銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編   作:トリスメギストス3世

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020:犬・蔓・鍵・駒・棍棒・薬

 大きな寝息を立てて爆睡するネビルを足で押す。

 廊下の端へと転がすように寄せながらカティアはため息をついた。真ん中に転がしておいたら誰かに踏まれてしまいそうだ。

 

「まったくもう。みんなお母様のことばかり……」

 

 偉大すぎる母を持つというのも考えものだ。

 誰もカティアを見ていない。いつでも母の付属品のように扱われる。

 みんな口を揃えて再来だの復活だの好き勝手言うが、カティアはナターシャの複製でも手下でもないのだ。

 

 だいたい、今さら母が復活してきてもちょっと困るというのがカティアの本音でもあった。

 カティアは既にホワイトホール夫妻に出会い、ホグワーツに進学して友達もできた。現状に概ね満足しているため、復活した母親にそれを引っ掻き回されるのは本意ではない。

 新しい人生の基盤をようやく完成させた今になって復活されても、タイミングとして遅すぎるのだ。

 

「まったくもう!」

 

 いよいよネビルに構っている場合ではない。

 カティアは四階の廊下に仁王立ちになると、三頭犬が待ち構える扉へ向かって杖を真っ直ぐに向けた。

 

 『壁抜き呪文』を放ち、石壁と扉をまとめてアーチ状にくり抜く。

 

 実はかなり怖い瞬間だった。

 フラッフィーがハリーたちを食べている最中だったら怖すぎる。カティアは薄目で部屋の奥を見たが、幸いなことに血の匂いはしなかった。

 むっとする獣の臭気はするがそれだけだ。彼らは何らかの手段で三頭犬を突破したらしい。

 

 カティアがここへ来るのはこれで三度目だ。

 三頭犬を"眠りの瞳"で眠らせて、湿った熱気の充満する部屋へと踏み込む。ふと視線をやると、部屋の隅にハープに似た弦楽器がひとつ置かれていた。

 カティアが前回挑戦したときにはなかったものなので、誰かが持ち込んだのだろう。本来、ここの正攻法は『音楽を聴かせて番犬を眠らせる』なのかもしれない。

 

 仕掛け扉の取っ手をローファーのつま先に引っかけて蹴り上げる。

 

 三頭犬も怖かったが、次も大概心配だ。

 殺人植物に絞め殺された友人を見つけてしまわないかとカティアは気が気でなかったが、ありがたいことに彼らは悪魔の罠への対処法も心得ていたらしい。闇の中にうごめく蔓草はすでに力を失い、雨に打たれた洗濯物のようにぐったりとたわんでいた。

 

 カティアは安心して『氷蝕の呪い』で残った”悪魔の罠”をまとめて凍りつかせる。

 急降下の勢いを乗せた踵落としでまとめて蹴り破り、白い破片を飛び散らせながらカティアは縦穴の底に勢いよく着地した。

 

 ローブをはたきながら先を急ぐと、次は羽根の生えた鍵が飛びまわる部屋だ。

 天井近くをばたばたと乱舞する無数の鍵のなかで正解の鍵を見つけるのは難しい作業ではなかった。これまで何度も捕まえられたせいか、骨折した鳩みたいな飛び方をしている。よたよたと飛ぶそれを軽くジャンプして捕まえると、有無を言わさず錠前に突っ込んで鍵を回す。

 

 次はマクゴナガルの巨大チェスだ。

 カティアはこのゲームに四度挑んでいるが、負けるたびに内臓が破裂したり首がへし折れたりと散々な目に遭ってきた。ここも他の試練に負けず劣らず危険なのだが、今度こそカティアは恐れていたものを見つけてしまう。

 

「ロン!!」

 

 カティアの声が裏返った。

 巨大なチェス盤のかたわらに、見慣れた赤毛の友人が倒れている。マクゴナガルのチェスにやられたのに違いない。

 

「ロン、ねえロン? 大丈夫? 死んでないよね?」

 

 ピクリとも動かないロンを見て最悪の可能性が頭をよぎるが、近づいてみると規則正しい呼吸音が聞こえた。カティアは胸を撫で下ろしてふと顔を上げ、あたりを見回す。

 

 ハリーとハーマイオニーがいない。彼らは先に行ったということだ。

 

「…………勝ったの?」

 

