家事スキル皆無な学校一の美少女に目をつけられた件。   作:荒井竜馬

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第30話 幼馴染さんと、彼女さんと

 水瀬が学校でのトップカーストを下りたとしても、俺と一緒にいると、どうしても違和感が生じる。

 

 その違和感をどうにか払拭できない限り、俺達に向けられる視線は珍しい物を見るような目となるだろう。

 

 でも、水瀬はそれでも俺と一緒にいたいと思ってくれたのだ。それならば、俺もその気持ちに応えなければならない。

 

 そんなふうに、俺は意気込んで玄関の扉を開けたのだったーー。

 

 

「三月君、これなら違和感ないよね?」

 

「ああ。びっくりするくらいにな」

 

 ホームルーム後、俺の席の隣に水瀬がいた。

 

 何が起こったのか言うまでもない。本日、席替えが行われたのである。

 

 ホームルームの際に席替えが行われ、水瀬は窓際の後ろから2番目の席、俺はその隣になった。

 

 それに対して、飯田達のグループの多くは廊下側の席となり、水瀬とは物理的な距離が離れることになった。

 

 まだ入学してそこまで日が経っていないので、ただ席が遠くなったから飯田達とは話さずに近くの人と話すようになったのだろう。といった認識がクラスの大半の奴の認識みたいだった。

 

 ここはきっと、喜ぶ場面なのだろうな。

 

「……俺の意気込みを返せ」

 

 しかし、嬉しいと思う反面、思う所もあったりした。

 

 一人で勝手に覚悟とかして、モノローグ調で語っていたのが自分が恥ずかしくなってきたのだ。

 

 あんなのただの前フリじゃないか。

 

「え? なにかな?」

 

「いや、『下ネタ大好き水瀬さん』の噂が回ってなくてよかったなって」

 

「水瀬さんは下ネタ好きのえっちな子じゃありませんー。三月君が特殊でえっちなんですー」

 

「おまっ、特殊はやめろ!」

 

 そんなふうに、教室の隅の方で会話をしても悪目立ちはしないようだった。水瀬の口調を聞いて、少し振り返る者もいるが、そこまで大きく驚いているような感じではない。

 

 俺と話す中で出てくる素の水瀬を、少しずつ知ってくる人が増えていけばいいな。

 

 俺は一人そんなふうに思っていた。

 

「へー、さっそく仲良いじゃん」

 

「あ、愛実!」

 

「よっ、暇だったから私もこっち来た」

 

 そんな俺達の会話に流れるように合流したのは、少し遠くの席にいた七瀬だった。七瀬は空いていた一番後ろの席にだるそうに腰かけ、こちらに視線を向けてきた。

 

「三月もよろしく。私もしばらくこっちにいるから」

 

 七瀬の言葉は曖昧なものだったが、昨日の俺達のやり取りを知っている者からすると、何を指しているは明確だった。

 

「え。飯田達のグループは良いのか?」

 

「元々、茜がいるからあのグループにいたところあるし。茜が三月といるなら私もそうする」

 

 水瀬は周りの期待に応え続けることが嫌で、飯田達のグループから抜けて来た。そのグループに七瀬も属していたのだが、水瀬が抜けたのをきっかけに七瀬まで抜けたのか。

 

 七瀬は俺の次に水瀬が素で話せる存在だ。それならば、七瀬が俺達と一緒にいても問題はないんじゃないだろうか。

 

 そう思って、水瀬の方に視線を向えけると、こちらの考えが通じたのか、水瀬は嬉しそうに頷いた。

 

「愛実なら喜んで大歓迎だ!」

 

「はいはい、ありがとね」

 

 軽く流しながらも、七瀬は安心したような笑みを浮かべているようだった。昨日の水瀬の言葉が自分にも適応されているんじゃないか、そんな少しの脅えもあったのだろう。

 

 水瀬との関係を考えたら、そんなことはないというのが分かりそうなものだけれどな。

 

「ゆ、裕也が水瀬さんと、七瀬さんと楽しそうにおしゃべりしてい、あばばばば」

 

「す、鈴木くん、大丈夫!?」

 

 これまで通り休み時間に俺の机に向かってきた時光は、予想外の光景に出くわしたのか、バイブレーション状態に入ってしまっていた。

 

 強ばった表情で縦揺れしている様は、圧巻であった。

 

 ちなみに、時光の名字は鈴木だったりする。

 

「安心しろ。時光はただのスペック不足でバグってるだけだ」

 

「なんで三月は手馴れた口調なの」

 

