銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編 作:トリスメギストス3世
いざ腰を据えて話してみると、ロン・ウィーズリーは意外なほどに話しやすかった。
それはハリーも同じ気持ちだったらしく、ハーマイオニーやマルフォイも去った後もコンパートメントの会話は弾んだ。
「君たち、クィディッチはどこのチームのファン?」
ロンが尋ねると、カティアとハリーは顔を見合わせた。
「うーん……僕たち、たぶんどこのチームも知らないと思う」
ハリーが代表して白状すると、ロンは驚きのあまり口をあんぐりと開けた。
「うっそだろ! そのうちわかると思うけど、世界一おもしろいスポーツだぜ……」
そのままロンはクィディッチなるスポーツを熱心に語り始めた。ボールは四個あること、七人の選手のポジションのこと、兄たちと観に行った伝説的な試合のこと、お金があればぜひ買いたい箒のこと――話題は次から次へと尽きなかった。
素直なハリーは身を乗り出して聞いていたが、カティアは相槌を打ちながらもどこか上の空だった。どちらにしてもカティアは箒が必要ない。
チャドリーキャノンズ(21回リーグ優勝しているが、最後に優勝したのは1892年らしい)の今シーズンの見通しがどうとかいう話が右から左へ流れていく頃には、窓の外はいつの間にか暗く沈んでいた。夕暮れの名残は消え、深い紫色の空の下に、黒々とした森と丘の稜線が浮かび上がっていた。
ふと我に返ったカティアは立ち上がりながら二人に言う。
「そろそろかな。ローブに着替えたいからちょっと出てくれない?」
ハリーとロンをコンパートメントから追い出し、窓ガラスをコートで塞ぐ。
上着を脱いでローブを身にまとった後はカティア側が廊下で待ち、男女で順番にコンパートメントを使った。
三人とも着替え終わった頃、車内にアナウンスが響き渡った。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」
三人は荷物をまとめ、通路にあふれる生徒たちの人波に押し出されるように加わった。あちこちで扉が開き、笑い声や呼び声が入り混じる。
やがて汽車はますます速度を落とし、完全に停車した。人波に揉まれながら列車の扉を開けて暗いプラットフォームへと降り立つ。
ハリーとロンは互いにぶつかりながら、不安そうに周囲をきょろきょろと見回した。
「二人とも、あっちだよ。ほら! そっちは逆!」
夜目の効くカティアには、進むべき道がはっきりと見えていた。
別の方向へ行こうとする二人のローブを掴んで正しい道へと引き戻す。やがて生徒たちの頭上に、ゆらゆらと揺れるランプが近づいてきた。野太い大声が響く。
「イッチ年生! イッチ年生はこっち! ハリー、元気か?」
ルビウス・ハグリッドの髭面が、ずらりと並んだ生徒たちの頭の向こうから笑いかけてきた。
「さあ――足元に気をつけろよ。いいか、ついてこい!」
滑ったりつまずいたりしながら、険しく狭い小道をハグリッドの後ろに続いて降りていく。
あたりは真っ暗だったが、カティアの目にはネビルが慎重に自分を避けようとしている姿がはっきりと映った。とはいえ今は気にしていられなかった。
「もうすぐホグワーツが見えるぞ。この角を曲がればだ」
振り返ったハグリッドの言葉に、一斉に歓声が上がった。
カティアは思わず息を呑む。道が急に開けて、広大な黒い湖のほとりに出たのだ。
対岸には高い山、その頂には壮大な城。大小の塔が空にそびえ、無数の窓が星空の中できらきらと輝いていた。
ホグワーツ城だ。
「四人ずつボートに乗れ!」
岸辺に並ぶ小船を指さす声に、カティアは我に返った。カティアとハリーとロンが乗り込み、続いてハーマイオニーが乗り込んできた。
「全員乗ったか?」
ハグリッドは一人でボートに乗り込み、大声で叫んだ。
「よーし……進め!」
船団は静かに動き出し、鏡のような湖面をゆっくりと滑っていった。
――――――――
船で湖を渡り、地下の船着場から城へと入った。
カティアはホグワーツが魔法族の通う学校であることは知っていたが、いざその内部に足を踏み入れてみるとやはりまた違った感慨があった。
何より圧倒的に大きい。
