銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編 作:トリスメギストス3世
カティアがグリフィンドールの談話室に逃げ帰ると、暖炉のそばのソファに座っていたハリーたちが一斉に立ち上がった。
「カティア!」ハーマイオニーが駆け寄ってきた。「大丈夫だった? スネイプに何を言われたの?」
カティアはすぐにスネイプの部屋で起きたことを話した。手紙の内容、母の名前、そしてスネイプが見せた反応まで順を追って説明する。
「君のママがスネイプに手紙を送った!?」ハリーが大きな声を上げた。
「お願いだから声を落として!」カティアは慌てて談話室を見回したが、幸い誰もこちらの会話に注目していないようだった。
しかし、話している自分自身もいまだに信じられない気持ちだった。感情に任せてスネイプの部屋から飛び出してしまったのはいいものの、今さらになって母とスネイプがかつての死喰い人時代にどのような関係を築いていたのかが気になってくる。
もっとも、ハリーたちはスネイプがかつて死喰い人だったこと自体はそれほど意外には思っていないようだった。
「まああいつが悪玉なのはとうに分かっていたさ」ロンが鼻を鳴らした。「今はダンブルドア側についているにしてもね。だけど君のママとスネイプが仲良しだったなんてなあ……」
「私だってこんなの初耳よ」カティアは小さく首を振った。「お母様は『闇の帝王』配下時代のことをあまり話してくれなかったけれど……」
「きっと、幼い娘に教えるような話ではなかったのよ」ハーマイオニーがフォローするように言った。
「それで、どうやってカティアのお母様はスネイプに手紙を送ったのかしら……? その、お亡くなりになられてるでしょう?」
「さあ……。魔法薬学の教授就任おめでとうとか、娘のことをお願いねとか、今年のホグワーツは荒れるとか色々書かれていたけれど――」
もっとも、あの手紙から受ける印象ほどスネイプがナターシャに強い恩義や友情を感じているとは到底思えなかった。
これは単なる視点の問題なのだが、カティアに言わせればスネイプはとっくに『裏切っている』のだ。あの素っ気ない態度から推察するに、ナターシャの手紙も『面倒な奴が復活したかもしれない』と解釈された可能性の方がずっと高い。
「――占い関係かしらね。お母様はタロットが得意だったのよ」
「へえ、『人喰い』が占いが得意だったなんて初めて聞いた」ロンが興味を惹かれたように身を乗り出した。
カティアはなんとなく母の姿を思い出す。
占いではあるが、ナターシャは別に明日の運勢や恋愛運を知りたかったわけではない
「追手の動向とか移動手段の割り出しとか、何かと実用的に使っていたわ」
例えば闇祓いが紛れ込んだマグルのジャンボジェット機を特定して強襲したりなどだ。
ホワイトホール家の養女として落ち着いた頃、マグルのドキュメンタリーでその事故の特集が組まれているのを見たときには、さすがのカティアも驚いたものだ。因みに過激派のテロリストが爆弾を仕掛けたことになっていた。
「ま、亡くなったお母様から手紙が届いたのも、たぶんそれ関連でしょうね……」カティアは肩をすくめた。
彼女の占いはとても高精度だった。
あまりに外れないため、逆に『一度見た未来』の修正が効かず、何を見てはならないかを慎重に定める必要があったほどだ。ナターシャが水晶玉などよりタロットを好んだのは、解釈をある程度自分でコントロールできたからだろう。
……今にして考えてみると、ナターシャは自分が運命に捕まる日を随分早い段階から知っていたように思える。母が討伐される数時間前にお使いに出されたカティアが嘘の待ち合わせ場所を教えられたのは、愛する娘を自分から引き剥がして死の道連れにしないようにするためだったりするのだろうか。
