銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編   作:トリスメギストス3世

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023:まだ一緒にいたくて

 マグルの学校でもそうなのだが、ホグワーツの生徒も噂話が大好きだ。

 とりわけ秘密の冒険ともなれば特別で、賢者の石を巡る噂は一瞬で城中を駆け回った。

 

 しかし噂は所詮噂なので人の口から口へと渡るたびに変質する。そして三日も経つころにはもはや誰も元の話など覚えていないというのも良くある事だった。

 

「ねえ、本当なの?」

 

 ラベンダー・ブラウンが大広間の朝食の席でカティアの袖をぐいとつかんだ。丸い目が好奇心でいっそう見開かれ、ヨーグルトが机にこぼれたことにも気づいていない様子だ。

 

「トロールのこと。三体を一人で殴り倒して、全部食べたって聞いたんだけど――それって本当? ねえ、本当なの?」

 

「そんなわけないでしょうに……」カティアはため息をついた。

 

 例えばこんな具合だ。

 これでもカティアは同学年のグリフィンドール生として、ラベンダーとは一年間も同じ寮で寝泊まりしている。しかし結局はこの有様で、カティアは未だにトロールを素手で仕留めて丸かじりにするような存在だと思われているらしい。

 

「ラベンダー、あなたはいったい私のことをなんだと思っているのよ……」

 

「でもスーザンが言うには――」

 

 ラベンダーの仕入れた不毛なゴシップを聞き流しながら、カティアは魔法の天井を見上げた。

 入学当初のように、話しかけるだけで怯えられたりしなくなっただけ改善したと考えるべきなのかもしれない。

 

 肩を落としながら、カティアは鞄の中から小さな包みを取り出した。つい先ほどのふくろう便で届いたばかりのものだ。

 

「はい、これ。よければパーバティに渡してくれる?」

 

「何これ、何が入ってるの?」ラベンダーはたちまち包みへと興味を移した。

 

「たいしたものじゃないわ。マグルの筆記具よ。パーバティには助けてもらったから」

 

 魔法族は羽ペンを愛用するが、マグル育ちのカティアとしては時々びっくりするほど使いにくい。

 最初の一週間ぐらいは物珍しさや憧れで使えなくもないのだが、次第に数文字書くたびにインク壺にペン先を浸さなきゃいけない不便さが無視できなくなってくる。もちろん、『インク補充』や『スペルチェック』などといった便利な魔法がかかった羽ペンも存在するのだが、カティアはマグル製のボールペンを好んでいた。

 

 北ロンドンのホワイトホール夫妻にお願いして取り寄せた今回の贈り物も、それなりにいい品ではある。

 

「へえ……マグルのペンってそんなに使いやすいの?」純血のラベンダーは包みをひっくり返し、しげしげと眺めた。

 

「意外と評判はいいのよ。ロンは分解して戻せなくなっていたけれど」

 

 

―――――――――

 

 賢者の石をめぐる大騒動からまる二日と経たないうちに、クィディッチの決勝戦がやってきた。

 優勝がかかった大一番だ。グリフィンドールがこの試合にかける熱量たるや、並大抵のものではなかった。

 

 キャプテンのウッドは前日の昼過ぎから廊下をうろうろし、誰に言うでもなく作戦をぶつぶつとつぶやき続けることでハッフルパフの一年生を怯えさせた。

 ハリーにいたっては地下室でクィレルと向き合ったときよりも顔色が悪く、見ているこちらが心配になるほどだった。実際、百年ぶりの最年少シーカーながら二回も劇的な勝利を呼び込んだハリーへの期待は絶大なもので、それを一身に受け止める身としては世界の命運をかけた闇の帝王との戦いより、決勝戦でスニッチが取れない事のほうが怖いらしい。

 

 試合当日の朝、カティアはハーマイオニーと二人でハリーの胃に目玉焼きを詰め込んでいた。

 

「ハリー、少しは食べたほうがいいわ。試合が長引いたら空腹で辛いわよ」ハーマイオニーが説得する。

 

 しかし、ハリーは呆然と首を横に振った。

 

