銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編   作:トリスメギストス3世

10 / 19
010:クィディッチ狂騒曲

 ハロウィンが過ぎ、十一月がやってきた。

 

 窓ガラスは朝から真っ白に曇り、廊下を渡る風はナイフのような鋭さを帯び始めた。

 暖かい談話室から一歩でも外へ出ればそこにあるのはすでに冬の気配。その日の午後は曇天で日差しもなく、湖のほとりを散歩するには絶好の日だった。

 

 カティアはハーマイオニーと一緒だった。

 野生トロールの一件以来、彼女はかなり柔らかくなってずいぶんと話しやすい相手になっていた。

 

「じゃあ、カティアはロシアの出身なのね」

 

 リンドウ色の魔法の炎を杖で宙に浮かせながら、ハーマイオニー・グレンジャーは確認した。

 

 ハリーはクィディッチの練習に、ロンは溜まりに溜まったレポートの山に追われていて不在だ。

 ホグワーツに入って以来、カティアを孤独から守ってくれた友人たちが傍にいないのは少し寂しい。

 

 それでも、やはり同性の友人と過ごす時間はなんとも素晴らしいものだった。男の子相手では決して得られない安心感がそこにはあるのだ。

 

「そうね。私のお母様の故郷でもあるわ」

 

 カティアは、吸血鬼と半吸血鬼の違いや自身の生い立ちについて、ハーマイオニーにひと通り説明し終えていた。

 ハーマイオニーは男子二人と違い、吸血鬼という種族の生態を本でしっかり把握していたため、話は相当スムーズに進んだ。

 

「“ナターシャ”と“エカテリーナ”だものね。“アシュリー”ってファミリーネームは? イングランドの名前よね?」

 

「お母様が大昔にイングランドへ来たときに名乗った偽名だと聞いているわ。まあナターシャ・アシュリーがどうしてこの島国を訪れたのかは、正直私もよく知らないのだけれど……」

 

 カティアは少し遠い目をした。

 実母との記憶は幼い頃の中にしかない。ナターシャがもう少し長く生きてくれていたなら――

 

「あなたも、ロシアに定住していたわけではないんでしょう?」とハーマイオニーが続ける。

 

「ええ。幼い頃はお母様に連れられて世界を渡り歩く逃亡生活だったもの。闇祓いやら吸血鬼ハンターに追われていろんな国を転々としていたのよ?」

 

 ハーマイオニーは困ったような顔をした。

 

「えっと……その時のことについて聞いていいの?」

 

 “逃亡生活”という言葉から、貧困や飢えといった過酷な幼少期を想像したのかもしれない。

 

「問題ないわ。お好きな質問をどうぞ」カティアはあっけらかんと答える。

 

「えーっと、“吸血鬼ハンター”なんて本当にいるの?」

 

「ええ、結構たくさんいたわよ。“恋人を吸血鬼に殺された”とか、“神に背く存在だから”とか、“吸血鬼殺しの一族だから”とか。まあ理由はいろいろね」

 

「カティアはそういうのと戦ってたの?」

 

「まあ時々ね。でも、基本的にお母様が何とかしてたの」

 

 こんな調子で、ナターシャとの旅は基本的に安全だったのだ。

 

 ちなみに当時のアシュリー母娘の経済状況はナターシャの得意とする“紙幣の造幣”魔法によってすこぶる良く、世界各地の豪邸を渡り歩く豪華絢爛な暮らしだった。

 母親が膨大な犠牲者を出しながらの生活だったため大きな声では言えないが、カティア自身は楽しかったとしか言いようがない。

 

 世間でどう言われようとも、ナターシャ・アシュリーはカティアのたった一人の肉親だ。

 話せばユーモアがあり、絵を描くのが好きで、目が覚めるような美貌で、そしてカティアが生きていけるようにと勉強も魔法も礼節もきっちりと教えてくれたナターシャを、カティアは今でも心の底から敬愛していた。

 

 カティアは道端に落ちていた平たい石を拾い上げる。

 サイドスローで思いきり湖へ投げ込むと、石は水面を何度も跳ねながら、霧の向こうに消えていった。

 

「でも今はロシアが少し懐かしいわね。あの場所には色んな思い出があるもの」

 

「あー……でも、今あの場所に行くのは、いくらカティアでもちょっと危険じゃないかしら」

 

 カティアは苦笑した。

 ホグワーツにいると実感が湧きにくいが、世界情勢は文字通りの大荒れだ。カティアの故郷など凄まじいことになっている。

 

「ところで、ハーマイオニーはイギリス生まれのイギリス育ちなの?」

 

 カティアは話題を変えた。マグル生まれのハーマイオニーの生い立ちに話を振る。

 

「そうよ。私の両親は歯医者をしているの。ハムステッドに住んでいるわ」

 

「ハムステッド? えっ、あらやだ。ご近所さんじゃない」

 

 カティアは片手を口に当てて驚く。きょとんとするハーマイオニーに、カティアは続けた。

 

「私が今住んでいるのはハイゲイトよ?」

 

