魔王を頂点とした魔族は人間の集まりくらいしていた王国を何度も襲い、人間を混乱に陥れた
しかし人間もやられてばかりではない
強き人間達は勇者となり、自ら打って出て魔族を倒した
そして、ついに魔王をも倒し世界に平和がもたらされた
そう思われたが…
今度は自らの職を失った勇者達が暴徒化
盗賊同然となり各地にのさばった
一方、王都では”魔法”と呼ばれる技術が最近台頭しつつあり…
そんな世界のお話です
ゴルゴリ「…っ、うーん」
気絶してから、どれほどの時間が経っただろう。
ゴルゴリ(っと確か俺は人助けして、そしたら何故か樽が飛んできて、そうだそこで…ってなんだこれ!)
そう、目を覚ましてみれば、今ゴルゴリは縄でグルグルに巻かれ、そこらの柱に巻きつけられたまま地べたに横になっているではないか。
ゴルゴリ「ど、どうして俺がお縄にされる側に…」
???「あ、起きてたんですね」
と、はずむような声と共に先ほどの少女が現れた。
どこかに買い物に行ってきていたのであろうか、手には大量の飲食物が抱えられている(うらやま)。
ゴルゴリ「お、俺は一体どうゆう状況なんだ。」
戸惑うゴルゴリ。
しかし、次の瞬間ゴルゴリにとって信じがたい光景が広がった。
???「はい、どうぞ。」
そう、少女は手元に抱えたパンをひとかけらちぎっては…
ゴルゴリの口元に近づけ、食べさせた。
これはいわゆるあーんの要領だ。
口の中にパンを押し込む。
ゴルゴリ「モゴ、モモゴモゴモゴ(な、何で俺にパンを)」
ゴルゴリの声に気付き、少女は微笑んで答える。
???「だって、気絶してた時にお腹がぐーぐー鳴ってたんですもん。まずは、ちゃんと食べなくちゃですよ。」
ゴルゴリ(なんていい奴なんだ。)
が、しかしいいことばかりではない。
少女はパンをちぎっては口のなかに入れ、またちぎっては口のなかにグイグイと入れ、グイグイ、グイグイ…。
ゴルゴリ「モ、モガモゴモゴゴ(喉に、咽喉に詰まるー!)」
???「え、もっと欲しいんんですか。さあさあ、どんどん行きましょう」
このやり取りが止まったのは、ゴルゴリの顔が青ざめ始めた頃である…。
さて、本題である。
ゴルゴリは咳き込みがちに問いかける。
ゴルゴリ「ゲホ、なあなんで俺ってばこんな路地裏で縄で縛られて、パンの餌やりされてるんだ。ゲホ。何もかも矛盾しているもんだから、夢の中かと半信半疑だそ。」
少女は、手を振って慌てて否定する。
少女「夢の中なんかじゃないですよー。あの、わたしドルトって言います。」
ゴルゴリ「ドルトっていうのか、俺ゴルゴリ、よろしく。で、どうしてこうなった?いいかげん教えてくれや。」
改めて問いかけると、ドルトは
ドルト「えっと、なんというか助けていただいた手前申し訳ないんですが、あの人たち賊じゃあないです。私たちと同じギルド志望の人たちですよ。だから『盗賊扱いされたら困る!』と思って止めたんですけど、ゴルゴリさん全然聞いてくれなくて…。しょうがなく彼らの目につかないところまでゴルゴリさんを運ばなきゃって思ったんです。」
一応、納得する。
ゴルゴリ「なるほど…でもよドルト、アイツらさっきまでお前から金揺すろうとしてたんだぜ。わざわざ助けようとする必要なんてないだろ、普通。」
ドルトは真剣な顔で、でも…と置き
ドルト「でも、あの人たちにだって理由があったんです、きっと。だってゴルゴリさんも結局はお腹が減ってたんでしょう。あの人たちだってきっと同じ、事情があるんです。助けなきゃダメですよ。」
ゴルゴリ「ほ、ほー。」
思わず感心。世の中こんな聖人、もといお人好しがいたもんだ。
ゴルゴリ「それがお前の、信念ってもんなんだろうか。」
ドルト「はい、そうです!」
ゴルゴリ「よし、お前はすごくいいやつ。偉い!じゃあそろそろ俺の縄を解いてくれないか?」
途端、ドルトは気まずげになり、答える。
ドルト「そ、それは…ダメです」
ゴルゴリ「なぜに!」
ドルト「だって、縄解いたらまた暴れるかもしれないじゃないですか、怖いですもん!」
ゴルゴリ「じゃあ俺一生このままかよ!」
ドルト「その時はこう、距離をとりながら魔法でなんとかしますよ。私の魔法”サイケラス”は結構すごいんですから。念力の力でナイフを飛ばして縄だって切れます。」
ゴルゴリ「それじゃあ、縄のついでに俺の体もグサっといくじゃねえか。他の方法を要求する!」
ドルト「そ、そんな!」
と、その時
ドンッ!