「ごめんハーマイオニー、だけどどうしても入らないんだ……」

 

 しかし朝飯抜きでチームのシーカーを送り出すわけにもいかない。

 カティアとハーマイオニーがあの手この手でハリーに餌付けしていると、顔にグリフィンドールの赤と金のペイントを塗りたくったロンがスキップしながら大広間に入ってきた。

 ロンはハリーの肩を後ろからぽんと叩いて朗らかに笑う。

 

「ハリー、君なら楽勝だよ。ハッフルパフ戦みたいにやればいいのさ。パッとスニッチを取っておしまい! 簡単さ――」

 

 それができれば苦労しない、とハリーの顔に書いてあった。

 しかし、結果だけを見ればロンの言葉もあながち的外れではなかった。試合が始まるとグリフィンドールは嵐のような猛攻でレイブンクローを終始圧倒し、あれよあれよという間に百二十点差がついたのだ。

 

 そして最後にはハリーが見事スニッチをつかみ取った。

 優勝だ。グリフィンドール生は咆哮をあげ、マクゴナガルが赤と金の旗を振り回して狂喜乱舞していた。試合後の談話室では魔法の紙吹雪が天井いっぱいに舞い散った。グリフィンドールはクィディッチ杯を勝ち取り、夢見心地のまま学年末のパーティーへとなだれ込んだのだった。

 

 大広間は、赤と金のグリフィンドール・カラーで飾られていた。獅子を描いた巨大な横断幕がハイテーブル後方の壁を覆っている。

 

「いいものだねえ……」ロンは大広間全体を見回してニンマリと笑った。

 

 ロンが軽く顎でスリザリンのテーブルをしゃくる。

 そのテーブルは意気消沈していた。彼らは六年連続で寮対抗杯を獲得していたが、その栄光も今年で終わりだ。もっともそれだって寮監スネイプによる露骨な贔屓なしには成し得なかった栄誉であることは、ホグワーツでは公然の秘密だった。

 

 大広間に踏み入ると。どのテーブルの生徒もハリーを見ようと身を乗り出した。

 賢者の石の一件があった上に天才シーカーの名をほしいままにするハリーは、名実ともにグリフィンドールで一番の人気者だった。

 

「放っておいてくれたらいいのに……」ハリーはロンの長身の陰に隠れようとしながらもごもごと呟いた。

 

 対して、カティアの方は相変わらず他寮の生徒たちに怖がられていた。

 同じ有名人でもハリーとは天と地ほどの差だ。感情に出さないよう気をつけているだけでカティアも人並みには傷ついているのだが、気にしてもしかたがない。そして席に着いてから、カティアは自分がネビルの隣に座ってしまったことに気づいた。

 

 大広間の飾りつけに気を取られていたらしい。カティアは肝が冷えたが、ネビルは少し身を縮こまらせただけで席を立ちはしなかった。

 

 しばらくして、ネビルは蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「……僕の勘違いだったって、聞いたよ」

 

「え?」カティアは思わず聞き返した。

 

 じっとネビルを見つめると、彼はびくりと身をすくませた。

 

「あの日のこと。君は『人喰い』を復活させようとしていたわけじゃなかったって、ロンが……」

 

「ああ、その話」カティアは思い出した。

 

 ネビルはひどく迷っているようだった。こちらを絶対に見ないようにしながら、テーブルの上の皿をじっと見つめてぽつりと言った。

 

「ごめん」

 

「別にいいけれど……」

 

 カティアはしばらく待ってみたが、ネビルの言いたいことはそれだけらしい。

 相変わらず分厚い壁を感じたが、このあたりが限度だろう。互いに背負ったものが大きすぎる。正直なところ、カティア自身もネビルと仲良くしたいかと問われれば、そうでもないというのが本音だった。

 

 ネビルが正面に向き直った。

 何とも気まずい時間だったが幸いなことにダンブルドアがすぐに現れ、ガヤガヤ声が静かになる。

 

「また一年が過ぎた!」

 

 ダンブルドアがほがらかに言った。ブルーの目が愉快そうにきらめく。

 

