超鋼鉄戦士ガリオスインフィニティ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#02

 地球、そこは平和な星である。

 日本、そこは平和な国である。

 たとえ不景気により国民が先の見えぬ生活に怯えようが。それを見て見ぬふりをして権力者が私腹を肥やそうが。インフラの経年劣化により生活が徐々に崩れようが。

 世間が平和と言えば、それは平和なのだ。

 

 少年、この物語の主人公である「平木実(ヒラギ・ミノル)」は、どこにでもいるごく普通の少年である。

 そう、日本の、どこにでもいる、ごく普通の中学生の少年なのである。

 

「ただいま」

「………チッ」

 

 学校での一日を終えたミノルが自宅に帰ってくると、まるで鬱陶しい物でも見るようにこちらを睨みつける女が一人。

 

「(ああ、そういやあの日か………)」

 

 それを見てミノルは、今日がいわゆる「女の子の日」である事を思い出した。毎月この月にはこうなるので、いい加減勘づきもする。

 一応帰宅の挨拶はしたので、ミノルは極力刺激しないようにしながら二階の自室へ向かう事にした。

 

「何よ!!!お母さんが悪いって言うの?!?!?!」

 

 駄目だった。

 そもそもその女は生理事情による八つ当たりの矛先を探している状態であったから、いくらミノルが息を潜めようと、ただいまの挨拶をした時点で「詰み」であった。

 もっとも、ただいまの挨拶をしなかったらしなかったで「挨拶しろ!!!」と噛み付いてきただろうが。

 

「ああああ!!!そうやってお母さんを悪者にするんだ!!ああああ!!!」

 

 完全に発狂してしまった。こうなっては落ち着くまで止まらない。そして落ち着くまでどれだけかかるか解らない。

 ミノルは全てを諦めて二階へと避難しようとした。だが。

 

「コラッ!ミノル!!母さんに謝れ!!」

 

 わざとか知らずか、さっきまで気配の消えていた男がしゃしゃり出てきた。

 どことなくミノルに似た雰囲気のその男は、女の肩しか持たなかった。どんな時でもその女の味方である「理解ある彼くん」だった。

 それが、ミノルにはたまらなく許せなかった。父親としての責務よりも「彼くん」でいようとするその様が。

 

「知らないよ!父さんがどうにかすればいいだろッ!」

「親に向かってなんだその口の聞き方は!」

「僕は何もしてない!じゃあね!」

 

 小学生のうちは降りてきて謝っていたが、それが今まで続けばいい加減あしらい方も覚える。ミノルは全てを無視して二階へと上がって行った。

 

「ああああああっ!!そうやってお母さんを悪者にするんだぁ!!あああああっ!!あああああっ!!」

「大丈夫だよ落ち着いて、君は何も悪くないよ、悪くないからね」

 

 どこまでも自分達しか見えていない、悪い意味で仲良しな自分の父親と母親を尻目にミノルは自室のドアを閉めた。

 

 ………そう、ヒラギ・ミノルはどこにでもいるごく普通の中学生だ。

 今の時代、こんな幼稚な人間が親になる事など珍しくない。だから、こんな両親の元精神をすり減らしていても、世間から見れば普通なのだ。

 そう彼は、どこにでもいるごく普通の中学生なのだ。

 支援が必要だろうと、彼は普通の中学生なのだ。

 

「………うまっ」

 

 そんな彼は、なけなしの小遣いで密かに買いだめていたカップ麺を晩御飯として頂いていた。母親がヒステリーを起こした日は、いつもこうしてカップ麺で済ましているのだ。

 ミノルこのような事態になる事を見越して、湯沸かし用のケトルと一緒にカップ麺を買い溜めている。

 

「いつかこんな家出てってやる………!」

 

 そう、自由への確固たる意志を燃やすミノルではあるが、ベッドに寝転がっていると気持ちがどんどん落ち込んで来る。

 いくら闘志を燃やした所で、頼る物がいないという状況はミノルの心に寂しさという隙間風を呼び込んで来る。

 

「………疲れたなぁ、あの人に会いに行こう」

 

 そういう時は、ミノルは携帯電話(スマートフォン)を開く事にしている。

 運良くスマホだけは持たせて貰えた為に、ミノルは頼る者のいないこの状況で、完全に孤独にならずに住んだ。

 開くのは、ボイスチャット機能のついたSNS。そこに、ミノルの求める「あの人」がいる。

 

「………ティファお姉ちゃん、今いい?」

『いいですよぉ、弟くん♪』

 

 ミノルが求める「あの人」。それはこのSNSで相互フォローの「ティファお姉ちゃん」だ。

 無論SNSのハンドルネームであり、本名ではない………多分。

 

「ううっ………ティファお姉ちゃん、あのね………」

 

 使っているSNSの機能で偶然知り合い、世間話や普段の愚痴を聞いて貰っている内に親しくなった。

 ミノルにとっては、折り合いの悪い家族の愚痴という日本では共感の得られにくい話題を話す事の出来る、唯一の相手。それがティファお姉ちゃんである。

 

『うんうん。でもそれって弟くんが悪いわけじゃないですよね』

「ううっ………わかってくれる?」

 

 ………であるが、こうして話している内に、いつしかそのティファお姉ちゃんは、ミノルの姉のように振る舞うようになっていった。

 そしてミノルも彼女からのお願いにより「弟くん」と呼ばれるようになり、いつの間にかこんなロールプレイにまで興じるようになった。

 

『よく頑張りましたねぇ、弟くんはいい子、本当にいい子です………』

「あううっ………お姉ちゃあん………」

 

