銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編 作:トリスメギストス3世
クィレルが自分を殺しに来るのではないか。
自分でも疑心暗鬼だとは思ったが、嫌な予感が捨てきれずにカティアは結構本気で気を張り続けていた。
些細な物音に反応して周囲に視線を巡らせるような生活がしばらく続き、カティアはハーマイオニーにはとても心配された。しかし結果的には何も起きず、拍子抜けするほど平穏な日々が訪れた。
カティアは何も知らないふりをして生徒として授業を受けたが、教師たちから何かを咎められることもない。
クィレルの『闇の魔術に対する防衛術』もスネイプの『魔法薬学』でも特に大きな問題は起きず、強いて言えば、ネビルがマルフォイの大鍋を蹴飛ばして完成間近だった『発色薬』をすべてぶちまけた程度だ。
薬液を全身に浴びたスリザリンの女子生徒、パンジー・パーキンソンが見事なショッキングピンクに染まり、カティアとハーマイオニーは大喜びだった。
「ピンクの方が似合っていたかもね」とパンジーを評価したハーマイオニーは、スネイプの授業が終わって廊下を歩きながらこう付け足した。
「だって、太ったフラミンゴみたいだったもの」
カティアとハーマイオニーは、それから20分もくすくす笑いが止まらなかった。
何にしてもチェス攻略のための『カンニングペーパー』作成の目途は立っていない。自動対戦機能の強化が難しすぎるのだ。
どちらにしても先生方も警戒しているであろう状況で無理に動いても事態を悪化させるだけだと思ったカティアは、開き直って学生生活に専念することにした。
例えば、グリフィンドールのクィディッチチームの練習を見に行ったりとかだ。
これはカティアに限った趣味でもなく、放課後のクィディッチ練習はホグワーツの数少ない娯楽の一つだ。
特に天気の良い日は多くの生徒が談話室に籠もるよりも外の空気を吸うことを選ぶ。グラウンドの脇で日向ぼっこをしたり、お喋りをしたり、あるいは宿題を持ち込んで練習を見ながら勉強する生徒も多い。
しかし今日のように大雨ともなれば、観客席に来ている奇特な人間はカティア一人だった。
もっとも、カティアが今日ここに来たのは練習をみるためだけというわけではないのだが………。
「ふざけるのはやめろ! そんなことをすると、こんどの試合には負けるぞ!」
クィディッチ・ピッチでウッドが双子のウィーズリーを怒鳴りつけるのを、カティアは客席からのんびりと眺めていた。ハリーを含めたクィディッチ・メンバーが厳しい練習に取り組んでいるのを、客席からのんびり眺めるのは実にいい気分だ。
とにかくひどい大雨で、全員泥だらけになって練習していた。
そしてチームメンバーのおふざけに怒り心頭に発したウッドが叫んだ。
「次の試合の審判はスネイプだ。隙あらばグリフィンドールから減点しようと狙ってくるぞ!!」
ジョージ・ウィーズリーは本当に箒から落ちてしまった。カティアは興味をそそられて耳を澄ませた。
「スネイプが審判をやるって?」
ジョージは口いっぱいの泥を吐き散らしながらウッドに聞き返した。
なにせ大雨が降っているため、選手たちの細かいやり取りを客席から聞き取るのは無理があった。カティアはしばらく待つ。
そしてようやく練習が終わった。
選手たちがピッチ併設の更衣室へ戻ろうとするのを遠目で確認したカティアは、背中からレインコートの翼を展開し、客席から滑空してハリーの背後から肩を叩いた。
「ハリー! ちょっと待って!」
「カティア……どうしよう、僕はもうおしまいだ。スネイプが審判をやるんだ!」
ハリーは、まるで死刑を宣告された罪人みたいな顔をしていた。スリザリン戦のとき、スネイプが自分の箒に呪いをかけて殺そうとしたと信じているのだ。