そこから闇祓いや賞金稼ぎや、被害者遺族が本気で殺しに来た三カ月間は、カティアにとっても強烈なトラウマなのだが……。
「まあ大方、私がグリフィンドールに入ることは占いか何かで知ったのでしょう」カティアはそう結論づけた。「指定された日付になったら自動的にスネイプの元へ届くような、時間差の手紙を用意していたとか、そんなところじゃないかしら」
これで『死んだ母親から現在進行形のホグワーツを言い当てる手紙が届く』という現象は一応の説明はつく。スネイプはあの手紙を随分と真剣に捉えているようだったが、カティアはあまり気にしていなかった。
「……だけどカティア、あなた、つい最近にお母様と出会った夢を見たって言っていなかった?」ハーマイオニーが慎重に切り出した。
「まあ、たまにはそういう夢を見ることもあるわ」カティアは適当に言った。「何にしても、お母様が生きていたなら絶対に私を助けに来てくれたはずだもの。だから『人喰い』の復活なんて有り得ないわ」
とことこと足元に走ってきて抱っこをせがむメイベルを抱き上げて、何でもないことのように話題を先に進める。
「どちらかというと、私は手紙に『今年のホグワーツは荒れる』って書かれていたことの方が気になるけれど……」
「そりゃあ君、それは僕の杖が折れたことさ」ロンが胸を張って断言した。「墜落するフォードアングリアに、逆噴射する呪い……そりゃ君のママも厄年だって警告してくるよ」
――――――
未登録の杖づくりには誰にも見つからない安全な場所が必要だ。
特にハリーとロンは『次の校則違反は退学』とまで言われた前科持ちだからこそ、迂闊な場所では作業を始められない。
ただ、作業場についてはカティアとハーマイオニーに考えがあった。
日曜日の朝食後、四人は三階の廊下を訪れた。目の前には真鍮の取っ手がついた古びた木のドアがあり、その上には『故障中』の札がぶら下がっていた。
「ここよ」ハーマイオニーが堂々と言った。
「あー。君たちが気づいてないみたいだから言うけど」ロンが扉を指さしながら言った。「ここは女子トイレだ」
「そんなことは分かっているわ」ハーマイオニーが平然と答えた。
ハリーとロンが顔を見合わせた。
「あー……君たちは僕とハリーを女の子だと思っているかもしれないかもだけど―――」
「馬鹿言わないで。確かにあなた達は男性でここは女子トイレだけど、ここには誰も来ないから大丈夫よ」ハーマイオニーが請け負った。
それでも気が乗らないハリーとロンが扉の前で足踏みをするので、カティアはこう補足する。
「あのね、男の子たちは知らないかもしれないけれど、ここには面倒なゴーストが住み着いているの」
「ゴースト?」ハリーが聞き返す。
「名前は"マートル"。『嘆きのマートル』って呼ばれている女の子のゴーストよ」今度はハーマイオニーが答えた。「すごく感情的で、すごく被害者意識が強くて、とんでもない癇癪持ちなの。ほとんどのホグワーツの女の子は、在学中に一度だけこのトイレを利用する機会があるわ」
「入学したての九月にね」カティアはニヤニヤと笑った。「可哀そうな一年生……。事実、個室に入って鍵をかけた瞬間に便器の中からマートルが飛び出てくるだけで腰を抜かすほど怖いわよ」
「だから誰も使わないし、誰も近づかないってわけ」ハーマイオニーが言葉を継いだ。「どちらにしてもここは去年一年間ほとんど壊れっぱなしだったわ。何しろあの子が癇癪を起こして、そこら中を水浸しにするんですもの」
「ありがとう二人とも。君たちの説明を聞いて、僕はますますここに入りたくなくなったよ」ハリーがぼやいた。
ハーマイオニーが真鍮の取っ手に手をかける。
