銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編   作:トリスメギストス3世

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031:A friend in need is a friend indeed.

 たしかにナターシャはここにいた。

 天文台の最上階で、両腕を広げて娘を待っていた。しかしどこからどこまでが夢だったのだろう。

 

「お母様? お母様、どこにいるの?」

 

 自分の声が石壁に反響して虚しく消える。

 カティアは部屋中の物をひっくり返し、冷たい石の床を靴下のまま歩き回った。古い天体観測の機材の陰を覗き、分厚い埃をかぶった星図の束をはぐり、扉の影も確かめる。

 

「私はここよ! お母様、お母様!」

 

 夢の中ではナターシャ自身の視点になっていたりと混乱している部分もあった。

 しかしそんなことはどうでもよかった。大好きな母親が、確かに自分を抱きしめてくれたのだ。

 

 女子寮で寝ていたはずの自分が天文台の最上階に移動していたことなんてどうでも良かった。

 今もきっと母親は近くで自分を見守っているに違いないと思わずにはいられなかった。

 

 しかし幸か不幸か、『人喰い』ナターシャの姿はどこにもなかった。目の奥がツンと熱くなり、またたく間に視界が歪んでいく。

 しばらくして、カティアはついに自分の見たものは単なる夢だと認めるしかなくなってしまった。

 カティアは石の床にへたり込み、両膝を抱えて手のひらに顔を埋めた。冷たい石の感触が靴下越しに伝わってくる。

 

 しばらくの間、カティアはそのままだった。

 あまりの虚脱感に動けないままぼんやりと宙を舞う埃を眺めていた。天文台の窓から差し込む朝の光が、じりじりと床を這うように伸びてくる。

 

 どれほど時間が経ったか分からないまま放心していると、遠くから甲高い鳴き声が聞こえてきた。

 続けて石段を駆け上がってくる足音と、それに混じってきゃんきゃんと騒ぎ立てる声が近づく。次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「カティア! ここにいたの!」

 

 息を切らしたハーマイオニーが飛び込んできた。

 その腕の中でメイベルが全身を使って暴れ、カティアの姿を認めた瞬間に一際大きな声で吠える。

 

「朝起きたらベッドが空で、靴まで脱ぎっぱなしで、どこを探してもいないんですもの! ロンたちも知らないって言うし、まさか夜中に外に出たんじゃないかって——」

 

 怒った顔のハーマイオニーがまくし立てながら近づいてきたが、カティアを見てぴたりと止まった。

 カティアは慌てて顔をそむける。頬に涙の痕がくっきりと残っていたに違いない。

 

「……カティア」ハーマイオニーの声が急に落ち着いた。「どうしたの? 何かあった?」

 

 メイベルがハーマイオニーの腕から飛び降り、カティアの膝の上によじ登ってきた。

 小さな舌でぺろぺろと頬を舐め回してくる。

 

「………さあ?」カティアは努めて平坦な声で言った。「ホームシックかしらね……?」

 

 ハーマイオニーが信じていないことは良く分かった。

 彼女はしばらくカティアの顔をじっと見つめていたが、それ以上は何も聞いてこなかった。ただ黙って隣に腰を下ろしてくる。

 

 しばらく時間を置いて、ハーマイオニーが何でもない事のように切り出した。

 

「……今日が日曜日で良かったわ。授業とかがあったら問題だったもの」

 

「そうね。もしかして朝ご飯を食べ損ねたかしら……?」

 

「まだ少しは残ってると思うわ」ハーマイオニーはさりげなく立ち上がり、カティアに手を差し伸べた。「行きましょう。メイベルだって起きたらご主人様がいないのだから大騒ぎよ」

 

 カティアはその手を取って立ち上がった。

 指をパチンと鳴らすと足元に簡単なスリッパが出来上がり、その中に足を突っ込む。

 

 日曜日にしても、城の中は静かだった。ハーマイオニーに連れられて廊下を歩きながら窓の外を覗くと、生徒たちは思い思いに日曜の朝を楽しんでいるようだった。クィディッチ競技場の上空を箒で飛び回っている生徒もいれば、湖の畔で肩を寄せ合って語り合っている生徒もちらほら見える。

 

「……ねえ、カティア」ハーマイオニーがこっそりと声を潜めた。「本当は、何があったの?」

 

 カティアは誰にも聞かれていないかどうか周囲に視線を巡らせた。

 少し気持ちが落ち着いてくると、女子寮で寝たはずなのに天文台の塔で目が覚めたという事実が、いよいよ頭の中で重みを増してくる。

 

