銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編 作:トリスメギストス3世
「カティア、早くしないと僕たち朝ご飯を食べ損ねちゃうよ」
「待って……ハリー……私、どうにも朝は弱くて……」
ホグワーツでの授業がある初日から、カティアはかなり苦しい思いをしていた。
半吸血鬼という体質上、朝に極端に弱いカティアだが、新生活が始まったからと言って克服出来るわけでもない。
ほとんど目も開かないまま夢うつつで手すりにすがりつくようにして長い石段を下る。
心配そうなロンの声が後ろから届く。
「夜更かしでもしたの?」
「あー……ううん。単に夜行性なだけ……」
その瞬間、踏み出したはずの一段がなぜか消えていた。
ほとんど何もできないまま、不快な浮遊感とともに靴が空を切り、下り階段で身体が前へ傾いだ。
「カティア!」
ハリーの手がカティアの腕をつかんだ。
カティアも完全に倒れ込むのは免れたものの、勢いのまま腕を手すりに強く打ちつける。
「っ痛……!」
「カティア、怪我は!?」
「大丈夫、ありがとうハリー。助かったよ………」
鈍い痛みに顔をしかめながらも、なんとか踏みとどまった。
「ここ、真ん中の段がひとつ消えるんだ。降りるときはもっと気をつけないと」
ロンは心配そうだった。ハリーはカティアの顔を覗き込む。
「医務室はどこだろう」
「大丈夫だよ、ハリー。ほら、私って大抵の傷なら自分で治せちゃうから」
カティアは軽く袖をまくって、手すりに打ちつけた腕を二人に見せた。
青あざがじわりと薄れて消えていく。口をポカンと開ける二人を無視して、カティアは大きな欠伸をした。
「やあっと目が覚めてきた。ほら、早く大広間に行きましょう。医務室を探していたら、朝食抜きで午前の授業を受けることになるよ?」
ハリーとロンは心配そうに顔を見合わせたが、今度は二人でカティアを挟みながら慎重に階段を下り始めた。
ホグワーツには百四十二もの階段がある。
広く壮大なものもあれば、狭くガタガタとしたものもある。金曜日になると別の場所へ通じる階段や、カティアが引っかかったような途中の段が消える厄介なものまであった。
さらに城そのものが魔法に満ちていて、肖像画や石像は勝手に動き回る。目印にしたいものが悉くあてにならないため、カティアたちは盛大に迷った。
記念すべき初回の朝飯のためにカティアとハリーとロンの三人はそれから何度か行き止まりに突き当たり、上級生に助けてもらいながらようやく大広間へたどり着いた時には寮を出てから30分も経過していた。
ロンが唸った。
「腹減って死にそう」
スクランブルエッグに飛びつくロンをぼんやりと見送りながら、カティアはハリーと共にテーブルに着いた。
ハリーがオレンジジュースを飲みながら聞く、
「最初の授業ってなんだっけ?」
「妖精の呪文………だったと思うよ」
――――
"妖精の呪文"のフリットウィック先生は非常に小柄な魔法使いだった。
先生は教え方も丁寧でカティアとしては好感を抱いたが、それはそれとしてカティアは最初の授業から躓いた。
強く意識を集中しながら、習った通りに杖を振る。
「ルーモス」
何も起こらなかった。
"ルーモス"は杖の先端に明かりを灯す呪文だ。
基礎的な呪文で、カティア以外の生徒は一回か二回の試行で成功させていた。ネビルですら五回で杖あかりが灯っていた。
クラス中の視線がカティアに集まる。
「………ルーモス」
一応もう一度唱えてみたがやはり何も起きない。
「カティア、杖の振り方が少し雑よ。手首をこう——」
頼んでもいないのに延々と口を挟んでくるハーマイオニーが鬱陶しい。
少し離れた席のロンはあからさまな驚きを顔に張りつかせていたし、ハリーはひどく心配そうだった。