「えっ?」今度はハーマイオニーは口をぽかんと開けた。

 

 ロンドン北部に位置するハムステッドとハイゲイトは、距離にして約二・二マイルほどしか離れていない、お隣同士の街だ。

 自転車で簡単に行き来できるような距離で、これまでハムステッド・ヒースですれ違っていない方が不思議なくらいである。

 

 ハーマイオニーは呆然とカティアを見つめた。

 

「ハイゲイト? 待って、そのナターシャとの逃亡生活から、どういう経緯でロンドンに……?」

 

「そっか、ハーマイオニーには話していなかったわね。私がロンドンに住んでいる理由なんだけど――」

 

 つい数日前のハロウィンから友人になったハーマイオニーには、まだ話していなかったのだ。

 

 三年前、結局は『人喰い』ナターシャは討伐されてしまった。

 絶対的な庇護者を失った当時八歳のカティアは突如天涯孤独の身となり、更には魔法省の駆除部隊がカティアを殺そうと躍起だった。

 その時のカティアは慌てて「身寄りのない資産家の老夫婦」を魔法で欺き、養女として潜り込む道を選んだ。それが、カティアとホワイトホール家の出会いなのだ。

 

 それから三年間、今でもホワイトホール家に住んでいることをハーマイオニーに大まかに説明すると、彼女は慎重に切り出した。

 

「それは……えっと……。倫理的にどうなのかしら?」

 

「まあ、ね?」

 

 カティアは苦笑した。耳が痛い。

 

「ホワイトホールご夫妻はその事を知ってるの?」ハーマイオニーが至極真っ当な質問をする。

「今はおじい様もおばあ様も私の事情は知っているわ。ホグワーツに入る時に謝罪したもの。でも、私が白状する前から私が魔女だって言うことは分かっていたみたいね」

 

「……なら問題は無いのかしら。カティアが実家に送る手紙の長さから見て、親子仲は良好なんだろうとは思っていたけれど」

 

 ハーマイオニーは相当ホッとしたようだった。

 

「……じゃあカティア、あなたハイ・ストリートの『ウォーターストーンズ』に行くの?」

 

 ハーマイオニーが身を乗り出してきた。

 カティアは笑って頷く。ウォーターストーンズは近所の大きな書店の名前だ。

 

「二階の窓際の席がお気に入りよ。ジョセフおじい様に車で送って貰うの。ハーマイオニーは?」

 

「私もあそこには良く行ったわ。近くのフィラス・ザ・ファーマシーによく行くの。歯科用品を買いに」

 

 ファーマシーは薬局の名前だ。

 少し話してみると、生活圏が完全に重なっているうえ共通の知人も大量にいた。

 互いに北ロンドンのアッパーミドル層で年も同じ女子同士。地元話に花が咲く。

 

「―――じゃあクリスマス休暇は絶対に一緒に遊びましょう?」軽く一時間は話した後、カティアは提案した。

 

「ええ、もちろん! カティアのこと、パパとママに紹介してもいい?」

 

 カティアは二つ返事で了承した。さらにはホワイトホール家にも一度招くという方向で話を進める。

 愛娘をホグワーツに通わせたホワイトホール夫妻も、”同じロンドン北部に住む歯医者の娘”という、彼らの常識で理解できる相手が友人になったと知れば安心するはずだ。

 

 冬休みに会う約束で盛り上がっていると、気が付けばクィディッチ競技場近くまで歩いていた。

 

「そう言えば、ハリーの試合もそろそろね」

 

 競技場の外まで聞こえてくるオリバー・ウッドの怒鳴り声(『ケイティ、もっと高く!!ブラッジャーを見ろ!!!』)を聞いたハーマイオニーが言った。

 

「次の土曜日ね。グリフィンドール対スリザリン」カティアは答えた。

 

 ハリーの初試合でもある。

 実際、グリフィンドール最年少シーカーである彼にかかる重圧は相当な物だった。

 

 ………一応、建前としてはハリーはチームの秘密兵器で、関係者以外は誰も知らないことになっていた。

 しかし練習に顔を出して鬼ごっこをしたカティア自身が証明している通り、ハリーがシーカーだという「極秘」はとっくに漏れていた。

 

 特にマクゴナガルが『一年生は箒の所持が不可』という規則を無理やり曲げてニンバス2000をハリーに買い与えた事件は、グリフィンドール以外の生徒(と寮監)から非難の的となっていた。

 もっとも、六連勝中のスリザリンを叩きのめす事へのマクゴナガルの執念は、もはや誰にも止められないのも確かだった。

 

 どちらにしても、マクゴナガルが正しかったのかは次の土曜日でハッキリする。

 

「ねえカティア、正直、ハリーってクィディッチは上手いの?」

 

 ハーマイオニーが心配そうに聞いた。

 

 マグル生まれのハーマイオニーはクィディッチにはそれほど興味は無さそうだったが、友人のハリーが主役ともなると話は別だ。

 週三で厳しい練習をこなすハリーの努力がなんとか報われてほしいという点で、ハーマイオニーとカティアの意見は一致していた。

 

