銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編 作:トリスメギストス3世
結局、ハリーたち三人は箒に呪いをかけた犯人は、セブルス・スネイプだと決めつけてしまった。
カティアは三対一で少数派になってしまい、意見の食い違いでせっかく芽生えた友情にヒビが入るのではないかと不安だった。
しかし結果的には、カティアの心配は取り越し苦労に終わってくれた。
第一の理由は、クィディッチで勝った直後だったからだ。
四人が談話室に戻ると、そこは宿敵スリザリンを叩き潰したお祭り騒ぎだった。ハリーはすぐさま上級生たちに担ぎ上げられて騒ぎの中心へと引きずり込まれていった。
代わる代わる肩車されて、怒濤の祝福を受けるハリーを見ているうちに、ハーマイオニーとロンも先ほどまでの気まずさを一旦水に流してくれたのだ。
第二の理由は、ニコラス・フラメルについて調べようとする三人をカティアが邪魔しなかったことだ。
「頑張ってね」
図書館へニコラス・フラメルを探しに行く三人に、カティアは軽やかに言った。
ハグリッドがうっかりフラメルの名前を漏らして以来、ハリーたちは本気でその名前を調べ続けていた。”スネイプが何を盗もうとしているかを知るには、本で調べるしかない”というのがハーマイオニーの主張なのだ。
「ハグリッドにはああ言ったけど、フラッフィーが何を守っているのかは、やっぱり気になるの。もし見つけたら教えてね」カティアは涼しい顔で言った。
もっとも、三人はフラメルがどのような内容で本に載るかを知らないため、大いに苦戦していた。
図書館があまりに広大なため、ハーマイオニーは調べる予定の内容と書名のリストを作っていた。ハリーとロンはそれに従って片っ端から本を当たっていたが、この調子だと彼らがニコラス・フラメルに辿り着くのはずっと先のことになりそうだった。
そんなわけでカティアとハリーたちの友情はひとまず保たれたのだが、それはそれとしてカティア自身はフラメルの名前に早い段階で辿り着いていた。
鍵となったのは蛙チョコレートのカードだ。ホグワーツ入学以来ずっと手元に置いていたダンブルドアのカードには、こうあった。
現在ホグワーツ校校長。近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に、一九四五年、闇の魔法使いであるグリンデルバルドを破ったこと、『人喰い』ナターシャを討伐したこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名。趣味は室内楽とボウリング。
カティアがこれを覚えていたのは単なる幸運ではない。
グリンデルバルド撃破や『人喰い』討伐に並ぶ功績として記された『ニコラス・フラメルとの共同研究』とはいったい何なのか、小さな疑問として引っかかっていたのだ。
そこまで分かればあとは早かった。
カティアはハーマイオニーに気づかれないようこっそり図書館へ向かい、そしてその記述をあっさりと見つけてしまった。
『錬金術とは、「賢者の石」と呼ばれる恐るべき力を秘めた伝説の物質を生み出すことにかかわる、古代の学問であった。「賢者の石」はいかなる金属をも黄金に変える力を持ち、また飲めば不老不死になる「命の水」の源でもある。
「賢者の石」については何世紀にもわたって多くの報告がなされてきたが、現存する唯一の石は、著名な錬金術師にしてオペラ愛好家でもあるニコラス・フラメル氏が所有している。フラメル氏は昨年六六五歳の誕生日を迎え、デボン州でペレネレ夫人(六五八歳)とともに静かに暮らしている』
蓋を開けてみれば、呆れるくらい直球だった。
この”賢者の石”こそがグリンゴッツに預けられていた小包の中身であり、フラッティーが守っている至宝だとカティアは断定した。
もっとも、カティア自身は賢者の石にはそれほど強く魅力を感じなかった。
なぜなら半吸血鬼であるカティアは、人間より遥かに長命だからだ。もちろん不老不死という訳では無いが、賢者の石に短命の人間ほどの渇望を抱くはずもない。
むしろ、賢者の石がダンブルドアの管理下という方がカティアは気になった。
