更新頻度はゆっくりです。
都合上オリキャラ多めになります。
美味しくて甘いものを取られたら嬉しくない。あたりまえだろ。
毎日、みんな学校や仕事、人間関係と頑張ることは色々。ストレスが溜まらない人なんていないし、その発散方法がわかんない人もいっぱい。
大抵は、趣味とか、楽しいことで忘れられるんだろうけど、人間の頭って脳天気なだけじゃいられない。
お酒やクスリに依存して破滅しちゃったり、遊びにかまけすぎて生活が危うくなったり、溜め込みすぎて爆発しちゃったり。
心療内科はどこも混んでいて、現代において、カウンセラーや心理療法士というのは、なかなか需要が高まっている。
メンタルは、一度折れてしまったらそう簡単には治らない。
何年も何年も、亀よりも遅い速度で、ゆっくりと治していくしかない。
ちょっとでも道を踏み違えたら、最悪の終わりになってしまうことだって、珍しくない。
心療内科の院内は、忙しい現代の生活から切り離されたみたいに穏やかで、優しげなオルゴール調のBGMが、待合室でスマホを触っている患者を包んでいる。
待合室の席に座っている人たちは、パッと見るだけでも年齢層は広くて、若い高校生から社会人、定年後のご老人なんかもいる。
少し空調の温度が高めなのか、ぬるりとした重さのある暖かさが、頬にまとわりついて、呼吸が自然とゆっくりになる。
誰も喋らず、オルゴールの音だけが響く室内は、俗世と切り離された揺籠のようにも思えるかもしれない。
「
そんな受付からの呼び出しに、私は椅子から腰をうかして――
そこで、いつも目が覚める。
*
幼少期から、よく夢を見ていた。
夜更かしからの浅い睡眠が原因……というより、なにかと不定期に現れるイベントのようなものだ。
内容はいつも同じ。
心療内科に通っている“私”が、待合室から診察室に呼ばれて向かおうとしていくところで、椅子から腰を上げた瞬間に覚醒する。
このよくわからない夢を、私は変な、夢らしく意味のない滅裂な内容だと感じていた。
私は心療内科に通ったことなんてないし、そんな、メンタルを病むほどに深く気分を落ち込ませたことが無かったから。
家族関係や小学校での立ち位置は良好で、自分が心療内科に通院する程思い悩むなにかも見つからない。
私はごく普通の女の子で、こんな夢をよく見るようになるまでは、お医者さんなんて小児科しか知らない子だった。
でも、夢の中の私はそこが心療内科だとわかっていて、年齢も、今の私より何歳も上だった。
不思議だな、変だな、で済ませていたのだ。
所詮夢の話だし。
深い意味なんて特にないと。
しかし、それは私の【個性】が発現してから、正しく「深い意味のある夢」になった。
*
この世界には【個性】というものが存在する。
大抵の人間は持っていて、身体から炎を出すとか、超パワーを使えるとか、人間の常識を超えた力を得れる。
今もいろいろ研究が進んでるみたいだけど、謎も多いみたい。
私の個性は、その異能と同時に、私の脳に大量の「誰かの記憶」を流し込んできた。
名前も、性別も、外見も私と同じで、ただ個性が存在しないらしい世界にいた。
その子は、夢に出てくる“私”で、心を病んで通院をもう何年もしているらしい。
数ヶ月に一度、体調報告と薬を貰いに病院に行って、定期的なカウンセリングも受けてたみたい。
“私”は災害で家族を亡くして、そこから精神を病んでしまったよう。
いまいち当事者意識が持てずに他人事だけど、それが前世なのかパラレルワールドなのか、なんであれ「私」であることはわかっていた。
個性が発現して、はっきりと記憶を読み取れるようになってからは、私の感情と“私”の感情は分離しているらしく、私はただ辛そうに薬を飲む“私”を可哀想にと眺めるだけ。
ただ、そんな辛い記憶とは別に、楽しい記憶も流れ込んでいた。
