哿(エネイブル)の青春物語   作:ライズの鏡

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長かったので1、2で分けました。


第3弾 プロローグ・下1

 

 

 

雲一つない青空。

それだけを見ればピクニックにでも行きたくなる程に、綺麗で透き通った世界だ。

 

そこだけを見れば……だ。

 

「……………。」

 

建物は瓦礫の山と化し。

地面には小規模のクレーターや亀裂が至る所に出来ている。

周辺には破壊行動を笑いながら行っている不良の生徒たち。

周囲には無数の銃弾が飛び交い。

今も遠くのほうで耳をつんざくような爆発音が聞こえてくる。

手や足、顔などの素肌に銃弾が当たっているのに全く効いている様子はない不良生徒たち。

 

まさしく地獄絵図。

そんな光景を見せられた俺は、思わず絶句し、何も言えなくなってしまう。

 

そんな状況でも不幸中の幸いなのか、どうやら住民たちの避難は終わっているようで、今まで怪我人らしき人は一人も見なかった。

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

そう文句を言いながらもユウカは、周囲の不良たちへ銃を撃ち返している。

ユウカの周囲にはゲームなどで出てくるような青色のバリアが形成されており、それで銃弾を弾いている。

 

ホントにこの世界の科学力はどうなっているのか、俺の世界にあった先端化学兵器(ノイエ・エンジュ)でもそんなこと出来ないぞ。たぶん。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……。」

 

文句を言うユウカを説得するチナツは、少し後方で銃を撃ちながら他三人をサポートするような動きだ。

さっき見えたチナツが肩に下げている大きなバックの中身は包帯や注射などの医療に関する道具が入っていた。

 

「それは聞いたけど……! 私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど! なんで私が……!」

「いっ、痛っ!! 痛いってば!! あいつら違法JHP弾を使っているじゃない!?」

 

青いバリアによる防御が貫通され、銃弾を喰らっているユウカを見て思うところがある。

 

この世界の住人——というか生徒たちは身体が相当頑丈に出来ているらしい。

その頑丈さは、俺の世界に居た鬼族と同等——もしくはそれ以上だろう。

 

そして、その頑丈さは、この世界の生徒達にとっては標準装備のようなものなのだ。

 

そんな頑丈さを持っているからだろうか。

銃とは他者の命を容易く奪う危険なものというのが、俺の世界での当然の認識となっている。だから、銃を扱う職業を生業としている俺は、それを扱う際にはいつも細心の注意を払っている。

しかし、この世界にとって銃とは然程脅威なものではなく、ただの喧嘩道具のような認識なのだろう。だから、平気に他者に発砲することが出来る。

 

そんな考えの違いが、俺にとっては少しだけ気持ち悪いと思ってしまった。

別の世界から来た俺がどうこう出来る問題でないことは、もちろん分かっているので絶対に口に出すことはない。

 

「今は遠山先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。」

 

「……。」

 

「遠山先生を守ることが最優先。 あの建物の奪還はその次です。」

 

「ハスミさんの言う通りです。 遠山先生はキヴォトスではないところ来た方ですので……。」

 

ユウカたちは、俺を守ることを最優先に動くらしい。

確かに通常状態の俺では、防弾制服を着ているとはいえ、この戦場では万が一の可能性がある。

 

それなら前へ出て戦うのは、出来るだけ避けるべきだろう。

なら俺に出来ることは……。

 

「私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。 その点ご注意を!」

 

「分かってるわ。 先生、遠山先生は戦場に出ないでください! 私たちが戦っている間は、この安全な場所に居てくだ「ありがとうユウカ、でもそれは出来ない。」

 

ユウカの声を遮り、俺はこの戦場に付いてから初めて口を開く。

 

確かに俺がこの戦場で前に出ることは出来ない。だが、それなら別の方法でユウカ達を助けることが出来る。

 

「俺が指揮をする。」

 

俺がそう言うと、当然彼女たちは驚いた。

 

「え、ええっ? 戦術指揮をされるんですか? まあ……先生ですし……。」

 

「分かりました。 これより遠山先生の指示に従います。」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。 よろしくお願いします。」