「箒の腕はまったく心配しなくていいと思う。私から見ても素晴らしいわよ」

 

 カティアは太鼓判を押した。

 一度、ウッドの指示でハリー相手に本気でシーカー対決(スニッチを先に捕まえた方が勝ちというシンプルなルールだった)をしたことがあるのだが、カティアはハリー相手に一度も勝てなかったのだ。

 

 しかもカティアの“翼”は、ニンバス相手に瞬発力もトップスピードも明らかに上回っているのだ。

 スニッチを捕らえるうえで有利なはずの条件を持ちながらのカティアの敗北は、ハリーが道具に頼るだけの選手でないことを、雄弁に示していた。

 

「なんか気が付いたら負けてるの………私のしたい動きをさせてもらえなくて、気が付けば追い抜かれてて」

 

「つまり上手いのね? なら良かったわ」

 

 ハーマイオニーはテキパキと確認してカティアの話を切り上げた。

 少し悲しくなるカティアを無視してハーマイオニーは空を見上げた。

 

「城に帰りましょう? そろそろ晴れそうよ」

 

――――――――

 

 クィディッチの初戦が、いよいよ迫ってきた。

 生徒たちのあまりの熱狂具合に、寮対抗戦が寮の誇りと威信を賭けた一大行事であることをカティアは嫌というほど思い知らされた。

 

「たかがスポーツじゃない。大騒ぎしすぎよ」ハーマイオニーは意見した。

 

 周囲の話題はクィディッチ一色だった。

 作戦めいた話が飛び交い、中には「今回の試合は何点差で勝つか」などという、気の早い賭け話まで始まる始末だ。

 

「もっと大切なことがあるでしょ!」ハーマイオニーが憤慨する。

 

「例えばなんだよ。勉強か?」ロンが混ぜっ返した。

 

 魔法族の家系のロンは、ハーマイオニーがとんでもない失言でもしたかのように非難がましい目で睨みつけた。

 

 カティアはニヤニヤ笑った。

 ハーマイオニーと同じくクィディッチ自体には縁がなかったカティアだが、試合への熱量としてはロン寄りの立場だ。グリフィンドールの練習に何度か顔を出しているうちに、すっかり情が移ってしまった。

 そもそも『人喰い』の娘であるカティアとまともに話してくれる人間がグリフィンドールにしかいないこともあり、寮への愛は人一倍強いのだ。

 

 カティアが無言でロンに同調したことを察したハーマイオニーの眉が吊り上がった。

 

「申し上げておきますが、ここはホグワーツ“魔法魔術学校”であるわけで――」

 

「喧嘩は試合が終わった後にしてくれ……」

 

 ハリーが呻くように言った。

 

 初試合を控えた彼の憔悴ぶりは、隣で見ていて気の毒になるほどだった。

 ここ数日で明らかに口数が減り、食欲もみるみる落ちていった。グリフィンドール生は廊下でハリーと顔を合わせるたびに肩を叩き、「絶対勝てるぞ」「お前ならやれる」と口々に励ました。しかし残念ながら、声援が積み重なれば積み重なるほどハリーはかえって疲弊していった。

 カティアに言わせれば、ハリーは根本的に有名人向きの人間ではないのだ。

 

 一方、スリザリンの嫌がらせは、日に日に激しさを増していた。

 

 五つも年上のスリザリン生が、すれ違いざまに「競技場の床をマットレス張りにしなくていいのかい?」「マクゴナガル先生のお気に入りめ」などとハリーに毒づくぐらいならまだましな方で、足を引っかけようとしたり、わざと肩をぶつけてきたりするのも日常茶飯事だった。

 

 そして試合前日の金曜日は、最悪なことにスネイプの魔法薬学があった。

 よりにもよってスリザリンとの合同授業だ。グリフィンドール生は全員ピリピリしていた。

 

「んー……」

 

 『花咲薬』の材料であるクサカゲロウを煮込みながら、カティアは曖昧な声を漏らした。

 軽く視線をやると、ハーマイオニーが傍に寄ってくる。カティアは彼女に囁いた。

 

「スネイプ、脚を怪我しているのね」

 

「ええ、気づいているわ。引きずっているもの。何があったのかしら」

 

 カティアはもう一度スネイプの様子を見た。いかにも痛そうに片脚を引きずる姿を見ているととても愉快な気分になる。

 

 それはそれとして、一つ気づいたことがあった。

 

「呪いの傷跡っぽいのよ。血の匂いで何となく分かるのだけれど」

 

「えーっと、どういうこと?」

 

「強力な闇の魔術でつけられた傷跡って独特の気配がするでしょう? ほら、ハリーの額の傷とかが分かりやすいかしら」

 

 ハーマイオニーはじっと大鍋を見つめて考え出した。数秒経ち、囁き声でこう続ける。

 

「……誰かに呪われたのかしら。呪われた何かを身につけたとか? 魔法薬の調合で事故を起こしたとか。あるいは……」

 

「闇の魔法生物に噛まれたとか?」

 

