超鋼鉄戦士ガリオスインフィニティ 作:アイアイホイホイおさるさん
それは、一言で言うなら「最近のロボットアニメとして槍玉二挙げられていたロボット像」であった。
俗にカトキデザインと称されるような、細く、スタイリッシュで目が二つあって二本のツノが生えている、某機動戦士の系譜な王道デザイン。
そしてイケメンが乗って綺麗事を吐きながら宇宙空間で銃を撃ち合うだけの、熱い男の魂など欠片もない、玩具とキャラクターを売るためだけの資本主義に塗れた薄っぺらいデザイン。
そんなロボット「アークカイザーX1」が、ミノルの目の前に降り立った。
そして。
『待たせましたね弟くん、助けに来ましたよ!』
そのアークカイザーから聞こえたのは、聞いているだけで耳が癒やされそうな、美少女ウィスパーボイスだった。
静かで、まるでピアノでも引いているかのような優しい声。能登だとか早見だとかといった単語がミノルの頭を過る。
『ここは危険です、これに乗ってください』
「えっ………何で………」
『さあ、早く!』
そしてアークカイザーはミノルの前に跪き、胸のハッチを開いて誘う。さあ、私に乗ってくれと。
当然ながらミノルには抵抗があった。見知らぬロボットのパイロットが、自分を弟と呼びながら、ロボットに乗るよう促して来るのだから。
「えっと………」
しかし、ここで他の選択肢を選ぶ余裕が無いのもまた事実であった。
ここには、破壊を振りまくガリオスが居て、自衛隊とエルフェン船団が戦いを繰り広げているのだ。
そこに「助けに来た」と言う謎のロボットが現れたなら、怪しくともその手を取らないという訳にもいかないのが現実である。
「………お邪魔します………」
何より、この場で優位に立っているのはアークカイザーとそのパイロットだ。ミノルは戸惑いつつも、跪いたロボットのボディに手をかけ、胸のコックピットへと乗り込んでいったら。
「ようこそ、弟くん」
「うおっ………!?」
そしてコックピットに座っていたパイロットを見て、ミノルは更に驚いた。
結論から言うとコックピットに居たのは美少女だった。
レモン色のブロンドの長髪に、エメラルドのような翠色の瞳。肌は白く血色が良かった。
某楽園追放や弾劾の王に出てくるようなSFチックなハイレグレオタードのような衣装に身を包んだ身体は肉づきがよく、
むっちりとした太ももとメロンのように豊満なバストが、少し動く度にゆさっ♡ゆさっ♡と揺れている。
そして一番の特徴であるが………耳が長かった。ピンと長く尖っていた。
その特徴を全てまとめるとしたら。
「(………エルフ?それにしても、格好もドスケベだし乳がデカすぎないか………!?)」
ファンタジー作品、特にライトノベルやネット小説に登場するような美少女巨乳エルフ。それが、眼前の謎の少女を前に抱いたミノルの直球の感想であった。
「さ、弟くんは後ろのコックピットに座ってください」
「え、あ、はい………」
そして言われるままに、ミノルは複座式になっているアークカイザーのコックピットの内、後ろの方に乗り込んだ。
すると開いていたコックピットが閉じ、周囲の空間に周りの光景が投影される。
「(全周天モニターだ!本当にあるんだ………)」
いわゆる「ゼータ」から様々なロボットアニメで見るようになった全周天モニター。その実物を前にしてミノルは息を呑んだ。
しかし、そんなアニメじゃない本当の事に感動している余裕は残念ながら無い。
何故なら、アークカイザーを追って街中まで進軍してきたスーパーロボットが、ガリオスが立ち塞がっていたのだから。
『な、なんだぁっ、奴らも巨大ロボットを作ってやがったのか!?』
ガリオスのスピーカー越しにおそ竹が狼狽える。
方や、地面にドッシリと足をつけて構える熱い男のスーパーロボット。
此方、見た目だけはスタイリッシュな思春期少年の為のリアルロボット。
何もかもが真反対の二体のロボットが、東京を舞台に対峙していた。
