我輩は寄生虫である   作:ナスの森

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明かされるもう一つの事実

 

 冷静に頭を回してみれば分かることだった。

 今は感情にまかせて暴れる時では無い。

 流れ込んできた“知識”がある以上、今は雌伏の時を待つべきなのだと、冷静な理性が訴えかけた。

 確かに、その通りだ。

 この洋館の連中を皆殺しにすることは簡単だ。

 でも、それじゃあその場の復讐が終わるだけ。

 私が最終的に復讐すべき相手は、アンブレラではなく、あくまでスペンサーなのだから。

 アンブレラとて復讐の対象ではあるが、彼らはいずれ崩壊する。

 いずれそのアンブレラ内でのスペンサーの影響力すら徐々になくなっていくだろう。

 組織というのは規模が大きくなればなるほど、そして時が経てば経つほど、設立当初の理念に変容が生じていく。正に彼らが研究するウイルスと同じだ。

 思想もウイルスも、時と共に徐々に変質する。

 その変容の波に呑まれることは、あのスペンサーですら逃れられない。

 

 

 ・・・・・・そして、1つ、屈辱的だが、受け入れなければならないことがある。

 

 

 償いなど、どの口がと、ふざけるな等と口にはしたものの、結局、アイツの償いによって生じた恩恵を否定することはあってはならないと、私自身でさえそう思ってしまったことだ。

 

 エルピス・・・・・・抗ウイルス薬。

 災厄の中に残された希望の箱。

 それが失われることがあってはならない。

 少なくとも、今のアンブレラやコネクションの手中に渡ることだけはあってはならない。

 使い方次第では世界の混乱を巻き起こせるような代物を、むざむざとそのような連中に明け渡すわけにはいかないのだ。

 例えパスワードで封印されているのだとしても、何処かの誰かが気紛れで適当なパスワードを打って、研究所ごと爆破して、永久に失われる事もまた論外だ。

 

 

 だから、スペンサーへの復讐を第一義としつつも、やるべき事は多い。

 結局、そのやるべき事の多くが結果的にスペンサーへと近付くことになるかもしれないから、尚更だ。

 

 

 だから、今は大人しくこの杜撰な“処分”を受け入れてやろうではないか。

 

 

     ◇

 

 

 長く、深淵の底を歩いているような気分だった。

 いや、きっと今でも歩いている。

 今や生者はいなくなり、動く活性死者のみが闊歩するようになったアークレイ研究所の洋館。

 かつての研究所長であったウィリアム・バーキンはアンブレラのラクーンシティ地下研究所「NEST」へとその研究拠点を移し、彼の友であったアルバート・ウェスカーも情報部へ転向した。

 そんな2人が態々、私の処分が決定した時に、再びこのアークレイを訪れてきた時は、狂った装いの奥で私は失笑したものだ。

 これで永遠のお別れだ、などと言うような冷めた表情であったが、あんな杜撰な処分で私を葬れると本気で思っていたのだろうか?

 そもそも貴方が見出したGウイルス・・・・・・その原型となる変異ウイルスの保菌者は誰なのか忘れたの?

 永遠に遺伝子情報を変化させ続ける(GOD)のウイルスであると、貴方は宣った。

 なら、そのウイルスの原型の持ち主が、そう簡単にくたばれると思うのは、さすがに楽観的思考が過ぎないかしら?

 

 

 ・・・・・・まあ、結局、分からなくはないという結論に落ち着くのだが。

 

 

 t-ウイルス研究の初期の産物であったT-001────通称、プロトタイラントだって、廃棄された当初は生命反応が完全に途絶えたのを確認してからの投棄だった。

 正直な所、t-ウイルスがもたらす生命力というのは、そう大したものではない。

 確かに驚異的な生命力の獲得や変異こそ引き起こすが、結局の所、血を流させ続けるか、脳を吹き飛ばせば殺すことができる。

 私達が知りうる通常の生命体の範疇をギリギリ逸脱していないのが大半なのだから。

 ゾンビしかり、ハンターしかり、その他t-ウイルス系のB.O.W.しかり。

 