「ミス・アシュリー、そんなに不安そうな顔をしなくてよろしい。何か——原因があるのかもしれませんからね」
甲高い声のフリットウィック先生は本当に困り果てた口調だった。
カティアが杖を使った魔法をまともに使えないという噂はすぐさま学校中を駆け巡った。
その日の昼、大広間にて他寮の誰かがこう言うのをカティアは確かに聞いた。
「あんなに怖がられていたのに、実際はネビル以下じゃないか」
カティアはとても落ち込んだ。
最初の授業からあまりに元気がないカティアを見て、ハリーは遠慮がちに肩を叩いてきた。
「……カティア、気にしなくていいよ。僕なんて『生き残った男の子』なのに、みんなが期待してるようなすごい魔法なんて一つも使えないんだよ」
この言葉には大いに励まされた。
実際、ハリーもカティアに負けず劣らず噂の種だった。誰もが背伸びをしてハリーを見ようとし、廊下ですれ違ったあとわざわざ引き返してきてじろじろ見たりするのも日常茶飯事だった。
そしてカティアほどではないが、『生き残った男の子』であるハリーにも何らかの才能を期待する者は多い。そして彼らは”それなりに優秀”止まりのハリーを見て、とても意外そうな顔をするのだ。
『人喰いの娘』と『生き残った男の子』は、それぞれ向けられる目線は期待や嫌悪で真逆だったが、少なくとも注目されるのは楽しくないという意見で二人は一致していた。
また、別の意味で問題なのは「魔法史」だった。
これはホグワーツで唯一ゴーストが教えるクラスで(担当のビンズ先生は、昔教員室の暖炉の前で居眠りをしてしまい、ある朝生身の体を教員室に置き去りにしてきてしまったらしい)、とにかく授業が退屈だった。
日差しが差し込む教室で行われる、古い室外機みたいな調子の講義にはカティアも大いに弱った。
「カティア………!!」
なお悪い事に、カティアが机に頬杖をついてうとうとしていると隣のハーマイオニーが揺さぶってくるのだ。
寝息をたてていてもビンズ先生は何も言ってこないのだから、放っておいてくれればいいのにとカティアは思った。
そして一コマで四回も起こされた挙句、授業が終わった後にハーマイオニーに説教され(『私が頂いた寮の得点をあなたみたいな不真面目な人が台無しにするのよ!!』)、反論する気力も尽きたカティアはさっさと逃げ出した。
「なあカティア、魔法史で寝てたって気にするなよ。あんなの昼行性の僕でも一文字も頭に入らないんだぜ?」
その一部始終を見ていたロンは酷く同情した。
大広間にて疲労困憊のカティアの前にカボチャジュースやローストビーフを並べつつ、ロンは肩を竦めた。
「ハーマイオニーは悪夢だぜ………君が男の子だったらなあ。あれと同室なんか僕ならゾッとするね」
ロンの言う事を否定しきれずに、カティアは曖昧に微笑んだ。
とはいえ、ハーマイオニー・グレンジャーはこれから七年の時を同室で過ごす相手だ。
関係の致命的な断絶を防ぐため、ハーマイオニーへの直接的な愚痴や悪口を口にするのを避けるだけの社会性が、カティアにはあった。
カティアが汚名返上の機会を得たのは、変身術の授業だった。
「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中でも最も複雑で危険な分野の一つです。いいかげんな態度で私の授業を受ける生徒は、即刻退出してもらいますし、二度と教室には入れません」
グリフィンドールの寮監でもあるミネルバ・マクゴナガルはとても厳格な人だった。
授業の最初にマクゴナガルは、教卓の机を一瞬で豚に変えて元の姿へと戻してみせた。
そして複雑なノートを取らされたあと、一人ひとりにマッチ棒が配られそれを針に変える課題が与えられた。
カティアが首をひねりながらもイチイの杖を振るうと、マッチ棒は静かにきらめいて銀の針へと姿を変えた。