例えばの話、アルバス・ダンブルドアが賢者の石で不老不死にでもなれば、カティアは長い長い生涯を延々とあの老魔法使いに抑えつけられ、窮屈に生きることになってしまうのだ。
――――――――
入学から三ヶ月が経った。
カティアはついに、『妖精の魔法』の授業で杖を使った浮遊術を成功させた。ネビルに大差をつけられての最後の習得だったが、成功は成功だ。
カティアが何とか羽を浮かせた時にハーマイオニーは机を浮かせられる段階に入っていたが、練習に付き合ってくれた彼女はまるで自分の事のように喜んでくれた。
「おめでとう、カティア!」
「ありがとう、ハーマイオニー。随分と遅れちゃったけどね」
「それでも立派よ! カティアがたくさん練習していたのを、私は見ていたもの!」
カティアは苦笑した。公共の場で大声で言われると普通に恥ずかしい。
何にしてもフリットウィックの授業も終わり、カティアたちは廊下を歩く。
クリスマスが近づいていた。
窓の外は深い雪に覆われて真っ白だ。湖は完全に凍りつき、遠方でスケートをしている影が薄っすらと見える。
「しかしまあ、なんでカティアは『妖精の魔法』だけダメなんだろうなあ」
ロンがカティアを上から下までジロジロと見て言った。
ハーマイオニーがキッとロンを睨みつけると、ロンが慌てたように付け足した。
「ほら、変身術とかは七年生よりできるじゃないか。だからこそ、なんでフリットウィックであんな苦労しているのか……」
「体質が合ってないのよ。そうでしょカティア」ハーマイオニーは言った。
「まあそうね。使えない呪文を使おうとしている時って、チェーンの外れた自転車を漕がされているような感覚があって………」
説明相手のロンにはまったく伝わらなかった。
ロンがカティアに自転車について質問しかけたとき、曲がり角で不意に人影と鉢合わせた。
ネビル・ロングボトムだった。
彼はカティアを一目見るなり飛び上がり、踵を返してそそくさと駆け去っていった。
ハリーが眉をひそめる。
「ネビルだって、そろそろカティアに慣れてもいいはずだ。飛行訓練のときだって――」
「ハリー、そっとしておいてあげて。お願い」
カティアは慌てて割り込んだ。
アシュリーとロングボトム家の因縁については、つい先日、カティアはマクゴナガルから直々に釘を刺されていた。
とにかくネビルを刺激しないこと。
本人が話す気になるまで、決して話題にしないこと。
そしてネビルにとって良き隣人であること。
正直、マクゴナガルからそういう要請をなされたこと自体が心外ではあった。カティアとナターシャは別人だからだ。
しかし、実際に被害者の息子を目の前にすると理想ばかりも言っていられない。社会生活にはどうしても配慮というものが必要だ。
「何にしても……」
カティアは何事も無かったかのように話を変えた。
「そろそろクリスマス休暇ね? 私はロンドンに帰るつもりだけど―――」
ハーマイオニーとカティアは、クリスマス休暇中にロンドンで遊ぶ予定を立てていた。
一方でロン(『パパとママがチャーリーに会いにルーマニアに行くんだ』)やハリー(『ダーズリーも僕が帰ってこないことを祈っていると思うよ』)は、ホグワーツに残ることになっている。
ハーマイオニーはハリーとロンに言った。
「私が家に帰っている間も続けて探すでしょう? ニコラス・フラメルのこと、見つけたらふくろうで知らせてね」
ハーマイオニーが二人にこう伝えるのを、カティアはにこにこ笑って傍で聞いていた。
ハリーたち三人はかれこれ二週間も図書館に通い詰めだったが、フラメルについては未だに辿り着いていなかった。
「君の方は、家に帰ってフラメルについて聞いてみて。パパやママなら聞いても安全だろう?」とロンが言った。
「ええ、安全よ。二人とも歯医者だから」
――――――――
クリスマスに実家に帰る前日。
女子寮にてカティアは、自分のトランクに大方の荷物を詰め終えた。
軽く指を鳴らすと、トランクはふわりと形を変えて一匹の白猫へと姿を変える。
ベッドの上に座る白猫は、小さな鳴き声をあげて尻尾をゆらりと揺らした。
「あーあ」
向かいのベッドから、ハーマイオニーが羨ましそうな声を漏らした。