「何と言う一年だったろう。わしにとっては一瞬でも、若き君たちにとっては長い長い一年だったに違いない。さてさて――ここで寮対抗杯の発表をすることになっておる」

 

 ダンブルドアの読み上げた最終点数は、グリフィンドールの一位を揺るぎなく示していた。

 グリフィンドールのテーブルから嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音が爆発した。カティアがちらりと教職員テーブルに目をやると、スネイプは目に見えて不満げな仏頂面を作っていた。

 

「よし、よし、グリフィンドール。よくやった」ダンブルドアが言った。「まあ実を言うと最終順位はいつもこの発表の前に決まるわけではない。つい最近の出来事も、きちんと勘定に入れなくてはなるまいて」

 

 広間全体がしんと静まり返った。ダンブルドアが軽く咳払いをした。

 

「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう……まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」

 

 ロンの耳がみるみる赤くなった。

 

「この何年間か、ホグワーツでは見ることができなかったような見事なチェスの指し回しを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに五〇点を与える」

 

 グリフィンドールの歓声は、魔法で描かれた夜空の天井を吹き飛ばしてしまいそうなほどだった。

 

「私、あれに四回負けてるのよ」カティアはロンにそっと耳打ちした。

 

 まったくもって、マクゴナガルの巨大チェスは本当に難しかった。あれの突破だけにカティアは半年近くの対策が必要になったのだ。

 

 しばらく経ち、広間がようやく静けさを取り戻した。

 

「次に……ハーマイオニー・グレンジャー嬢に……炎に囲まれながらも冷静な論理で活路を切り開いたことを称え、グリフィンドールに五〇点を与える」

 

 ハーマイオニーは顔を真っ赤にして腕に顔を埋めた。

 

「次は、エカテリーナ・アシュリー嬢……」

 

 大広間が水を打ったように静まり返った。

 

「……非常に難解な魔法の仕組みを読み解き、それを現場で応用するまでに至ったことを称えて、グリフィンドールに五〇点を与える」

 

 てっきりクィレルとの激しい魔法戦を称えられるものとばかり思っていたが、ダンブルドアが重きを置いているのは『みぞの鏡』の方らしい。もっとも、成人の魔法使いとも渡り合えると広く知られるのは、カティアの事情を考えればあまり好ましいことではないのも確かだ。

 

 それでもグリフィンドールのテーブルからは盛大な拍手が湧き起こり、カティアはほっと胸をなでおろした。

 

「そして四番目は、ハリー・ポッター君……」

 

 広間中が、水底のような静寂に包まれた。

 

「……類まれなる精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに六〇点を与える」

 

 広間を揺るがすほどの歓声が巻き起こった。ハリーは頬を赤くしながらも、机の下に隠れようか真剣に迷っている顔をしていた。

 しばらくしてダンブルドアがゆっくりと手を上げた。割れんばかりの喝采が、波が引くようにじわじわと静まっていった。

 

「勇気にもいろいろある」ダンブルドアはおだやかに微笑んだ。「敵に立ち向かうというのはその象徴じゃ。しかし、自分よりはるかに格上の相手に、退いてはならぬ瞬間というものも時にある――そこでわしは、ネビル・ロングボトム君に五〇点を与えたい」

 

 圧倒的格上の敵扱いのカティアは苦笑いするほかなかった。

 割れんばかりの歓声がグリフィンドールのテーブルから湧き上がり、ネビルは青ざめた。ネビルはこれまで、グリフィンドールのために一点も稼いだことがなかったのだ。

 

「さあ、みなの者、祝いの宴を始めようぞ!」

 

 ダンブルドアがにこやかに両手を広げると、テーブルの上にたちまち料理が並んだ。

 

 ―――――――

 

 学年度末のパーティーの翌日、試験の結果が発表された。

 

 カティアは、呪文学以外の教科はどれも非常に良好な点数が取れていた。これならホワイトホール夫妻に問題なく見せられると胸をなで下ろした後、成績を自慢する趣味もないためさっさと成績表を鞄の中にしまい込んだ。

 

 しかしハーマイオニーは、カティアの成績をどうしても知りたがった。

 