「ほう……皆さんご覧なさい!! ミス・アシュリーが成功しました!!」
マクゴナガルはきらりと光る針を掲げてクラス全体に示した。
ハーマイオニーはそれから一度もカティアを見ようとせず、顔を真っ赤にして自分のマッチ棒を睨みつけ、杖を激しく振り始めた。
そして授業の最後、マクゴナガルは僅かに興味深そうな眼をこちらに向けてこう言った。
「では、ミス・アシュリー。今度は、私が先程したように机を豚へ変身させてみなさい」
「はい、先生」
カティアはヒョイと杖を振った。
―――――――――
「おったまげたなあ……グリフィンドールに三十点……!!」
談話室にてロンが、今日何度目かわからない溜息をつきながら言った。
「机を豚にするなんてパーシーだって怪しいぜ」
「変幻自在こそが吸血鬼の強みだもの。ああいうのは得意よ、私」
カティアはすました顔で、ツンとして返す。
ロンとハリーは顔を見合せて笑った。ハリーが代表して口を開く。
「実際、吸血鬼だからって、みんながあんな変身術が出来るものなの?」
「もちろん得意不得意はあったりするけれど……でも大抵の"人間"より、吸血鬼の方が変身術は得意だと思うよ?」
"闇の魔術"全般が得意なことは黙っていることにした。
カティアは手に持った羽根ペンを軽く放り投げ、パチンと指を鳴らして小さなコウモリに変身させて見せた。
ロンが口笛を吹き、ハリーが拍手してくれる。
「すごいや!!」
「馬に『走るのが速いですね』と言っているようなものよ、それ」
当たり前に”出来る”だけの魔法を褒められても、少し居心地が悪い。
とはいえ悪い気がしないのも間違いなかった。カティアが照れながらもご機嫌で魔法史のレポートに取り組んでいると、不意に声が投げかけられた。
「おうおう、話題の麗しきカティア嬢。まったく、噂通りの大した腕前だ」
「ああその通りだ美しきカティア嬢。凡俗たる人間は、目が覚めたらハムスターか何かに変えられているのではと震え上がっているぜ」
ロンの兄――双子のフレッドとジョージが、背後から声をかけてきた。
ロンが耳を真っ赤にして立ち上がろうとするのを片手で制し、カティアはいたずらっぽく双子を見やる。
「商売でも始めようかしら。“気に食わない相手、誰でも変身させます。一人十ガリオン”って具合で」
「フィルチをひよこにしたら、学校中から百ガリオンは集まると思うぜ」
フレッドが親指を立てた。そしてジョージが腰をまげ、声を潜めてこう続ける。
「ところでカティア。その素晴らしい変身術を活かして、ちょーっと俺たちに協力してほしいことがあってだな―――」
「フレッド、ジョージ、いい加減にしたまえ!!」
双子の悪巧みを嗅ぎつけたパーシー・ウィーズリーが現れた。
「二人とも、一年生を悪事に巻き込むのはやめろ。それからカティア、君はせっかくマクゴナガル先生に認めていただいたんだ。こんな不届き者たちの口車に乗ってはいけない」
「おいおいパース、そりゃひどいぜ。おれたちはまだなーんにも言っていない―――」
ウィーズリー兄弟が言い合いを始めるのを漫然と眺めていると、同学年のラベンダー・ブラウンが遠慮がちに近づいてきた。
「ね……ねえ、カティア?」
「ん、どうしたのラベンダー」
「マクゴナガル先生のレポートなんだけど……カティアは、ちゃんと理解できた?」
意外な用件に、カティアは目をぱちぱちとさせた。
「い、いいよ? どこが分からなかったの?」
「そう、ここなんだけどね―――」
ラベンダーが躓いていると主張する箇所は、ごく初歩的な部分だった。
レポートの前後の書き方からしても、彼女が本当に困っているとは到底思えなかった。つまりこれは単なる口実だったのだろう。
「なるほどね。ここはマクゴナガル先生のお話の中でも難しいところで―――」
