俺、松雄栄一郎には、いわゆる前世の記憶というものがある。
前世での俺はどこにでもいるような普通の……平均的な人間だった。
小学校では、早めの中二病を発症して赤っ恥をかいた。
中学校では、「一人でいるのがカッコいい」とか、大人をおちょくったり、皆が何かをしている時に一人だけ近くの台座に腰を下ろして見下したりして、先生にガチ説教をされたり。色々と経験したものだ。
高校では、何の変哲もない学校に入学し、特定の友達を作ることもせず、スマホを見ながら購買で買った惣菜パンを食う。その繰り返しだったのを覚えている。
そのまま高校卒業と共に働きに出て、通勤に一時間がかかるぐらいの場所に就職し、そこから数十年働いて三十歳。
生涯で恋人というものとは無縁で、女の子という人種に触れ合うことは仕事上の付き合いを除いてなかった。
小中学生の頃の友達が結婚して子供を授かっていく中で、ご祝儀やお年玉を配ったりした。
どう亡くなったのかと聞かれれば、交通事故というのが適切だろう。
仕事帰りの夜間、崖から車輪を踏み外し、そのまま真っ逆さまに落ちていき、頭を……強打して即死だろう。
なんともつまらない人生だった。
そんな前世は置いておくとして、第二の人生ということで好き放題に生きることにしよう。
そんなことを思いながら、俺は松雄栄一郎としてここまで生涯を送ってきた。
母は俺を産んですぐに亡くなり、顔は写真でしか確認できないが、率直に言うと「大和撫子」という四字熟語が当てはまる。
なぜ四十を過ぎた父を選んだのか疑問になるほどだ。
さて、というわけで俺は父親と二人で助け合って生きていくわけなのだが、残念なことに父は仕事が忙しいらしく、ほぼ家にいない。
故に、必然的に個人行動が多くなり、保育園に通うことになった。
保育園での生活は……前世の知識の影響だろうか、多少大人びている俺を奇妙に思っている先生が自然と頼ってきて他の子の面倒を任せてくる。
仕事が忙しいのは分かるが4歳児に同年代と下の世話を任せるのは如何なものかと思う気もしなかったが、俺はほかの子供のお兄さんとしての役を振る舞うことにした。
そこからは、子供の世話もとい仕事をこなしていく中で、力、口問わずの喧嘩の仲介や話したりとか、機会が増えていく。
その中でも、一際、俺に懐いてくれたのは金色の髪をした日本人離れした少女………名前を七瀬翼だった。
どうやら、彼女はあっち側の人間であるらしい。
あっちというのは単純に〝天才〟のことである。
3歳である現在でも算数ではなく数学、運動もある程度は出来たり、器用貧乏それが彼女の印象である。
俺が彼女と出会ったのは、些細なこと。
彼女が数学の問題を解いているときに、間違いを指摘したのがきっかけだ。
彼女自身、今まで、自分を理解や肯定してくれる人間が居ない環境で産まれ、誰かに指摘されることは初めてのことだったのだろう。
彼女の家庭環境とその他諸々と聞いたりして、彼女との交流を重ね、保育園では自然と一緒に過ごすようになった。
問題集で一緒に勉強したり、俺から誘って他の子供たちも集めて皆で外で遊んだり、いろいろと楽しんだ。
まだまだ、保育園だというのに俺の人生はこうしてよい方向に向かって行ってるようにこのときは思えた。
保育園を卒業する時には、件の彼女の他子供たち、あまつさえ、従業員である先生達も号泣で俺を送ってくれた。
誰かに泣かれるなんてことは前世ではあり得なかったことだ。
七瀬とはまた会おうと約束をして別れた。
翌日、俺の隣に彼女が引っ越してきた。
正直に言おう。
怖ッッッ
いやなに、一年と半年程度で七瀬との距離はぐんっと縮んだ。というよりも、縮みすぎなくらいだ。
簡単に言うと、俺が座っているとその真横にいつの間にか座ってたり。