ぎい、という重い音とともに扉が開く。カティアはハリーとロンの背中を軽く押してトイレの中へ追い込んだ。
そこは相変わらず、とんでもなく陰気な場所だった。
古びた水場が並ぶ室内は薄暗く、どこからか水の漏れる音がぽたぽたと響いている。割れたタイル、曇った鏡、すすけた水道——いくら暗い場所を好む半吸血鬼とはいえ、ここまでくると不潔さが気になる領域だ。
「マートル?」ハーマイオニーが声をかける。「ここにいるの?」
その瞬間、すぐ近くの個室の中で何かがごぼごぼと音を立てた。
牛乳瓶の底のような丸眼鏡をかけたゴーストがU字パイプから勢いよく飛び出してきた。個室の仕切りをすり抜けながら宙に浮き、マートルは胡散臭そうに四人を見回す。
「あなたたちが気づいていないようだから言うけれど——」マートルが陰鬱な声で切り出してハリーとロンを指さした。「ここは女子トイレよ」
「僕たちもそう言ったんですがね……」ロンがブツブツと呟いた。
しかし脈絡もなくマートルは大声を出し始めたので四人は飛び上がった。
「どうせ私をからかいに来たんだわ! 嘆き屋マートル、塞ぎ屋マートル、不細工マートル! ただでさえ私は死んでるっていうのに、これ以上何をしようって言うわけ!?」
「違うわ! 私たちはそんなつもりはなくて——」ハーマイオニーは急いで古びた鏡を指さした。「——ここがとっても素敵なところだって紹介したかったの!」
「嘘よ!」
マートルが甲高い声で絶叫し、高速で天井付近を旋回し始めた。
「生きてる人間はみんな嘘つき!! 私が死んでるからって、言い返せないと思ってバカにして! 私だって、好きでこんなジメジメした暗いトイレに閉じこもってるわけじゃないわよ! 誰も私を心配してくれない! たまに来たと思ったら『不細工マートル』ですって!? ひどい! あんまりだわ!!」
軽く視線を横にやると、ハリーとロンはマートルを見上げてポカンと口を開けていた。
きっとホグワーツの男子トイレには、この手のゴーストが住み着いていないのだろう。実は女の子贔屓なところがあるホグワーツだが、男子トイレにマートルが出没しないのは素直に羨ましい。
「わざわざ3階まで上がってきて、私の惨めな姿を見てスッキリしたかったわけ!? 最低! 何でそんな事が出来るの!?」
半透明のマートルは喚きながら天井の一番高いところまで浮き上がった。
自家製造のテンションで最高潮に達したマートルは、『うわあああああん!!』と叫んで両手で顔を覆いながら、真っ逆さまに便器の中へ突っ込んでいった。
全ての便器から一斉に水が噴き出した。
それを予測していたカティアはハリーを片手で引き寄せながら、もう片方の手で大きな蝙蝠傘を取り出して正面に構える。ハーマイオニーもロンと自分自身を傘の影に押し込んだ。
水しぶきが傘の上で激しく跳ね、四人の背後の壁だけが乾いた状態で残る。
ハーマイオニーがやれやれと首を振った。
「あれでもマートルにしては機嫌がいい方なのよ」
「ホグワーツの女の子たちがこのトイレを使わない理由は良く分かったよ……」ロンはびしゃびしゃになったローブの裾を見下ろしながらブツブツと呟いた。
ただ、とにかく誰も様子を見に来ない秘密の作業場所は確保した。
気を取り直したカティアが軽く杖を振って木製の大きなテーブルを出現させると、ロンはハグリッドから貰った杖の材料をどさりと広げる。
「さあ、早速始めましょう」ハーマイオニーが袖をまくり上げて言った。
結局のところ図書館では杖の作り方を見つけられなかったため、我流でやることになる。
折れたロンの杖の断面を見る限りは木製の杖の中に芯材を埋め込んであることは間違いないので、まずはその構造を再現することからだ。
