哿(エネイブル)の青春物語   作:ライズの鏡

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第2弾 プロローグ・中

 

 

 

エレベーターを降り、俺たちはこの建物のロビーを共に歩いている。

視界の端に映っている、何やら言い争いでもしている少女たちを努めて無視しながら。

 

関わったら確実に面倒ごとに巻き込まれることが分かる、ただでさえキヴォトスとかいう知らない世界にいきなり来て、既に面倒ごとを背負っているのに、これ以上は流石の俺でも耐えきれない

そのため、バレないように通過できることを願っていたのだが、どうやら運命の女神とやら俺の事が嫌いなようだ。

 

先程のエレベーターが到着した音が聞こえていたのか、その中の一人の少女がこちらに視線を向けてくる。すると探していた何かを見つけたような顔をして——

 

「やっと見つけた!!」

 

そんな少し怒気が孕んだ大声を上げて、こちらに向かってくる。

ズシッズシッ、という効果音でも聞こえてきそうな足取りで。

 

その際、他の生徒も今の声でこちらに気付き、その少女の後に続くようにこちらに続々と向かってくる。

 

探偵科(インケスタ)としての癖で、向かってくる生徒たちの情報を収集してしまう。

 

向かってくる人数は四人。全員が女子生徒。全員とても整った容姿をしている。それぞれ異なった制服を着用。それぞれの特徴が太もも、黒い翼、頭に白い羽、赤タイツだ。黒い翼の少女と白髪赤目の少女の校章が同じで、太ももの少女と赤タイツの少女の校章はそれぞれ異なっている。スリーサイズは上から——じゃない間違えた。少女たちの頭上にはリンと同じように天使の輪(ヘイロー)のようなものが浮かんでいる、しかしその形状や色などはそれぞれ異なっている。

 

いま視認しただけで収集できる情報はこれぐらいだろう。

それにしてもリンもだが、ここにきて出会った生徒は今のところ全て女子生徒だけだ。しかも、容姿がとても整っている。

爆弾(HSS)を持っている俺からすれば、是非とも近づきたくない。

 

だが、そんな俺の気持ちなど汲み取ってくれるはずもなく、少女たちはもう目の前だ。

 

「ちょっと待って! 代行! 待ってたわよ! 今すぐ連邦生徒会長を呼んできて!!」

「………うん? 隣の男性の方はだれ?」

 

リンに詰め寄っていた太もも少女は、俺の存在に気がつき、俺の素性をリンに問う。

俺のことについて聞かれていたので、軽く自己紹介でもしようかと思っていると。

 

「首席行政官。 お待ちしておりました。」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。 風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」

 

未だ俺の存在に気付いていない、黒い翼の少女と赤タイツの少女が引き続きリンに詰め寄る。

俺が口を出す場面ではないと判断し、リンの方へ視線を向けると。

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね。」

 

心底嫌そうな顔をしながら目の前の少女達に毒を吐く。耳のいい俺でもギリギリ聞こえるレベルの小声で。

 

ストレスでも溜まっているのだろう、今度愚痴でも聞いてやろう。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった。 生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。」

 

綺麗な笑顔でそう言ったリンの態度と言動は、目の前の少女達を一切歓迎していないのが明らかだった。

 

「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。」

 

暇そうという言葉を、半分以上も口にしたところで止めた。

リンさんや、お願いだから喧嘩を売るような口調はやめてくださいよ。面倒になる未来しか見えない。

 

「今、学園都市に起きてる混乱の責任を問うために……でしょう?」

 

学園都市で起きている混乱?