「私にも、よく分からないの」

 

 カティアはかなり迷ったが、結局ハーマイオニーに本当のことを話すことにした。

 

「ベッドで寝たはずなのに、起きたら天文台の塔にいたわ。……まさか、夜のホグワーツを一人で歩き回っていたのかしら、私」

 

「……そうだと思ったの」ハーマイオニーが深刻な顔で言った。「だってあなたの靴も杖も、ベッドの傍に置きっぱなしだったのだもの。ラベンダーとパーバティに怪しまれないように一応隠してきたわ」

 

 カティアは慌ててローブのポケットをまさぐった。確かに杖を持っていない。

 どうやらカティアは、本当に夢うつつのまま深夜の城を徘徊して天文台の塔の最上階にまで歩いていったらしい。

 

「……夢遊病?」

 

 カティアはゾッとして自分の両手を見つめた。

 寝ている間に意識もなく城の中を歩き回り、気づけば塔の最上階に辿り着いていた。では、その間に何をしていたのか。もし誰かに見られていたとしたら。もし誰かを噛んでいたら―――

 

「そうね」ハーマイオニーが言いづらそうに続けた。「でもカティア、これからは本当に気をつけなければいけないと思うの」

 

 カティアは低く呻いた。ハーマイオニーが言いたいことはよく分かる。

 どこまで行ってもカティアは『人喰い』ナターシャの娘だ。仮にもホグワーツがカティアを生徒として受け入れているのは、カティアが行動を理性で制御出来ているからに他ならない。

 

 しかし理性を失って夜のホグワーツを一人で徘徊するようなら話は変わってくる。

 誰かに危険だから学校を出て行けと命令されたら従うしかないと自分でも思うし、何より夢うつつのまま誰かを噛み殺すような展開も絶対に避けたい。何が悲しくて食べたくもない人間を食べなければならないのだ。

 

「……しばらくは自分をベッドに繋げてから眠るしかないわね」カティアはため息をついた。

 

「分かってるならいいの。私も協力するから」ハーマイオニーはホッとしたようだった。

 

「だけどカティア、これは私たちだけの秘密にしましょう。ラベンダーとパーバディが怖がるわ……」

 

 ―――――――――

 

 その日のうちに、ハーマイオニーはある種の『手錠』を用意してくれた。

 

 片方をカティアの手首に、もう片方をベッドの足に繋げる構造だ。

 どうやら魔法によって日が昇るまで鍵が開かない仕組みになっているらしい。

 

「鎖は細いから、カティアなら力づくで引き千切ることはできると思うわ」ハーマイオニーは手錠を手のひらの上で転がしながら説明した。「その場合は大音量で警報が鳴るようになっているの」

 

「つまり、目が覚めていれば自分で外せるけれど、寝ぼけたまま動き出そうとすれば警報が鳴るということ?」

 

「そういうことよ」ハーマイオニーが頷いた。「夢うつつのカティアが誰にも気づかれないまま動き出すのを防げればそれでいいんだもの。警報さえ鳴れば私が気づくわ」

 

 これはなかなか良いアイデアだった。

 真夜中にお手洗いに行きたくなったときに信じられないほど邪魔という大きな欠点こそあったが、それを差し引いてもこの小さな手錠のおかげで、カティアはある程度心穏やかに眠ることができた。

 

「きっとあの時はカティアも疲れていたのよ」

 

 あの深夜徘徊から二週間が経った頃、ハーマイオニーが声を潜めて言った。

 魔法薬学の授業中だった。スネイプ先生の地下牢の教室はいつものように薄暗く、じめじめとした冷たい空気の中に薬草と煙の入り混じった匂いが漂っている。あちこちから薬液のぐつぐつと煮える音と、時折上がる紫や緑の湯気が教室を満たしていた。

 

「あれからあなたは一度も……“夢遊”はしていないわ。カティアもホームシックにはなるのね」

 

「まあ私は色んな意味でお母様は恋しいけれど―――」カティアは大釜をかき混ぜながら、できるだけ口を動かさないようにして答えた。「―――それにしても、あんな夢を見たのは久しぶりね」

 

 母と死別した直後はカティアもそれを認められず、生きたナターシャが迎えに来てくれる夢は良く見たものだ。

 ハーマイオニーは少しの間、薬液の色の変化を観察するふりをしながら考え込んでいた。

 

「考えすぎもよくないわ」ハーマイオニーがぼそぼそと言った。「あまり心配する必要はないのかもしれないわ。一度きりの夢なら——」

 

「グレンジャー、アシュリー」

 