 

 

 だから、生命力が高いだけの、最初期の実験体である私に対する杜撰に見える処分も、当人たちからすれば適切な処分ではあったんだろう。

 つまる所、彼ら自身も、自分達が研究するウイルスの神秘性や異常性を舐めていた・・・・・・ただこの一言に尽きる。

 

 

 

 まあ、今はその杜撰さに感謝しよう。

 こうして雌伏の時をやり過ごし、私は自由になったのだから。

 

 

 

 ・・・・・・お父さんとお母さんと離ればなれで幽閉され、変異型始祖ウイルスとやらを投与されたとき、私の世界は心身ともに異常をきたしていた。

 変異型始祖ウイルスに適合させられた後、ありとあらゆる試作型ウイルスを投与され続けあやふやになっていく意識の中で、全ての人間の顔がお母さんやお母さんの顔に見える失顔症まで患ってしまった。

 “知識”の中にあったモーフィアス・D・デュバルという人物の例を思い出してみれば、体内のウイルスが私が望む光景を、歪ながら叶えてくれていただけなのだと思う。彼も自身にt+Gウイルスを投与し、元は男性だったにもかかわらず女性型のクリーチャーに変異していた。美しくありたい、という彼の願望をウイルスが反映していたのだろう。アンブレラの幹部にしてt-ウイルス完全適合者であったセルゲイも、両手を縛られたような変態クリーチャーに変異していたし、始祖系統のウイルスは多かれ少なかれ、適合者の望む姿を反映させた変異を促す特徴があるのかもしれない。

 ・・・・・・話が脱線した、戻そう。

 今の“知識”を得て明確な目的意識を持った私は、確かな意思を確立し、確かな光景を目にしている。

 

 

「・・・・・・ここが、そう? 一応、知識と相違ないわね」

 

 

 館中を歩き回りながら、私は今まで、このもたらされた“知識”の信憑性を確認していた。

 館の構造、物や資料の配置。

 そして何より、“私”自身。

 

 “知識”とこの世界の齟齬で言えば、私自身が既にそれに当て嵌まっている。

 “知識”の中の私は失顔症を患ったまま、アークレイ研究所の女性研究員の顔を、ママの顔と勘違いし、それをママに返すためにその皮を剥ぎ取って、自分の顔面に何枚も重ねるように覆い被せていたという。

 私もまた知識の中の私に倣い、その行動を模倣して、ママを求め彷徨い続ける自分を演じ続けた。実際の所は、嫌がらせだ。顔を奪われるという行為は、ともすれば女性にとってはこれ以上にない屈辱で、尊厳の剥奪でもある。でも、パパとママがお前等にされた事に比べれば可愛いものだろう。精々、女としての尊厳を剥奪されたまま、無様に生き続けるがいいと心の中で嘲笑い、狂った自分を演じ続けた。

 同じ女だ、顔を奪われる苦しみなんて、想像に易い。

 

 

「・・・・・・なんて、今の私が思っても、説得力はない、か」

 

 

 トイレの洗面台に映った自分の顔を見つめ、私は呟く。

 剥ぎ取った女性研究員の顔皮を継ぎ接ぎで縫い合わせたマスクで隠されていた知識の中の私の素顔は明確にはなってはいなかったものの、マスクの隙間から右半分だけ覗ける素顔の一部は醜悪なモノだった。

 ・・・・・・なのだが。

 

 

 逆に、それ以外の部分は、ウイルスを投与される前の私と、あまり変わっていなかった。

 女性研究員の顔を剥ぎ取り、狂っていたフリをしていた時期は演技に必死で鏡を見ようという考えすらなかったものだから、自分の素顔が一体どうなっていたのか知る機会がなかった。

 だからこうして、右目周囲と額全部を包帯で覆ってしまえば。

 

 あら不思議、そこには少し怪我を負っただけのように見える、前の私そのものではないか。

 変異した部分だけを包帯で隠してしまえば、少し訳ありのアメリカ人女子中学生という体で通していける見た目である。

 