ハーマイオニーの足元には本の山がいくつも積み上がっていた。その大質量はいくら頑張ってもトランクに収まりそうにない。
そこまで本を持って帰って何になるのだろうかとカティアは考えた。
「どうしても全部持って帰りたいの」
何か言いたげなカティアの視線に気づいて、ハーマイオニーが先回りして言った。
荷造りが済んで暇になったカティアはぼんやりと外を見た。ハリーやロン、ウィーズリー兄弟が雪合戦をしていた。彼らはホグワーツに残るので暇なのだ。
「ねえ、雪合戦に行かない?」
「雪合戦?」ハーマイオニーが聞き返す。
ホグワーツの校庭で踏み荒らされた雪が粉のように舞い上がる。
雪合戦はいつの間にかちょっとした騒ぎへと発展し、ホグワーツじゅうの窓から生徒たちが顔を出して見物していた。
難色を示していたハーマイオニー(「ニコラス・フラメルを探さなきゃいけないのに!」)も結局ぶつぶつ言いながらついてきた。
シェーマスやディーン、ラベンダーとパーバティ、さらにはウィーズリーの双子やクィディッチチームの面々まで、雪に足を取られながら雪合戦に加わっていた。
「うわあああ! こっちに来るぞ!!」シェーマスが叫んだ。
「引き付けろ!」フレッドが応じる。
その視線の先でうごめくのは、雪でできた体長二十メートルにも及ぶ巨大なドラゴンだ。
カティアは少し離れた場所に立って両手を宙にかざす。
見えない糸を操るように指先を引くと、その動きに応じて真っ白なドラゴンが天へ向かって激しく咆哮した。
カティアが指先を複雑に動かすと、ドラゴンがその巨大な顎を開いた。
「来るぞ!!」ロンが裏返った声で叫ぶ。
次の瞬間、ドラゴンは首を大きく振りながら粉雪を一気に吐き出した。
白い爆風がグリフィンドール生たちに襲いかかる。
「キャーッ!!」
ラベンダーが悲鳴をあげて飛びのいた。
その隙をついてジョージが太い木の枝を振りかぶり、雪を蹴散らしながら突進した。
「くらえ!!」
拾った枝がドラゴンの足に突き刺さった。
カティアが集中して指を動かすと、ドラゴンは苦しむように身をよじって低く唸り、その尾でジョージを吹き飛ばした。
「やっつけろ!」ハリーが叫ぶ。
その声を合図に、男子たちが四方から雪の巨体へと飛びかかった。
ドラゴンはしばらく抵抗するように暴れ回るが、その動きは次第に鈍くなっていき――最後にカティアがぎゅっと拳を握りしめると、白い霧となって爆散した。
粉雪がふわりと舞い落ち、グリフィンドール生たちの歓声が校庭いっぱいに広がった。
―――――――――
ホグワーツ特急が、白い蒸気を長く吐きながらゆっくりと減速していく。
鉄輪がレールを擦る甲高い音が車内に細く響いた。カティアの肩が軽く揺れた。
やがて列車がキングズ・クロス駅に滑り込んだとき、カティアはようやく窓の外へ視線を向けた。
「カティア、着いたわよ」ハーマイオニーが声をかける。
「……ロンドンね」カティアは呟いた。「ずいぶん久しぶりな気がするわ」
窓の外には、灰色の空の下で白い息を吐きながら行き交う人々が見えた。
厚手のコートに身を包んだマグルたちのざわめきが、ガラス越しにかすかに伝わってくる。
白猫が軽やかに跳び上がり、カティアの肩の上にすとんと収まった。
柔らかな体温が冬の冷えをわずかに和らげる。ハーマイオニーと二人で立ち上がった。
列車を降り、9と4分の3番線の壁を抜けた先に広がっていたのは冷たい空気に満ちた冬のロンドンだった。
「あ、パパ! ママ!」
ハーマイオニーが声を上げて駆け出す様子を、カティアは少し眩しそうに見守った。
石造りの城、ざわめく大広間、魔法の光に満ちた日々はすでに遠い。ぐるりと周りを見回せばそこにあるのはマグルたちの世界だった。
「ほら、来てカティア! 紹介したいの!」
ハーマイオニーがぴょんぴょんと跳ねているので、カティアは苦笑して歩みを進めた。
口元をさりげなく指でなぞって鋭く尖った犬歯を"普通"に戻す。続いて目元をなぞり、真紅の瞳を赤茶程度にまでくすませた。
すっと前に出て、ふわりと膝を折って挨拶する。
「初めまして、グレンジャー様。エカテリーナ・アシュリーと申します。ハーマイオニーには学校生活で大変お世話になっております」