玄関ホールは広大で、高くそびえる石壁には松明の炎がゆらゆらと影を踊らせている。
正面には白く輝く大理石の大階段が、上へ上へと伸びていた。カティアは何となくマグルの学校の遠足で行ったウェストミンスター寺院を思い出す。
そこを通り抜けた一年生たちは、やがて狭い部屋で待たされることになった。
「ホグワーツ入学、おめでとう」
低く澄んだ声が、石造りの小部屋に静かに響いた。
一年生を出迎えたミネルバ・マクゴナガル先生は背筋をぴんと伸ばし、新入生たちを一人ひとり見渡した。
壁に掛けられた松明の炎が、かすかに揺れる。
「まもなく新入生歓迎の宴が始まりますが――その前に、皆さんが所属する寮を決めなければなりません。寮の組分けは、ホグワーツにおいて極めて重要な儀式です」
マクゴナガル先生はゆっくりと言葉を区切りながら続けた。
「在学中、寮は皆さんにとって“家”となります。授業を受けるのも、眠るのも、そして自由時間を過ごすのもすべて寮生と共にです。
寮は四つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリン。それぞれに輝かしい歴史があり、数多くの優れた魔女や魔法使いを輩出してきました。皆さんの行動は、所属する寮の得点として記録されます。称賛に値する行いは加点に、規則違反は減点に――そして学年末には、最も多くの得点を獲得した寮に“寮杯”が授与されます」
要は、マグルの学校にもよくあるハウス・システムという事だろう。魔法力があっても無くても学校と言うのはたいして変わらない。
「どの寮に入ることになろうとも、自らの寮に誇りをもたらす存在であることを期待します。では、まもなく全校生徒の前で組分けの儀式を行います。それまでの間に、身なりを整えておきなさい」
マクゴナガルが去ると、部屋はたちまち大騒ぎになった。
「いったいどうやって寮を決めるんだろう」
ハリーがロンに尋ねた。
「試験みたいなものだと思う。すごく痛いってフレッドが言ってたけど……」
ロンの不安を煽るような言葉に、カティアも胸がざわついた。
自分で言うのも気が引けるが、カティアは生まれながらにして相当な力を持つ魔法生物だ。だから仮に"試験"が"戦闘"に類するものであればまったく問題はない。訓練を積んでいない成人魔法使いの二、三人ならば、ひと息に片づけられる自信があった。
しかし、魔法を学問として扱う能力――とりわけ杖を使った魔法力を問われるとなれば、話は別だ。そうなれば、カティアの実力は隣に立つハリーにさえ及ばないことは明らかだった。オリバンダーで買ったイチイの杖は、今のところマグルの鉛筆を振るのとさして変わらない感触しかない。
これまでに覚えた呪文をぶつぶつと唱えているハーマイオニーがあまりにも煩わしく、カティアは少し距離を取ってハリーに話しかけた。
「何をさせられると思う?」
「さあ……トランクを猫に変えろとか、そういうのじゃないといいんだけど」
仮にそうなら造作もないことだが、おそらくそうではないという確信があった。
考える間もなく、マクゴナガルが戻ってきた。
「さあ、一列に並んで。ついてきなさい」
大広間は息を飲むほど壮麗な空間だった。
何千もの蝋燭が宙に浮かび、ゆらめく光の下に四つの長テーブルが並んで、上級生たちが着席していた。テーブルには金色に輝く皿とゴブレットが整然と並び、広間の上座には先生方のテーブルが一段高く設けられている。
カティアが天井を見上げると、そこには漆黒の夜空が広がり星々がきらきらと瞬いていた。こんな美しい魔法はこれまで見たことがなかった。
やがてマクゴナガルが、古びた魔法使いの帽子を広間の前方に置いた。
つぎはぎだらけの、いかにもくたびれた帽子だった。広間がしんと静まり返ったその瞬間、帽子の破れ目がまるで口のようにぱかりと開いて歌い始めた。
『わたしはきれいじゃないけれど 人は見かけによらぬもの
わたしをしのぐ賢い帽子 あるなら潔く身を引こう――――』
かなり妙な歌だとカティアは思ったが、内容はおおよそ掴めた。
つまりホグワーツの寮は、四人の創設者それぞれが重んじた「生徒の資質」に基づいて分けられており、それを組分け帽子が見極めて選別するというわけだ。