 例えばの話、カティアの噛み傷も治りは悪い。

 強力な魔法生物の噛み傷や引っ掻き傷には特殊な力が乗るのだ。

 

「アシュリー、グレンジャー。私語か?」

 

 スネイプがねっとりした声で言った。

 怯むハーマイオニーの隣で、カティアはうんざりした顔をする。

 

「グリフィンドール、二点減点だ」

 

 ハーマイオニーは涙目になっていたが、カティア自身はスネイプの減点を税金のようなものだと割り切っていた。だからといって落ち込まないという訳でもないが。

 

―――――――――

 

 カティアの真紅の瞳には、『目を合わせた者を眠らせる』魔法が掛かっている。

 

 相手を放心させる程度から即座に眠りへ落とすところまで自由自在。

 細かな調整が可能な”眠りの魔法”は日常生活についてとにかく扱いやすく、『嫌な頼み事を躱す』などといった用途に使うことができる。

 何かと応用の幅も広く、カティアがマグルに紛れて生活していた時代には何かと重宝したものだ。

 

 しかし、この魔法には「魔法使いに対する効き目が薄い」という性質があった。

 もちろん、まったく効かないわけではない。並の成人魔法使いであれば三秒も目を合わせれば徹夜三日目のような眠気に追い込める。極端な仮定だが、至近距離で十秒も見つめ続ければダンブルドアも夢の中だろう。

 

 だが、魔法使いはマグルと違い“魔法にかけられている”ことを自覚可能だ。

 発動を察知した瞬間に目を逸らしたり瞼を閉ざすことで簡単に対処できてしまうこともまあまあ問題だが、そもそも魔法をかけられたと自覚される時点で”眠りの魔法”の魅力の九割は消えている。

 

 この魔法の何が便利かというと、相手がいきなり眠気に襲われても『昨日は夜更かしをしたかな』と勝手に解釈してくれる事なのだ。

 

 魔法使いが魔法の眠気を生理現象と受け取ってくれない以上はマグル相手のように『勧誘を断る』といった用途には使えない。

 例えるならば会話中にいきなり睡眠薬を注射するようなもので、今後の関係のために普通に断った方が百倍マシなのは言うまでもないだろう。

 

 だからこそ、ホグワーツに入ってからカティアの”眠りの魔法”は中々出番が無かったのだが、なんと久々にその力を使う機会があった。

 

 クィディッチ試合当日の朝、大広間はいつもより賑やかだった。

 グリフィンドールのテーブルでは赤と金のスカーフを首に巻いた生徒たちが興奮気味に話し、天井の曇り空からは冷たい光が差し込んでいた

 

 カティアはといえば熱いお茶のカップを両手で包んだまま、まだ半分夢の中にいた。

 女子寮から大広間まで付き添ったハーマイオニーがカティアの背中をさすっていると、大歓声と共にハリーが大広間に入室してきた。

 

「ありがとう、カティア」

 

 隣の席に腰を下ろしたハリーが、やや緊張気味ながらも晴れやかな顔で言った。

 かなり調子が良さそうだった。神経質に周囲を見回しながらも、緑色の瞳には静かな戦意が宿っている。

 

「んにゃ………おはよ、ハリー………」

 

 カティアはお茶のカップから目を上げて、ぼんやりとした視線を向けながらこくりと頷いた。

 

「君が眠らせてくれたおかげでちゃんと休めたよ。おかしな夢も見なかった」

 

「良かった。でも、たまにしかしてあげないからね」

 

 カティアはかすれた声でそれだけ答えた。

 ハリーが元気よくトーストに手を伸ばす気配を横目に感じながら、温かいお茶を啜った。

 

 十一時には、学校中がクィディッチ競技場の観客席に詰めかけていた。

 起きてから時間が経って目も覚めてきたカティアだが、天気はあいにくの快晴だ。日傘をさしながら他のグリフィンドール生と共に競技場への道を進む。

 

「夜にやりなさいよ……」

 

 カティアがブツブツ言うと、ロンが肩を竦めた。

 

「スニッチが取られなければ夜もぶっ続けでやるよ」

 

「そういう事じゃないのよ、ロン。せめて屋内でやってよ」

 

 不満たらたらのカティアだが、とにかく観客席にちょこんと腰を落とした。

 この調子だと、しっかり応援できるのは二時間が限度だろう。それ以降は体調不良で試合どころではなくなるのが目に見えている。

 

 カティアは気怠げにパチンと指を鳴らして、金の糸でライオンが刺繍された真っ赤な大旗を"出現"させた。そのまま近くにいたシェーマス・フィネガンに押しつける。

 

「よろしくね」

 

「お、おう!」

 

 シェーマスは律儀に旗を振り回し始めた。

 遥か遠くで、ハリーがニンバス2000にまたがった。

 フーチ審判の銀の笛が高らかに鳴り、十五本の箒が空へ舞い上がった。試合開始だ。

 

「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました――何てすばらしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります」

 

「ジョーダン!」

 

 双子のウィーズリーの友人、リー・ジョーダンがマクゴナガル先生の監視を受けながら実況放送をしていた。

 カティアはリーが握るマイクを見つめて、ハーマイオニーにそっと囁く。

 

「あのマイク、マグルの物なのかな?」

 

「"拡声呪文"だと思うわ。本で見たもの。どちらにしてもマグルの製品はホグワーツでは使えないのよ。『ホグワーツの歴史』にそう書いてあったわ」

 

「へえ、そうなのね。ありがとうハーマイオニー」

 

 素直に納得したカティアは、改めて試合の様子に集中した。

 

「――そしてクアッフルは再びジョンソンの手に。前方には誰もいません。さあ飛び出しました、ブラッジャーをかわします――ゴールは目の前だ――がんばれ、いまだ、アンジェリーナ――キーパーのブレッチリーが飛びつく――が、ミスした――グリフィンドール先取点!