「多分、ユニコーンの毛は後回しにした方がいいだろうな……」ハリーが眉間に皺を寄せながら言った。「一本しかないんだから。先にニーズルの毛とかで慣れた方がいいと思う」
「それもそうね。出来ればユニコーンの毛を芯にしたいもの」ハーマイオニーは頷いた。
カティアは杖を振り、机の上のリンゴの木の枝から細めの水筒程度の木材を複数切り出した。
さらにマグルの彫刻刀を四セット分出現させ、四人の手作業で木材を削っていく。
「これ、私あまり得意じゃないかもしれないわ」ハーマイオニーが自分の削った木を見て眉をひそめた。
「いや、僕のがもっとガタガタだ」ロンが自分の手元を見せて顔をしかめた。
しばらく経つと、四本分の芯の入っていない杖の原型が机の上に並んだ。
長さも太さもまだ不揃いだがなんだかんだで杖らしい輪郭はしている。叩き台としては悪くないはずだ。
「さて、ここからが問題ね」ハーマイオニーが小さく息を吐いた。
ハーマイオニーが杖を振ると、リンゴの木材が浮き上がった。
空中に固定されたかのような木材に向けて、カティアは慎重に杖を振る。リンゴの硬い木の表面がゆっくりと柔らかくなり、粘土のように形を変えていった。ロンが杖の間に空いた隙間にニーズルの毛を慎重に差し込む。
木材はそれを丸ごと呑み込むように閉じていき、しばらくして元の硬さに戻った。
これで一応『中に芯が入った木の棒』は完成した。これが機能してくれたらそんなに楽な話もないのだが——。
「こんなので魔法を使えるのかな……」ハリーが疑わしげにニーズルの杖を見た。
「まずは私が試してみるわ、あなたたちの手の中で爆発されたら困るから」
カティアは杖を手に取った。
もちろんカティアだって好き好んで自分の指を吹っ飛ばしたいとは思わない。しかしここは強い再生能力を持つカティアの出番だろう。
ハリーとロンとハーマイオニーが息を呑んで見守る中、カティアは机の上に置かれたハーマイオニーの彫刻刀に杖先を向けた。
「ウィンガーディアム レヴィオーサ」
カティアはありったけの集中力を込めて唱えた。
杖先がぶるぶると小さく震え、頼りない火花が一瞬散る。カティアはそもそもこの手の呪文があまり得意ではないのだが、それでも彫刻刀がころりと転がった。
「やった!」ロンが声を上げた。
しかし彫刻刀は柄の端がわずか四センチほど浮き上がったところで力尽き、机の上に落っこちた。
「……最初としては悪くないわ」ハーマイオニーがキビキビと言った。「だって少なくとも逆噴射もしていないし、唱えた魔法も使えているもの」
「僕たち、方向性は間違っていないよ」ハリーが安心したように言った。「次からはロンが試してみたらどうかな」
しかしその後に造った自作の杖は、どれも何を芯材に入れても弱々しい魔法しか使えなかった。
「セストラルの杖はかなりいい線いってると思うのだけれど……」カティアは杖を振って古い便器を猪に変身させながら言った。
しかしセストラルの杖は、カティア以外だとまともに機能しないのだ。
やはり相性と言うものがあるらしい。しかも結局オリバンダーのイチイの杖の方がかなり性能が高かった。
「まあ性能が足りないのは仕方がないわ」ハーマイオニーがムーンカーフの杖を見ながら肩を落とした。「オリバンダーの杖に比べて見劣りするのは作る前から分かっていたもの」
今のところ、最もロンに適合した杖はヒッポグリフの杖だった。
しかしそれでも、ロンは彫刻刀を浮かせるのが精一杯だった。いくら繋ぎとはいえもう少し性能が欲しいところだ。
結局、カティアたちは昼食すらも抜いて工作に没頭し、夕方に最後の一本が完成する。
「よし、やるぞ……」
ロンが緊張した様子で握りしめたのは、リンゴの木にユニコーンのたてがみを芯にした、二十六センチの杖だ。
そして、ロンは机の上の彫刻刀に向けて杖を振り回した。