グリフィンドールは「勇気」と「騎士道精神」の寮。
困難に立ち向かう強さと、正義を貫く心を何より大切にする。
スリザリンはその対極にあり、「野心」と「狡猾さ」を重んじる。
目的を達成するための機転と、仲間内の強い結束が特徴で、成功への渇望とリーダーシップを尊ぶ寮だ。
レイブンクローには、「機知」と「知恵」を求める生徒が集まる。
知性を何よりも重視する、探求心の強い生徒向けの寮だ。
そしてハッフルパフは「献身」と「誠実」の寮だ。
飛び抜けた才能よりも、忍耐強く、公平で、正しくあろうとする姿勢を評価する。
歌が終わると、広間中に割れんばかりの拍手が響いた。
帽子は四つのテーブルにそれぞれお辞儀をして、再びしんと静まり返った。
ロンはトロールと戦わずに済むと大喜びだったが、カティアはどうにも心が落ち着かなかった。
なぜなら、どの寮の求める基準もカティアに適するように思えなかったからだ。
マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻紙を手に前へ進み出た。
「アルファベット順に名前を呼ばれたら、椅子に腰かけて帽子をかぶり、組分けを受けてください」
そしてついに”組み分け”が始まった。
「アボット、ハンナ!」
金色のおさげの少女が前へ駆け出てきた。
帽子をかぶるとつばが目の上までずり落ちた。椅子に腰をおろす。一瞬の沈黙――。
「ハッフルパフ!」
帽子が叫ぶや否や、右手のテーブルから歓声と拍手が弾けた。ハンナはにこにこしながらハッフルパフのテーブルへと向かった。
「アシュリー、エカテリーナ!!」
「アシュリー!? 」「アシュリー!?!?」
案の定大騒ぎになる大広間にうんざりしながら椅子へと歩み寄る。
ハンナ・アボットの時の温かな空気は一瞬で霧散し、代わりに氷のような緊張感が数百人の生徒たちの間に走り抜けた。
特に上級生たちの反応は露骨だ。彼らにとって『アシュリー』の名は、つい三年前まで新聞の一面を血で染めていた、恐怖の象徴そのものなのだ。
帽子はとても大きかった。
小柄なカティアの目元まですっぽりと古い帽子は覆いかぶさり、視界は闇で閉ざされた。
「なるほど」
低い声が聞こえた。
「これは難しいお嬢さんだ。国を跨いだ逃亡生活、魔法省の包囲網、母の死、そしてマグル社会への完全な潜伏。君はここに学びに来たわけではないな」
カティアは黙って聞いていた。帽子は長い時間をかけて、じっくりと考え続けた。
「教養と知性はあれど、勉学自体は好まず。ハッフルパフに行くには少々毒が強すぎる。自己保身と機転は極みなれど、野心に乏しくマグル贔屓。グリフィンドールの求める度胸はあれど、自己犠牲の心は極めて薄い……」
黙って聞いていたら、ずいぶんと失礼な帽子だった。
「なるほど、なるほど。しかし友が欲しいという渇望だけは歳相応で人一倍。ならばマグル贔屓を加味して、そしてその心に真の勇気が宿ることを期待して――グリフィンドール!!!」
まばらな歓声が上がった。しかしそれよりも動揺の方がはるかに強かった。
特にスリザリンの動揺は凄まじい。
マグルを千人以上殺害した史上最悪の魔法生物、『人喰い』の娘。事実上、"例のあの人"に次ぐ闇の権威の跡継ぎ。カティア・アシュリーがマグル嫌いと思われるのも無理からぬことだった。
もっとも、カティアの父親が魔法使いなのかどうかについてはカティア自身にも分からないのも確かだ。仮に父親がマグルだったとすれば、カティアは広義のマグル生まれということになる。
「ボーンズ、スーザン!」
グリフィンドールのテーブルに向かっていたカティアはギョッとして振り返った。
ロングボトムだけではなくボーンズまで同学年らしい。スーザンは頑なにこちらを見ないようにしていた。
帽子は「ハッフルパフ!」と叫んだ。スーザンは小走りでハンナの隣に座る。
組み分けは続いていき、ハーマイオニー・グレンジャーはグリフィンドールに分けられた。
椅子に辿り着くまでに転んでしまったネビル・ロングボトムも、随分と時間がかかったがグリフィンドールに分けられた。
ネビルは帽子をかぶったままかけ出してしまった。
爆笑の中をトボトボ戻っていくネビルを見て思わず笑ってしまったカティアだが、内心で「仮に親の仇と決闘を申し込まれても負けはないな」とこっそり思った。
