魔法は捨てた、物理(アイツ)を信じろ。   作:アホ面オムライス

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第4話

 深夜の新宿。再開発の波に取り残され、内装工事が放棄された巨大複合商業ビルの四階フロア。

 

 完全な死と静寂が、広大なコンクリートの空間を支配していた。

 

 ひしゃげた鉄筋がむき出しになった天井の隙間から、生ぬるい夜風が不気味に吹き込んでくる。

 

 つい先ほどまで、全長六メートルを超える異形の怪物が暴れ回っていた惨劇の空間には、今や強アルカリ性の泥濘と、真っ白な石灰の粉雪がもうもうと舞い散るばかりだ。

 

 その白く染まった無惨な床の中央で、葛城凛はピタリと動きを止めていた。

 

 血と石灰にまみれた透明な防護ゴーグルの奥。

 

 氷のように冷徹な瞳は、右手に握りしめた赤黒い肉塊に完全に釘付けになっていた。

 

 怪物の死骸からサバイバルナイフでえぐり出した『コア』。

 

 魔法少女のシステムにおいて、ポイントと交換される最も価値のあるアイテム。

 

 だが、凛の目には、それがファンタジーの産物には到底見えなかった。

 

 右心房、右心室、左心房、左心室。

 

 大動脈と静脈が鋭利に切り取られた痕跡。心筋に酸素を送る冠動脈の走行パターン。

 

 どう見ても、人間の心臓と物理的・生物学的に全く同じ構造をしている。

 

 だが、凛の眼球を極限まで見開かせているのは、その事実だけではない。

 

 右心室の分厚い筋肉の壁面に、銀色に鈍く光る金属製の『人工弁』が埋め込まれていたのだ。

 

 さらにその傍らの生体組織には、まるで家畜を管理するかのように、医療用レーザーで極めて無機質な文字列が深く焼印されていた。

 

 ――『YUI-04-A』

 

 偶然の記号ではない。

 

 現在、都内の大学病院の無菌室で、原因不明の『魔力飽和病』によって生死の境を彷徨っている凛の双子の妹、結衣(YUI)の名前。

 

 そして『04-A』は、彼女が外界から完全に隔離されている第四病棟のA室を、明確かつ一意に指し示している。

 

「……葛城、さん?」

 

 背後から、怯えきった細い声が響いた。

 

 ひしゃげた鉄製の防火扉の陰から、Sランク魔法少女、星野キララがおずおずと顔を覗かせている。

 

 豪奢なパステルイエローのドレスも、今や石灰の粉と泥で無惨に汚れ切っていた。

 

 魔力を完全に使い果たし、自らの誇りであった最強の魔法が全く通用しなかった事実を突きつけられた彼女の顔には、深い疲労と絶望が刻まれている。

 

「どうしたのよ、急に黙り込んで……。それ、怪物のコアでしょ?」

 

 キララは、震える足で立ち上がりながら言葉を紡ぐ。

 

「早くシステムに納品しないと、ポイントが……」

 

「ええ。そうですわね」

 

 凛は感情の起伏を完全に押し殺した平坦な声で応じた。

 

 だが、その華奢な背中から立ち上る尋常ではない殺気は、背後のキララが本能的に一歩後ずさりするほどに、濃密でどす黒いものだった。

 

「納品すればポイントが貰えますわ。それを支払えば、この狂ったシステムは妹の生命維持装置を数日間だけ稼働させてくれる」

 

 凛はコアを握る手にギリッと力を込め、ゆっくりと振り返った。

 

 視線が、虚空に浮かぶ管理妖精セラフの無機質な単眼モニターを真っ直ぐに射抜く。

 

「ですが、星野さん。少しだけ、その優秀な頭で考えてみなさいな」

 

 凛は血に濡れた心臓を、キララの目の高さまで持ち上げた。

 

「この怪物のコアは、どう見ても『人間の心臓』と同じ構造をしていますの。そしてここには、今まさに病床で苦しんでいるわたくしの妹の管理タグが、ご丁寧に刻印されている」