酒場の方から大きな音が聞こえた。
ゴルゴリ・ドルト「?!」
二人とも思わず酒場の方に向く。
ドルト「行ってみましょう、もしかしてさっきの人たちがまた…。」
ゴルゴリを縛る縄を引きながらドルトが向かう。
ゴルゴリ「痛い、痛いです」
ゴルゴリの声は、多分届いていない。
ゴルゴリを縛る縄を引きながら、ドルトは酒場へ向かう。
ドルト「一体、どうなんでしょう?」
二人は窓からひょこりと顔を出し、のぞいてみる。
その瞬間、二人の顔が固まった。
そう、酒場の中にいる先程まではいなかった男が立っていたのだ。
屈強な体に大剣、鎧、どこからみても盗賊(つまりはかつての勇者)そのもの。
盗賊は大剣を見せつけ、脅しながら語った。
盗賊「俺はかつての勇者十傑、グラードである!金、酒寄越せや!今年の冬を越す分までな!蓄えがなくなったらこうやって奪う、それが今どきの勇者の生き方よお!」
凄まじい威圧感。
男達「おい、何勝手なこと言ってんだよ!」
耳をそば立てていると、酒屋の中から聞き覚えのある声が聞こえた。
そうだ、あの男達
さっきゴルゴリが気絶させた男達はまだ酒場の中にいたのだ。
グラードの態度が気に入らないのだろう、彼らはキッとグラードを睨みつける。
すると、その視線に気付き、グラートは彼らをギロリと睨み返した。
グラード「魔法が使えるからって調子に乗ってんじゃねえぞ、ひよっこ。いいか、俺の剣と鎧は王国一の素材、そして剣技はかつて10本の指にあった古豪である。魔法使いなど屁でもなし!」
男1「なっ、なんだと!」
男2「バカにすんじゃねえ!」
男3「やっちまえ!」
男達は戦闘態勢をとる。
彼らの内二人は拳に力を込め、炎を纏わせた。
男1「さらに!」
そして、最も長身の男1が両手を前に突き出す。
次の瞬間である、男達の前に燃え盛る盾が姿を現れた。
男1「これが俺たち三人の必勝戦術!攻防一体の炎熱魔法だ。」
男達は盾もろともに盗賊に向かって前進。
一方の勇者は高く剣を構え、力をこめる。
男1「この盾は弾丸ですら壊すことはできなかった。さあ、魔法の力に慄け!」
両者の距離が近づく。
そして剣と拳、互いが間合いに入った次の瞬間。
グラード「フン!」
グラードが大剣を振り下ろした。
炎熱の盾にヒビがはいる。
グラード「ヤアアアアアア!」
グラードは力任せだ。
盾のヒビに剣が食い込んでいる。
しかし、グラードはそのまま体重をかけ、そして…
男1「嘘、だろ」
盾は微塵に砕けた。
グラード「弱い!」
男は一層間合いを詰める。
すぐさま、男1の体を切り裂いた。
グラード「弱い!目算、想定外からの立て直し、全てが弱すぎる!」
男1が死んだ以上盾は貼り直せない。
男2、3「だっ、黙れ!」
残された男2と3は魔力の拳で男に殴りかかるが…
鎧はびくりともしない。
グラード「地獄で鍛えてきな!」
グラードは大剣を横に振り回す。
大剣の軌道は正確に男達を捉え
男2、3の首が飛んだ。
魔法使いの完敗。