 

 カティアは足をバタバタさせて歓声をあげた。二つ隣のロンが激しくガッツポーズしすぎて、肘を背もたれに強打した。

 グリフィンドールの大歓声が冬空いっぱいに広がり、スリザリン側からヤジとため息があがる中、カティアたちの背後に巨大な影がぬっと現れた。

 

「ちょいと詰めてくれや」

 

「ハグリッド!」

 

 カティアとハーマイオニーは席を詰めて、ハグリッドが座れるよう広く場所を空けた。ロンは肘を押さえて悶絶していた。

 

「俺も小屋から見ておったんだが……」

 

 首からぶら下げた双眼鏡をポンポン叩きながらハグリッドが言った。

 

「まあ観客席で見るのとはまた違うでな。それでスニッチはまだ現れんか、え?」

 

「まだだよ。いまのところハリーはあんまりすることがないよ」ロンが答えた。

 

「トラブルに巻き込まれんようにしておるんだろうが。それだけでもええ」

 

 ハグリッドは双眼鏡を上に向けて、豆粒のような点をじっと見つめた。リー・ジョーダンの実況放送は続く。

 

「さて今度はスリザリンの攻撃です。チェイサーのピュシーはブラッジャーを二つかわし、双子のウィーズリーをかわし、チェイサーのベルをかわして、ものすごい勢いでゴ……ちょっと待ってください――あれはスニッチか?」

 

 瞬間、カティアも見つけた。

 金色の胡桃大のボールが宙を舞っている。ハリーも見つけたようだった。

 両チームのシーカーがスニッチを追って急降下を始めた。追いつ追われつの大接戦にカティアは思わず悲鳴をあげた。

 

 しかし、スリザリンチームのマーカス・フリントがわざとハリーの進路を塞ぎ、ハリーはコースを外れた。

 ほとんど墜落しかかったが、ハリーは何とか持ちこたえた。

 

反則だ!

 

 ロンが怒り狂って叫んだ。カティアはガチンと犬歯を噛み鳴らす。

 大ブーイングの中、フーチはフリントに厳重注意を与えた。グリフィンドールはゴール・ポストへのフリーシュートを得たがスニッチは姿を消してしまった。

 カティアとロンがハーマイオニーを挟んで大騒ぎしていると、双眼鏡で空を見上げていたハグリッドがふと言った。

 

「いったいハリーは何をしとるんだ」

 

 慌ててカティアは試合に視線を戻した。双眼鏡でハリーを見ていたハグリッドがブツブツ言う。

 

「あれがハリーじゃなけりゃ、箒のコントロールを失ったんじゃないかと思うわな……しかしハリーにかぎってそんなこたぁ……」

 

 明らかに何か異常な事が起こっていた。ハリーの箒の動きがおかしい。

 しまいには箒がぐるぐる回りはじめた、観客の大半が問題に気が付き始めた。ハリーはまだ辛うじてしがみついていた。

 

「………呪い? ニンバス相手に?」カティアは呟いた。

 

 空飛ぶ箒は強力な呪い除けで保護されている。

 ましてや相手はニンバス二〇〇〇。強力な闇の生物であるカティアでも、呪おうと思って呪えるような相手では無い。

 

「そうだ。強力な闇の魔術以外箒に悪さはできん。チビどもではニンバス2000に手出しはできん」

 

 カティアは念のために、観客席で大きな翼を全開にした。

 ハリーが落下した時に回収ができるように警戒しながら舌打ちする。クィディッチチームとの空中鬼ごっこの経験が活きたのか、カティアは空を飛ぶのが相当上手くなっていた。

 

 背後のネビルが呻き声をあげた。

 一方で、ハーマイオニーはハグリッドの双眼鏡をひったくった。ハリーの方ではなく観客席の方を見回した。

 

「スネイプよ」

 

「はあ?」ロンが双眼鏡をもぎ取った。

 

 カティアも裸眼でちらりと反対側の観客席を見る。

 確かにスネイプは、ハリーから目を離さず絶え間なく何かをブツブツと呟いていた。

 

「何かしてる――箒に呪いをかけてる」

 

 ハーマイオニーが言ったが、カティアはかなり懐疑的だった。

 セブルス・スネイプがどれほど闇の魔術に通じているのかは知らないが、よりにもよってダンブルドアが校長を務めている学校でハリー・ポッターに手を出すなど自殺に等しい。

 いくらなんでもそこまで馬鹿ではないはずだ。

 

「お、お、お、お前………アシュリー………!!」

 

痛っ!!