「多少、不都合はあるけれど、これなら外も十分出歩けるわね・・・・・・変異した部分を隠さなきゃいけないのは、“ジュアヴォ”を思い出して癪に障るのだけれど。例え露見したとしても、事故の火傷の跡と言い訳すれば何とか通る・・・・・・かしら?」

 

 未来に現れるだろうB.O.W.の名が咄嗟に口に出てしまう。

 ・・・・・・これは、ちょっといけない癖かもしれないわね。

 まだ世に出てもないことを、まるで確定事項かのように話してしまう。

 

「“貴方”はどう思うのかしらね・・・・・・って聞いても返事はないか」

 

 背中・・・・・・もっと正確に言うならば、私の脊髄に取り憑いている寄生虫に話しかけてみるが、当然返事は来ない。

 私にこの知識を授けてくれた・・・・・・ウイルスの作用で悪夢を彷徨っていた私を救い出してくれた恩人。・・・・・・本人(虫?)は不可抗力だったのだろうけれど、引き継いだ直前の記憶を見る限りでは、少なくとも彼は私を恨むことはしなかった。

 それどころか、この知識が少しでも私の役に立つようにと願ってすらいた。

 出来れば、消える前に少しでも話してみたかったと思いつつも、そもそも彼を取り込んで今の私が確立された訳なのだから私≑彼と言えなくもないのだが、あくまで私の自意識は「リサ・トレヴァー」のままだった。多少人格に影響は出れど、取り込んだ私と取り込まれた彼ではどちらの意識が勝つかは、言うまでも無い。

 今の彼は、彼ではなく、私の脳に過ぎない。

 

「確か、知識によれば「Ne-α」は寄生の初期段階として宿主のt-ウイルスをコントロールして増殖、最終的には脊髄から宿主の脳機能を乗っ取り、騎手と騎馬のような関係になって寄生が完了する・・・・・・だったかしら? 私の場合は騎馬が騎手を逆に乗っ取ってしまった形だけれど・・・・・・そのせいか、体内のウイルスのコントロール力が上がっている気がするわね」

 

 自分の体の状態を整理してみる。

 先も言ったが、まずは私という存在が彼から授かった知識から大幅にずれた存在に成り果てている。

 

「しかも、私に取り込まれた事でNe-α自体が何らかの変異を遂げたのか、t-ウイルスどころか私の体内に共存している全てのウイルスを細かくコントロール、触手を通じての抽出まで出来るようになっている・・・・・・我が事ながらビックリね。あのGの完全適合者とされるあのウィリアム・バーキンですら・・・・・・結局はウイルスの傀儡に成り果てていたというのに、こうして私はGを含むあらゆるウイルスを体内でコントロールできている。」

 

 こうして今起こっている自分の状態に対しての推論を並べれば並べる程、ある考えが浮上してくる。

 こう思うことは、非常に癪なのだが。

 

「・・・・・・自分が、始祖ウイルス適合者でよかったと思うなんて、認められるわけがない」

 

 苦虫を噛みつぶすような表情で、呟く。

 知識通りの私と、今の私の違い。それは知識を通じてパパとママの死を知ったかそうでないかがデカいだろう。

 知識通りの私はパパとママの死を知らされないまま、死ねないだけの体で彷徨い続けた。

 だが、予めパパとママの死を知ったこと、贖罪などと宣うスペンサーへの強烈な怒りがトリガーとなり、スペンサーへの復讐という目的意識に目覚めた私は、こうして急速にはっきりとした自我と知性を取り戻すに至った。

 

「パパ、ママ・・・・・・どうして、私だけ適合しちゃったんだろうね・・・・・・」

 

 見つけた資料を見る限りでは、パパはママや私のように試作型変異始祖ウイルスの投与はされなかったようだけれど、投与されていれば、パパは知識通りの私のようになりつつも、生きながらえてくれていたのだろうか。