 

「分かりました、遠山先生。」

 

困惑していた彼女たちは、俺が先生(不本意)ということを思い出し、すぐさま納得してくれた。

先生への信頼が凄すぎる。

 

まあ、時間が無く、説得が苦手な俺にとってはありがたい。

 

「よし、じゃあ行ってみましょうか!」

 

ユウカの声に対して、“ああ”と頷きながら俺は戦場内の情報を得るため集中する。

 

不良生徒が正面に三人。三時の方向にある瓦礫の山の陰に二人。十時の方向にある十二階あるビルの屋上に狙撃手が一人。

 

「ユウカは正面の三人の相手をしてくれ、チナツはそのサポート。」

 

「分かりました!」「はい!」

 

「スズミは三時の方向にある瓦礫の山の陰にスタングレネードを投擲した後に突撃。不良が二人いる。」

 

「了解です!」

 

「ハスミは十時の方向にある十二階の屋上の狙撃手を狙ってくれ、相手はまだこちらに気付いていないから簡単に狙えるはずだ。」

 

「分かりました、遠山先生。」

 

ユウカたちは俺が出した指示の通りに動いてくれた。そのおかげで、一分も掛からずに不良たちを容易く倒すことが出来た。

 

武偵高で戦闘指揮の授業を真面目に受けていてよかった。

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします。」

 

「……やっぱりそうよね?」

 

「遠山先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです。」

 

彼女たちは口々に俺の指揮を褒めてくれる。

まあ、彼女たちがそう言ってくれるなら、普段滅多にしない指揮をしたかいがあったかもしれない。

 

「なるほど……これが遠山先生の力……まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当然か……。」

 

そうぼそっと囁くように小さく呟いたユウカの独り言が耳に入った。

たぶん連邦生徒会長が期待しているのは、こんな戦術指揮ではないと思うが。まあ、俺のあれ(HSS)は、俺もなるべく使いたくないし、誰かに言いたくもない。

だから、ユウカが誤解してくれているのなら、少し罪悪感が湧くがそのまま誤解してもらおう。

 

「それでは次の戦闘もよろしくお願いします、遠山先生。」

 

ハスミがこちらを見ながらそう言った。

その目はどこかキラキラしており、先ほどまで無かった尊敬の念が見えた。

 

まあ、期待されるのは悪い気がしないので、彼女たちの期待に裏切らない様に頑張ろう。

 

 

 

 

 

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俺が指揮を始めてから十数分が経った。

俺たちは漸くシャーレと思わしき建物が見えるところまで来ることが出来た。

 

ここに来るまでに不良生徒たちの襲撃は何度もあった。その都度、俺が指示を出し、彼女たちがその通りに動いてくれたので、特に苦戦すること無かった。

 

「シャーレの部室は目の前よ!」

 

「ユウカ、チナツ、ハスミ、スズミ、あともう少しだ。 行くぞ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

ユウカの声に頷き、彼女たちに激励の声を掛けた俺も今一度集中力を高めた。

 

「今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。」

 

そんな声と共にホログラムとして現れたのは、リンだ。

 

「その生徒の名は、狐坂ワカモ。 百鬼夜行連合学園で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。」

 

リンのホログラムの横に一人の少女の写真が投影される。

おそらくこの少女が狐坂ワカモだろう。

 

「チナツが言っていた件のやつか……。」

 

「その通りです、遠山先生。 彼女は似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください。」

 

それだけ言うとリンのホログラムは消えた。

 

狐坂ワカモか……できれば出会いたくないな。

俺がそう願っていると。

 

やはり運命の女神と言うヤツは俺の事が嫌いなようで。

 

「……あらら。 連邦生徒会は来ていないみたいですね。 フフッ、まあ構いません。」

 

そう言って現れたのは狐のお面を付けた和服の少女。

 

俺の勘違いでなければ、さきほどリンが言っていた狐坂ワカモという少女と似ている——というか全く同じなんだが、気のせいだろうか?いや、きっと気のせいだろう。

この世には容姿がそっくりな人間が三人はいるって言うし。

 

俺がそう現実逃避を開始すると——

 