 ロンが強力なチェスプレイヤーであることはもちろん知っている。

 しかし、ここは通常のチェスとは圧力も感覚もまるで違う巨大チェスだ。それを一発勝負で勝つというのは、ロンも相当頑張ったに違いない。

 

 後ろ髪を引かれる思いだったが、ハリーたちが先へ進んだ以上ぐずぐずしてもいられない。

 カティアは黒のキングの駒にそっと手を触れた。ひんやりとした石の感触が指先に伝わる。

 

 巨大チェスへの挑戦は、これで五度目だ。

 鞄から、ついに完成させた自作の『カンニングペーパー』を引っ張り出した。

 

―――――――――

 

 チェスは、昔から変わらぬルールで対戦され続けているゲームだ。

 魔法族とマグルが同じルールで楽しんでいるため、研究も棋譜もそのまま流用できる。カティアはこの点に目をつけ、イースター休暇中に北ロンドンの書店でチェスの棋譜集を大量に買い込んでいた。

 

 それら全てに魔法をかけて一冊のノートへと圧縮したもの——それこそが『カンニングペーパー』だ。

 過去の棋譜から、勝つ確率の高い最善手を見つけて示す機能を持っている。

 

 カティアが黒のキングの位置に立つと、白い石像にも命が吹き込まれた。

 ゲームが始まった。敵のポーンが重い地響きとともに動き、初期配置から二マス前へ進んで静止する。中央を支配しながら、後方に控えるクイーンとビショップの通り道を開ける手だ。

 カティアが同じくキング前のポーンを二マス押し出すと、敵は右のナイトを斜め前へ跳ねさせた。こちらは左のナイトを斜め前へ進めて自分のポーンの守りに回り、白の右ビショップがカティアのナイトの目の前に割り込んできた。

 

 カティアが左端のポーンを一マス前へ出すと、白はためらいもなくビショップでこちらのナイトをはじき飛ばした。エクスチェンジ・バリエーションだ。

 

 序盤は、カティアもさほど大きなミスはしない。

 チェスのオープニングは展開がある程度決まっているからだ。実力差が現れるのは中盤で、やはりそこを乗り越えなければ勝ちはない。

 

 十手目あたりからカティアは自分で考えるのをやめる。

 手元の『カンニングペーパー』が示す通りに、黒の駒へ次々と指示を出す。

 

 ここまで来ればあとは単純な性能勝負だ。大量の対戦記録を魔法で封じ込めた自作のルーズリーフが、この巨大チェスよりも賢いことを祈るしかない。

 

「………よしよし」

 

 言われるがままに指示を出し続けているうちに、いつの間にか盤上の駒は随分と減っていた。

 

 石の兵士たちが大量に砕かれて破片が石畳に散らばっている。

 残った駒を見渡せば、黒がわずかに優勢だ。カティアは祈るような気持ちで次の指示を出した。

 

 黒のルークが、静かに三マス滑った。

 白のキングが動きを止めた。やがてキングはゆっくりと王冠に手をかけ、それをカティアの足元へ静かに投げ出した。

 

「やった――!」

 

 カティアは拳を突き上げて跳び上がった。

 勝った! ついに勝った! 盤上の駒たちは左右に音もなく退き、前方の扉への道を開けると、一斉に深々とお辞儀をした。カティアは足早にその間を通り抜け、次の通路へと踏み込む。

 

 ここから先は未知の領域だ。

 短い通路を抜けて次の扉を押し開けた瞬間、ひどい臭いが鼻を打った。思わず袖口で口元を押さえる。

 

 そこにいるのはトロールだった。

 ハロウィンのときよりもさらに巨大な個体だ。幸いなことに気絶していた。

 部屋の中央で横倒しとなり、頭のこぶは血に濡れていた。部屋に荒い寝息が鳴り響いている。

 

 これもハリーたちが倒したのだろうか。

 カティアが小走りで通り過ぎようとしたとき、不意に先の扉が開いた。

 

 扉の向こうからハーマイオニーが姿を現した。

 互いに姿を視認する。カティアは話しかけようとした。

 

 しかしハーマイオニーの右手がローブへ飛んだのを見て、対話を泣く泣く諦める。

 

ペトリフィ――

 

 しかし、ハーマイオニーの声は続かなかった。

 