しかし、向こうから歩み寄ってきてくれるならこれほど嬉しい話もない。
カティアはラベンダーと、どこかぎこちないながらもとりあえずの"和解"を済ませる。
出会った当初はカティアを怖がっていたラベンダーだったが、数日同じ部屋で過ごすうちに、真夜中に食べられてしまう心配はないのだと理解したようだった。
「ありがとうねカティア。あなたが話しやすい人で良かった」
「そう? お役に立てたなら嬉しいわ」
気が付けばハリーもロンも男子寮へ去り、双子もパーシーも談話室を離れていた。
ぱたぱたと去っていくラベンダーを見送った深夜。カティアは肘掛け椅子に深く身を沈めた。
「………ふう」
実を言うと、ホグワーツでの七年間はいじめや仲間外れに耐え続ける日々になるだろうと、カティアは半ば覚悟していた。
半吸血鬼で『人喰い』の娘を魔法界が受け入れるはずがないというのは当然の予想で、カティアはそれを呑み込んで入学した側面さえある。
しかし、少なくともグリフィンドール寮に限って言えばの話だが、カティアの立ち位置は一気に良くなっていた。
その理由の一つは、マクゴナガルから三十点もの寮点を与えられたことだろう。
しかしそれ以上に大きかったのは、パーシー、そしてフレッドとジョージが、カティアを単なる一年生として恐れずに接してくれたことだった。
おそらく、ロンが根回しをしてくれたのだろう。
影響力の大きいウィーズリー家の上級生たちがこの姿勢を示した影響は大きく、数日と経たないうちに多くのグリフィンドール生が話しかけてくるようになったのだ。
「………………」
カティアは一人笑みをこぼすと、談話室の肘掛け椅子から立ち上がった。
軽く伸びをして女子寮の階段へ向かう途中で、談話室の隅のうず高く本を積み上げた陰で、ハーマイオニーが本を開いている事に気が付いた。
カティアの足音に気づいているはずだが、ハーマイオニーは頑なに顔を上げようとはしなかった。
「おやすみなさい、ハーマイオニー」
礼儀として声をかけると、ハーマイオニーはようやく本から顔を上げた。
「おやすみなさい。カティア。私はこの章を読み終えたら寝るわ」
ハーマイオニーの手元にある本の表紙には『高度な変身理論』と書かれていた。
「…………そう。頑張ってね」
カティアはそれ以上何も言わずに、今度こそ女子寮への階段を上がった。
――――
朝の光がグリフィンドールの塔に差し込む中、カティアは渋い顔をしていた。
「ねえ、いないんだ! どこにもいないんだよ!」
談話室のソファで、まだ半分眠ったままの頭を抱えていたカティアの耳をロンの悲鳴が貫く。
時計の針は七時を回ったばかりで、カティアは低い声で言った。
「……ロン、七時だよ。
「"もう"七時だよ! そんなことより僕のスキャバーズがいないんだ! ベッドの中にも、スリッパの中にも!」
ロンは顔を真っ赤にして、談話室のクッションを次から次へとひっくり返していた。
ハリーも困り果てた顔でロンと一緒にソファの隙間を覗き込んでいる。
「カティア、何とかしてあげられないかな?」
ハリーに聞かれ、カティアは深々とため息をついた。
「何とかと言われても………」
迷子のスキャバーズを見つけてやりたいのは山々だが、あいにくと逃げたネズミを探す魔法の心当たりは無い。
カティアは眠い身体を引きずって30分ほど寮内を探し回ってみた。念の為女子寮の方も探してみたが、残念ながらスキャバーズは見つからなかった。
これ以上手間取ったら朝飯を食い損ねると直感したハリーとカティアは、軽く視線を交わす。
「そのうち出てくるよ」とハリー。
「忘れた頃に帰ってくるかも」とカティア。
心配そうなロンを二人がかりで丸め込み、朝食に連れ出した。
そしてその日に行われた「闇の魔術に対する防衛術」の授業が大問題だった。