 

 この時、カティアが全く予想していなかった事が起きた。

 背後から背中の真ん中をガツンと殴られたのだ。小柄なカティアは危うくキツイ角度のついた観客席を転がり落ちそうになった。

 

 カティアが慌てて振り返ると、そこにいたのはネビル・ロングボトムだった。拳を振り上げて震えている。

 

「えっと?」

 

 カティアは混乱した。

 ロンもハーマイオニーもハリーとスネイプに夢中で気がついていない。周りの誰もカティアたちを見ていなかった

 

 ネビル・ロングボトムは、恐怖のあまりひっくり返った声でこう言った。

 

「は、は、ハリーに」

 

「待ってネビル。落ち着いて」カティアは一応言ってみた。

 

ハリーに手を出すな、吸血鬼!!!

 

 カティアは思い切り舌打ちした。

 派手な勘違いをされている。が、確かに羽を伸ばしてハリーをじっと見つめる姿は怪しいのも否定できない。『人喰い』の実娘ともなればなおのことだ。

 

 とはいえ流石に邪魔だ。

 カティアが少しの間ネビルと目を合わせると、彼の目がトロンとした。カティアは軽く彼の胸を押してネビルを彼のベンチの上に戻した。

 崩れ落ちたネビルは安らかな寝息を立て始めた。魔法使いにしては"眠りの魔法"への耐性が無さすぎる。

 

 背中の中央の鈍痛が急速に治癒していくのを感じつつ、カティアは改めてハリーに意識を集中した。幸いなことに彼はまだ箒にしがみついていた。

 

 そして信じ難い事に、周りの生徒の大半はクィディッチに夢中でネビルとカティアのやり取りに気がついてすらいなかった。

 もっとも、大暴れする箒から振り落とされそうなハリーが極端に衆目を集める存在なのも間違いない。マーカス・フリントがクアッフルを奪って、誰にも気づかれずに五回も得点しているほどなのだ。

 

 気がつけばハーマイオニーの姿がなかった。

 

「ハーマイオニーは?」カティアはロンに聞いた。

 

「もう行っちゃったよ。スネイプを止めに」

 

「う、私が行くべきだったかな……」

 

 スネイプが本当にハリーに呪いをかけているかはさておき、この手の荒事はカティアが担当するべきだったのに、ネビルに構っている隙に後手に回ってしまった。

 

 しかし、ハーマイオニーは上手くやった。

 ハリーの箒の制御が戻ったのだ。飛行が安定したのを見てカティアは羽を元のローブの形に戻した。

 

「ハーマイオニーがやったんだ!」ロンが喜んだ。

 

「……ならスネイプだったのかな?」カティアも認めるしか無かった。

 

 何にしても、読みが外れたことになる。

 不意にハリーが急降下した。観衆は混乱していて歓声をあげることさえ許されなかった。

 ハリーが手で口をパチンと押さえ、吐くような仕草を見せた。ハリーがスニッチを持っていた。

 

―――――――――

 

 大混乱の中ではあったが、結果的にクィディッチの試合には勝った。

 

 カティアはグリフィンドールのお祝いを楽しみにしていたため三人を談話室へ連れていこうとしたが、ハリーたちは何がなんでもハグリッドの小屋へ行きたがった。

 

「だってスネイプがハリーを殺そうとしていたのよ!」

 

 お祝いに行こうよと懇願するカティアに、ハーマイオニーが信じられないという顔で叫んだ。

 

「クィディッチのお祝いなんか後でいいでしょ!」

 

 スネイプが怪しいという話こそ"後でいい"と思った。

 しかしカティアは、せっかく芽生えたハーマイオニーとの友情に傷をつけたくなかった。どのみちハリーもロンもハグリッドの小屋へ行きたがっているため多勢に無勢だ。

 

 カティアは三人の後を渋々ついていったが、意外な収穫があった。

 

「スキャバーズ!」小屋に入るなり、ロンが叫んだ。

 

 ホグワーツ入学直後から行方不明になっていたロンのネズミだ。

 戸棚の中に隠れていたスキャバーズを見つけたロンが飛びついて捕まえたが、スキャバーズは大暴れしてロンの手から逃げ出そうとした。

 

「このやろ!! 心配かけさせやがって。一体全体どこに行ってたんだスキャバーズ!!」

 

 カティアは、小屋に落ちていた錆びたヤカンを鉄の檻に"変身"させてやった。ロンは大事そうにスキャバーズを檻に収めた。

 

「ありがとう、カティア……おいスキャバーズ、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか」

 

 ロンは自身のペットの拒絶に少し落ち込んでいた。

 一方、ハーマイオニーが興奮気味に『スネイプによるハリー殺人未遂説』を語るのを聞いたハグリッドは、渋面だった。

 

「ばか言うな」

 

 ちなみにハグリッドは、自分のすぐそばの観客席で起きていたやり取りを、試合中まったく聞いていなかったらしい。

 

「なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ?」

 

 カティアもまったく同じ意見だった。

 しかしハーマイオニーが栗色の髪を振り乱してこちらを見た。その目は正義感で燃え上がっているのを見たカティアは、まずい流れだと察した。

 

「そうでしょ、カティア。あなたもスネイプがハリーに呪いをかけるのを見たわよね!」

 

「ん……えーっと」

 

 ハーマイオニーに同調するかどうかかなり迷ったが、今後の生活でずっと意見を合わせ続けるのはさすがに面倒くさい。時間をかけて慎重に言葉を選ぶ。

 

「仮によ? 仮にスネイプがハリーを殺したいとして……」

 

 仮定の時点でハグリッドが首を横に振ったが、構わず続ける。

 

「あんな人目のある状況で攻撃なんてするとは思えないわ。寮対抗試合の真っ最中に箒を呪うだなんて……」

 

「冗談言うなよ、カティア! なんでスネイプなんか庇うんだ!?」ロンが両目を見開いて叫んだ。

 

 ロンは檻を抱えたまま主張した。

 

「ハーマイオニーも僕も見たんだ。スネイプはハリーの箒にブツブツ呪いをかけてた。しかもハーマイオニーがスネイプのマントに火をつけたら、ハリーの箒が元に戻ったんだ!」

 

 ロンの言い分にも一理はあった。それでもカティアにはどうしても譲れない点があった。

 

「それでも変でしょう? 隣に他の先生もいる状態でニンバスに呪いをかけるなんて無謀だわ。もっとスマートで証拠も残らない確実な方法がないかしら」

 

 ハリーとハーマイオニーが顔を見合わせた。カティアが”スネイプ無罪説”を唱えるのがよほど予想外だったらしい。

 カティアはロンに語る。

 

「彼は魔法薬の先生よ。私がスネイプなら絶対に毒殺を狙うし、そうでなければ廊下で不意打ちすれば十分よ。わざわざニンバスを呪って墜落死を狙うなんて不自然すぎる。それを説明できる?」

 

「知るかよ。僕とハーマイオニーは"見た"んだ。方法なんか関係ない!」

 

 ロンの声が大きくなってきたため、ハグリッドが慌てて割って入った。

 

「熱くなるな、熱くなるなっちゅうに! そんなどうでもいいことで喧嘩するな!」

 

 しかしハリーも、ロンも、ハーマイオニーも、納得している様子はなかった。やがてハリーが口を開いた。

 

「僕、スネイプについて知ってることがあるんだ。昨日、職員室に行った時に気づいたんだけど、スネイプはハロウィーンの日に三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ」

 

「えっ?」

 

 初耳の情報だった。もっとも、カティアも昨日の魔法薬の授業でスネイプが呪いの傷を負っているのを確認している。

 

「何かは分からないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが盗ろうとしたんじゃないかと思うんだ」ハリーは続けた。

 

 ハグリッドはティーポットを落としてしまった。

 

「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」

 

「フラッフィー?」

 

「そう、あいつの名前だ――去年パブで会ったギリシャ人から買ったんだ。ダンブルドアに貸している。守るためにな……」

 

「でも、スネイプがそれを盗もうとしたんだよ?」

 

 ハグリッドは助けを求めるようにカティアを見た。カティアは軽く息をついた。

 頭の中で論点を整理しようとする。話があまりにも散らかっている。

 

「えっとね。つまり『ハリーを殺そうとした』って話と、『三頭犬を出し抜いて何かを奪おうとした』って話は別枠だと思うのだけれど、どっちについて話したいの?」

 

「そんなこと関係あるか?」

 

 ロンの耳が赤くなってきたが、カティアは退かなかった。

 

「関係あるわ。どちらか答えて」

 

「そりゃあどっちもだろ! スネイプはハリーを殺そうともしているし、何かを盗もうともしてる。それだけじゃないか」

 

「ダンブルドアの監視下で? なんで?」

 

「知るかよ。カティアは何が言いたいんだ?」

 

「もういい。いいわ、譲歩してあげましょう。セブルス・スネイプが泥棒なのね。なるほど、スネイプは三頭犬を突破して何かを盗みたいのね。で? それが何?」

 

「は?」

 

「学校の備品だかダンブルドアの私物だか知らないけど、そんなの勝手に盗ませとけばいいじゃない。私たちの財産ってわけじゃないんだから」

 

 カティアは意図的に論点をすり替えにかかった。

 三人が呆気にとられて顔を見合わせるのを見逃さず、すかさず畳み掛ける。

 

「学校の備品を守るのは、給料をもらって雇われている教職員のお仕事ではなくて? 私、何か間違ったことを言っているかしら?」

 

 三人とも全く納得していないのが嫌というほど伝わってきた。一瞬遅れてハーマイオニーが正義感で爆発した。

 

「盗みを見逃すのは、盗みに加担しているのと同じよ!」

 

「私たちが成人した魔女なら同意するけれど」カティアは腕を組んで冷たく言った。

 