マルフォイの時は、帽子は頭に触れるか触れないうちに「スリザリン!」と叫んだ。
ハリーの時は時間がかかった。
カティアがテーブルの下で手を組んで祈っていたら、それが通じたのかは分からないが帽子は「グリフィンドール」と叫んだ。
帽子を脱いだハリーは歓声の中ふらふらとグリフィンドールのテーブルに向かい、カティアの隣に座った。
互いにかなりホッとしたようだった。カティアはパチンとウインクする。
ロンはすぐにグリフィンドールに組み分けされた。
カティアとハリーはみんなと一緒に大きな拍手をした。ロンはハリーのさらに隣に崩れるように座った。
「おめでとう! ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」
ダンブルドアは席につき、出席者全員が拍手し歓声をあげた。
カティアはとても複雑な気持ちだった。ダンブルドアは確かに半吸血鬼のカティアをホグワーツへ招き、魔法省から守ってくれた恩人だ。
しかし、カティアのたった一人の母親があの魔法使いに殺されたことに変わりない。
カティアはその辺り、かなり割り切れる方という自覚はある。
それでも母を屠った最強の魔法使いが剽軽な振る舞いをしている姿を見るのは、少し複雑な気持ちだった。
「カティア、食べないのかい?」
「ん? ああうん。食べるよ」
ハリーに話しかけられてうわの空で対応しながら、カティアはこっそりと周囲を見回した。
真っ青でちらちらとこちらを見るネビル以外は、グリフィンドール生はあまりカティアに注目していなかった。単にご馳走に夢中なだけかもしれないが、カティアもこれには安堵した。
グリフィンドールの1年生たちは見慣れぬゴーストに気を取られていた。
「さて、グリフィンドール新入生諸君、今年こそ寮対抗優勝カップを獲得できるようがんばってくださるでしょうな? グリフィンドールがこんなに長い間負け続けたことはない。スリザリンが六年連続で寮杯を取っているのですぞ!」
ゴーストの”ほとんど首なしニック”(首が皮一枚で繋がっているグリフィンドール寮の幽霊。処刑時の斬首に失敗して皮一枚で首が繋がっている)がハリーやロンに語っていた。
「『血みどろ男爵』はもう鼻持ちならない状態です……スリザリンのゴーストですがね」
カティアがスリザリンのテーブルを見ると、げっそりとした顔の男の幽霊がマルフォイのすぐ隣に座っていた。
衣服が銀色の血でべっとり汚れている。いかにも幽霊といった感じの見た目だ。
「どうして血みどろになったの?」
興味津々のシェーマスが聞いていたが、ニコラス卿は首を横に振った。
「私、聞いてみたこともありません」
”ほとんど首なしニック”が滑るように遠くに行ったのを確認して、ハリーがカティアの耳元に口を寄せてきた。
「幽霊って本当にいるんだね………初めて見たよ。カティアは?」
「ロンドンだとゴーストって結構見かけるよ。ほら、何かと旧い街だから」
例えばロンドン塔だ。
ホワイトホール夫妻と共に行ったビーフィーター・ツアーで見かけた幽霊はカティアにとっても中々思い出深い。
「ゴーストって魔法族にしか見えないから、マグル生まれの子が『あそこにいる』って大騒ぎする事がたまにあるみたいだね」
「ダーズリーの家で僕がそんな事を言ったら、『馬鹿な物を見るな』って物置から一週間は出してもらえなくなっちゃうよ」
「プリベット通りにゴーストがいなくて良かったね………」
カティアとハリーが糖蜜パイを食べながら話していると、次第に家族の話題になった。
「僕はハーフなんだ。僕のパパはマグルで、ママは結婚するまで魔女だと言わなかったんだ。パパはずいぶんドッキリしたみたいだよ」
シェーマスが言うと皆が笑った。
「ネビルはどうだい」
ロンが聞いた。
カティアは一瞬ドキリとしたが、ネビルはカティアの方を見ずに話始めた。
「僕、ばあちゃんに育てられたんだけど、ばあちゃんが魔女なんだ。でも僕の家族はずーっと僕がマグルだと思ってたみたい。アルジー大おじさんときたら、僕に不意打ちを食わせてなんとか僕から魔法の力を引き出そうとしたの。僕をブラックプールの桟橋の端から突き落としたりして――」
