「あの……良ければ代わりに獲りましょうか?」
「ふぇっ!? い、良いの!?」
そっと驚かせないよう話しかけたつもりだったのだけど、突然の声かけに女の子は肩を跳ねさせた。
女の子は私より背が高いから、私は筐体に向かっていた彼女を覗き込む形になる。驚きつつも、女の子は目をキラキラさせて私に応えてくれた。
怪しまれなくて良かった……。
「その、クレーンゲーム得意なんです。見た感じ、獲れそうだなって……。勿論プレイ代は自分で出しますから、やってみても良いですか?」
「マジで!? 私、この台に二千円も使ったのに獲れなかったんだよー! 滅茶苦茶カワイイデザインなのに……」
「新商品なので、アームが弱いみたいですね。ちょっと、失礼」
私は女の子に立ち位置を譲ってもらい、100円玉を投入する。500円入れたら1プレイおまけだけど、そこまで回数はかからない気がした。
ポーチは排出口から少し離れた場所に転がっている。途中で落とすと丸さから転げて位置が遠のいてしまうのはあるあるだ。
愉快なBGMとは逆に、私は鋭い目つきでレバーを操作していく。
女の子は、胸上でグーを握ってそれを見守っていた。
「えっ、そこじゃポーチを掴めないんじゃ……」
「いえ、大丈夫です」
私はアームの降下ボタンを押す。
ニュウンニュウンと独特な効果音と共に、アームはポーチを掠りつつ下に沈んだ。
閉じていくが、揺れからしてやはり強さは弱い。軽いポーチでも、本体は簡単に滑り落ちてしまうだろう。
けれど、細身の金属パーツが使われたアームは、しっかりと本命を捉えていた。──タグだ。
「あ! タグに引っ掛けて……!」
「あとは滑らなければ……」
弱いアームだけれど、アームの片方にタグを吊るしてしまえば挟む必要は無い。
あとはタグが移動に耐えてくれるかだが、ポーチ本体は軽いのであまり重力の影響を受けていない。
アームの移動にも特に動じず、排出口にポーチが落下した。
「ええー! スゴッ! 100円で獲れちゃった!!」
「上手くいって良かったです。あ、どうぞ」
「えー! うわー! 凄い凄い、ありがとー!」
「そ、そこまで感謝されるほどでは……」
プライズ本体ではなくタグを狙うのは、クレーンゲームでは割と基本的なテクニックだ。
重かったり、形状的に不安定な物は、無理に掴まず引っ掛けることである程度アームの弱さを無視できる。
これが箱型だったら、もう少し苦戦していただろう。運が良かった。
「あっ、お礼!」
「えっ、いえ、私が勝手にやったことですし……大丈夫ですよ」
「こーゆーのはちゃんとしとかないと! 私、これからスタバの新作飲みにいく予定なんだけど、一緒に来ない? 奢るから!」
「ええっ!? 100円どころの値段じゃ……」
「ジンケンヒ? ってやつだよー! ほら、行こ行こ!!」
ひゃ、100円がフラペチーノに化けてしまった……。
新作はサイズ固定だから、大体700円。クレーンゲーム7回とおまけ1回分。
貰いすぎな気がするけど……女の子の笑顔と、フラペチーノの誘惑に耐え切れず、私はスタバに向かうことになった。
「私、芦戸三奈っていうんだ。来年から高校生!」
「
期間限定の、ぶどう&紅茶フラペチーノはとっても
【カプシー☆ヤミー】が羨ましそうな顔をしたのが頭の中に浮かんだが、あの子にあげるとなると丸ごと渡さないとなので、残念だが我慢してもらおう。
「マジ!? 同い年なんだ、じゃあワンチャン進学先で会うかもね」
「芦戸さんは、もう進路決まってるんですか?」
「うん、雄英高校ヒーロー科! やっぱ目指すならココっしょ!」
芦戸さんは、ビシッとVサインを決める。雄英高校ヒーロー科なんて、偏差値も倍率もバカみたいに高い。でも、芦戸さんはもう既に受かることが決まったかのように自信に満ちていた。
「す、凄いですね……。私、まだ悩んでて」
「ヒーロー目指すなら、どうせだし最高の環境行きたいじゃん? ミヤピはなに目指してるの?」
「ミヤピ……?? その、ヒーローよりは、誰かを癒したりとか、そういうところに行きたいなって」
フラペチーノを飲んで活性化した頭で考えても、やはりヒーロー科は私には違う道に見えた。
芦戸さんみたいに、キラキラして自信たっぷりな人を見ると、尚更。
それは諦めなんかじゃなくて、「隣に立ちたい」気持ちよりも「後ろで支えたい」気持ちの方が大きいんだろう。ココに移動するまでにプロヒーローの人を何人か見かけたけど、自分がそこに並び立つビジョンは見えない。
私の中で、セラピー科の存在はどんどん膨らんでいく。