 ハーマイオニーとカティアの間に火花が散った。

 

「盗まれたものが悪用されたら、学校中が危険になるわ! 私たちも協力しなきゃ!」

 

「万が一そうなったとしても、それはダンブルドアの不徳よ。私たちの責任ではないでしょう?」

 

「悪事が目の前で起こっているのに無視するの? スネイプを……見張るとかして、悪事が起こらないよう他の先生方に協力することまで否定するつもり?」

 

「私はそうは思わないわ。ハリーが箒に干渉され、攻撃された事だけに集中するべきよ。私たちがするべきことは三頭犬を気にすることではなく、ハリーを友達として隣で守ることではないかしら。それは先生方にも出来ないことだと思うけど」 

 

 ハーマイオニーが激しく目を泳がせた。必死に反論を探しているのが手に取るように分かる。

 そしてオロオロするハグリッドを他所に、ハリーが慎重に切り出した。

 

「スネイプは僕を殺すために、その何かを盗まないといけないのかも……」

 

「……ハリーを殺すなら、杖一本で十分では?」

 

 そう言いながらカティアは、目の前の友人が"例のあの人"を打ち破った『生き残った男の子』であることを思い出してしまった。

 幸い、三人もハグリッドもその不都合な事実には気づかなかったようだ。

 

「でもスネイプは僕を嫌ってるよ?」ハリーは食い下がった。

 

「それは重々承知よ……あなたの隣で授業を受けてきたもの」

 

 カティアは頭を振る。

 

「ハリー。スネイプは嫌な先生よ。私だって大嫌い。だけど、自分のキャリアと命を懸けてまで十一歳の子供を殺すほど情熱的な殺人鬼に見える?」

 

「でも……」

 

「ここはホグワーツよ。あなたを殺すところまでは完遂できたとして、ダンブルドアを敵に回して逃げ切れる悪党がいるならお目にかかりたいものね。お母様をダンブルドアに殺された私が断言してあげるけど、スネイプには無理よ」

 

 踏み込みづらい過去まで持ち出されたことで、ハリーも押し黙った。しかしハーマイオニーは諦めなかった。

 

「なら、私とロンが見たものは何だったの?」ハーマイオニーが詰め寄る。「私は呪いをかけているかどうか、一目でわかるわ。たくさん本を読んだんだから。じっと目をそらさずに見続けるの」

 

「私の"眠りの魔法"みたいにね」カティアは鼻で笑った。

 

 茶々を入れられたことで、ハーマイオニーのボルテージはさらに上がった。

 

「では、なぜ私がスネイプに火をつけたらハリーの箒が正常に戻ったのかを、カティアは納得のいく説明をできるのかしら?」

 

 これで決まりだと言わんばかりに、ハーマイオニーがカティアを見た。事実、それを出されたらカティアも相当苦しい。しかし!スネイプがハリーを殺すためにクィディッチの試合中の箒を呪うというのは、酷くチグハグに思えるのだ。

 

 そのときハグリッドが怒鳴った。

 

「もう十分だ! スネイプが悪人だろうと善人だろうと、大人が対処する。心配いらん。お前たちは首を突っ込むな!」

 

 あまりの大音響に、四人とも飛び上がった。

 直前のハーマイオニーの指摘があまりにも苦しいカティアは、ここぞとばかりにハグリッドの大声に乗っかった。

 

「ハグリッドの言う通りよ。スネイプごときがダンブルドアの鼻先で泥棒や殺人を完遂できるはずがないわ。むしろ私たちが探りを入れたら、先生方の邪魔にならない?」

 

 ハグリッドとカティアの利害が完全に一致した。二人はすばやく視線を交わす。

 

「そうだ、カティアの言う通りだ。ダンブルドア先生は偉大なお方だ。お前らが心配することは何一つない。いいか、よく聞け――お前さんたちは関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、犬が守ってるものも、全部忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」

 

「あっ!」ハリーは聞き逃さなかった。

 

「ニコラス・フラメルっていう人が関係してるんだね?」

 

 ハグリッドは口が滑った自分自身に、強烈に腹を立てているようだった。しかしカティアはそれどころではなかった。

 

 ニコラス・フラメルという名前には覚えがあった。あの日――カティアがホグワーツ特急に乗った日に、ハリーからもらった蛙チョコレートのカード。

 

「ねえハグリッド、ニコラス・フラメルって何なの?」ロンが聞いた。

 

「ええい、知る必要はない。さあ、早く帰って寮でお祝いせんか! ハリー、クィディッチ勝利おめでとう!」

 

 ハグリッドが強引に話題を畳もうとするのを眺めながら、カティアは小さな発見をそっと呑み込んだ。

 

 

 

 

 




Q:ハーマイオニーがハムステッド(北ロンドンの高級住宅街)住みってどこ情報?

A:映画『死の秘宝 PART1』の冒頭でグレンジャー家としてロケ地で使用された場所です。原作では明言されていませんが、グレンジャー家の経済状況(両親が歯科医)を考慮すると、現実的にあり得る居住地だと判断し、この作品ではその設定を採用しています
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。