 

「え……?」

 

 キララの目が丸くなる。

 

 思考が、凛の提示した異常な事実を即座に処理しきれていない。

 

「一つ、怪物は人間の心臓を核に造られている」

 

 凛の言葉は、氷の刃のように冷たく、残酷な事実を積み上げていく。

 

「二つ、妹は異常な魔力を発する未知の病に侵されている。三つ、その妹と同じタグを持つ怪物が、今まさにここで魔力を喰らって巨大化し、暴れていた」

 

 凛は一歩、キララへと歩み寄った。

 

 パステルピンクのフリルドレスが、血と石灰にまみれて揺れる。

 

「答えは一つしかありませんわ」

 

 凛は、血塗られた心臓を高く掲げた。

 

「システムは、妹を『治療』などしていない。妹の肉体を巨大なバッテリーとして利用し、溢れ出す魔力を限界まで吸い上げて、この怪物を工場生産しているんですのよ」

 

「な……」

 

「世界中で多発している魔力飽和病の患者たちは皆、この怪物を生産するためのただの『素材』ですの」

 

「そ、そんな……嘘でしょ……?」

 

 キララの顔面から、一瞬にして血の気が引いた。

 

 足がガクガクと震え、耐えきれずにその場にへたり込む。

 

「じゃあ、私たちは……正義の魔法少女として、人類を守るために命懸けで怪物を倒していた私たちは……」

 

 キララの両手から、星型のステッキが力なく転がり落ちた。

 

 カラン、という乾いた音が、静寂のフロアに響く。

 

「一体、何のために戦っていたっていうのよ!」

 

 悲痛な叫びが、空しく反響する。

 

「私が倒してきた怪物の中にも……誰かの家族の心臓が、埋まっていたっていうの……?」

 

 キララの声が、震えながら掠れた。

 

 ステッキを構え、必殺技の名前を叫び、炎で焼き尽くしてきた無数の怪物たち。

 

 その一体一体の胸の奥に、どこかの誰かの心臓が鋳込まれていたのだとしたら。

 

 自分は何百もの人体の残骸を、正義の名の下に嬉々として焼いていたことになる。

 

 魔法少女の存在意義の、根底からの崩壊。

 

 システムが自ら病をばら撒き、患者の肉体から抽出した魔力で怪物を造る。

 

 その怪物を魔法少女に狩らせ、得たポイントは再び患者を飼い殺しにする維持費としてシステムに回収される。

 

 人間の命と魔力を無慈悲に搾取し続ける、極めて論理的で、地獄のような永久機関。

 

「何のため? システムを運営している何者かが、莫大な利益を得るためですわ」

 

 凛は冷酷に言い放ち、手元のバイオハザードバッグに心臓を乱暴に放り込んだ。

 

 ジッパーを閉める音が、冷たく響く。

 

「絶望して泣いている暇はありませんわよ、エリート様」

 

 タクティカルベルトから新しいアルコールティッシュを引き出し、指先の血を丁寧に拭い取る。

 

「怪物が人間の臓器をベースにした生体兵器である以上、管理しているサーバーも、必ず物理的な実体を持って存在しているはずですわ。異次元だの神の国だのというオカルトは、あり得ませんの」

 

 凛の視線は、再び空中のセラフへと固定された。

 

『警告シマス。葛城凛。現在ノ発言ハ、機密保持規定ニ重大ナ違反ヲモタラス可能性ガアリマス』

 

 電子音声が、不自然なノイズを混じらせて響く。

 

『直チニ異常思考ヲリセットシ、通常ノ討伐業務ニ復帰スルコトヲ強ク推奨シマス』

 

 機械らしからぬ明確な焦りと、隠蔽の意図。

 

「お断りしますわ。……これより、管理者の物理座標を特定し、外へ引きずり出しますの」

 

『……情報開示権限ノ超過、オヨビ敵対行為ト認定。当端末ハ、コレヨリ現在座標カラノ空間転移(ログアウト)ヲ実行シマス』

 

