ガタガタと揺れる電車の中で、ぼんやりと俺の意識は覚醒した。
霞む視界で周囲を見渡そうとして——
「ッ!?」
身体が動かせないことに今更気づき、驚きの声を上げようとしたが口すら動かせない。
昨夜自宅のベッドで寝たことははっきり覚えている、まさか敵からの
「初めまして遠山キンジさん」
そう言葉が投げかけられる。
ずっと聞いていたくなるような透き通った綺麗な声音で。
それで初めて自分以外に誰か居ることに気付いた俺は、少し見えるようになった視界で向かい側の席に座る少女の存在に気付いて思わず息を呑んだ。
視界を動かせないので、顔を口元までしか見る事が出来ないその少女は白い学生服のようなものを着ている、だがその服は所々赤黒く染まっており、足元にも小さな赤黒い池のような物が出来ている。
それが血であることに瞬時に気付いた俺は、反射的に立ち上がろうとして、それが出来ないことを思い出して内心で舌打ちをしてしまう。
流れ出ている血液の量からまだ死んでしまうような量でないことが分かるが、それも時間の問題だろう。
どうすればいいのか必死に思考を回す俺を余所に、少女は再度話始める
「……私のミスでした。」
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
「この結果に辿り着いて初めて、私の選択がミスだと悟るなんてだなんて……」
ミス?招かれた状況?結果に辿り着く?
眼の前に居る少女の言っている事が、何も理解出来ない。
「無関係のあなたにこのようなお願いをするのは、可笑しな話であると理解しています」
「ですがお願いします」
「キンジさん」
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「忘れてしまってもあなたなら、きっと正しい選択を為さるでしょうから……。」
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択」
「不可能を可能にするあなたにかできない選択の数々」
俺なら正しい選択が出来る。
何故目の前の少女からこれほどまでに信頼されているのか分からない。
「武偵としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択」
「それが意味する心延えも」
何故俺が武偵をしていることを知っているのか。
目の前の少女は俺の事をどれ程理解しているのだろう。
「……。」
「ですからキンジさん」
聞きたいことはたくさんある。
「私が信じられる武偵である、あなたなら」
何故俺の事を知っているのか。
「この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。」
何故俺をそこまで信頼しているのか。
「そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです」
本当に聞きたいことがたくさんあるが——
「だから……どうか。」
ああ、わかった。
武偵の遠山キンジとして、俺がその依頼を引き受けた。
そして依頼を成功したら報酬を受け取りに行ってやるからな。
目の前の消えそうな少女を見ながら、俺はそう心中で誓う。
それが伝わったのか、目の前の少女の口角が少しだけ上がり、口より上は見えないが笑顔を浮かべているのが分かって。
あぁ良かった、やっと笑ってくれた。
そう思った俺の意識は、また深く暗い闇の中に落ちて行った。
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「…………さい」
…………。
「……ください」
……。
「起きてください!!遠山先生」
「は、はい!!」
女性の鋭い声に思わず俺は飛び起きてしまう。
寝起きで見えにくい眼で声がした方向に、急いで視線を向けると。
「……。」
「……えっと?」
長く綺麗な黒髪を持つ女性が目の前に立っていた。
女性の耳は少し尖っており、その姿は髪色や瞳の色こそ違うが、以前短い間だが一緒に暮らしていた金髪美女エルフのエンディミラを彷彿とさせる。体型も似ているしな。
というか俺を起こしたのは恐らく目の前の女性なのだから、黙られてしまうとこっちが困ってしまう。
そんな状況で俺がなんて話しかけたらいいのか迷っていると。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。 なかなか起きないほど熟睡されるとは。」
「………?」
俺が置かれている現状を全く理解出来ない。
目の前の女性は『少々待っていてくださいと
何が起こっているのかまだ把握できないが、とりあえず目の前の女性の話に合わせた方がいい事だけは分かる。
「……夢でも見られていたようですね。 ちゃんと目を覚まして、集中してください。」
「………夢?」
夢というワードを聞いて思い出した、
あの少女は起きたら忘れると言っていた気がするが、何故か俺は覚えている。
その理由は何となく分かる。十中八九俺が持っている
まあ覚えていて損はないので、あまり気にしないことにしよう。
「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。」
「……えっと、よろしく。」
どうやら現状を説明してくれるらしいので、俺は今まで考えていたことを、一旦思考の端に置いておく。
「私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。」
学園都市キヴォトス?聞いたことがない地名だ。連邦生徒会。こちらも聞いたことはないが、連邦が付くのだから恐らく凄いのは分かる。そこの幹部なのか、目の前の女性——リンは。しっかり敬語とか使った方がいいのかもしれない。
「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のはずですが……。」
リンはそう言うと俺の身体を足先から頭頂部まで見回した。
彼女が何を言いたいのか分かる。それは俺も思っていたことだからだ。
俺は先生ではない。かつて一時的に先生をしたことはあったが、あれは武偵としての依頼だったし、穴埋めでの特別非常勤講師だったからノーカンだろう(もちろん教員免許なんか持ってない)。
「悪いが俺はお前の言う先生ではないぞ、年齢的には学生(退学済み)だしな。」
「……そのようですね。 ですがあなたがあの方に呼ばれた方である事は、間違えありません。」
「あの方?」
誰だ?俺を先生として呼んだ人物らしいが、全く記憶にない。
列車で出会ったあの少女のことだろうか?
ということを考えて今更ながらに気付いた。あの少女が着ていた服にあった
つまりあの少女はリンと同じ学園の生徒なのだろう、ならあの少女がリンの言った“あの方”
なのだろうか?