 冷たい声が頭上から降ってきた。

 二人は同時に口をつぐんだ。セブルス・スネイプが音もなく背後に立っており、腕を組んで二人の大釜を見下ろしている。

 

「吾輩の授業中に私語は許されない」スネイプは静かに、しかしはっきりと言った。「それとも二人とも、すでにこの薬の調合を完全に習得したとでも?」

 

 カティアは最後の材料を鷲掴みにして大釜の中に放り込んだ。

 薬液の色が理想とされる若緑色に一気に変わった。カティアは挑戦的にスネイプを見上げて薄笑いを浮かべる。

 

「これでどーでしょうか? スネイプ『先生』?」

 

 気が付けば、クラス中がこちらに注目していた。

 ハーマイオニーの顔色が真っ青だ。スネイプは信じられないほど不機嫌になってカティアの大鍋を見たが、文句のつけようが無かったらしい。

 

「授業中の不真面目な態度、および教師に対するその不遜な口調を考慮し、グリフィンドールから五点減点」

 

 授業後、グリフィンドール生たちは地下牢から廊下へと雪崩れ出た。

 

「五点減点って何よ!」ラベンダー・ブラウンが憤慨して声を上げた。「あんなに綺麗に出来てたのに!」

 

「色だって完璧だったじゃないか」シェーマスが鞄を肩に叩きつけるように掛けながら言った。「スネイプは因縁をつけたいだけだ。あんなの公平じゃないよ」

 

 みんな大荒れだったが、カティアは減点された五点のことは別に構わなかった。自分の代わりに誰かが怒ってくれるだけで十分だ。

 

「次は薬草学よね」ハーマイオニーが時計を確認して声を上げた。「少し急がないと……!」

 

 地下牢から温室まではかなりの距離がある。四人は連れ立って足を速めた。

 

「今日もマンドレイクなの?」カティアが小走りになりながら聞いた。

 

「いいえ、確かこの前スプラウト先生が言っていたわ。マンドレイクの植え替えは一段落したから、今日からは『噛みつきチューリップ』に入るって」ハーマイオニーが息を切らしながら答えた。

 

 生徒に噛みつく植物がまた一つ増えるらしい。

 魔法の植物はどれもこれもこんなのばっかりだ。全体的に穏やかさを欠いている。

 

 野菜畑の脇を駆け抜けたところで、ロンが急に声を上げた。

 

「熱っ!」

 

 ロンはローブの内側に手を突っ込み、慌てて杖を引き出した。

 スペロテープでぐるぐる巻きにされた杖の先から黒煙がしゅうしゅうと立ち上っている。

 

「このポンコツ……最近、急に熱くなるようになっちゃったんだ」

 

 ロンの杖はずっとこんな調子だった。

 授業中に手からすっぽ抜けてフリットウィック先生の額に痛々しい瘤を作ったりと、傍から見ても誤作動の悪質さがどんどん増していることが伺える。

 

「ねえロン、何度も言ったけれど、本当にもう買い直さなきゃ」

 

 カティアは歩調を緩めることなく言った。

 

「その杖、そのうち私たちの誰かを爆殺するわよ」

 

「それは分かってるさ……」

 

 ロンは先端部が真っ赤に赤熱し始めた杖を後ろ手に隠しながら、ばつが悪そうに目を逸らした。

 

「だけどカティアも僕の家のことは何となく分かってるだろ。たとえママが僕を許してくれたとしても、結局新品の杖なんて買えないんだ……」

 

 いくらロンが何でもない事のように言っても気まずい瞬間ではあった。ハリーとハーマイオニーが、はらはらした様子でカティアを見る。

 もちろんカティアもウィーズリー家の事情は知っている。子だくさんで決して裕福ではないことなんて一目見たら分かる。そしてロンが空飛ぶ車で暴れ柳に突っ込み、全校生徒の前で母親から『吼えメール』を食らったばかりだ。

 

 自分で折ってしまった杖を買い直してほしいと言い出せないロンの気持ちは、痛いほど理解できた。

 

「……でもね、ロン、えっと……気を悪くしないで欲しいのだけれど―――」

 

 しかしそれでも、呪文が逆噴射したり勝手に発熱したりする杖など危険すぎる。

 もしロンの折れた杖が誰かに大怪我を負わせれば、ウィーズリー家は新品の杖百本分にも及ぶ賠償金を背負うことになるだろう。そして失われる社会的信用だけは、金では決して買い戻せないのだ。

 

 そういう事を何とか穏やかに伝えようと必死に言葉を探していると、ロンが苦笑いした。

 