別の子と話していると露骨に近くに来ては会話相手を睨んで腕を絡めてくる。
まるで、自分の所有物だと言っているように…である。
いや、まぁ、悪い気はしない。
七瀬翼は美少女だ。前世を含め、上の上に位置するぐらいに整っている顔をしている。幼いながらも大きくなれば化けるだろうと簡単に思える程に。
ただ、限度というのもある。
アレは獲物を定めた肉食獣と言える目だ。
七瀬翼という少女は俺にとってあくまで妹のように見てしまう存在であり喰われるのはどうか避けたい。
ハァ。
幼稚園に入っても、俺の役割に遜色はない。
子供たちのまとめ役として活躍し、先生たちとも良好な関係を築いていった。
小学校は、なんら何かあるわけでもなく日々過ごしたのだが、二年生になってからが問題だった。
同じ学校に1個下の学年に七瀬翼が入学してきた。休み時間と見るや否や俺の居る教室に居座ってくる。
無論、これは予見していたもので七瀬と約束を取り付けることにした。
学校では互いに不干渉というもの。
七瀬はぶーぶー文句を言ってきたが、『じゃあ、家の鍵あげるから』と言うと途端に引き下がった。まあ、良しとしよう。
小学校は、七瀬翼に鍵を渡したという一点を除いて、そこそこ充実した学校生活が送れたと思う。
中学生に入っても、変わらずに、クラスの中心として動いた。クラスの委員長としてまとめ。体育祭に文化祭、林間合宿、修学旅行とまぁ、色々と友達と、時に笑い、時に泣き、時に熱狂した。
結構充実したものだった。
因みに、七瀬翼はすっかり美人さんになりボンキュッボンの超絶美少女となっている。
何処とは言わないが、そこに視線が行くと、むふふとはにかみながら煽ってくる彼女に不覚にもドキリとさせられたり。
そんな、充実した中学生活を送っていると、父が、俺と同い年くらいの男を連れて来て家に住まわせると言ってきた。
彼の名前は、綾小路清隆。
なんでも、父の勤め先の上司の息子さんらしい。
詳しいことは言わなかったが、俗世とは切離された生活をしてきたらしく、その影響か、綾小路はあまり笑わない。
こちらが何をしても無表情の鉄仮面。
俺は、意地でもこの男の笑った顔が見たいと思ってしまった。
そこで俺は考え。
彼に〝漫画〟と〝ゲーム〟を進めてみることにした。
この世界と前世の〝日本〟はあまり変わらない。ゲーム会社は変わらずに存在しており、漫画という娯楽も確かに存在している。
俗世から切離されたものにとってはこれほどの衝撃はないだろうと。
早速、様々なジャンルの漫画の一巻とゲームを一緒にやったり彼を沼に引きずり込む。
結果的に言えば、成功寄りの失敗だろうか。
漫画の影響か。
「生まれた時からオレの目の前には真っ白い邪魔な壁があった...」
「陰の実力者…………なるほど」
とか、………うん。
ゲームとかには、もう、ドハマりと言っても良い具合だ。
昨日なんて、動画でも見たのか、某有名キャラたちの格ゲーで即死コンボをやってきたりオンラインではVIP入りを果たしたり、建築ゲームではめっちゃ凄い建築してたりとまぁ、そんな感じ。
ネットとかも使って一般常識というのも手に入れたようで。
第一に、精一杯笑うというのは難しそうだが、感情が昂ぶったら頬を綻ばせるぐらいは出来始めている。
彼が心から笑う姿を見るのは、もはや、時間の問題というものだろう。
因みに、綾小路からはなぜか、
何処のちょんまげゴリラをリスペクトしたのだろうか。
七瀬と綾小路との初対面では、まぁ、悪そうではなく何故か意気投合してたように腕と腕交差させて頷き合ってた。
なんなのだろう。
ここまで、トップスピードで進んでいったが、これから話すのが話の本題というやつ。
そう。俺と清隆の高校生活編だ。