駄目だ、今の情報だけでは確信を持てない、あっちの俺なら分かったかもしれないが、今の俺では無理だ。
リンに聞くことも出来たが、リンがあの方と呼ぶ際に一瞬だけ、悲し気な表情を浮かべていたのが見えたので、安易に聞くのは止めておいた方がいいだろう。
というかそもそもとして、俺はどうやってここまで来たのか。
それをリンに問うてみると。
「……申し訳ありません。 実は私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないのです。」
「……お前も知らないのか?」
「……はい。」
俺を呼んだ組織の幹部であるリンが知らないというのは、流石の俺も予想外で思わず聞き返してしまった。
つまり俺を『先生』として呼んだのは“あの方”という存在の独断専行なのだろう。
リンには申し訳ないが、少し“あの方”について情報が欲しい。
「すまないリン、少し“あの方”について聞いてもいいか?」
「はい、構いません。 “あの方”というのは、学園都市キヴォトスを運営する連邦生徒会の会長のことです。」
「ならその連邦生徒会長に会うことは出来るか?」
俺がそう言うとリンの表情は一瞬だけ少し悲しそうに歪んだ。
聞かなかったら良かったと少し後悔の念が湧いてくるが、いつかは聞かなければならないのだから早いか遅いかの違いでしかない、と自分を言い聞かせる。
「……連邦生徒会長は今、席におりません。」
「簡潔に申し上げると、行方不明になられました。」
「……。」
驚いて声が出ない。
様々な考えや憶測が頭に湧いて消えていく。
リンの存在も忘れて思考の渦に飲まれてしまう。
「混乱されてますよね。 分かります。」
「このような状況になってしまったこと、遺憾に思います。 でも今はとりあえず、私についてきてください。」
「どうしても遠山先生にやっていただかなくてはいけない事があります。」
そう言うとリンは部屋の出口に向かっていく。
リンに話し掛けられたことで思考の渦から抜け出せた俺もすぐさまその後を追った。
ていうか勝手に先生になってるんだけど。俺認めてないよ?
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“チンッ”という音と共にエレベーターの扉が開き、先に乗り込んだリンに続いて乗り込む。
このエレベーターに来るまで会話は一切なし。というかそもそもとして女性が苦手な俺が、こんなスタイル抜群の美女と二人きりで会話なんて出来るはずがない。
自身が転生者であることを自覚してからは、女性への苦手意識も多少マシにはなったが、それでもやはり未だに苦手意識は少し残っている。
眼が合っても気まずいだけなので、先程から目線を少し下にしている。自分のことながら情けない。
そんな状態の俺にリンが声を掛けてくる。
「キヴォトスへようこそ。 遠山先生。」
「ああ、ありがとッ!?」
リンの声に視線を上げるとそこには、見たことがない世界が広がっていた。
近未来的な建造物。
ここからでも透き通っていることが分かる程に綺麗な川。
一つだけ天に届くほど高い塔のような建物。
塔を中心に無数に重なり合っている光り輝く光輪。
視界に入る絶景に思わず魅入って固まってしまいそうになるが、冷静になるんだ俺。しかし、これだけは言わせてほしい。
(ここ何処だよ!?)
思わず内心で叫ばずにはいられなかった。
とは言いつつも何となくここが何処なのか分かった。というかさっきから何となくそんな気はしていたが気のせいだと誤魔化してきた。だがそれももう無理だ。
これだけ揃っていれば流石に認めない訳にはいかないだろう。
(ここ——異世界じゃん!?)
これは勘でしかないが、恐らくこの世界は
正直に言うと勘弁して欲しい。
つい最近レクテイアの問題が解決したばかりだというのに、また新しい異世界の問題も解決しないといけないとかほんとにきつい。
思わず項垂れそうになる俺を誰が責めることが出来るのか。
そんな俺にお構いなしにリンは話し続ける。
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。 そして、これから遠山先生が働くところでもあります。」
「ちょっと待ってくれ、数千の学園とか気になるワードが出てきたけど今は良い。 そんなことより俺が働く所って言ったか?」
「はい、その通りです」
「いや、その通りですじゃなくて……はあもう何でもいいや」
「分かっていただけたようで良かったです。」
俺の今までの経験則で分かる、これ以上リンに何を言っても意味はないのだ。リンの中では俺が先生としてキヴォトスで働くことは確定事項なのだから。
なら無駄な抵抗をしても疲れるだけだ。
「恐らく遠山先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……。」
「でも遠山先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。」
「なぜ?」
「それは……あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね。」
「そうか……信頼してるんだな。」
「……はい、とても。」
そういうリンの表情や声音からは一切の嘘が感じられない、それほどまでに連邦生徒会長の事を強く信頼しているということが、さっき出会ったばかりの俺でも理解できた。
だからという訳じゃないが、その信頼を壊さない程度には頑張ろうと思った。
羞恥心で少し赤くなっているリンは一度咳払いを入れて空気を切り替えた。
「……それでは、その他の説明は後でゆっくりするとして。」
リンそう言うと狙っていたのか、タイミングよく“チンッ”という音と共に扉が開き、エレベーターから出るリンに続いて俺も降りる。
そうしたら何やら言い合いをしている少女たちを見つける。
早速面倒ごとだろうな。そう考えながら少し億劫な気持ちになり、足が止まったが。先ほどのリンとの会話を思い出し、少しだけ頑張ろうという決意と共に歩みを進めた。
やっぱり執筆って難しいね!
誤字脱字あったら報告お願いします。
評価感想くれると嬉しいです!
ではまた次回お会いしましょう。