 薄紫の『睡眠呪文』が、彼女の胸元を貫いていた。

 衝撃で後ろへよろめいたハーマイオニーは、そのまま崩れ落ちる。

 

 カティアの人差し指の先端が、僅かに焦げていた。

 人差し指を唇に寄せ、細く漏れる煙をそっと吹き消し、カティアは眠る友人をじっと見下ろす。

 

「ごめんね、ハーマイオニー」

 

 ……こんな乱暴な真似はしたくなかった。

 ただ、ハーマイオニーは未だに『カティアがナターシャを復活させようとしている』と信じているだろう。先を行ったと思われるハリーを助けることを考えると、話し合う時間など捻出できるわけもない。

 

 ハーマイオニーを放置して気絶したトロールに近づく。

 万が一、トロールがハーマイオニーより先に意識を取り戻したら危険だ。カティアは魔法で刃渡り一メートルほどの両手剣を出現させて手に取ると、切っ先をトロールの首筋に押し当てた。

 

 力を込めて刃を押し込む。

 トロールは一度だけ大きく痙攣し、それきり動かなくなった。轟いていたいびきが止まると、部屋はしんと静まり返った。

 

 カティアは軽く鼻を鳴らして次の扉へ向かう。

 次の部屋には怪物も石像もなかった。

 部屋の真ん中に細長いテーブルがあり、その上に寸分違わず同じ大きさ、同じ色の小瓶が八つ、一列に並んでいる。

 

 カティアが足を踏み入れると、背後の入口が紫の炎に包まれた。

 前方の扉もまた、黒い炎の壁が行く手を阻む。

 

 閉じ込められたというわけだ。カティアはテーブルの上に置かれた巻紙を手に取った。

 それにはこう書かれていた。

 

 前には危険 後ろは安全

 君が見つけさえすれば 二つが君を救うだろう

 

 八つのうちの一つだけ 君を前進させるだろう

 別の一つで退却の 道が開けるその人に

 他の三つはイラクサ酒 二つは危険な殺人鬼

 残る一つを選んだら 行き着く先は夢の中

 

 君が欲しがるその一つ どれかを選んでみるがいい

 

 第一のヒントは殺人鬼 人気者の二人組

 端に住むのはありえない 挟まる瓶はただ一つ

 

 第二のヒントは開拓者 慎重なれども聡明で

 前に進みたいならば 毒の隣は選ばない

 

 第三のヒントは大通り 真ん中四つに日差しさす

 君が引き返したいのなら 明るい道を行くが良い

 

 第四のヒントは飲んだくれ 隣の席には座らない

 そのうち一人は不眠症 左の瓶は眠りの薬

 

 第五のヒントは相談者 君が味方を探すなら

 右から四つ目を飲んだとしても 明日は必ず訪れる

 

 第六のヒントは別人で 彼らは互いに赤の他人

 それは右から三番目 そして六番目の薬

 

 最後のヒントは前後の話 進むは戻るの左側

 戻りたいなら右側四つ そのうち一つが帰り道

 

「…………………………」

 

 カティアは、たっぷり十秒はその記述を見つめた。

 

「……ふうん」

 

 純粋な論理パズルだ。

 賢者の石を守る防衛機構としては、なかなか洒落た仕掛けだと思った。スネイプもいいセンスをしている。

 

 そして、問題自体はそれほど難しくもない。

 形も色も同じ八つの瓶が一列に並んでいて、その中から求める薬を選ばないといけない。

 前に進める薬と後ろへ戻れる薬がそれぞれ一つ。加えて、イラクサ酒が三つ、毒薬が二つ、睡眠薬が一つ。

 

 カティアは鼻歌混じりに前進のための薬を手に取り、一息に飲み干した。

 まるで冷たい氷が体中を流れていくようだ。

 カティアは瓶を置いて黒い炎の中へ踏み込む。炎がメラメラとカティアをなぞったが熱くはなかった。

 

 しばらく黒い炎の中を歩き続け、カティアはとうとうその向こう側へ抜け出た。

 

 

 

 

 スネイプのクイズの答え

 左から、①イラクサ酒、②前進薬、③イラクサ酒、④毒薬、⑤後退薬、⑥毒薬、⑦睡眠薬、⑧イラクサ酒

 

 




スネイプのクイズの答えは透明文字で掲載しています
気になる方はマウスや指で引っ張って範囲選択をし、確認してください


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