カティアは濡れた芝の上で靴底を滑らせて急制動をかけて着地した。
「その話は聞いてたよ。まあスネイプがハリーを殺そうとしたかについては―――」
そう前置きしてからカティアは杖を取り出した。
何か言いたげなハリーに先んじて、こう続ける。
「―――とにかく! 私に一つ策があるの。ねえハリー、今から少しだけ時間ある?」
激しい雨音で互いの声は非常に聞き取りづらかったが、ハリーは不安そうに頷いた。
カティアはクィディッチ用のローブを着たハリーに向かって杖を向けて軽く振った。
カティアは人差し指で上を指し示し、叫んだ。
「ちょっと飛んでみて!!」
吹き付ける風の中、ニンバスに乗ったハリーは飛び立った。
地上のカティアは杖を振るってピッチの芝の一部を巨大なクッションに変身させる。
「ハリー!!!」
カティアは叫んだ。
「そこから飛び降りて!!!」
上空二十メートルほどのハリーが、真下をひどく不安そうに見下ろしているのが見えた。
ハリーはしばらく迷った後、覚悟を決めたようにニンバスから滑り降りる。
バサッ、と空気を叩く音がした。
ハリーの試合用ローブのマント部分が広がり、巨大なパラシュートに変身した。
真紅の布と共にゆっくり降りていくハリーを尻目に、カティアは勢いよく飛び立った。上空に取り残されたニンバスを拾いに行く。
箒を持って地上に戻ってきたカティアの肩を、ハリーがぐいっと掴んだ。
「すごいや!!」
「でしょう? これなら箒から落ちても死ぬことはないもの」
ニンバスを彼に返しながら、レインコート姿のカティアは安堵して笑った。
誰がハリーに呪いをかけるか問題はさておき、実際にハリーの墜落対策を用意する必要はある。そのため、カティアはハリーのローブに変身術で保険をかけておくことにしたのだ。
「今日はパラシュートのテストをしに来たの。あなたが箒から手を離して5メートル以上落下した場合に展開するようになっているから誤作動を起こすことはないわ。………まあ出番が無いに越したことはないけれど」
「ありがとうカティア、君は僕の命の恩人だ!」
「やめてよもう大げさよ。注意点としては、パラシュートの性質上、変に中途半端な高度から落ちるより上空から落ちた方が安全だからね」
大雨で練習していたハリーには完全に手遅れではあるが、カティアは杖を軽く振るって彼の分のレインコートも作ってあげた。
「ほらハリー、早く城に帰りましょう? こんな大雨で外にいる必要は無いのよ?」
ハリーが更衣室で着替えを済ませるのを待って、急いで城に戻る。
互いに水滴を廊下にぽたぽたと落としながら談話室への道を急ぎながら言葉を交わした。
「でもスネイプが審判をやるのは問題ね。アンフェアが服を着ているような人なのに」
「そうなんだ。僕が出来るだけ早くスニッチを捕まえて試合を終わらせないと………ネビル!!」
ネビルが両足がピッタリくっついたまま、うさぎ跳びで廊下を進んでいた。
「足縛りの呪い」をかけられている。声をかけられたネビルは振り向くとカティアを見つけ、動揺のあまり頭から転倒した。
ネビルが頭を石壁に打ち付ける痛そうな音に、カティアとハリーは引きつった顔を見合わせた。
両足を揃えたまま石の床でのたうち回るネビルに、ハリーが杖を向けた。
「フィニート!」
足縛りの呪いが解け、ネビルは震えながら立ち上がった。
「どうしたのさ? 誰にやられたんだい?」ハリーが尋ねた。
「マルフォイが……」ネビルはチラチラと怯えた目でカティアを見ながら、震えた声で答えた。
相変わらずカティアは怖がられていたが、実を言うとネビルはマルフォイとも深い因縁がある。