 傍から見れば変態のそれ。しかも匿名相手のイメージプレイという危険すぎるそれである。

 しかし、ミノルにとっては日々の壊れそうな心を癒やす唯一のオアシスであり、安住の場だった。

 こんな、自宅ですら気を抜けないミノルがネットの世界に救いを求める事を、一体誰が責める事ができようか。

 

「うん………ありがとう、元気出た。僕、もうちょっと頑張ってみるよ」

『また辛い事があったらいつでも来てくださいね、お姉ちゃんはいつでもここに居ますから………』

 

 そうして、通話は終わりを告げた。

 スマホの電源を落とすと、ブラックアウトした画面には、目元の腫れたミノルの顔が写っていた。話している最中、知らぬうちに泣いていたのであろう。

 

「………泣いてたんだ、僕」

 

 しかし、心は晴れやかだった。泣いた事で抱えていたストレスを解消したという説明はつけたが、ミノルはそれを野暮だと片付けた。

 そして心機一転し、ミノルは学校鞄から取り出した問題集と参考書に向き合う。

 

「………やるぞ」

 

 家を出る為に、よりよい学校を受験しようと考えていたミノルは、人一倍勉強をしている。泣いて頭がスッキリした今なら、知識も吸収しやすいと考えたのだ。

 幸い、寝るまでまだ時間はある。ミノルの将来に向けた投資の時間を、夜の闇が優しく包んでいた。

 

 

 ………そんな、日本の片隅で小さな努力が重ねられている頃、世界には大きな動きがあった。

 

 人類が初めて接触した地球外知的生命体・エルフェン船団。それがついに、地球にやってくる事になった。

 その目的は、地球との友好を結ぶため。

 

 そして、そのエルフェン船団が降り立つ場所が、なんと日本の東京に決まった。

 そう、ミノルのいる街である。

 

 しかし………日本政府が正式にそれを発表するより早く、その情報を察知してる者がいた。

 それは。

 

 

 ***

 

 

 豪雪吹き荒れる南極大陸。吹雪の中、その奇妙な建造物は悠々と佇んでいた。

 

 かつてGメタル採掘基地のあったその場所に新たに建てられたそれは、極限環境である南極に建てるにはいささか趣味的な外見をしていた。

 某東京工科大学の校舎的とでも言うのだろうか、そこはまるで古い特撮やアニメに出てくるような地球防衛軍の秘密基地のような外見をしていた。

 

 いや………ような、というのは間違いだろう。

 彼らは、というか彼らの基地であるその建造物の門にははっきりと「地球防衛軍」と書いてあったのだから。

 もっとも、彼らはどこの国にも所属しておらず、尚且つ国連公式が認めた組織という訳でもないのだが。

 

「ムムムッ!宇宙レーダーに異常が!」

 

 その地球防衛軍基地を支配しているのが、典型的な天才科学者といった外見の、この白衣の老人である。

 彼は周りに自らを「西野(ニシノ)博士」と呼ばせていた。

 IQ1145141919810の天才であり、Gメタル採掘基地にてクーデターを起こし、反対する者達を虐殺して、この地球防衛軍基地を立ち上げた張本人である。

 

「ククク………ようやくこの時が来た!ワシの長年の夢である、地球を守るスーパーロボットを作るという夢が!」

 

 そんなニシノ博士の夢は、アニメや漫画に出てくるような、地球を守るスーパーロボットを作る事。

 それはいわば(くろがね)の城であり、または鋼鉄の虚無である。悪の宇宙人から地球を守るヒーローなのだ。

 そんな彼にとって、今回のエルフェン星団の来訪は願ってもない朗報であった。

 

「地球に来る宇宙人など侵略者と相場は決まっておる!ワシは全てのロボットアニメを見たからわかる!なら、倒しても問題ないじゃろう!クククク!」

 

 彼は狂っていた。

 

「おそ竹!おそ竹はおらんかっ!」

「ああ!ここにいるぜ博士!」

 

 そんなニシノ博士の前にシュバッ!と、一人の男が現れる。

 某マジンガーの主人公を思わせる感じの茶髪に染めた髪型をした彼は典型的な熱血主人公に見えた。

 そして彼は名を「おそ竹」と言い、熱血スーパーロボットのパイロットが着るような真っ赤なコスチュームに身を包んでいた。

 

「おそ竹よ、ついに宇宙人のクソムシ共が地球を狙って攻め込んできたぞ!お前達の力を見せつける時が来たようじゃ!」

「ああっ!薄汚いエイリアン共はみんなころ俺が血祭りにあげてやるぜ!その為に俺は生まれたんだからな!」

 

 そして、彼は普通の人間ではない。

 スーパーロボットのパイロットになるべくして、ニシノ博士が作ったクローン培養による人造人間。それが彼なのだ。

 彼にとって、悪の宇宙人というニシノ博士が教えた敵を倒す事こそが存在意義であり、人生の意味なのだ。

 

「さあ!ガリオス1号発進じゃあッ!!」

 

 そして、彼が乗るスーパーロボットがついにその姿を現す。

 格納庫に佇むその巨体。ドラム缶のように太く力強い姿に銅色のカラー、頭部に生えた牛のような角に胸に輝くGの文字。

 そう、これこそニシノ博士が建造したスーパーロボット、その名を「ガリオス」、その1号機だ!

 単体でイギリス第7艦隊に匹敵する戦闘力を誇り、基地で採掘したGメタル鉱石を精錬したGメタル合金の装甲は、あらゆる攻撃を跳ね返す!

 そしてパイロットは、熱血主人公・おそ竹!!

 

 「ガリオスッ!!ゴーーーッ!!」

 

 基地のハッチが開き、ガリオスが発進する。

 地球の平和を守るという名目で行われる狂気のヒーローごっこが、今始まろうとしていた。

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