担当のクィレル先生は神経質な人物で、極端な吸血鬼嫌いだった。
カティアを目の前にしたクィレルはひどく挙動不審になり、まともに授業を進めることすらできないほどだった。
そしてカティアにとって何より深刻だったのは、教室ににんにくの強烈な匂いが充満していたことだ。
半吸血鬼のカティアは、授業が終わる頃にはすっかり衰弱していた。
「クィレルが会ったとかいうルーマニアの吸血鬼が、ちゃんとあいつを食い殺しておいてくれれば良かったのに……」
顔色が悪いカティアの頭を、ハリーはポンポンと叩いて慰めた。
そして金曜日は、カティアにとって記念すべき日となった。大広間へ朝食を食べに下りていくのに、初めて一度も迷わずたどり着けたのだ。
「今日はなんの授業だっけ?」
オートミールに砂糖をかけながら、ハリーがロンに尋ねた。
「スリザリンの連中と一緒に魔法薬学だよ。スネイプはスリザリンの寮監なんだ。いつもスリザリンを贔屓するって話だけど――本当かどうか、今日わかるだろうさ」
ちょうどそのとき、何百羽ものふくろうの群れに混じって真っ白なヘドウィグがすいーっとハリーの目の前に舞い降りてきた。
ハリーの白ふくろうは毎朝やってきてはハリーの耳をかじったりトーストをつついたり、カティアに撫でられてから学校のふくろう小屋に戻って眠るのが日課だったが、今朝はなんと一通の手紙を置いていった。
ハリーが封を破って開くと、下手な字で走り書きがしてあった。
親愛なるハリーへ
金曜日の午後は授業がないはずだね。よかったら三時ごろ、お茶を飲みに来ませんか。最初の一週間がどんなだったか、いろいろ聞かせてほしいです。
ヘドウィグに返事を持たせてください。
ハグリッド
ハリーが嬉しそうに手紙の裏に「はい、喜んで。では後で」と書いてヘドウィグに持たせるのを、カティアはぼんやりと見届けた。
スネイプの『魔法薬学』は、カティアにとってそれほど悪い時間ではなかった。
少なくとも、教科書通りに「おできを治す薬」を上手く調合することは問題なくできたと言える。
スネイプに何も注意されなかったのは、カティアを除けば彼のお気に入りらしいマルフォイだけだった。
最初の授業だけで判断するのは早計かもしれないが、カティアは自分に魔法薬学の才能があるのかもしれないと感じた。
一方で、悲惨な目に遭ったのはネビルとハリーだった。
ネビルは何の拍子かシェーマスの大鍋を溶かしてしまい、こぼれた薬をまともにかぶってしまい医務室行きになった。
そしてスネイプは、ハリーに対してことさら手厳しかった。
名指しで到底答えられないような難問を浴びせ、事あるごとに嫌味をぶつけた。あげくの果てには、隣に座るネビルが調合に失敗して大鍋を溶かした際に「ネビルが失敗すれば自分が目立てると思って、わざと教えなかったのだろう」という、およそ意味不明な理屈でハリーの点数まで引いてしまったのだ。
「なんでスネイプは僕の事があんなに嫌いなんだろう……」
魔法薬学が終わり、地下牢の階段を上がりながらハリーは零した。
「元気出せよ」
ロンが言った。
「フレッドもジョージもスネイプにはしょっちゅう減点されてるんだ。ねえ、ところで一緒にハグリッドの所に行ってもいい?」
そしてカティアは少し迷ったが、ハリーと共にハグリッドの元へ行くことにした。
三時に間に合うよう城を出て、三人は校庭を横切った。ハグリッドは「禁じられた森」の端にある木の小屋に住んでいる。
ノックすると、中から激しく戸を引っ掻く音と、野太い吠え声が何度か聞こえてきた。
「退がれ、ファング、退がれ!」
ハグリッドの大声が響いた。戸がきしみながら少し開き、隙間から黒々とした髯をたくわえたハグリッドの大きな顔が現れた。
ハグリッドは巨大な黒いハウンドの首輪をしっかり押さえながら、三人を中へ招き入れた。