 単純に衝撃的な光景を目の当たりにして、時光の脳内のスペックでは処理ができなくなっただけだ。何か余分な記憶を消してやれば正常に動き出すはず。

 

「ふむ。よっし、昨日の英語教師の大野先生のパンティラインの画像を消去」

 

「『消去完了』。はっ! 裕也、貴様ぁ!! 俺の大事な脳内コレクションに何をした!?」

 

「これが三月の言ってた『馬鹿みたいな人間関係』ね。……私、飯田達の方に戻ろうかな?」

 

 七瀬と時光を含めた新しい人間関係。こんな面子で馬鹿みたいなことを言い合えたら、結構楽しい学園生活になるんじゃないかと思う。

 

 俺は時光に胸ぐらを掴まれながら、そんなことを考えていた。

 

 

「みーつきっ。今日って暇?」

 

「まぁ、特にやることはないけど」

 

「じゃあ、親睦会やろーよ。親睦会。茜もいいでしょ?」

 

「うん。私は大丈夫だよ」

 

 時刻は放課後。荷物を持った七瀬はこちらの席に向かってきながら、そんなことを口にした。

 

 おそらく、俺と水瀬と七瀬、それと時光を加えたメンバーでの親睦会ということだろう。

 

「親睦会たって、ある程度知れた仲だろうに」

 

「私、三月と茜が話してるとこ見たことないし。あと鈴木のことも良く知らない」

 

「私も三月君と愛実が話してるの、あんまり見たことないかも。あと鈴木君のこともよく知らないかなぁ」

 

 確かに、俺基準で言えばみんな知った仲だったが、二人は時光のことをあまり知られていないのか。

 

 俺も少し前までこの二人のことを良く知らなかったし、ここは仲を深める良い気かなのかもしれない。

 

「あれ、時光って今日部活だよな?」

 

「部活なんてやってる場合じゃねーだろ! 絶対行くね! 死んでも行くね!」

 

 いつの間にか俺の背後にいた時光は、準備万端といった様子で手荷物を抱えていた。周りが引くくらいの意気込みを見せる時光だが、俺にはその気持ちが痛いほど分かった。

 

 学校で一番可愛いと言われる水瀬と、その次に人気の高い七瀬。その二人と放課後を一緒に過ごせるというのなら、当然そんな反応にもなるだろう。

 

「鈴木、集合」

 

「……うすっ」

 

 そんなふうに意気込む時光だったが、教室の入り口に立つ一人の先輩の声によって、その勢いは全て削がれたようだった。

 

 わが校で一番練習量が多いと噂されるハンドボール部。その先輩の声によって、時光はこの場を離れることになった。 

 

「と、時光」

 

「悪いな裕也。また、今度だ」

 

 そう言い残してこの場を去った時光の目には、微かに涙のような物が見えた。

 

 時光、死ぬなよ。

 

 そうなると、結局この二人との親睦会か。まぁ、この二人となら普通に話したこともあるし、特に何も問題はーー。

 

「ていうか、なんで三月君と愛実は仲良くなったの?」

 

「え、わ、私? えーと、それよりも、茜はなんで三月と仲いいの?」

 

「え? えーと、面白そうな人だったから? ねぇ、三月君」

 

 あれ? ちょっと待てよ。

 

 本当に何も問題はないのだろうか。

 

 水瀬の家事を手伝っていることは、七瀬に言ってはならない。

 

 なぜなら、七瀬は水瀬の親と繋がっており、俺が家事を手伝っていることがバレたら、水瀬は一人暮らしをやめさせられてしまうかもしれない。

 

 七瀬が女児向けアニメのポニキュアが好きなことや、部屋がファンシーで可愛い物が好きなことはバレてはならない。

 

 なんかキャラに合わないことを気にしているらしく、その趣味を俺以外には言っていないからだ。

 

 つまり、互いの秘密を守りながら、俺はこの二人と接していかなくてはならないのか。

 

 これって、中々のハードモードに突入したのではないだろうか。

 

 時光がいれば、話題も広がったことだろうに。

 

 時光、カムバック。

 

 そんな願い空しく、俺は三人だけの親睦会に連れていかれることになった。

 

 今回は俺が悪いのだろうか? いや、幼馴染なのに色々と隠し事をしている水瀬と七瀬が悪い。

 

 一体俺は、二人にどのように接すればいいのだろうか。

 

 二人の秘密を守りながら、共に学園生活を送っていく。

 

 そんな、俺達の新しい関係が幕を開けたような気がした。

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