「そこの貴方!私達エルフェン船団は無益な殺生は望みません!大人しくロボットから降りて投降してください!」
エルフの少女は、女王からガリオスを倒すよう命じられてはいたが、それでも最後まで平和的な解決を望んでいた。
しかし、宇宙人は敵だと教え込まれてきたおそ竹が、そんな要件を呑むわけがない。
『うるせぇっ!!宇宙人の分際で人間様に口聞いてんじゃねえっ!!』
「なら………仕方ありません!行きます!」
少女の駆るアークカイザーが、背中と脚のバーニアを噴射して突撃する。タックルだ。
体格差はガリオスの方が上、押し合いの勝負ならあちらの方が有利。戦いを見守っていた誰もがそう思っただろう。
『たぁあ!』
『なんだとぉ!?』
ブッビガァン!と金属と金属がぶつかる音が響いたかと思うと、なんとガリオスのドラム缶のようなボディが吹っ飛ばされていた。
そしてガリオスは街中から、既に破壊された後である廃墟エリアまで一気に引き戻される。
『なめやがって宇宙人め!ガリオスパァァーーーンチ!!』
突然の一撃を食らわされたおそ竹は完全にキレていた。そしてガリオスの右腕をロケットパンチとして射出する。
しかし飛来してくる拳を前にして何もしないアークカイザーではない。
『無駄です!』
アークカイザーの前腕に内蔵されたビームガンが火を吹いた。
ライトグリーンの光が飛び、飛行するガリオスパンチに向けて何発も何発も撃ち込まれる。
そしてガリオスの右腕は、アークカイザーに到達するよりも早く、空中で撃墜され、爆発した。
『ガリオスパンチが!?くそっ!なめるなよ宇宙人め!!』
右腕を失ったガリオスが大きく胸を張る。
すると胸に輝くGの文字にエネルギーが集中していく。
そう!これこそスーパーロボット・ガリオスの持つ最強の必殺技!
その名も!その名も!!その名もッ!!
『ガリオスッ!!ビィィィーーーームッ!!』
ガリオスビーム!
ガリオスの胸から放たれる、摂氏114514度の破壊光線である!
その、桃色の光の奔流がアークカイザーに迫る。対するアークカイザーであるが、結論から行ってしまうと、この程度の攻撃を回避する事ぐらいは少女にとっては余裕であった。
だが。
「(いけないっ!今避けてしまうと後ろの街に被害が………ッ!)」
避ける訳にはいかなかった。
少女の、アークカイザーの背後には東京の街が広がっていたからだ。ここで避けてしまえば街に被害が出る事になる。
それはさせられない。そんな少女が選んだ手段は。
『粒子フィールド、展開!』
アークカイザーの持つ盾、アークシールドを使う事であった。
構えたアークシールドが展開し、エネルギー磁場による防御フィールドを瞬時に展開。そこに、ガリオスビームが直撃した。
バリバリバリバリッ!!
エネルギーとエネルギーがぶつかり合い、光のスパークが二大ロボットの周囲に舞い散る。
まばゆい閃光の中、逃げ遅れた人々は確かに見た。自分達を守るべく立つ、宇宙から来た鉄の巨人・アークカイザーを。
「あのロボット………俺達を守ってくれているのか?」
「宇宙人のロボットが、街を………」
それは皮肉とすら言えなかった。
一人の狂った老人がヒーローごっこの為に生み出したガリオスは、いくら熱い男のロボットの要素を入れようと、殺戮兵器でしかなかった。
対するアークカイザーは、宇宙人が作った薄っぺらいロボットでありながら、人々を守るために立つその様は、人類の守護者以外の何でもなかった。
『嘘だろッ!?月さえ砕くガリオスビームが効かない………!?』
ガリオス最大の必殺技が無効化され、狼狽えるおそ竹。
その眼前にて、ガリオスビームから街を守り抜き立つアークカイザーは、無機質なロボットでありながらその表情には明確な「怒り」が見えた。
暴力で人々を苦しめる敵に対する、正義の怒りである。
『貴方のような悪い人は………私、許せません!』
瞬間、アークカイザーがサイドスカートのハッチを展開し、一振りの
それはアークカイザーの手の中で展開し、ライトグリーンのビームの刀身が空へ向かって伸びた!