小屋の中は一部屋きりだったが、ハグリッドの体格に合わせて作られているせいかとても広かった。ハムやきじ鳥が天井からぶら下がり、焚き火にかけられた銅のやかんが音を立てている。
部屋の隅にはとてつもなく大きなベッドがあり、色とりどりのパッチワークのカバーがかかっていた。
「さあ、くつろいでくれ」
ハグリッドがファングを放すと、ファングは一直線にロンに飛びかかり、その耳を夢中でなめはじめた。
「ロンとカティアです」
ハリーが紹介した。
ハグリッドは大きなティーポットに熱いお湯を注ぎ、ごつごつしたロックケーキを皿に山盛りにした。
「ウィーズリー家の子かい。おまえさんの双子の兄貴たちを森から追っ払うのに、俺は人生の半分を費やしてるようなもんだ」
ロンを見てハグリッドはしわがれた声でくつくつと笑った。
それからそのつぶらな黒い瞳が、じろりとカティアの方へ向いた。
「で、お前さんとはマダム・マルキンの店で一度会ったな。カティア、ホグワーツの暮らしはどうだ?」
「まあ……悪くはないです」
「そりゃあ何よりだ。ダンブルドア先生も、カティアのことを大層気にかけておられる」
カティアは曖昧に肩をすくめた。
ダンブルドアがカティアの学校生活を気にかけているのは、単なる教師としての務めからではないだろう。
生徒の中でカティアが孤立して人間不信にでも陥った場合、第二の「人喰い」に変質する可能性があるからだ。
「カティア、おめえの置かれた状況は、よーくわかる。よーくな」
まるでその考えを見透かしているかのように、ハグリッドはカティアをじっと見つめた。
だがカティアが何かを言いかける前に、ハグリッドはさっさとロンと兄のチャーリーについて、そしてスキャバーズ捜索の話題へと移ってしまった。
カティアはロックケーキをバリボリ噛み砕いていると、隣でハリーが声をあげた。
「ハグリッド! グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ! 僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれないよ!」
急な話にカティアは驚いてハリーを見たが、視界の端でハグリッドはハリーから目をそらした。
「え、どういう話なの?」
カティアは聞いた。
「僕がグリンゴッツに行った日………カティアと初めて会った日でもあるけれど、あの日僕とハグリッドは七一三番金庫に行って、中に入っていたものを取り出しだんだ。そうだよね、ハグリッド」
「あー………うむ、ああ、そうだが………」
ハグリッドはハリーにまたロックケーキをすすめた。
しかしハリーはロックケーキを噛み砕けなかったらしく、最初に出されたロックケーキがまだ皿の上に残っていた。
カティアは横からハリーの持つ新聞記事を見る。
グリンゴッツ侵入さる
七月三十一日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔法使い、または魔女の仕業とされているが、捜査は依然として続いている。 グリンゴッツの小鬼たちは、今日になって、何も盗られたものはなかったと主張した。荒された金庫は、実は侵入されたその日にすでに空になっていた。
「そこに何が入っていたかについては申し上げられません。詮索しない方が皆さんの身のためです」と、今日午後、グリンゴッツの報道官は述べた。
「荒された金庫は、実は侵入されたその日にすでに空になっていた………」
ハリーは記事を読み返した。
「……つまり、何者かがグリンゴッツのあの金庫に侵入するよりも先に、ハグリッドが中身を回収していたということなのかしら?」
カティアは軽く首を傾げたが、ハグリッドは遠くを見て答えなかった。