ドラコ・マルフォイは、ネビルの両親に『磔の呪い』をかけた実行犯ことベラトリックス・レストレンジの甥っ子だ。つまり、マルフォイもカティアと同じ加害者側の血縁でもある。
その割に、因縁などどこ吹く風で容赦なくネビルに呪いをかけるあたり、マルフォイも色々と容赦無しだ。
ネビルがなんでカティアばかり怖がるのか小一時間ぐらい問い詰めたいところだ。案外、カティアとナターシャの見た目が似ているというだけの話かもしれないが。
「図書館の外で出会ったの。だれかに呪文を試してみたかったって………」ネビルは小さな声で言った。
「マクゴナガルのところに行くべきだ。僕もついていくよ」 とハリーはきっぱりと言った。
しかしネビルは首を横に振った。
「これ以上面倒はいやだ」
「ネビル、マルフォイに立ち向かわなきゃだめだ。屈服してヤツをつけ上がらせていいってもんじゃない」
ハリーが言った。
「僕が勇気がなくてグリフィンドールにふさわしくないなんて、言わなくってもわかってるよ。マルフォイがさっきそう言ったから」ネビルが声を詰まらせる。
ハリーは何故かポケットを探っていた。
蛙チョコレートを取り出し、いまにも泣きそうになっているネビルに差し出した。
「マルフォイが十人束になったって君には及ばないよ。組分け帽子に選ばれて君はグリフィンドールに入ったんだろう?」
先ほどからカティアは必死に気配を消していたが、どうやら効果はあったらしい。
蛙チョコの包み紙を開けながら、ネビルはかすかに微笑んだのだ。
「ハリー、ありがとう……僕、もう寝るよ……カードあげる。集めてるんだろう?」
ネビルはぎこちなく去っていった。ハリーはカティアの方を振り返る。
「ネビルもそろそろ君に慣れたっていい頃じゃないか!」
「いいのよ、気にしないで。ネビルのペースに任せましょ?」
アシュリーとロングボトムの因縁についてはマクゴナガル先生から口止めされている。
カティアは話題を変えた。
「で、蛙チョコのカードは何だったの?」
ハリーは「有名魔法使いカード」を眺めた。
「またダンブルドアだ。初めて見るカードだけど……」
その瞬間、カティアはフラメルの秘匿が破られた事を悟った。
ハリーが息を呑む。カードの裏面を食い入るように見つめ、それからカティアの顔を見上げて叫んだ。
「見つけたぞ! フラメルを見つけた! ねえ聞いて――『ダンブルドア教授は特に、一九四五年に闇の魔法使いグリンデルバルドを打ち破ったこと、
「おっと?」カティアは苦笑した。
想定外の事故が起きた。
まさか、カティアの母親が討伐されたことを、ここまで嬉しそうな声で読み上げられるとは思わなかった。ハリーはフラメルに気を取られて『人喰い』がカティアの実母であることを完全に失念していたのだろう。
ハリーが真っ青になった。彼の顔からフラメルの名前を見つけた歓喜と興奮が消し飛ぶ。
彼は周囲を見回しながらカードをぎゅっと握り締め、カティアから隠すように後ろポケットへ突っ込んだ。
カティアがニヤニヤと眺めていると、絞り出すような声でハリーは言った。
「ごめんカティア。本当にごめん。すごく無神経なことを言った――」
「気にしないで。みんな知ってることだもの。そんな風に腫れ物みたいに扱われる方がよっぽど傷つくわ」
カティアはハリーに助け舟を出した。
「私の親愛なるお母様のことはひとまず置いといて、フラメルについては? 私も気になってるんだけど?」
ハリーはまだ青ざめていたが、ほっとしたように息をついた。
「あー……えっと、ダンブルドアと共同研究をしていたとか、何とか……」
ハリーは落ち着かない様子で、ポケットの上からカードをさすり続けていた。
何とも気まずい夜だった。談話室に着くと二人は短くおやすみを言い合い、カティアは女子寮への階段を上った。