「大丈夫だよカティア。杖は僕が何とか面倒をみるよ。それでほとぼりが冷めた頃にパパに事情を話して——」

 

「魔法の杖って自分で作れないのかなあ」ハリーが唐突に言った。

 

「え?」ロンとハーマイオニーとカティアが同時に返した。

 

 そうして話している間に温室に辿り着き、薬草学の授業が始まった。

 スプラウト先生が持ち込んできた噛みつきチューリップはとても好戦的な植物だった。鋭い花弁に指を食い千切られかけたカティアは、慌てて茎の部分を掴んで身体からできるだけ遠ざける。

 

「それで、杖って自分で作れるものなのかい?」

 

 ドラゴン堆肥の袋を開けながら、ロンがハーマイオニーに聞いた。

 ロンも折れた杖を好き好んで使いたいわけではないので、ハリーの案には興味津々だ。

 

「分からないわ……」ハーマイオニーは混乱したように首を振った。「杖細工ってとても高度な術なのよ。杖作りの肝心な技術はオリバンダー家に相伝されていて、厳しく管理されているって本に書いてあったわ」

 

「だけど僕たちは、オリバンダーほど上手く杖を作る必要はないんだ」ハリーがチューリップの噛みつき攻撃を器用に避けながら言った。「ロンが新しい杖を買ってもらうまでの、せめて呪文が逆噴射しないだけの繋ぎの杖でいいんだよ。ねえ、僕たちでも作れるんじゃないかな」

 

 カティアは酷く混乱したようにハーマイオニーを見たが、ハーマイオニーも全く同じ表情を返してくるだけだった。

 しかしハリーの言うことは筋が通っている。自作杖の性能がどれだけ低くても、折れた杖より危険ということは考えづらい。逆噴射して発熱する杖よりマシなだけの杖なら、何とか手が届くかもしれない。

 

「……試してみる価値はあるかもね」カティアは認めた。

 

 ロンの顔が希望でぱっと輝く。

 それを見て、ハーマイオニーもついに覚悟を決めたようだった。大きく深呼吸し、チューリップの鉢植えを自分から離れた位置に置きながら話し出す。

 

「だけど細心の注意を払う必要があるわ。本で読んだわ。無登録の杖製造は魔法省から問題視される可能性が高いの」

 

 そこについてはカティアも気になっていた。

 ヒト以外の魔法生物が杖を持つことは厳しく禁じられていたり、『杖を折ること』が事実上の追放処分として扱われることから分かるように、杖は魔法使いの身分証明としての側面がある。

 その杖の密造を誰かに見咎められて、追加の『吼えメール』を受け取るような羽目にはなりたくない。

 

「他人に販売したりしなければ、法律違反にはならないと思うけれど……」カティアは慎重に言葉を選ぶ。

 

「じゃあ決まりだ」ハリーがきっぱりと言った。「別に僕たち、それで悪い事をしようってわけじゃないんだ。それでハーマイオニー、杖を作るには何が必要なの?」

 

「……とても質のいい杖用の木材と、芯に使うための魔法生物の一部が必要ね」

 

 芯材については半吸血鬼であるカティアの髪の毛を使うという案を出してみたが、あまりにも忍びないという理由でロンに却下された。

 

「だけど私たちじゃドラゴンの心臓の琴線なんて用意できないわ」

 

 カティアは自分の杖を取り出して観察しながらため息をついた。

 もちろん、杖の芯材のために高価な材料を店売りで揃えたら本末転倒だ。何とか自力で手に入れられる芯材を見繕わなければならない。

 

 全員で考え込んでいると、ハーマイオニーが小さな声で提案した。

 

「魔法薬の材料キットの中から代用できるような物はないかしら。あれだったら私たちでも簡単に用意出来るでしょう?」

 

 杖の密造という難題を前にして、ハーマイオニーの目は好奇心で輝いていた。

 自分の知識がどこまで通用するか試してみたい気持ちでいっぱいなのだ。

 

「満月草を乾燥させたものとか?」ロンが身を乗り出して言った。

 

「試してみる価値はあるかもね」ハーマイオニーが返す。「私たちは強力な杖を作りたいわけじゃないから、絶対に不死鳥の尾羽が必要というわけじゃないもの」

 

 四人全員が、自分たちで杖を作るという作戦にわくわくしていた。

 薬草学の授業中小声で話し合い続け、噛みつきチューリップについての説明をそろってほとんど聞き流した挙句、授業終わりについにハリーが言った。

 