「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね……。

ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです。」

 

そう言ってシャーレの建物に向かってしまう。

幸いこちらにはまだ気づいていないようだ、それなら今のうちに逃げたいところだが。

 

ワカモが言っている“連邦生徒会の大事な物”とは、俺たちがここまで来た目的の“それ”と同じものだろう。

なら逃げるわけにはいかないし、ワカモを逃がすわけにもいかない。

 

「……行くぞ。」

 

俺のその声に、ユウカたちが頷いてくれる。

俺たちはシャーレの方向に向かったワカモの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

ワカモを追いかけて数分。

途中に遭遇した不良たちを倒しながら先に進む。

 

だが、流石に不良たちとドンパチし過ぎたのだろう。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。 お可愛らしいこと。」

 

ワカモが俺たちの前に現れた。しかも、今度はこちらを完全に認識している状態で。

 

「流石にあれだけうるさいと気づかれるか。」

 

もう少し隠密行動の方が良かったか?いや、この人数で動いていたらどのみち見つかっていただろうし、意味無いか。

 

まあ、反省は終わった後にするとして——

 

俺は周囲を見渡す。

 

周辺の敵対生徒は前方にワカモに、後方に不良生徒五人だけか……。

 

「……これならいける。」

 

今なら意識外からの流れ弾で怪我をすることはないだろう。まあ今の俺は武偵高の防弾制服を着ているので、ヘッドショットでさえなければ多少被弾しても問題ないだろう。

そう考えた俺は懐からベレッタを取り出す。

 

そんな俺の様子を見ていたユウカ達は、俺が拳銃を取り出したことが予想外だったのか。

 

「遠山先生……!? 銃をお持ちだったんですか!?」

 

「ああ、こう見えてもそれなりに扱える。 だからワカモ以外の不良生徒五人は俺に任せて——」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

俺の言葉をユウカが遮る。

その様子は困惑と怒りが混ざっているようだ。

 

「まさか遠山先生は前に出て戦うつもりなんですか!?」

 

「そのつもりだが?」

 

「危険です!」

 

「ヘイローを持たない遠山先生にもしものことがあれば……!」

 

「遠山先生の身体は弾丸が一発でも当たれば……!」

 

ユウカ以外の三人も俺を止めてくる。

まあ当然だろう。俺の事を知らない彼女たちからしたら、今の俺は自殺志願者にしか見えないのだろう。

 

止められても仕方ないんだが、流石にここまで言われると、男として黙っている訳にはいかないぞ。

 

「ユウカたちの懸念は分かる。 だけど、頼む俺を信じてくれ。」

 

彼女らの目を見ながら頼み込む。

 

そんな俺を見てユウカたちは更に困惑してしまう。

 

「どうしてそこまで……?」

 

「そうだな。 少しでも勝つ確率を上げるため。 ……そしてなにより、ユウカたち(女の子)の後ろで戦わない()が、これ以上は許せないからだ。 簡単に言えば男の意地だ。」

 

じゃあなんで今まで戦わずに後ろで戦闘指揮していたのかって?

 

流石に流れ弾なんかで死ぬわけにはいかないし、それに、ユウカたちの強さなら不良生徒たち程度なら問題ないと思ったからだ。

 

だが、ワカモは別だ。見ただけで分かる、今までの道中で戦ってきた不良生徒たちとは、比べものにならない強さだ。

流石のユウカたちでもワカモの相手をしながら、不良生徒を五人も相手をするのは少し厳しいだろう。

 

俺がワカモの相手をすることも考えたが、今の俺(・・・)ではワカモ相手は少し厳しいだろう。

それなら、ユウカたちにワカモの相手をしてもらい、その間に俺が不良生徒たちを倒した方がいい。

 

そんな俺の考えと同じことを、彼女たちも感じているのだろう。

 

「……分かりました。 遠山先生、不良たちの相手はよろしくお願いします。」

 

「ちょっと!! 本気で言っているの!?」

 

俺の考えを渋々という様子でハスミは認めてくれる。チナツとスズミも同じく認めてはくれている。

だが、ユウカはまだ納得できていないのか、反対の声を上げる。

 

優しい子だ。さっき知り合ったばかりの俺が危険な目に合うことが見逃せないのだろう。

だが、時間もないのでユウカには悪いが、ここは強引に押し切らせてもらおう。

 

「ユウカ、わるいが時間切れだ。」

 

「えっ?」

 

そう言って俺は、困惑しているユウカをこちら側に力強く引っ張る。

突然の事で反応すら出来なかったユウカは、俺の力に一切抗うことは出来ない。

 

ヒュッン!