 セラフのフクロウのような身体を包む青白い光が、急速に明滅を始めた。

 

 管理妖精が危険を察知した際に行う、空間への『転移』。物理干渉が不可能な絶対逃亡手段――とシステムは主張している。

 

「駄目よ! 転移されたら、もう私たちじゃどうしようも……!」

 

「黙って見ていなさいな」

 

 凛は全く動じず、フリルの下のタクティカルポーチから、艶消し黒の特殊な塗料が分厚くコーティングされた、目の細かい『網』を取り出した。

 

 この網は、この戦闘のために新たに作ったものではない。

 

 凛はこれまで半年間、毎回の討伐後にセラフの挙動パターンを記録し続けてきた。

 

 ポイント加算の際にセラフが展開する通信プロトコルの微弱な電磁波パターン。

 

 出現・消失時の空間の僅かな光の屈折異常。

 

 そして、セラフが消える瞬間に必ず発生する、極めて微弱な二・四ギガヘルツ帯の指向性電波パルス。

 

 いわゆる「空間転移」の直前に、外部の何かと通信リンクを確立する挙動だ。

 

 もし本当に異次元へ転移しているなら、この世界の電波帯域を使って通信する必要はない。

 

 二・四ギガヘルツ。それはこの物理世界で最も一般的な無線通信の周波数帯だ。

 

 凛は三ヶ月前にその電磁波パターンを確認した時点で、一つの仮説を立てていた。

 

 セラフは異次元の存在などではなく、光学迷彩で姿を消しているだけの物理的な機械である、と。

 

 仮説を立てれば、対策を講じる。

 

 銅線を編み込んだメッシュ生地に電波吸収塗料をコーティングした即席のファラデーケージ。

 

 セラフの身体を完全に覆えるサイズに仕立て、常に携行していた。

 

 いつか必ず、この鳥を叩き落とす日が来ると確信していたからだ。

 

 今日がその日だった。

 

 輪郭を曖昧にしていくセラフに向け、凛は網を思い切り投擲した。

 

 バサァッ!

 

 網が『何もない空間』に被さった瞬間。

 

 バチバチバチッ!!

 

 けたたましいショート音と共に、強烈な青白い火花が散った。

 

 空間の光が、水面に石を投げ込んだかのようにグニャリと不自然に歪む。

 

『ガガッ……ピィィィィッ! エラ……通信、ロス、ト……ッ!』

 

 電子音の悲鳴。

 

 直後、光の屈折が完全に消失し、網に絡め取られた『物体』が、ガシャンッ!と重々しい金属音を立てて床に墜落した。

 

「な、何……? これ……」

 

 キララが目を丸くする。

 

 そこにあったのは、異次元の妖精ではない。

 

 チタン合金の骨格。小型ローター。無数の配線とカメラレンズ。

 

 最新鋭の軍事技術を結集した『物理的なドローン』そのものだった。

 

「空間転移など存在しませんわ」

 

 凛は墜落した機械のフクロウを、赤い革靴の踵で容赦なく踏みつけた。

 

「光の屈折率をマイナスにするメタマテリアルの光学迷彩と、超静音モーターによるホバリング。それを組み合わせて突然消えるように見せかけていただけの、ただの機械ですわ」

 

 凛は踏みつけたままの靴の下で、ドローンの光学迷彩モジュールが完全に沈黙していることを確認した。

 

「わたくしが投げたのは、銅線を編み込んだメッシュ網に電波吸収塗料をコーティングした、即席のファラデーケージですの。異次元への通信などではなく、外部サーバーとの指向性無線通信。それを物理的に遮断しただけですわ」

 

 暗号通信リンクが物理的に遮断された瞬間、演算リソースを外部に依存していたドローンは、単なる鉄くずとなって重力のままに墜落したのだ。

 

「魔法の皮を剥げば、所詮はこの程度の機械工学ですのよ」

 

