家事スキル皆無な学校一の美少女に目をつけられた件。   作:荒井竜馬

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第35話 映画公開日ですよ、幼馴染さん

「三月君、今日はーー」

 

「ごめん、茜! 今日は三月借りるから!」

 

「え、ちょっ、ちょっと、愛実!」

 

 水瀬の予定をドタキャンしてしまった日の埋め合わせから、数日後の放課後。

 

 授業が終わるなり、七瀬が俺の席の所までやって来た。帰りのホームルームが終わってから、二秒ほどで俺の所にやって来た七瀬の目は爛々と輝いていた。

 

 キャラ崩壊気味だけど、その顔は大丈夫なのか?

 

 七瀬はそのまま俺の腕を取ると、俺を引きするようにしながら教室を後にした。

 

 事前に聞いていたとはいえ、こんな乱暴な扱いを受けるとは思わなかったぞ。

 

「三月、ほらもっと急いで!」

 

「大丈夫だろ。今日平日だぞ」

 

「平日とか関係ないから! 急いで行くの! 今すぐ!」

 

 七瀬は駄々をこねる子供のように手をぶんぶんと振って、気持ちを表現していた。本当に、すぐに教室を出て正解だった。

 

 こんな姿をみんなに晒すのは、七瀬としても嫌だっただろう。

 

「ポニキュアの映画公開今日なんだから、早く行かないと特典なくなっちゃう!」

 

 普段クール系の美少女が、女児向けアニメのポニキュアの映画特典を貰うために廊下を走る姿なんて。

 

 

 

「やったよ、三月! 特典も貰えたし、映画も観れたね!」

 

「そうだな。多分、特典は裏に段ボールで何箱もあるだろうけど」

 

 俺達はポニキュアの映画を観終わり、近くの売店でグッズを見ていた。シアターの中は平日の夜の女児向けアニメということもあり、ガラガラだった。

 

 そうだよな。普通の女児は土日に家族と一緒に見に来るよな。それまでに特典がなくなるなんてことは、まず起きるはずないよな。

 

 映画館にいたのは俺達よりも大きなお友達達だった。大学生や仕事上がりの男達が見守るポニキュアは、一体どんな気持ちで敵を倒したのだろう。

 

 そんなことを考えていると、七瀬が珍しい物を見るような目をこちらに向けてきた。

 

「へー。画面を食い入るように観てたくせに、冷静だね」

 

「それと面白さは別だろ。面白い物は面白いんだよ」

 

 そして、その大きいお友達でもある俺もポニキュアに少しハマっていた。

 

 どうしよう。これ七瀬が転校とかしちゃったら、俺もただの大きなお友達になってしまいそうだ。

 

 七瀬がいない状況でこんなふうに映画館に来るのは、中々至難の業だろう。いつでも引き返せる位置にいないと、俺も大変なことになってしまいそうだ。

 

「だよね! そうなんだよ、面白くて、可愛いんだよ!」

 

 まるで、アイドルにファンサでもしてもらったかのように七瀬は喜んでいた。そんな顔を見ると、本当にポニキュアが好きなんだなと改めて感心してしまう。

 

「そうだ。七瀬さん、これあげるよ」

 

「え? いいの?!」

 

 俺はそんなふうにはしゃぐ七瀬を前に、先程貰った特典を上げることにした。

 

 ポニキュアの特典はシュシュだったため、俺が持っていてもしょうがない。そう思って七瀬に引き取ってもらう形であげたのだが、えらい喜びようであった。

 

「三月、これ使わないの!」

 

「俺の髪の短さでどうしろと?」

 

「えー、いいの? 本当に?」

 

 どうやら、特典のシュシュは色が違うらしく、七瀬はオレンジ色のシュシュを引き当てていた。そして、俺のは暗い青がベースのシュシュ。

 

 七瀬は俺のシュシュの色を見て、小さく『いいなぁ』と言っていたこともあったし、きっと気にいってくれるはずだ。

 