一人きりの部屋で、カティアはベッドに腰を下ろした。
今頃ハリーは、ロンとハーマイオニーに自分の発見を話している頃だろう。
ついに三人に、フラメルと賢者の石のことまで知られてしまった。
できれば隠しておきたかったというのが本音だ。彼らには危険すぎる。しかし済んでしまったことをくよくよ考えても仕方がない。
あの三人のことだ。きっと間違いなく、「スネイプから賢者の石を守らなきゃ」と大騒ぎするだろう。
まさか『真犯人』がカティア自身だとは、夢にも思わずに。
「………………」
ベッドの天蓋を見つめながら、カティアは考えた。
カティアが三人を欺いていることを彼らが知った時、この友情は終わってしまうのだろうか。
――――――――――
恐ろしいことに、カティアは三人との友情の行く末ばかりに気を取られている場合でもなかった。
問題は、クィレルだ。
たしかにクィレルはまだ何もしてこない。しかしだからといって、彼がカティアに対して何の反応も示さないかといえば、それはまた別の話だった。
クィレルは時折、カティアに対して非常に危険な目を向けることがあった。
けれど少し目を離した隙には、彼はもういつも通りにどもり始め、あの臆病な教師の仮面を被り直すのだ。
最初は見間違いかとも思ったカティアだが、それが幾度も続いては互いに馬鹿らしくなり、今となってはカティアもクィレルも互いへの敵意を隠す努力すらろくにしなくなってきた。
クィレルが睨んでくる理由は単純で、何しろ賢者の石は世界にひとつしか存在しない。
つまりクィレルもまた、最後には必ずカティアの敵となる運命にある。
気がつけばカティアは『カンニングペーパー』のことより、いかにクィレルをスマートに出し抜くかという問題に思考の大半を割くようになっていた。
「闇の魔術の防衛術についての噂? あの職は呪われていると言われているよ。どんな先生も一年と続かないんだ」
カティアに聞かれたパーシーはそう答えた。
他のグリフィンドール生がどうであれ、カティアが信頼するグリフィンドールの監督生はこう続けた。
「クィレル先生は、去年まではマグル学を教えていらっしゃったんだ。あの頃はこんなに神経質な先生じゃなかったけどね……」
噂によると防衛術の教職には『一年と続かない』という謎の呪いがかかっているらしい。
呪いにしてはずいぶんとピンポイントな話だ。しかし現実として、過去三十年間でその職の二年目を迎えた教員はひとりも存在しないのだという。
色々とヘンテコな呪いだが、これほど都合のいい噂もそうそうない。
誰が呪いをかけてくれたにせよ、カティアはその人物に感謝したいくらいだった。
カティアはこの噂に賭けることにした。
少なくとも、今年いっぱい耐え切ることができればクィレルが脱落する可能性は高い。
何もカティア自らが、無理をしてクィレルを排除する必要はないのだ。
そう考えるとカティアは随分と気が楽になり、クィディッチのハッフルパフ戦も楽しみになってきた。
一方でハリーは、試合が近づくにつれてだんだんと元気をなくしていった。
寮中で勝ちたいという気持ちが高まっていた。そして審判がスネイプだという事実が、グリフィンドール全体に重くのしかかっていた。
「とにかく、僕が早くスニッチを捕まえて試合を終わらせるしかない」
ハリーはロンやカティアに、何度もそう繰り返した。
それができれば苦労はないのではとカティアは思ったが、口には出さなかった。
試合当日の昼過ぎ、カティアはロンとハーマイオニーと並んで、更衣室へ向かうハリーを見送った。
「一応、落下だけには備えたけど……」
カティアが不安そうに呟いて振り返ると、ハーマイオニーが今にも気を失いそうなほど青ざめているのが目に入った。ロンが努めて明るい声で元気づける。