 

そういえば、リンが俺に何かやって欲しいことがあると言っていたが、それと関係しているのだろうか。

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ!」

 

今の太もも少女の発言的に、やはり連邦生徒会という組織は、キヴォトスの中枢、まとめ役のような存在なのだろう。

 

そのトップである連邦生徒会長が行方不明ということは、リンが実質的なトップ、もしくはそれに近しい地位に立っているのだろう。そんな彼女に襲い掛かるプレッシャーは一体どれほどのものなのか、俺には分からない。

そんな俺に出来るのは、彼女が背負っている物をこれから一緒に背負うことぐらいだ。

 

「数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

学園“自治区”。

一つの学園が国や都市のような扱いになっているのか、この都市では。

 

過去に俺も武偵を続けるために起業したことはあった。だけど、流石に国家レベルの運営は、当然したことが無いし、どんなものか想像すらつかない。

それを俺と同じ年齢の奴らがしているのは、尊敬を通り越して恐怖すら感じるよ。

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱獄したという情報もありました。」

 

赤タイツの少女の言ったことが真実なら、結構深刻な問題だろう。

どんな人間が脱獄したのかは分からないが、少なくともそのような場所に収監される存在なのだから、過去に悪事などを犯した人物なのだろう。

そんな危険な存在の脱獄。

 

この事実が市民の耳に入れば、それは連邦矯正局の沽券に関わることになり、市民からの信用喪失や人口低下、さらなる治安悪化にも繋がる。

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。

治安の維持が難しくなっています。」

 

側頭部の片側だけに白い翼を生やした少女がそう言った。

あの羽どうやって生えてるんだ?

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。

これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」

 

黒い翼の少女がそう言った。

武器の不法流通の2000%以上の増加。世紀末か? この世界は。

俺の居た世界も治安がそれなりに終わっていたが、この世界はそれとは比べられないレベルで終わっているらしい。

 

それにしても何がとは言わないが、でかいな、本当に高校生か疑ってしまう。

視線に入ってヒスるのも嫌なので、なるべく顔だけを見ておこう。

 

「……。」

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ合わせて!」

 

彼女らは連邦生徒会長が行方不明になっていることを知らないのか?

いや、それもそうか。連邦生徒会というキヴォトスの中央組織のトップが、突然行方不明になったことを世間に公表できるわけがない。しかもその理由や原因は未だ不明。

 

「……。」

 

そりゃあリンが沈黙してしまうのも頷ける。

知られれば、それは各自治区の信頼性が下がることになってしまう。

 

だが、ここまで来れられてしまっては、流石に言わない訳にもいかないだろう。

仮にここで誤魔化せても、また後程バレれば、それは信頼が下がる程度では済まなくなる。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。 正直に言いますと、行方不明になりました。」

 

リンがそう告白すると、四人の少女達はそれぞれの反応を見せる。

 

驚く者。少し驚いているがある程度予想していた者。表情が変わらず内面が見えない者。

三者三様ならぬ四者四様だな。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った上代です。」

 

サンクトゥムタワー? またよく分からない単語が出てきたな。

その後の文章から連邦生徒会にとって、とても大事なものなのは分かるが。

 

最終管理者というのは連邦生徒会長のことだろう。その管理者が行方不明になったことで、サンクトゥムタワーが使用できる人間が居なくなった。

それが現状で一番に解決しなければならないことなのだろう。

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした。」

 

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

「はい。」

 

黒い翼の少女の問いに、リンは頷いた。

 

「……まさか。」

 

思わず声を出してしまう。

 

その方法というのに心当たりがあったからだ。

リンが先ほど見つけた方法というのは——

 

「遠山先生は気づかれましたか。」

 

俺の声が聞こえていたリンはこちらに綺麗な笑顔を向けながら、俺の考えを肯定した。

 

そのあとリンは少女たちに向き直り、こちらに手を向けながら言う。

 

「こちらの遠山先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」

 

リンがそう言うと、少女たちは——

 

「!?」

 

「!」

 

「この方が?」

 

とこちらに視線を向けて様々な反応を見せてくれる。

 

その反応に少し体をビクッとさせてしまった。許してくれ、女性が苦手であり、根暗な俺が突然女性たちの視線を集中されるとこうなってしまうのも仕方ないだろう? 逃げ出さないだけでも褒めてほしいぐらいだ。