隣でハーマイオニーがわずかに目を見開いた。ホワイトホール家の養女としてのカティアを目の当たりにするのは、彼女にとっても初めてだったのだろう。
「ママ、聞いて。カティアは変身術が学年で……学校で一番なのよ! それにハイゲイトに住んでるの。手紙で伝えたわよね。ハイ・ストリートの書店の常連さんなんですって!」
両親と並んだハーマイオニーは、学校にいる時より遥かに子供っぽかった。
「これはご丁寧に。初めまして、エカテリーナさん。ハーマイオニーから手紙でよく聞いていましたよ。変身術………? がとても得意な、素晴らしいお友達だと」グレンジャー氏が言った。
「恐縮でございます。こちらこそ、ハーマイオニーには日々救われておりますの」
「……まあ、本当にしっかりしたお嬢さんだこと」
ハーマイオニーの母親が、感心したように目を細めた。
「エカテリーナさん、ハイゲイトにお住まいなの? わたしたちはハムステッドなのよ。本当にすぐ近くじゃない」
「ハムステッド・ヒースのあたりで、知らないうちにすれ違っていたかもしれませんね。そのことでハーマイオニーと笑っておりましたの。世間というのは、時々びっくりするほど狭いものですよね」
カティアは柔らかく微笑んだ。
「ハイゲイトの屋敷は今、雪がとても綺麗だとおじい様から伺っております。落ち着かれましたら、ぜひ一緒に遊びにいらしてくださいな」
「ぜひそうさせてもらおう。……おや、お迎えかな?」
グレンジャー氏が、駅のロータリーに停まった一台の車に目を留めた。
デイムラー・DS420のそばに背筋を伸ばした運転手が一人。彼はカティアの姿を認めると、静かに一礼した。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
その一言で、カティアはホグワーツの生徒からホワイトホール家の令嬢の顔になった。
カティアはグレンジャー夫妻に向けて、もう一度だけ優雅に会釈をした。
「それでは、私はこれで失礼いたします。グレンジャー様、奥様——ハーマイオニー、楽しいクリスマスを」
「ええ、カティア。またふくろう……じゃなかった、電話するわね!」
――――――――
ホワイトホールの邸宅は、いつもと変わらずそこにあった。
玄関ホールには天井に届かんばかりの高さのモミの木。
枝にはどこか時代を感じさせる装飾が施されている。ガラス細工のオーナメントに古びた金のリボン、そして本物のキャンドル。
「今年も立派ね」
カティアがそう呟くと、執事は控えめに答えた。
「例年通り、領内の北の森から切り出したものでございます」
居間へ足を踏み入れると、暖炉の上に無数のクリスマスカードが飾られていた。
カティアは一枚を手に取り、差出人の名を見てほんのわずかに眉を動かした。
「まだ生きているのね、あのご老体」
「お嬢様、お言葉にはお気を付けを」
「だってエセルドレダおばあ様って御年一〇七歳でしょう? 元気ね?」
そしてその奥に足を踏みいれ、カティアは耳の遠い二人のために大声を出した。
「ただいま戻りました、おじい様、おばあ様! カティアです!」
重厚なウィングバックチェアから、白髪を上品に結い上げたマーサが立ち上がる。
「ああ、カティア……! 本当におかえりなさい。少し大きくなったんじゃないかしら?」
「あら、おばあ様は変わらないわね。安心した。お久しぶりですマーサおばあ様」
カティアはマーサの細い肩を強く抱きしめた。
「カティア。よく帰ったな」
書斎から現れたジョセフが、眼鏡を拭きながら穏やかに笑った。
そしてカティアの銀髪を眩しそうに見つめ、それから傍らに控える執事に目配せをした。
「すぐに熱い紅茶を。それから彼女の部屋を暖めておきなさい。……ホグワーツは寒かっただろう?」
「ええ。ハイランドの方だもの。廊下を渡る風で何度か凍りつくかと思いましたわ」
「そうかそうか………ほら、早くおいで。帰ってくるのを待っていたよ」
カティアは手招きされるがままにソファへ深く身を沈めた。
やはり、魔法ではない本物の炎が燃えるこの居間こそ、カティアの家だった。
血のつながったナターシャ・アシュリーは強く賢く綺麗で素敵な自慢の母親だが、住居に関してはアメリカから東南アジアまで豪邸を転々とするような毎日だった。少々落ち着きが無さすぎなのだ。