美味しい食べ物とか、面白かった旅行とか……友達や家族の顔は霞みがかったように思い出せないけど、記憶の中の“私”は笑っていた。
記憶を眺めることしかできない私も、彼女がちゃんと明るい記憶を持っていることに安心したし、今は知らない経験を他人の記録として読んでいるようで楽しい。
彼女が趣味としていたのは、カードゲームらしい。
オレンジや緑、白いカードなんかを使って、友達やネット上で対戦していた。
私がおもちゃ屋さんでカードコーナーを覗いても売っていなかったから、やっぱりこの記憶はどこか違う世界のものなんだと思う。
そして、そのカードゲームに描かれていたモンスターが、今私の膝に座っている。
「〜♪」
「ごきげんだね、ロリポー」
「〜〜♪」
「あ、こら。これは私のおやつ」
“私”が使っていたモンスターたちは【ヤミー】という一群らしい。黒いぽわぽわした本体が、お菓子を被さって擬態している。
私は、そんな彼らを召喚することが【個性】だった。大きめのぬいぐるみサイズのこの子達は、一匹ずつ自我があるみたいで、こうして私のおやつをネコババしようとしたりもする。
この子達は甘いお菓子がだ〜い好き。
ロリポップキャンディの格好をした「ロリポー☆ヤミー」は機嫌良さそうに手に持ったロリポップを揺らしている。
「はぁー、のんびりしてる場合じゃなかった。進路希望、かぁ……」
私は自室の学習机で、進路希望調査の紙を前に呆然としていた。
あの夢を見始めるようになって数年。
ヤミーたちを召喚できるようになって数年。
今の私は中学生として、当然ながらこれからの進路について悩んでいた。
父も母も、特に何か特定の場所へ行けとは言わない。私の自由にしていいみたい。
ただ、適当な理由で選ぶのはダメ、と言われたので、何かしら納得できる言い分を持って印鑑を貰わないといけない。
でも、まだお酒も飲めない年齢なのに、これから何十年も影響する高校進路を即決するのは、難しい。
ロリポーたちに相談しても、みんな呑気に自分たちの着るお菓子を褒め合ってるだけだし。
ご主人さまの悩みにはちっとも共感してくれないんだから。
「家から通えて、進学とか就職に有利で、私が行けそうなところ……かぁー」
最低限の条件だけでは、決め手に欠ける。
そもそも県内にはいくつも高校があるし、専門学校なんかも含めるとかなり膨大だ。
なんせ、この辺りで一番すごい学校は、あの雄英高校なんだから。
ヒーロー科は高校に上がる子どもはみんな憧れる、花形のコース。
個性を使ってヴィランを倒し、災害救助やテロ対策に人々を救うかっこいい姿。そして人気投票によるファンの獲得や黄色い声。
ヒーローはただの治安維持組織だけではない、キャラクター性やネームバリューを持った職業なのだ。
勿論甘い職ではないから、毎年大量の少年が試験に挑んで、脱落していく。
狭き門だし、プロになっても危険と隣り合わせだ。ヴィランを相手取るには相当な精神力と個性を使う技量が必要だろう。
だからこそ、憧れる人が多いのかもしれないけど……。
「ロリポーは、ヒーロー科ってどう思う?」
「ン〜?」
「……飴ちゃん楽しいかぁ、良かったね」
おやつの飴をぴらぴら振ったり眺めたりしているロリポーは、私の真剣な悩みには答えてくれない。
ヒーロー科は確かに人気で将来性もあるコースだけど、私はこの個性でヴィランを捕まえる光景が想像できなかった。
この子達は、記憶の中の
そもそも、私自身が人を傷つけることができるのだろうか。
ヒーローの活躍やヴィランとの戦いは、テレビなんかでよく観たけれど、それを自分がやる! となると、きっと躊躇ってしまう。
ゲームだって、人を撃ったりするFPSやTPSは苦手で、のんびりと進められる箱庭ゲームやRPGが好きだ。
敵だからと、殴ったり蹴ったりすることは、私には無理だ。ヒーロー科は戦闘がメインだろうし、無理無理。
となると、普通科やサポート科……?