 

「ちょっと待って。 そういえばこの男性はいったいどなた? 代行は先生と呼んでいたけどどう見ても——」

 

「大人の方には見えません。 首席行政官、何かの手違いなのではないですか?」

 

太もも少女のセリフを取って、黒い翼の少女がそう言った。

他の少女たちも口には出していないが、同じように思っているようだ。

 

当たり前だ、今の俺を見て大人に見えるか?と百人に聞いたら百人が見えないというだろう。

俺の容姿が大人より少し幼いというのもあるが、それ以上に——

 

俺はいま、武偵高の制服を着ているからだ。

 

大人というには少し幼い外見、服装は高校の制服らしきもの、どこからどう見ても大人ではない。

 

そんな子供である俺が先生である訳が無い。

という黒い翼の少女の考えには、俺も全力で同意したい。

俺は先生が似合う様な柄じゃない。

 

「皆さんの疑問は最もです。 ですがこちらの遠山先生が連邦生徒会長によって特別に指名され、このキヴォトスで先生として働く方であることは間違いありません。」

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……。」

 

太もも少女の言う通りだろう。

 

というかさっきから太もも少女やら、黒い翼の少女とか、呼び方が面倒だな。彼女たちにも失礼だろうし。

さっさと名前くらい聞いた方がいいだろう。

 

そう思った俺は口を開く。

 

「すまないが名前が分からないのは不便だし、ここらで軽く自己紹介でもしないか? とりあえず俺の名前は遠山キンジだ。 呼び方は好きにしてもらっていい。」

 

俺がそう言うと、話し掛けられると思っていなかったのか、少し驚いた様子だったが、彼女たちも軽く自己紹介してくれる。

 

太もも少女は、早瀬ユウカ。ミレニアムサイエンススクールに在籍。

赤タイツの少女は、火宮チナツ。ゲヘナ学園に在籍。

黒い翼の少女は、羽川ハスミ。トリニティ総合学園に在籍。

頭に白い羽を持つ少女は、守月スズミ。ハスミと同じくトリニティ総合学園に在籍。

 

最後にスズミが自己紹介すると、黙っていたリンが「話の続きです」と口を開いた。

 

「……遠山先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」

 

ある部活の担当顧問? 初耳なのだが?

俺がそう思っていると。

 

 

「連邦捜査部『S.C.H.A.L.E(シャーレ)』。」

 

 

シャーレ?

 

「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。

連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒を、制限なく加入させることが可能で

 

各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です。」

 

逃げたい。

なぜこんな機関と権限を俺に与えたんですか?連邦生徒会長さん。

将来的にシャーレの権限目的で俺の身を狙う奴らが出てくることが目に見えている。

勘弁してください。

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……。」

 

リンも知らないのか。

 

「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。

今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。」

「遠山先生を、そこにお連れしなくてはなりません。」

 

ここからシャーレという部室まで約30kmか、流石に遠いな。

 

というか連邦生徒会長の命令で持ち込んだ『とある物』ってなんだろうな?

俺を連れて行かなきゃいけない、ということは俺が使用しなければならない物なのだろうか。

 

俺がそう考えていると、リンは無線で何処かに連絡していた。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……。」

 

「シャーレの部室?……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?」

 

ホログラムらしきもので現れた桃色髪の少女——モモカは、ポテトチップスの袋片手にそう言った。

 

キヴォトスの技術力は、俺が居た世界よりも高いとは思っていたが、これほどとは思わなかった。

だが、驚きは少なかった。超能力やら、神やら、異世界やらを経験している俺からすれば、今更こんなことではそこまで驚かない。

悲しい話だがもう慣れっこだ、悲しい話だがな(大事なので二回言った)。

 

「大騒ぎ……?」

 

おっと空気が変わったぞ? 悪い方向に。

 

「矯正局を脱獄した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。 そこは今戦場になってるよ。」

 