『バシリスブレーーードッ!!』
気合を入れる為か、少女はその武器の名を叫ぶ。
癒やし系ウィスパーボイスで叫ばれているので少々気は抜けてしまうが、そんな事は関係ない。
今少女の頭にあるのは、殺戮を振りまく眼前の
『く、来るな!ガリオスミサイル!ガリオスサンダー!』
バシリスブレードを構え、迫るアークカイザーに対し、ガリオスは持てる武器を総動員して退けようとした。
しかし、ツノから放たれる雷撃も、左腕の指先から放たれる小型ミサイルも、アークカイザーの突進を防ぐ事は出来なかった。
そして、ついにガリオスの眼前にまで迫ったアークカイザーは、バシリスブレードから展開するビームのサーベルを、容赦なくガリオスへ向けて振り下ろした!
斬ッ!!
一閃の刃は、ガリオスのGメタル合金の装甲を、あらゆる兵器を無効化した鎧を一撃の元に両断。
真っ二つにされたガリオスは、やがてドワォ!と大爆発を起こし、四散した。
そして殺戮者は去り、アークカイザーがその勇者がごとき姿を廃墟の街に佇ませていた。
***
「ノォォォーーーッ!!!!」
南極・地球防衛軍基地にて。
ニシノ博士は発狂していた。自身が地球を守るために建造した夢の化身であるスーパーロボット・ガリオスが、宇宙人のロボットに倒されてしまったのだから。
「宇宙人のクソムシ共め………次はこうはいかんぞ!地球を守るのはこのワシじゃ!!」
重ねて言うが、ニシノ博士は狂っていた。
だから、今の自分がスーパーロボットの博士ではなく、むしろその敵に近いムーブをかましている事に気づけなかった。
***
こうして戦いは終わった。
ロボット同士のバトルという、アニメの中でしかあり得ないような事を、その片方のコックピットという特等席で体験したミノルは、半ば放心状態にあった。
「………ごめんなさい弟くん、怖い思いをさせてしまって」
「あっ、えと………」
そして荒唐無稽な事はもう一つ。眼前の美少女エルフである。
ロボットに乗るというだけでも非現実的なのに、おまけにこんな美少女までついてくる。
もしこれが商業作品なら、こんな事現実ではあり得ないとマイナス評価を食らう事だろう。
「何で………僕の事知ってるんですか………?」
聞きたい事は山程あったが、ミノルがまず聞く事にしたのは、まるで自分に対して知り合いのように振る舞う彼女の事。
ミノルが不安な表情を浮かべている事に気付いたのか、少女は安心させるように柔らかな微笑みを浮かべた。
「………ティファお姉ちゃん、って言えばわかりますか?」
「えっ!?」
「本当に………待たせましたね、弟くん」
ティファお姉ちゃん。その、ボイスチャットで自身の心を癒やしてくれる相手の名前を聞いた途端、ミノルの中で疑問と答えが繋がった。
自分と知り合いのように振る舞うのも、自分しか知らないハンドルネームを知っているのも、弟くんと呼ぶのも、それはつまり本人であるという事。
「宇宙の彼方から、お姉ちゃんが助けに来ましたよ!」
夕日に照らされ、ティファお姉ちゃんこと「ティファ・エクス・エルフィーリア」が、ニッコリと微笑んだ。