とりあえず、ネビルは両親については触れない方針に決めたようだった。
周りの生徒も疑問に思っている節は無い。想像するに、この世代の魔法使いにとってロングボトム夫妻が被害にあった事件はさほど有名では無いのだろう。
「―――とにかく僕にも魔法が使えたんだ。アルジー大おじさんなんかとても喜んでヒキガエルを買ってくれたんだ」
藪をつついて蛇を出すような真似はしたくなかったので、カティアは肩をすくめるにとどめた。
そしてカティアがご馳走を腹いっぱいに平らげ、テーブルの上からデザートが消え去った頃、ダンブルドアが再び立ち上がった。
「エヘン――諸君、よく食べ、よく飲んだじゃろう。では、あと二言三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある」
禁じられた森への立ち入りは禁止。
廊下での魔法の使用も禁止。
クィディッチ入部希望者への案内。
そしてダンブルドアは、最後にこう付け加えた。
「最後に、とても痛い死に方をしたくない者は、今年いっぱい四階右側の廊下には近づかんことじゃ」
ハリーは笑ってしまっていたが、笑った生徒はほんのわずかだった。
やがてホグワーツの校歌を歌い(ひどく調子外れな歌だった)、感激の涙をぬぐいながら、ダンブルドアが言った。
「さあ、諸君、就寝時間じゃ。急げ!」
ホグワーツ城の内部はとても複雑だった。
監督生のパーシーに連れられて大広間を出て階段を上がり、引き戸の裏の隠し扉やタペストリーの裏を通り抜けていく。
そして廊下のつきあたりには、ピンクの絹のドレスを着た太った婦人の肖像画がかかっていた。
「合言葉は?」とその婦人が聞いた。
「カプート ドラコニス」
パーシーがそう唱えると、肖像画がぱっと前に開いた。
その裏にあった穴は、グリフィンドールの談話室へと続いている。そこは心地よい円形の部屋で、肘掛け椅子がいくつも置かれていた。
パーシーの指示に従い、カティアは女子寮へ続く階段を上がった。
螺旋階段の先にあった部屋にはベッドが四つ並んでいた。深紅のカーテンが掛けられた四本柱の天蓋付きベッドだ。
トランクはすでに運び込まれていた。ここでようやくカティアは同室の三人と向き合った。
「カティア・アシュリー。よろしくね?」
できるだけにこやかに、柔らかな声で言うよう努めたがその効果は薄かったらしい。
グリフィンドールで同室となったラベンダー・ブラウンとパーバティ・パチルは、あからさまに身をすくませていた。
魔法族の家庭に育ったのだろう。もしかしたら幼い頃から「悪いことをすると『人喰いナターシャ』が来るわよ」と言い聞かされてきたのかもしれない。
分かりやすい悪意や敵意を向けられるならまだいいのだが、目尻に涙を浮かべて声も出せないといった反応をされると、さすがに堪えるものがあった。
一方、ハーマイオニー・グレンジャーは一人でトランクを開けて基本呪文集を引っ張り出しながら、カティアの目を見て堂々と言った。
「カティア・アシュリー、その名字ならもちろん知っているわ。いろんな本に載っているもの。あなたのお母様については『二十世紀の魔法事件』の十四章にまるまる4ページも割かれていたもの」
ハーマイオニーは少し鼻にかかった声で言い放った。
仰天するラベンダーとパーバディを気にする素振りも見せず、手際よく『基本呪文集』の角を揃えて枕元に置く。
「とにかく、私はハーマイオニー・グレンジャー。勉強の邪魔をしないなら仲良くやっていけると思うわ」
偏見がないのか侮辱しているのか判別のつかない挨拶だった。
ラベンダーとパーバティがひっと息を呑んでさらに身を縮める中、ハーマイオニーは自信満々に右手を差し出してきた。
「よろしくね、ハーマイオニー。もちろん、あなたのお勉強の邪魔はしないつもりよ」
カティアは引きつる頬を懸命に制御しておしとやかな笑みを作り出すと、右手を出してハーマイオニーと握手した。
ハーマイオニーは満足げに頷くと、怯えて固まっているラベンダーとパーバティに振り返った。
「ハーマイオニー・グレンジャー。あなたたちは?」
ぼそぼそと実に居心地の悪い自己紹介が終わると、ハーマイオニーは顎をくいとあげて高らかに言った。
「もう消灯時間よ。早く着替えないと明日の朝に遅れるわ」