

 

 おれも、驚いたなぁ

 

 水瀬はぽんっと音を立てたかのように顔を一瞬で赤くした。一気に羞恥が体を駆け巡ったのか、水瀬は耳の先どころか首まで赤くしていた。

 

 こちらに向けられた瞳はいつも以上に潤んでおり、言葉にできない感情を全て乗せたような視線で睨んでいた。

 

「……なんかすんません」

 

「……み、三月君に、突然足でする画像を見せつけられたって、みんなにーー」

 

「それだと俺ただの性癖を突然押し付ける変態みたいに思われちゃうからそんな誤解を招くような表現はやめていただけませんかお願いします何卒!」

 

 もう二度と水瀬の家で家探しはしない。俺は心に強くそう誓ったのだった。

 

 そして今回は、全部思春期が悪い。あとはウェブサイトの仕様が悪い!

 

 俺はクラスで『脚フェチ』のあだ名が付けられないように、誠心誠意頭を下げ続けたのだった。

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