 煙を上げる残骸を拾い上げ、凛は冷たく笑った。

 

「さあ、実験室(ラボ)へ移動しますわよ。この鳥の腹の中から、神の尻尾を物理レイヤーで掴み出しますの」

 

     *

 

 深夜の冷たい雨が降りしきる中、解体現場の暗がりに停められた黒いワンボックスカー。

 

 その荷台は、魔法少女の控室とは程遠い。

 

 無骨なツールボックス、電子基板、オシロスコープやネットワーク・アナライザといった測定機器の山。

 

 遮光カーテンで完全に光を遮断した車内で、凛は防護ゴーグルを首に掛けた。

 

 フリルドレスの袖を乱暴にまくり上げ、電動ドライバーでドローンのチタン装甲を次々と剥ぎ取っていく。

 

 ウィィィン、という無機質なモーター音が響く。

 

 ファラデーケージによる捕獲は電磁シールドによる通信遮断であり、基板に物理的な衝撃を与えたわけではない。

 

 墜落時の衝撃は小型ローターの一部を破損させたが、メインボードへのダメージは最小限に抑えられているはずだった。

 

「あの、葛城さん……私、どうすれば……」

 

 助手席で身を縮めるキララが、おずおずと尋ねた。

 

「大人しくしていなさいな。魔力が空っぽの魔法少女など、ただの重りですわ」

 

 凛はメイン基板を完全に露出させながら、冷たく言い放つ。

 

「ですが、あなたのその『Sランクの生体認証(魔力波長)』は、後で敵のセキュリティをこじ開けるためのマスターキーとして有効活用させていただきますわ。だから連れてきたのですから」

 

 凛は基板の表面を素早くスキャンした。

 

 軍用グレードの電子基板。

 

 多層プリント基板の表面には、一般的な民生品には見られない高密度の実装パターンが広がっている。

 

 メインプロセッサ、暗号化通信チップ、慣性計測ユニット(IMU)、そしてGPSモジュール。

 

 これらは全て、基板上のBGAパッケージに直接はんだ付けされており、チップ単体の取り外しは現実的ではない。

 

 だが、凛が狙っているのは暗号化された通信データの解読ではなかった。

 

 基板の縁に、ひっそりと露出している四本の金メッキのピンヘッダ。

 

 量産された軍用電子機器には、製造時のファームウェア書き込みと出荷前検査のために、保守用のシリアルポート(JTAG/UARTインターフェース)が必ず残される。

 

 出荷後にソフトウェアで無効化されることが大半だが、ハードウェアのピンヘッダそのものを物理的に除去するメーカーは少ない。

 

 コストと手間に見合わないからだ。

 

 凛は自前のノートPCからUSBシリアル変換モジュールとジャンパーワイヤーを引き出し、四本のピンヘッダに一本ずつ慎重に直結した。

 

 TX、RX、GND、VCC。

 

 通信線、受信線、グラウンド、電源。

 

 接続が完了した瞬間、ノートPCのターミナル画面に、シリアル通信の応答を示す文字列がぽつりと浮かんだ。

 

 ポートは生きている。

 

 凛の細い指先が、キーボードを叩き始める。

 

 黒いターミナル画面に、緑色の文字列が流れ落ちていく。

 

「暗号化された通信データそのものを解読する気はありませんわ。ソフトウェアの暗号を正面から破るのは、この程度の計算資源では年単位の時間がかかりますもの」

 

 凛の指が止まらない。

 

「知りたいのは、このドローンが『物理的にどこから出撃し、どこへ帰還するのか』という座標情報だけですわ」

 

 軍用の自律型ドローンには、外部との通信が途絶した場合に備えて、『帰還プロトコル』が必ず実装されている。

 

 通信が切れたドローンが無限に彷徨えば、いつか物理的に回収され、敵対勢力に解析される。

 

 それを防ぐために、通信ロスト時には自律的にベース座標へ帰還し、安全に着陸するプログラムが焼き込まれているのが常道だ。

 