「ミヤピ、良いヒーローになりそうだけどなー。私も助けてもらったし」
「クレーンゲームくらいで、そんな大袈裟な……」
「そう? ヒーローって身近なところからって思うけどなー」
昨日の夜、色々調べてみたけれど……職業ヒーローは何年とトップの人気職だ。子どもたちは大抵ヒーロー科を目指すし、毎年何十の新人ヒーローがデビューしてる。
けれど、ヒーローを目指す人が多い分、医療系の人員や就職者は、下がってきてしまっている。
手っ取り早く個性の使用許可のライセンスが出るのが、ヒーローになるってこともあると思うけど……。
あの雄英高校も、治療系の所属ヒーローはリカバリーガールくらいしかいない。その現状を、雄英はいち早く変えようと動いたんだ。
「ゔぁーーーーーーん!!!」
突然、子どもの泣き声が辺りに響いた。小さな子の涙は周りの人の耳によく刺さる。
私も、思わずフラペチーノから顔を上げ周囲を見回せば、男の子がお母さんらしき人に抱きつきながら泣いていた。
ふと、空色の中に目立つ黄色が見えて、なるほどキャンペーンで配られてたオールマイト風船を、この子は空へ失くしてしまったのだ。
「あちゃ〜、風船の手離しちゃったのか」
「……」
「ミヤピ?」
「私……ちょっと行ってきます!」
「ええ!?」
芦戸さんが言ってた、「ヒーローは身近なところから」っていうのは、きっとヒーローだけに当てはまるものじゃないだろう。
「ボク、大丈夫?」
「オ゛ールマ゛イドぉ……ヒック」
「大丈夫だよ。見ててね、ジャーン!」
私はポンっと【ロリポー☆ヤミー】を喚び出す。人懐っこいロリポーは、手に持ったロリポップをニコニコと男の子に渡した。
「……くれるの?」
「うん、この子が泣かないでって。それにね……」
私は、ロリポーを抱き上げると、そのまま風船の飛ぶ上空にロリポーを投げた。男の子の驚く声が上がる。
しかし、ロリポーは地面に落下せず、空中で青い光に包まれた。そして、光が収まるとともに別のモンスターへ変化する。
【ヤミー☆スナッチー】。ヤミーのリンクモンスターで、宇宙服を纏うお菓子が大好きな「アーム」だ。
スナッチーは背中のキャッチャーくんによって、素早く空中に滞空する。
「スナッチー、あの風船とれる?」
「──!」
風船はもはや飛ばないと届かない位置まで飛んでしまっているけれど、雲まで届くほどではない。
スナッチーの滞空高度で問題なく取れそうだ。
頷いたスナッチーは、オールマイトの顔を模した黄色い風船をキャッチすると、ゆっくりと降りてきて私に渡した。
それを、そのまま男の子に返す。
「はい、どうぞ。もう離さないようにね」
「すごぉい……お姉ちゃん、ヒーロー!?」
「ち、違うよ。もう、悲しいの無くなったかな?」
「うん! ありがとー! お姉ちゃん、ありがとーね!」
男の子の笑顔が輝く。
お母さんからも、改めてお礼を言われるけど、素直に受け取りつつ話もそこそこに芦戸さんのいる席へと戻る。周囲の人からもちょっとした拍手なんかを貰ったけど、目立ったのがちょっと恥ずかしい。
フラペチーノは、少し溶けかけていた。
「凄かったねー! それがミヤピの個性?」
「うん、上手くいって良かった。あ、スナッチー、これ飲みかけだけど、残り飲んでいいよ」
「──♡」
スナッチーにフラペチーノを渡せば、喜んで飲み始めた。
ヤミーたちはお菓子を「着る」ことが好きだけれど、このスナッチーはお菓子を「食べる」ことが好きなのだ。ヤミーにあげたお菓子はファッションに利用されるから、綺麗な状態で残さないといけない。
飲みかけで悪いけれど、手伝ってくれたお礼だ。甘いものに飛びつくようにフラペチーノを吸い終わったスナッチーは、満足そうに消えた。
「本当にヒーロー目指さないの? ピッタリだと思うけど」
「そうですね……でも、行く学校は、同じになるかも」
「普通科かサポート科ってこと?」
「いえ……ふふ、芦戸さんとあの男の子のおかげで、決心がつきました。私が目指すのは──セラピー科です」
人を傷つけるのは苦手だけれど、目の前の誰かが泣いているのは見たくないから。
一般人も、ヒーローも、みんな
その為に、私も踏み出さなきゃ。
☆遊甘のヒミツ
遊甘's頭:割と良いぞ!文系だ!
遊甘's口:基本敬語!甘いものが大好き!
遊甘's胸:板チョコ。本人は気にして無い。
遊甘's手:ちょっと不器用。プリッツ。
遊甘's足:遅い。ポッキー。
遊甘'sポケット:必ず何かしらのお菓子が入っているぞ!
ヤミーたち:みんなマイペース。お菓子大好き(着用)。遊甘も大好き。遊甘のおひざはヤミーたちの特等席だもんね!