 

そんな風を切り裂く音と共に、先程までユウカが立っていた場所を、眼では追えない何かが超高速で通過した。

 

バァン!

 

そんな甲高い銃声が、ほんの少しだけ遅れて聞こえた。

 

銃声だけで分かった。

今の銃声は、先程チラッと確認したワカモが持っている銃剣だろう。

形状から判断するに、九九式短小銃に三十年式銃剣を取り付けた物だろう。

 

まあ今はそんなことより。

腕の中にいる、未だ状況を飲み込めていないユウカを見ながら、俺は少し甘い声で話しかける。男が可愛い女の子をナンパする感じで。

 

「今のじゃ足りないか?」

 

「……なっ、え?」

 

俺に助けられ、俺の腕の中に居るという現状を理解し始めたユウカは、その可愛らしい顔をわずかに赤く染める。

その可愛らしさに思わず微笑みを浮かべながら、更に甘くした声に変える。

 

ああ、この考え方や話し方で分かった。

 

「俺がユウカを守れるっていう証明にだよ。」

 

「……っ!!」

 

なってしまっている、ヒステリアモードに。

だが、完全(ノルマーレ)にではない、この感じは不完全(メザヒス)だな。

 

その原因も分かっている。

ユウカの程よい大きさのとても柔らかいそれ(・・)が、俺の腕に当たってしまっているからだ。

 

だが今から戦闘を始める俺からしたら好都合だ。

 

「……わ、分かりました。 遠山先生に任せます。」

 

「ありがとう、ユウカ。」

 

俺が戦闘することを認めてくれたユウカに感謝を伝えると、ユウカは未だに赤い顔を逸らしてしまう。

その様子を可愛いと思いながら、俺は腕の中のユウカを立たせると、こちらを呆然と少し赤くなった顔で見ているハスミたちに向き直る。

いつまでも見ていたくなるほどの可愛さだが、恐らく敵が待ってくれないので、惜しい気持ち抑え込んで彼女たちに話し掛ける。

 

「じゃあハスミ、戦闘の指揮は一時的に君に任せるよ。」

 

「わ、分かりました。 遠山先生、お気をつけて。」

 

「ああ。 そっちは任せた。」

 

早めに終わらせないとな。

俺はハスミたちに背を向けて、不良生徒たちに向かって走りだす。

 




執筆って難しいよね~、原作作家様たちや、他の二次創作作家様たちには尊敬しかないよ。

緋弾のアリアの用語を知らない方への簡単な説明。

『ヒステリアモード』
遠山キンジが持つ特殊体質。
正式名称は、ヒステリア・サヴァン・シンドローム。
その効果は、性的興奮をすることによって、神経系の能力を常人の30倍に強化する。
それにより、思考力、判断力、視覚、聴覚、反射神経、運動神経などが超人並みになることが出来る。
ただし、その代償として女性に対してキザな言動や対応をしてしまう。
様々な派生種がある。通常版はノルマーレと呼んでいる。

『メザヒス』
ヒステリアモードの派生種の一つ。
軽度の刺激のため、ノルマーレに比べかかりが甘い。
ノルマーレの0.6倍(18倍)の能力。

『先端科学兵器(ノイエ・エンジュ)』
キンジの世界に存在する、その名の通り先端の科学で作成された兵器の名称。
『単分子振動刀(ソニック)』や『磁気推進繊盾(P・ファイバー)』なんかが登場している。



誤字脱字があったら報告くれると助かります。

評価、感想、お気に入り貰えると嬉しいです。

次回はようやくキンジくんの戦闘シーンです!ここまで長かったような気がします。

ではまた次回でお会いしましょう。
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