「お友達のポッター君や、ウィーズリー君たちとは仲良くやっているのかい?」ジョセフが問いかけた。
「ええ。おじい様、私にもちゃんと友達が出来ました」
「カティアは昔から友達を作るのは本当に早かったからね。心配はしていなかったよ」
カティアはほんのりと苦笑した。
彼らはカティアが半吸血鬼で『人喰い』の娘という事は知っていても、それが魔法界でどれほどの偏見を産むかについてはあまり分かっていないようだった。
とはいえ、『偏見と差別の嵐の中でハリーたちとの友情を命綱に生き残っている』という真実を、老夫妻に説明する必要は無い。
彼らが勘違いしてくれているなら、そのままにするべきだ。もしくはカティアの嘘に乗ってくれているのかもしれない。
「それから、ハーマイオニー・グレンジャーというお友達ができたの。ハムステッドの歯医者さんの娘さん。ご両親にも先ほど駅でお会いしましたが、とても規律正しいご両親だったわ」
「ハムステッドのグレンジャー氏か……あのエリアの医師会で何度か名前を聞いた覚えがあるような………」
ジョセフやマーサのようなマグルにとって、カティアが「ハムステッドの良家の令嬢」と友誼を結んでいることは大きな安心材料だろう。話が通じる相手だからだ。
………一応ダーズリー家とも通じるといえば通じるだろうが、相性がいいかと言われるとかなり疑問が残るところだった。
その夜、家族は揃って食卓についた。
銀食器が静かに光り、白磁の皿には正統的な料理が並ぶ。
暖炉の火が小さく弾ける音だけが、空間に柔らかなリズムを与えていた。
「ホグワーツでの生活はどうだ?」ジョセフが切り出した。
「思ったよりも楽しいわ。魔法が使えるもの。だけど不便といえば不便よ。電気も電話も通じていなくて、夜は蝋燭の明かりを頼りに移動するような場所ですから」
カティアはナイフとフォークを置き、少しだけ考えてから答えた。
「おとぎ話に迷い込んだような生活といえば聞こえはいいけれど、私はこの家の生活の方が好きね」
養女の澄ました言葉に、老夫婦は嬉しそうに目を細めた。
食後のデザートとして、マーサが丁寧に切り分けたクリスマス・プディングが運ばれてきた。
カティアがその甘美な香りを楽しんでいた、まさにその時だった。
「おじい様……?」
ジョセフが紅茶を飲もうとカップを持ち上げた際、その指先が微かに震えた。
陶器のカップとソーサーが触れ合い、カチ、と小さな音が鳴る。
ジョセフはすぐにカップを置いて何事もなかったかのように膝の上のナプキンで口元を拭った。
しかしカティアがじっと見つめると、ジョセフはわずかに肩を落として苦しげな吐息を漏らした。
「おじい様、今、手が……」
「なんでもないよ、カティア。少しばかり、長く座りすぎただけだ」
「嘘よ。おじい様、お顔の色が良くないわ。マーサおばあ様、教えて。いつからこんな風に……?」
カティアが問い詰めるように視線を向けると、マーサは困ったように微笑んだ。
ジョセフの手をそっと握って、ゆっくりと首を横に振る。
「カティア、あまり心配しないで。ジョセフの心臓が少しばかり………一ヶ月ほど前から、医師の先生に診ていただいているわ」
「心臓……持病が悪化してしまったの?」
カティアはジョセフの痩せた手を両手で包み込んだ。
「……心配は無いと先生は仰るがね。薬を飲んで、安静にしていれば問題ないそうだ。クリスマスだというのに湿っぽい話をしてすまないね」
彼はカティアの頭を撫でようと手を伸ばしたが、カティアはその手を取ると、逃がすまいと自分の頬へ押し当てた。
「安静に………私がいない間に、おじい様はそんなに無理をしていたの?」
「まさか。カティアがいない間は、二人とも暇を持て余していたくらいだよ。それにそうすぐくたばるような状態でも無いそうだ」
彼は笑ってみせたが、カティアの不安は拭えなかった。
「…………………………そう。なら安静になさらないとダメね」
カティアは、ゆっくりとジョセフの手を両手で包んだ。
胸の中に青白く澄んだ炎が灯り、消えることのない劫火となって進むべき道を照らし出す。
「大丈夫、私に任せておじい様。心当たりがあるの。どうにかしてみせるわ」