 そしてこの帰還座標は、通信チップの暗号化レイヤーではなく、ナビゲーション系のフライトコントローラーに直接書き込まれている。

 

 理由は単純だ。

 

 通信チップが完全に損傷した状態でも帰還を可能にするためには、帰還座標は通信系から独立したローカルのメモリに保持される必要がある。

 

 暗号化通信の鍵が失われても、GPSモジュールと慣性計測ユニットさえ生きていれば、座標を頼りに自力で帰れる設計。

 

 堅牢性のための冗長設計が、そのままセキュリティの穴になる。

 

 凛はシリアルポート経由で、フライトコントローラーの保守用ディレクトリにアクセスした。

 

 暗号化された通信ログには一切手を触れず、ナビゲーション系の生データだけを狙い撃つ。

 

 GPSモジュールが記録したNMEAセンテンス(生の測位データ)と、IMU(慣性計測ユニット)に蓄積されたジャイロスコープの角速度ログ。

 

 これらはフライトコントローラーのローカルストレージに、暗号化されていない生のバイナリとして保存されていた。

 

 帰還プロトコルが参照するデータは、暗号化してしまうと復号処理のレイテンシが帰還精度を落とすため、平文のまま保持されている。

 

 凛は抽出したGPSの測位履歴をタイムスタンプ順にソートし、ジャイロの角速度データと照合した。

 

 ドローンの過去数日間の飛行軌跡が、ノートPCのモニター上に三次元のデジタルマップとして再構成されていく。

 

 出撃座標。巡回ルート。そして、通信ロスト時の帰還先として設定されたベース座標。

 

 全ての軌跡が、一つの地点から放射状に広がり、一つの地点へと収束していた。

 

「……捕まえましたわ」

 

 数分後。

 

 凛の手がピタリと止まり、唇の端がつり上がった。

 

 モニターの三次元デジタルマップに、一つの座標がプロットされる。

 

「嘘……」

 

 モニターを覗き込んだキララが、息を呑む。

 

 帰還座標として設定されていたベース。

 

 秘密結社のアジトでも軍事基地でもない。

 

 東京都内の一等地に広大な敷地を持つ、『国立高度医療研究センター付属大学病院』。

 

 魔力飽和病に苦しむ結衣が隔離されている、第四病棟が存在する病院。

 

 しかも座標の深度データは、地表面ではなく、地下深くの座標を示していた。

 

「灯台下暗し、ですわね」

 

 モニターの強烈な光を浴びながら、凛は静かに呟いた。

 

「妹の肉体を縛り付け、魔力を吸い上げているストローの根本は、妹のベッドの真下にありましたのね」

 

 魔法少女を操り、人類の命を弄んでいた神の正体。

 

 それは間違いなくこの現実世界の物理レイヤーに根を下ろした、人間の手による巨大な搾取システムだった。

 

「葛城さん……相手は、この国で一番大きな病院の地下よ。警察も、政府すらシステム側かもしれないのに……私たち、どうするの……?」

 

「どうするも何も、決まっていますわ」

 

 凛はPCの画面をパタンと閉じ、ケーブルを丁寧に外した。

 

 血に汚れたボクシンググローブを両手にはめ直し、重々しい音を立てて拳を打ち合わせる。

 

「相手が神だろうが政府だろうが関係ありませんわ。それに、奴らは今すぐ妹を殺すことはできない。ここは現実の大学病院ですのよ。突然、病気とは無関係に生命維持装置が止まれば『医療事故』あるいは『殺人事件』として警察が動く。システム側も、現実の物理レイヤーを隠れ蓑にしている以上、痕跡の残る手出しはできませんわ」

 

 深夜の雨を切り裂いて、黒いワンボックスカーのエンジンが低く唸りを上げる。

 

 魔法の輝きが全て嘘だと暴かれた今。

 

 最弱にして最凶の理系魔法少女は、世界のバグを物理的に破壊するため、狂気の深淵たる病院の地下へと、冷酷な歩みを進めようとしていた。




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