 ママが適合できずに死亡したのなら、私が適合できたのはパパの血による所が大きかったのか。それとも、そもそもパパとママの血が混ざった私がそもそもの突然変異だったのか。

 あらゆるウイルスに適合できる体質を持つあのアルバート・ウェスカーの息子であるジェイク・ミューラーがあのCウイルスすら無効化する程の高いウイルス耐性を持っていたことを鑑みれば、私の体質だってパパかママ、どちらからか受け継がれたものだっておかしくないというのに。

 でも、現実はそうはならなかった。

 だから、この話はもうこれでおしまいなのだ。

 

「まあ、生き残って知識通りの私のような状態になっても、困るけれど・・・・・・」

 

 ウイルスへ適合できたこと、偶然にも試作型の「Ne-α」の寄生被検体に選ばれ、知能寄生体を取り込めたこと。知識通りの私でさえ、2つの奇跡が重なってようやくああなのだ。そこに更にその知能寄生体に宿っていた彼の存在という特大の奇跡が更に重なって、今の私がある。

 

「Ne-α寄生体がもう一体いれば、という話にはなるけれど・・・・・・そんな上手い話だって・・・・・・そういえば、知識の中のネメシス-T型ってゾンビに自分の一部を寄生させてた気がするけれど、私も出来るのかしら・・・・・・えっ?」

 

 そう思考した、その瞬間だった。

 背中の触手の1本。

 その中を、ナニカが蠢きながら、外に向かって吐き出される光景を、目にしてしまった。

 

「・・・・・・」

 

 唖然としながらも、生まれ落ちたソレを手に取る・・・・・・のはさすがに気持ち悪かったので、気持ち悪く蠢く、ちっさい蛸のようなソレを、寄生体の触手でそっと持ち上げて観察する。

 ・・・・・・それが、なんであるかを、一目で察してしまった。

 紛れもなく、それは・・・・・・。

 

「噓でしょ・・・・・・私製変異型Ne-αがもう一体・・・・・・産み落とされた? しかも・・・・・・切り離された一部・・・・・・どころじゃなくて、完全に、新しい個体として・・・・・・吐き出された? ・・・・・・もう一体、生み出せないかって・・・・・・思考しただけで? もしかして・・・・・・Ne-αの自身の一部を切り離す能力と・・・・・・G生物の胚を生み出す能力の合わせ技・・・・・・?」

 

 どういう原理かは知らない。

 今、事実はたった1つだけ。

 私の体内に取り込まれ、変異したNe-α────その幼体が、生み出されたという事実のみ。

 

「本当に、どうなっているのよ・・・・・・私の体・・・・・・」

 

 あまりに気持ち悪くて、咄嗟に背中の触手で握りつぶす。

 元より寄生生物。

 まともな寄生対象がいなければ生きていく事は難しかっただろう。遠い将来に生み出されるであろう、寄生対象の生命力を問わずに寄生できる量産発展型ことNe-γほどの完成度である訳でも無い。少なくとも、この館内にこの子が寄生できるt-ウイルス生物などいるわけ・・・・・・いや、いるか1体だけ、究極の出来損ないが。更に言うならば、幹部養成所に放棄されているであろう試作体の暴君も当てはまるかもしれない。だが、今それを試す気にはなれない。

 

「・・・・・・まあ、とりあえず、今の私の体質を1つ知れただけでも収穫ね」

 

 前向きに、そう捉えることにした。

 自分が人間をやめてしまっている事は、もうとっくに受け入れている。

 この知識がなければ、到底受け入れることはできなかったけれど。

 それでも、この世界には将来、どんな苦境に立たされても、悪態を付きながらも決して折れずに娘や妻を助けようとするであろう全身カビ人間だっているのだ。

 今更、ウイルスに適合して寄生体を埋め込まれた程度なんだというのだ。

 ・・・・・・明らかに基準がおかしい事くらいは、分かってはいるが、そう思わなければとてもではないがやっていけない。

 