「ハリーは大丈夫だって。なんといっても『生き残った男の子』じゃないか。この程度へっちゃらさ」
そのロンでさえ、杖をローブの袖に隠しているのをカティアは見逃さなかった。
何かあればスネイプに呪いをかけるつもりなのだ。
「忘れないでね、ロコモーターモルティスよ」ハーマイオニーが神経質そうに囁いた。
「わかってるよ、そんなにがみがみ言うなよ」ロンがうんざりしたように言い返した。
すっかり殺人犯扱いされているスネイプが少し不憫だったが、それはそれとしてスネイプは嫌いなので黙っていることにした。
もちろん、カティア自身の注意はクィレルに向いていた。
あの男が少しでも怪しい動きを見せたら、実力行使で止めるしかない。カティアはひそかにそう決めていた。
しかし実際に観客席に上がってみると、三人の心配はきれいに消え去った。
「ダンブルドアだ!」ロンが弾んだ声を上げた。
カティアが急いでそちらに目をやると、本当にダンブルドアが観客席に座っていた。
ハーマイオニーと顔を見合わせ、ふたりは同時にほっと息をついた。これでハリーの身に何かが起こることはないだろう。
「さあ、試合が――いてっ」
誰かがロンの後頭部を小突いた。マルフォイだった。
「ああ、ごめんよ、ウィーズリー。気がつかなかった」マルフォイはクラッブとゴイルに向かってにやりと笑った。「ポッターが箒から落ちるまで、いったい何分かかるかな。誰か賭けてみる気はあるかい?」
「あら、賭けさせてくれるの?」
カティアは前髪をかきあげながらまっすぐとマルフォイの目を見た。
余程予想外だったらしい。マルフォイは明らかに面食らった様子で、言葉を探しながらカティアの視線を受け止めた。
一秒。二秒。三秒。四秒。五秒。
初見殺しの”眠りの魔法”が浸透し、マルフォイがゆっくりと崩れ落ちる。クラッブとゴイルが慌てて両脇から支えた。
カティアは手をひらひらと振る。
「貧血じゃないかしら。医務室に連れていったほうがいいわ」
ふたりはあっさり信じたようだった。
小山のような体格の彼らはひょろりと小柄なマルフォイを担ぎあげると、クィディッチ競技場をのしのしと去っていった。
一方で、クィディッチの試合の方は大方のグリフィンドール生の予想通りひどい有様になっていた。
スネイプの審判は酷いもので、ジョージがブラッジャーをスネイプの方へ打ったという言いがかりで、ハッフルパフへペナルティ・シュートを与える始末だった。
スタンドのあちこちから不満の声が上がる。
一応ハッフルパフから歓声はあがるが、彼らも少し当惑気味だった。何しろハッフルパフの寮の誇りは誠実さと公正さだ。
しかしスネイプはそんなものを一顧だにせず、黒いローブを翻して淡々と試合を進めていく。
いよいよ、何も起きていないのにハッフルパフにペナルティシュートが与えられてしまった。
不穏な空気がじわじわと観客席を覆っていった。こんな審判をされたらグリフィンドールは絶対に勝てない。
ハーマイオニーは膝の上で指を固く組み、祈るように目を閉じかけてははっとしたように開く。その視線はただ一点、上空を飛び回るハリーを必死に追い続けていた。
「お願い……お願いだから……」
しかしその苦行のような時間は、思ったよりも長くは続かなかった。
ハリーが、唐突に急降下を始めた。観客ですら反応が遅れた。
地面すれすれまで滑り込むように飛び込んだハリーは、その勢いのまま体を起こし、ほとんど転ぶようにして着地した。
そして意気揚々と振り上げたその手の中で、金色のスニッチが小さく羽ばたいていた。
その歓声たるやスタンドが爆発したかと思った。
「ハリーが勝った! 私たちの勝ちよ! グリフィンドールが首位に立ったわ!」