「いいよ、ほら」

 

「ありがとうね、三月!」

 

 七瀬は嬉しそうにそれを受け取ると、そのシュシュで髪を結んだ。三次元ではあまり見ないサイドテール姿。

 

 二次元でしか見ないような髪型なのに、七瀬のサイドテールはとても絵になっていた。

 

 普段クールな美少女が、自分のあげたシュシュでサイドテールを作り、照れたような笑顔を向けてきている。

 

 こんな状況を見て、なんとも思わないなんて奴がいるだろうか。

 

 ただそれだけの光景を見せられただけのに、俺の心音が大きく跳ねる音がした。

 

「大切にするね」

 

 そのはにかんだ乙女の顔を向けられ、俺は上手く言葉を返せないでいた。そんな俺をどう思ったのか、七瀬は屈託のない笑みをこちらに向けてきた。

 

 追い打ちをかけられたように速くなる心臓の音に戸惑いながら、俺はそんな心音を誤魔化すように七瀬から視線を逸らした。

 

「あっ」

 

 

「ん? あ、等身大パネルがある!」

 

 俺が誤魔化そうとした先には、ポニキュアの等身大パネルがあった。小さなお子様向けのスペースだと思うが、平日のこの時間帯にはそのスペースを使用している人はいなかった。

 

「三月、撮って撮って!」

 

 七瀬はそう言うと、ポニキュアの等身大パネルに囲まれている撮影スポットに小走りで移動した。

 

 俺が七瀬に続く形で撮影場所に到着すると、七瀬はすでにノリノリでポニキュアのようなポーズを取っていた。

 

 そんな感情のままに取る行動や、ころころ変わる表情。普段とのギャップに二次元のようなサイドテール。そんなのをスマホのレンズを通してみれば、それはもう三次元のものではないような気がした。

 

 俺は静かにシャッターを構えながら、そんなことを心の中で考えてしまっていた。

 

「……控えめに言って可愛いな」

 

「へ?」

 

 だから、そんな心の声が漏れてしまったのも、仕方がないことなのだ。

 

「ちょ、な、なんで連写してるの!?」

 

「いや、何でって言われてもな」

 

「分かるでしょ! そんな難しい質問してないでしょ?!」

 

 どうやら七瀬は連写されることが気に入らなかったらしい。撮影途中だというのに、七瀬は撮影スポットから離れて俺の所に駆け寄ってきた。

 

 なぜ連写をするのか。その理由が聞きたいのだろう。

 

 俺はそう思って、今撮った写真の中から一番良かった写真を見せることにした。

 

 これで連写をした理由も分かるだろう。

 

「俺の今日のベストショットはこれだな。七瀬さん、見てくれ」

 

 俺の心の声が漏れ出た瞬間の七瀬は、顔を赤らめながらもノリノリのポニキュアのポーズをしていた。

 

 まだ羞恥の感情が微かにしか感じられないが、それ故に素に戻った瞬間にポニキュアのポーズをしている七瀬が映っていた。

 

 可愛いもの好きの七瀬と、学校でのクールな七瀬が共存している素晴らしい写真である。

 

「~~っ」

 

「連写をすると、やっぱりいい表情が撮れるだろ?」

 

 俺の問いかけに対し、七瀬は顔を両手で覆いながらバタバタとしていた。今さら体中に回った羞恥の感情と戦っているらしい。

 

 七瀬って意外と面白い反応するよな。

 

「よっし、これ送っておいてやろう。待ち受けにするがいい」

 

「やめっ! ちょっと、なんでチャットに連投する?! やめてよぉ!!」

 

 そんな涙目の七瀬を見て、はやりギャップ萌えは素晴らしいと静かに思ったのだった。

 

 そして、そんなふうにからかわれても、俺と帰り道が分れるまでずっとシュシュを外さない七瀬はなんだか一層可愛く思えた。

 

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