しかし、なかなかピンとくるものもなく、私は机に広げられた学校のパンフレットを捲る。
近隣の学校のものを片っ端から貰ってきたせいで、ちょっとした束になっているそれは、大抵どこの学校も就職率や大学へのサポートの話をしていた。
ヒーロー科となると、雄英に敵わないからだろう。公務員へのルートや、有名大学の進学といった売り込みじゃないと、ただでさえ偏差値の高い雄英に見劣りしてしまう。
雄英のヒーロー科やサポート科は、卒業したらそのままヒーロー事務所に所属したりするのが普通らしいから、大学進学はかなり珍しい。
高卒でも大卒でも、今時就活で有利とか無いらしいけど……先の話すぎてよくわからない。
「……ん?」
パンフレットを流し読みしていた目が止まる。
派手な黄色と青、赤の彩色で印刷されたA4のパンフレットには「セラピー科」の文字。
「なになに……『事件や災害によって心身に傷を負った人達を癒し、補助する事を学ぶコースです。救命からカウンセリングなど、被害に遭われた方とより良い未来を創る技術を習得します』。──って、これ雄英高校のパンフレットだ……!」
派手なわりに優しい言葉が並べられたそれは、雄英の新学科の紹介でもあった。
今年から新設されたらしく、応募者を絶賛募集しているそう。パンフレット内にしっかりと説明が載っていた。
セラピー科……。
傷ついた誰かを癒す、事件の後のアフターフォローを学ぶコースかぁ……。
「ちょっと、気になるかもね? ロリポー」
「ン〜♪」
膝に乗った黒いかわい子ちゃんは、ニコニコと愛らしい顔で飴を明かりに照らしていた。
私の今日のおやつだったけど、もうロリポーにあげちゃっていいや。
*
「ビッグアジフライぬいぐるみ、かぁ……。流石にもうこれ以上ぬいぐるみは増やせないかな」
休日の日曜日。私は息抜きにゲームセンターへとやってきていた。
セラピー科にピンときた私だけれど、その時のテンションのままに決めるんじゃなくて、少し時間を置いて改めて考えることにしたのだ。
先生も家族も、じっくり考えるようにって言ってたし。一度思考をリセットして、客観的に判断しなさいって、口酸っぱく忠告されてるんだから。
ゲームセンターは、家から自転車の距離で気軽に来れる、そこそこ大きな施設だ。
メインはクレーンゲームやメダルゲームだけど、アーケードゲームや音ゲーも揃っている。マイナーな筐体もあるから、運営者は結構マニアなのかもしれない。
私はクレーンゲームが好きで、ぬいぐるみや小物を取るのが趣味のひとつだ。
アームの設定、プライズの形状、重心の計算なんかは、お店との戦いみたいで目に炎が宿る。
プライズでも力の入っている商品も多いし、それを予算内で獲れたときはついガッツポーズをコソッとしてしまう。
まぁ、それで最近は部屋にぬいぐるみが溜まってきてるわけだけど……。
生活に困ってる家庭ではないけど、お小遣いはちゃんと常識の範囲内の金額。親戚は多くないから、お年玉もそこまで貰えるわけじゃない。つまり、軍資金は無限にあるわけじゃないのだ。
そこから、どう最低額で獲れそうなものを見つけるかも、宝探しみたいで楽しかったりする。
お菓子の大袋とかが、チャンスになってないかな。
「もー! 全っ然とれなーい!!」
クレーンゲームがずらりと並ぶアームの森の中で、そんな悲鳴が聞こえた。
この店のアーム設定は登場したばかりの新商品以外は平均〜平均より少し上といった辺り。たまに弱いものがあるが、それは近いうちに中身が新商品に変わるものが多かったり。
結構通っているので、なんとなく法則性に気づいたのだ。極端に低くしたり遠隔で弄っていない優良店だから、そこは安心だ。
私みたいに常連の客も多いから、クレーンゲームの設定でちまちま稼がなくても運営が安定しているのかも。
それとなく声の方を覗いてみると、私服らしい女の子が筐体を前に頭を抱えていた。
ギャルっぽい、身体のラインがはっきり出るオフショルダーにショートパンツが眩しい。肌はビビッドなピンク色で、頭には角が生えている。
どうやら、プライズである「かどっこぐらし」のポーチが取れないようだ。
見かけない商品なので、最近入った新商品だろう。アームの緩い揺れは、設定があまり強くないことを示している。
けれど、私はそのポーチと排出口の位置に注目する。
箱に封入されているタイプではなく、ポーチそのものがそのまま置いてあるので、掴みどころは難しいだろう。中に緩衝材でも入っているのか、膨らんで丸みを帯びているのもなかなかいやらしい。
けれど、趣味としてクレーンゲームを頻繁にプレイしていた者としての勘が、「獲れる」と囁いた。
正直、何の関係もない他人と話すのは慣れていないけれど……悔しそうな顔を、晴らしてあげたくなってしまった。
私は、コンビニで買っていたマシュマロをひとつ食べて、そっとその子の隣へ寄る。
甘いマシュマロはとっても
「あの……良ければ、代わりに獲りましょうか?」
☆遊甘光優(ゆうか みや)
年齢:16歳
身長:145cm
好きなもの:クレーンゲーム、甘いもの
嫌いなもの:荒っぽいこと、苦いもの(ブラックコーヒーなど)
個性:【ヤミー】
遊戯王テーマである「ヤミー」モンスターを召喚できる。ヤミーにはそれぞれ自我があり、同じ種類のヤミーを複数並べることも可能。召喚条件を満たせばリンクとシンクロも可能。
実は【ヤミー】ではなく【遊戯王】の個性なので、デッキを作りルールに則った宣言をすることで、他モンスターや魔法罠の行使ができる。つまりフィールド魔法によるパンプで3000越え打点のヤミーを並べられる。
かなりヒーロー向きの個性だが、本人が戦闘を嫌うため積極的に使われることは無い。