「ねえ、カティア。成績はどうだった? 私はもちろん全科目合格よ。……それで、あなたの点数はどうだったの? 言いたくないなら別に構わないけど、呪文学の記述問題はミランダ・ゴズホークの三章から出ていたでしょう。あなたならきっとちゃんと書けていたと思うのだけど……!」

 

 背後でハリーが呆れたように目をぐるりと回した。

 散々渋った末に根負けして成績表を差し出したカティアだが、それをひと目見たハーマイオニーは明らかにほっとした様子だった。

 

 どうしてそんなに嬉しそうなのかを尋ねると、ハーマイオニーは慌てて表情を取り繕う。

 

「よかった、呪文学も合格していたのね。それを確認したかったの」彼女は早口でそう言った。

 

「いいや、違うね」ロンが意地悪そうに口を挟んだ。「カティアの成績を見て、自分が学年トップだと確かめたかっただけさ」

 

 ハーマイオニーは「そんなわけないでしょ」とぶつぶつ呟きながら顔を赤くした。

 

 それからすぐに荷造りをしなければならなかった。

 カティアは教科書やローブを旅行鞄に詰め込むと、杖をひと振りしてそれをまるごと白猫に変えてしまった。するするとカティアの肩に登ってくる猫を眺めながら、大量の本をトランクに収めようと四苦八苦していたハーマイオニーが羨ましそうな声をあげた。

 

 また、全生徒に『休暇中は魔法を使わないこと』という注意書きが配られたが、カティアは指を一度鳴らしただけでその紙切れを灰にする。ハリーはそれをじっと目で追っていた。

 

「カティアはホグワーツの外でも魔法が使えるって言ってたよね?」

 

「ええ」カティアはハリーが次に何を言おうとしているか察して先回りした。「だけどやり方は教えてあげられないわ。純粋な人間には出来ないと思う」

 

 ハリーはがっくりと肩を落としたが、それは無理もない。

 夏休みの間ダーズリー家では魔法を使えないというのは、さぞ心細かろう。羨む気持ちもわからなくはなかった。

 

「夏休みに三人とも遊びにおいでよ」とロンがすかさず口を挟んだ。

 

 今度はカティアが複雑な気持ちになる番だった。

 ロンは綺麗さっぱり忘れているようだが、正統な魔法族であるウィーズリー家の両親はカティアを自宅に歓迎したがらないだろう。この話が具体的に進むようであれば、カティアが"遠慮”する必要があった。

 角の立たない断り文句としては、『養父母が保守的で厳しいから、男の子の家への泊まりがけは許してもらえない』あたりが無難なところだろうか。

 

「ありがとう。何か楽しみに待てるものがなくちゃやってられないよ」とハリーは答えていた。

 

 そしていよいよ夏休みが訪れ、ホグワーツを去る時が来た。

 一年生たちはハグリッドが先導する湖を渡る小舟に乗り、それからホグワーツ特急へと続々と乗り込んだ。

 

 コンパートメントに腰を落ち着ければ、片道七時間ほどの旅だ。

 窓から午後のやわらかな日差しが斜めに差し込んでくるため、カティアはたちまちまぶたが重くなってきた。ハリーたちのおしゃべりを耳の端に拾いながらうとうとしているうちに、いつしか車窓の景色は深い緑の田園風景へと移り変わり、気がつけば汽車はマグルの町々を次々と通り過ぎていた。

 

 やがて列車はキングズ・クロス駅の、九と四分の三番線ホームへと静かに滑り込んだ。

 プラットフォームを出るまでにはしばらく時間がかかった。マグルたちに悟られないよう、ゲートから魔法族の生徒を数人ずつ、間を置きながら外へ送り出さなければならないからだ。

 

 カティアは猫に変身させていた旅行鞄を元の形に戻した。

 マグルの世界が近づくにつれ、ハリーの顔からみるみる生気が消えていった。

 

「絶対に手紙を書いてね、カティア」

 

「はいはい、ちゃんと書きますよ。それじゃあ、ハリー、ハーマイオニー、ロン――またね」

 