「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」
彫刻刀がふわりと持ち上がった。
ハーマイオニーが歓声を上げる。浮遊術をかけられた彫刻刀はゆっくりと宙を漂い、ぐるりと部屋中を一回転してから机の上に静かに着地した。
「やった、やったぞ!」ロンが杖を高々と振り上げた。
――――――
冷たくて湿った十月がやってきた。
先生にも生徒にも急に風邪が流行りだしたため、校医のマダム・ポンフリーは大忙しだった。校医特製の『元気爆発薬』はすぐに効いたが、それを飲むと数時間は耳から煙を出し続けることになるという困った副作用があった。
ここのところずっと具合が悪そうなジニー・ウィーズリーは心配したパーシーに無理やりこの薬を飲まされてしまい、しばらくの間は煙付きだった。燃えるような赤毛と立ち上る煙が相まって、まるで火事になっているかのようだった。
「ジニーってあんまり風邪を引かないんだけどな……」
煙を燻らせながら女子寮の階段を足早に駆け上がっていくジニーを横目で見て、ロンが心配そうに呟いた。
外はとてつもない大雨だった。大粒の雨が談話室の窓を絶え間なく叩きつけ、外の景色をぼやけた灰色に塗りつぶしている。暖炉の薪がぱちぱちと爆ぜる音だけが、雨音に負けじと部屋の中に響いている。
週末の午後、グリフィンドール生たちはそれぞれの場所で思い思いに過ごしていた。
ハーマイオニーは隅の椅子に深く腰掛けて分厚い本を読み耽り、ハリーは暖炉のそばで箒の柄を布で丁寧に磨いている。そしてカティアとロンはテーブルを挟んでチェス盤に向き合っていた。
「そうなの?」カティアは盤上の駒から目を離さずに聞いた。「今のところ、あなたの妹ってあまり頑強な印象は受けないけれど……」
「そりゃジニーだって絶対に寝込まないってわけじゃないさ」ロンは自分のナイトを動かしながら答えた。「だけど、こんな一ヶ月も調子が悪そうなのは僕も初めて見るよ」
「きっとジニーも疲れているのよ」ハーマイオニーが本から顔を上げた。膝の上でメイベルが熟睡している。
「親元を離れて慣れない寮生活だもの。風邪を拗らせるのも変な話ではないわ」
「同じ寮に四人も実の兄がいるのに、そんなに崩れるものなのかしら……。殆ど自宅みたいなものじゃない」カティアはポーンを進めた。
「いいや。カティア嬢、君は分かってないね」
急にフレッドがニヤニヤしながらロンの隣にどさりと腰を下ろした。
そして何故かハリーに向かって、意味ありげに大きくウィンクする。
「何故ならジニーは慣れない寮生活な上に、生まれて初めての”想い”に身を焦がしているからな」
「……ああ、なるほどね。そういうこと?」カティアはクスクス笑いが止まらなくなり始めた。
「その通り。憧れの人と同じ寮なんて、ジニーにとっちゃ劇薬だぜ」
ジョージがフレッドの後ろから現れた。そして両目を閉じて高らかに歌い上げる。
「天をも焦がす純情! 小さな肉体は神聖なる知恵の炎に包まれ、体調不良になったのであーる!」
双子の冗談にロンは曖昧に肩をすくめただけだったが、ハリーはわずかに顔を赤らめた。
カティアは込み上げる笑いを必死に堪えていたが、ハーマイオニーは双子の冗談をあまり面白いとは思わなかったらしい。本を閉ざしてぴしゃりと言い放つ。
「二人とも。言わせてもらいますが、いくらお兄さんだからって妹をそんな風にからかったら可哀想よ」
「おお、これは怖い」ジョージがにんまりと口端を上げ、両手を軽く上げて降参のポーズを取った。「しかしジニーもそろそろ元気になってくれないと困るぜ。パーシーが世話を焼いているうちはまだいいが、我らが妹が一ヶ月も体調不良だと実家に知られたら、そのうちママがこの城に乗り込んでくるからな」