「ハグリッドに相談しよう」ハリーは肩をすくめた。「やっぱり月長石の欠片やイモリの脾臓を芯に使うのは無理があるよ。杖用の木材とか魔法生物の体の一部についても、事情を話せば何か譲ってくれるかもしれない」

 

 放課後、四人は授業の後に城を抜け出した。

 芝生を横切ってハグリッドの小屋へ真っすぐに向かう。カティアはメイベルも一緒だ。煙突から立ち上る煙が、夕暮れの空に灰色の筋を描いていた。

 

「ハグリッド! 僕たちだよ。ちょっと話があるんだ!」

 

 ロンがドアをノックすると、ファングの鳴き声と共に大きな足音が近づいてきた。ドアが開き、もじゃもじゃの髪と髭の隙間から黒い瞳がこちらを見下ろす。

 

「おう、お前さんたちか。こんな時間に四人揃ってどうした」

 

 ハグリッドは四人を見て少し驚いた顔をしたが、すぐに四人と一匹を小屋の中へ招き入れた。

 巨大な木製のテーブルに四人が並んで腰掛けると、ハグリッドは大きなティーポットを取り出してお茶を注ぎ始める。

 

 しかしファングがあまりにも大騒ぎしてメイベルにちょっかいをかけようとするので、カティアは自分の犬を守ろうと必死だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってファング。私のメイちゃんに何するの!」

 

「ファング、待て」

 

 ハグリッドが低い声で言うと、大型のボアハウンド犬は渋々と少し離れた位置で腰を落ち着けた。

 

「んでお前ら、こんな時間にどうした。また杖が逆噴射でもしたんか」

 

「いい線いってるよ。ハグリッド、実は僕の杖の話なんだ——」

 

 ロンが事情を話し始めた。

 フォード・アングリアの墜落で杖が折れたこと、スペロテープでの修理がうまくいかず逆噴射や発熱を繰り返していること、それでも家には新しい杖を買ってもらう余裕がないこと——。

 

「——それで新しい杖を作ってみようって事を考えたんだ」

 

「杖を新しく作る?」

 

 ハグリッドは度肝を抜かれたようだった。大きなティーポットを持ったまま固まり、もじゃもじゃの眉の下で目をぱちくりさせる。それから少し考え込むように顎髭をひと撫でし、何故か小屋の隅に立てかけているピンクの傘にちらりと視線をやった。

 

「……うーん。まあ、興味がねえとは言わん。授業に杖が必要って事情も分かるが……」

 

「本当に!?」ロンが身を乗り出した。

 

「俺も杖細工そのものは知らん。だが質のいい木材が必要なのは確かだ。それに芯材だって何でもいいわけじゃねえ」

 

「頼むよハグリッド……」ロンが熱っぽく言った。「新しい杖を買ってもらえるまでどうしても必要なんだ。ハグリッドが手伝ってくれなかったら、僕はその辺に落ちてる木の枝で杖を作ることになっちゃうよ」

 

 ハグリッドはお茶をどぼどぼと四つのカップに注ぎながら、何かを思案するように天井を見上げた。

 膝の上に乗り上がってきたメイベルの頭を大きな手でわしわしと撫でる。カティアのゴールデンレトリバーはここ最近とんでもない勢いで大きくなっていたが、ハグリッドの手の中にすっぽり収まったメイベルはまるで産まれたての子犬のようだった。

 

「お前さんたちが本気でやる気なら……まあ、よかろう。禁じられた森には質のいい木がたくさんある」

 

「本当に手伝ってくれるの?」ハーマイオニーが声を上げた。

 

「おう。だがお前らも俺と一緒に来い。お前らの杖だ。俺一人で採集はやらん」

 

 カティアたちは歓声をあげた。

 しかしハグリッドは太い指を一本立てて、悪戯っぽく四人を順番に見渡す。

 

「——それと、今日や明日はダメだ。昼間に行きてえからな。俺はお前たちが授業をサボるのは許さんし、森に入るとなりゃあ準備がいる」

 

 ハグリッドは意味ありげに視線を寄越してきたので、カティアはニヤリと笑った。

 互いに同じことを考えていることが分かる。昨年度、カティアはマクゴナガルとハグリッドと夜の禁じられた森にユニコーンを探しに行ったが、その時は非常に危険な目に遭ったのだ。

 

「週末まで待て」ハグリッドはきっぱりと言った。「次の土曜なら授業もねえし、昼間にゆっくり行ける。それまでにお前さんたちは、何の木で何を作りたいかとかのアイデアぐらいは練っとくんだ」

 

 

 




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