「……うん?」

 

ポテチをパリッパリッと食べながら話すモモカ。その話の内容に更に周囲の空気を重くするリン。

 

ふむ、ブチ切れまでの秒読みが始まったようだな。

 

「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周囲を焼け野原にしてるみたいなの。

巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ。」

 

いや、焼け野原とか、不良が巡航戦車を手に入れるとか、キヴォトスの治安はホントに終わってるな。

世紀末より世紀末してるよ、キヴォトス君。

 

「そこで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしているらしいの。 まるでそこに何かあるみたいな動きだけど。」

 

多分だが連邦生徒会の中に不良(もしくはその関係者)と繋がってるやつでも居るんだろうな。

そんな組織の下部組織を監督したくない。

 

「……。」

 

リンは怒りの感情が強すぎて、身体が小さく震え始めている。

リンの背後には噴火寸前の火山の幻影が見えた。

 

次のモモカの発言はそんな火山に、よりにもよって油を足してしまう。

 

「まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!」(ブツッ)

 

火山に油を撒けるだけ撒いてモモカは通信を切った。

 

……。

 

モモカをいつかお仕置きするのは確定として。

 

恐る恐るリンの方向をチラ見する。

 

「……。」

 

「(プルプル)……。」

 

……はあ、流石にこれ以上は黙っていられないか。

 

そう思い俺は重たい口を開いた。

 

「……リン。」

 

名前を呼んだ俺の声に、怒りで我を忘れかけているリンは反応しない。

仕方ないのでもう一度呼ぶ。

 

「……おい、リン。」

 

「っ!」

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい大丈夫です。 お恥ずかしい所を見せました。 申し訳ありません。」

 

二度目の呼び掛けでようやく正気を取り戻したリンは、そう言って頭を下げた。

その顔は恥かしさで、少し赤くなっていた。

 

一度深く呼吸したリンは、気を取り直して話し出す。

 

「……少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」

 

そう言ってリンは沈黙して顔を少し下げて思考する。

一秒も経たずに、何かを考え付いたリンは顔を上げた。

 

その表情は笑っている、だがその笑みは純粋な笑顔ではなく、どこか悪事を働く悪人が浮かべるような笑顔をしていた。

そしてその目線の先に居たのは。

 

「……?」

 

「……な、何? どうして私たちを見つめているの?」

 

ユウカたち四人だった。

 

ユウカたちはその視線を受け、戸惑っている。

そりゃそうなる。俺もそっち側だったらそうなっていた。

 

そのような反応を受けても、リンは黒い笑みを辞めないまま

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな人たちがいるので、私は心強いです。」

 

そう言った。先ほどは言うのを途中でやめた、暇そうという言葉を今度は最後まで言い切って。

リンの発言は決定事項のようで、有無言わせぬ強さを持っていた。

 

そんなことを言われたユウカたちの反応はもちろん。

 

「「「「……え?」」」」

 

更に困惑して、固まってしまう。

当然だ、拒否権もなく、いきなり面倒ごとを押し付けられたのだから。

 

そんな宇宙猫状態のユウカ達を更に置き去りにリンは話を進める。

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。 行きましょう。」

 

そう言ってリンは足早に歩きだした。俺もそれに続く。

 

そうすると

 

「ち、ちょっと待って!? どこに行くのよ!?」

 

そう言ってドタバタとユウカ達も付いてくる。

 

こうして俺たちはシャーレの建物まで向かい始めた。

 

このあと俺が地獄を知ることになることを、今の俺はまだ知らない。

 

 

 

 




まあまあ長くなりました、すみません。
次回からは戦闘シーンが、たぶんきっと恐らく出てくると思うので、前も言いましたがドラ〇もんの温かい目のような優しさで見守っててください。

感想、評価いただけると僕のモチベが少し上がるのでお願いします!

誤字脱字あったら報告くれるとありがたいです。

ではまた次回、バイなら~
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