「じゃあジニーが体調不良だってことを、ウィーズリー家に誰も伝えていないの?」ハリーが聞いた。
双子は顔を見合わせ、クスクスと笑った。
「伝えても仕方がないからな」フレッドが肩をすくめる。「ママが死ぬほど心配するだけだぜ」
「これは試練でもあるのさ」ジョージが訳知り顔で頷いた。「ママはジニーを甘やかしすぎだからな。彼女もそろそろ子離れの……ところでロン」
フレッドが何かを思い出したような顔をして身を乗り出した。
「――チャーリーのお古の杖の『代わり』を手に入れたと風の噂で聞いたが。実際どうなんだ?」
「なんの話だい?」
ロンがぎくりと固まり、警戒したように胸元のローブのポケットを片手でさっと押さえた。
「いや、別にどうこうしようってつもりはないさ」フレッドは両手を軽く広げて見せた。「ほら、お古を押し付けられたお前と違って、ジニーはママに新品の杖を買ってもらっていただろ? 俺たちもこればかりは少々……」フレッドは眉をひそめ、言葉を濁した。
思わずハーマイオニーと顔を合わせる。
フレッドの言いたいことは良く分かる。これは『不公平』というものだ。
「――ま、もう一本追加で新品の杖を買えって言われても、我が家にゃ無理な話だがな」ジョージが珍しく真顔で言った。「何にしても、ロンが代わりの杖を手に入れたようなら良かったってだけだ」
何故か話の流れが、妙に生々しい方向へ転がっていった。
他所様の家の愛の濃淡なんて知る物じゃない。居心地の悪さを感じたカティアがそっとハーマイオニーの顔を見ると、ハーマイオニーも困ったように眉を寄せていた。
しかし当のロンは気にした様子もなく、軽く肩をすくめただけだった。
「そりゃどうも。僕は上手くやれてるよ」
「おやおや、ロニー坊やも随分と逞しくなったものだ」フレッドは言った。「まったく、パパが俺たち全員にニンバス2001を買い与えられるぐらい金持ちならなあ!」
――――――
その夜、カティアは夢を見た。
ログハウスの外では猛吹雪が吹き荒れ、窓ガラスをひっきりなしに叩いている。
風の唸る音が遠くから聞こえてくるが小屋の中は静かで、薪を焼く暖炉の火だけが穏やかに揺れていた。
窓の外は一面の白だ。地面も、空も、その境界さえも分からないほどの白銀の渦がガラスの向こうでぐるぐると渦巻き、窓辺に置かれた小さなツリーのガラスの飾りが暖炉の灯りを受けて輝いていた。部屋の中央に置かれたオーク材の机の上に、古いタロットカードが無造作に広げられている。
暖炉のそばの揺り椅子に、ナターシャは腰を下ろしていた。
長い銀髪をゆるく結い、伸びをして天井を仰ぐ。この小屋の持ち主であるマグルは『食べて』しまったためここは安全だ。ナターシャは、ここ数カ月で一番落ち着いた気持ちだった。
足元では、娘のカティアが毛布にくるまって眠っていた。
五歳のカティアは食べ盛りだ。逃亡生活の中で、娘のためだけに人間用の食料を用意するのはとても手がかかったが、ナターシャはそれでも構わなかった。
「カチューシャ」ナターシャは囁いた。
カティアの小さな体を包み込み、ふわりと抱き上げる。
膝の上に乗せて、指先でその髪を優しく梳いた。窓の外で雪が荒れ狂っている中、まるで時間が止まったような不思議な静けさが満ちる。
「ねえ、カチューシャ」
カティアが薄っすらと瞼を上げた、
瞳は深い真紅で、暖炉の火を受けてゆらゆらと揺れている。眠気でとろんとした大きな瞳を、ナターシャはじっと見つめた。
「ママはね、カチューシャのことがだあいすきよ。だから、カチューシャが困ったら、ママがちゃーんと助けにいくからね」
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