グラード「ナハハハハ!これを焼き付けたか、焼き付けたようだな、お前ら?なら俺に従え、恐れ慄け!」
グラードは高らかに笑い、周りをぐるりと見回した。
もはや文句を言うものなど誰一人いない。
一方、それを見ていたゴルゴリたちである。
ゴルゴリは正直圧倒されていた。
戦いのシビアさに。
ゴルゴリ(下手な魔法では、勇者に傷一つすらつけられないのか…)
ゴルゴリ「なあ」
思わず、ドルトに話しかけようとしたその時である。
ドルト「…」
なんと、ドルトはゴルゴリの縄を解いたのだ。
ゴルゴリ「なっ…」
思いだにしていなかった出来事。
表情を伺えば、ドルトは凄まじい剣幕を放ちこちらを見ていた。
ドルト「お願いします、アイツを倒してきてください。」
ゴルゴリ「…は?」
ゴルゴリには意味がわからない。
さっきまでのお人好しはどこに行った。
いや、そもそもやろうと思えばさっきの魔法でアイツを倒すことだってできるじゃないか。
ドルトはさっきの男達よりも圧倒的に強い、だからこそ彼らを庇う余裕があった。
それはゴルゴリも察していたし、何より腕についたSクラスの紋章こそ強さの証。
それなのに、なぜ…?
ドルト「何で私が倒しに行かないのかって顔してますね。ええ、確かにあの男よりも強い自信ならありますよ、それくらい自慢の魔法です。それに、ゴルゴリさんが来ないというなら私一人でも行ってみせます。でも…私の魔法は同じく魔法使いしか対象にできない。だからあの賊には使えない。無理は承知です。でも…、この村の人たちが何もかも奪われていくのを見過ごすなんて、私にはできません。私が傷つくのは良くても、他の人が傷つけられるのは絶対に許せない。」
ただならぬ剣幕が覚悟を伝える。
無茶は承知、非合理は承知で訴えかけているのだ。
ゴルゴリはしばらく目を閉じ…そして
ゴルゴリ「やってみせる。」
ドルト「ほ、本当ですか!」
ゴルゴリ「言っておくが俺はお前ほどのお人好しじゃあないぜ。でもな、うちの一族は代々集りに集って生きて一族だで、だからこそ俺もこんな信念を持っている。それは…『飯と寝床をくれた奴には、絶対報いろ』だ。お前は俺に飯をくれた、だからその願い、応えてみせる!」
ゴルゴリはぐんぐんと酒場に向かう。
勢いよく扉を開く。
中に居るグラードは振り向いた。
グラード「誰だお前。」
ゴルゴリ「挑戦者のおかわりだ。この村の命運をかけて決闘を申し込ませてもらう。」
グラード「っ、ククク、ハハハハハハ。」
グラードは思わず笑う
グラード「つくづく、このあたりの人間は馬鹿ばっかりだ。いいぞ、いくらでもかかってこい。今すぐ、やろうぜ。」
グラードは地に刺した大剣を抜き、構える。
一方、ゴルゴリだ。
彼の第一手は、体を前のめりにさせて…
土下座。
ゴルゴリ「あ、その日時についてなんだけど…。できれば、いや絶対、明日の同じ時刻でお願いします!」
酒場全体に白けた空気が洪水のように流れた。
決闘の日時は明日!
ゴルゴリの運命やいかに!