ハーマイオニーが歓声を上げるや否や、勢いよく抱きついてきた。
カティアは避ける間もなく押し倒され、カティアはベンチの上でごちゃごちゃに絡み合う羽目になった。
――――――――
グリフィンドールの大勝ムードは、それからたっぷり一週間続いた。
特に、審判のスネイプが試合をコントロールしきる前にハリーが圧倒的なスピードで試合を終わらせたことでグリフィンドールは有頂天だった。
なによりハリーのダイビングキャッチはあまりにも劇的で、城中の語り草となっていた。グリフィンドール生たちは得意満面で、それは厳格なマクゴナガル先生ですら例外ではなかった。
試合中にスネイプの偏向審判に激怒して観客席から汚い罵声を上げ、隣のフリットウィック先生に止められたと噂されるマクゴナガル先生が、翌朝の朝食の場でカツカツと足音を立てながらハリーの席まで歩いてきたのだ。
大広間中の人間がマクゴナガル先生に注目した。
「昨日は見事なプレイでした、ポッター」
その声は大広間中に朗々と響き渡り、その場にいる全員が耳を澄ませた。
「以前にも申しましたが、貴方の父上――ジェームズ・ポッターも、それはそれは素晴らしい飛び手でした。まったく、貴方はつくづく彼の息子ですね」
ハリーの顔が、この上ない誇りと喜びで輝いた。
グリフィンドールのテーブルは割れんばかりの拍手に包まれた。
もちろん大きく拍手するカティアは、ふと首筋の毛が逆立つような感覚に襲われ、慌てて振り返る。
教職員テーブルで、スネイプがこれまでに見たことのないような憎悪の表情でハリーとマクゴナガル先生を睨みつけていた。その顔は紙のように白く、金属のフォークを握りつぶさんばかりだ。
そしてハッフルパフの寮監、スプラウト先生は『私は一体何を見せられているのだ』と言わんばかりの顔で黙々と朝食を口に運んでいた。
ふと視線を滑らすと、ハッフルパフのテーブルは誰かが死んだのかと思うほど沈痛な空気だった。
彼らは彼らでスネイプに謎に贔屓された挙句、その上でボロ負けしたのだから踏んだり蹴ったりだ。
そんな悲喜こもごもがありつつも、季節は移ろってイースター休暇が少しずつ近づいてきていた。
カティアはロンドンへ帰り、養父母に会うのを楽しみにしていた。当然、またハーマイオニーとロンドンを歩き回れると期待していたのだが、ハーマイオニーはホグワーツに残るつもりだという。
「だって勉強しなくちゃいけないもの!」
ハーマイオニーはきっぱりとそう言った。イースター休暇が迫っているということは、つまり試験も迫っているということでもあった。
カティアがうんざりした顔をすると、ハーマイオニーはたちまち勢いづいた。
「二年生に進級するには試験に合格しなければならないのよ。それも大切な試験なの。それなのに私ったら……もう一ヶ月も前から取りかかっておくべきだったわ!」
何にしてもハリーもロンも学校に残るため、イースターにホグワーツ特急へ乗り込むのはカティア一人ということになる。
もっとも、先生方は生徒たちに山のような宿題を課していくのでカティアは大量の課題を抱えたまま帰省することになった。何が悲しくてハイゲイトに帰ってまで魔法の勉強をしなければならないのかと思わないでもないが、宿題が出ている以上は仕方がない。
それでもカティアには、実家へ戻ったらどうしてもしたいことがあった。
カティアが警戒しているのは、クィレルだ。
もはやこちらへの敵意を隠そうともしなくなった彼だが、賢者の石を手に入れるためにカティアの急所である”マグル界の家族”を狙ってくる可能性は十分に考えられる。
そうなる前に手を打っておく必要がある。
つもり、ハイゲイトの屋敷を魔法の守りで固めて万が一の襲撃に家族が対応できるよう備えておくのが、この帰省における最大の目的だった。