 残念ながら、のんびり別れを惜しんでいる余裕はなかった。

 魔法族の保護者が勢揃いするキングズ・クロス駅は油断のならない場所だ。うっかり決闘騒ぎにでもなったら目も当てられない。

 

 慌ただしく改札を抜ける間際、カティアはさりげなく目元へ手をやった。

 鮮やかな真紅の瞳を人間らしい茶褐色へ。鋭く伸びた犬歯をごく"普通"の大きさへ。特にカティアの場合は歯並びには多少手を加えないと、マグルの反応がすこぶる悪いのだ。

 

 駅を出るとすぐに実家のリムジンを見つけた。スーツを着た運転手が傍で待機している。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「はいはい、ただいま帰りましたよ。悪いけれど急いで車を出してくれるかしら」

 

 荷老齢のお抱え運転手に荷物を預けてリムジンへ乗り込む。

 キングスクロスからハイゲイトまではそれほど遠くない。ロンドンなので途中で多少渋滞には捕まるが、それを加味しても車はすぐにホワイトホール邸の駐車場に滑り込んだ。

 

 実家の敷居をまたいだカティアは、いつものように大きく息を吸った。

 

「ただいま帰りました! ジョセフおじい様、マーサおばあ様! カティアが帰ってきましたよ!」

 

 屋敷中で響くような大声で叫ぶと、杖を突いたジョセフとそれを支えるマーサが現れた。

 ジョセフは嬉しそうに目を細める。

 

「おかえり、カティア。随分と大きくなったじゃないか」

 

 帰宅して早々に思わず苦笑してしまった。カティアはむしろかなり小柄な方だ。

 

「学校の食事は口に合いましたか? 今夜はあなたの大好物を用意させましたよ」

 

 マーサがすぐに前に出て温かく抱きしめてくれた。カティアは頬を擦りつける。

 

「さあ、学校の話は夕食のテーブルでたっぷり聞かせておくれ」ジョセフが嬉しそうに言った。

 

「まずはその大きなトランクを二階の自分の部屋に置いておいで。それから手を洗って、食堂にいらっしゃい。料理が冷めないうちにね」

 

「はい! すぐに戻ってきますね!」

 

 カティアはトランクの取っ手を掴むと、螺旋階段をトントンと駆け上がっていった。

 そして自分の部屋に入った瞬間、カティアはふと足を止める。

 

 デスクの上に、小包がひとつ。

 見慣れない物だ。薄茶色の羊皮紙で丁寧に包まれて麻ひもで十字に縛られている。老夫妻が用意してくれたものなら、直接手渡してくるはずだ。

 

 カティアがそれを手に取ると、宛名が斜めの細長い字で記されていた。

 

エカテリーナ・N・アシュリー様

北ロンドン、ハイゲイト、ホワイトホール邸

 

 裏返して差出人の欄に目を落とした瞬間、カティアは凍りついた。

 

アルバス・ダンブルドア

 

 震える指でひもをほどく。

 包み紙をそっと開くと、小さなクリスタルの小瓶が掌の中に転がり出た。透明な液体を湛えたそれは、栓が蝋で丁寧に封じられている。

 

「……何、これ?」

 

 瓶を天井にかざせば、中身が電球の光を反射して煌めいた。

 疑問符だらけのカティアだったが、一枚の手紙が同封されていることに気づいた。

 そこには細長い字でこう記されていた。

 

 エカテリーナ・アシュリー嬢

 

 同封の小瓶には、『命の水』が入っています。

 君のことをニコラスに話したところ、特別に分けていただけることになりました。

 

 大事に使いなさい。

 

 敬具

 アルバス・ダンブルドア

 

 信じ難い内容だった。カティアは手紙から目が離せないまま、その場に釘付けになった。

 どれほどの時間が経っただろう。必死に内容を飲み込もうとしていると、階下からマーサの声が飛び込んできた。

 

「カティア! お料理が冷めてしまうわ。早く降りていらっしゃい!」

 

 カティアははっと我に返った。

 

「はーい! すぐ行きます!」

 

 小瓶を両手で握りしめ、カティアは部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 










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