「もう1つ、今の私の中に、どんなウイルスがあるかよね。様々な試作型ウイルスが投与されていると聞くけれど・・・・・・多すぎて一つ一つがどういったモノなのか分からない。始祖ウイルス、t-ウイルス、Gウイルスは確実として・・・・・・おそらくこの館のみに存在する、V-ACT現象を起こす変異株t-ウイルスも含めて4種類は確実・・・・・・あとは・・・・・・待って、変異株・・・・・・? t-ウイルス?」

 

 変異株、t-ウイルス。

 2つの単語を復唱する内、もう1つのウイルスが、私の脳裏に過ぎる。

 

「ちょっと・・・・・・待って・・・・・・今の時代を考えても、“あのウイルス”は既に存在していてもおかしくない。そして・・・・・・私の不死身体質・・・・・・スペンサーの、求める・・・・・・。私に、投与された・・・・・・様々な、試作型ウイルス・・・・・・」

 

 嫌な憶測が、頭の中で飛び交う。

 出来れば、考えすぎであって欲しかった、もし、事実であれば、私は今度こそ、怒りを、抑えきれそうにない。

 今一度、頭の中で例のウイルスの事を思い浮かべ、そして、意識を私の体内へと集中する。

 今、これを読んでいる貴女達に分かりやすく例えるのならば、私という体に張り巡らされたネットワークに蓄積された情報から、検索ワードをかけて目的のサイトを探し出すような感覚だ。

 

「・・・・・・感触、あり」

 

 そして、触手の先から姿を現した“粘液”を前に、私は、顔を強張らせる。

 ・・・・・・できれば、噓であってほしいと願いながら、私は館の庭へと出た。

 

 

 

 

 現在、私が拠点にしている小屋の外で彷徨っている、裸のゾンビに近付く。

 

「アァアアァ・・・ァ・・・・・・」

 

 うめき声を上げながら、近付いてくる。

 恐れのあまり、私は暫く立ち竦んでしまった。

 それは自分の命が脅かされることによる脅威ではない。

 今更ゾンビ一匹程度、屁でもない。

 

 自分が、これからやろうとしている事への、恐怖。

 そして、それによって起こるであろう、恐怖。

 この2種だ。

 

 知識通りならば、この墓地を彷徨う裸のゾンビは、おそらくV-ACT現象を起こすt-ウイルスではなく、何の変哲もないt-ウイルスに感染しただけの個体。

 他のゾンビよりも腐敗が進み、そう遠くない内に生命活動の限界が来てもおかしくない、弱りかけのゾンビだった。

 

 

「・・・・・・ごめん、なさい」

 

 

 貴方が、私の恨むべき、アンブレラの人間なのかは分からない。

 私と同じように、実験台にされて彷徨っているだけの被害者なのかもしれない。

 

 今、私が貴方に行おうとしていることは許されない行為だ。

 アンブレラの人間と何も変わりはしない。

 これを行ったが最後、私はもう被害者であるだけではいかなくなるだろう。

 

 

「それでも、確かめなきゃ、いけないの・・・・・・!」

 

 

 噛みつきかかってきた裸のゾンビの四肢を触手で捉え、全身ごとを持ち上げる。

 そして、その首を素手で掴み、締め上げて弱らせていく。

 ゾンビ相手とはいえ、人間1人の首を締め上げ、徐々に命を奪っていく感覚は、とても気持ちのいいものではなかった。

 なんだかんだで、人間を直接手にかけるのは、今回が初めてだった。

 この館を移動するときだって、噛みついてくるゾンビを殺さずに、力尽くで押さえつけて無力化するに止めていた。

 だが、今回はあえて、極限までその生命を弱らせる。

 

 

 首を締め上げられたゾンビの体から、徐々に力が失われていく。

 このままいけば、息の根が止まるだろう。

 だが、その前に。

 

 

「だから、ごめんなさい」

 

 

 その息の根が止まる前に、例の“粘液”を纏った触手を、ゾンビの口にねじ込ませる。

 その口の中に、容赦なくその“粘液”を塗りたくる。

 やがて、呼吸すら封じられた裸ゾンビは、そのまま、ぐったりと息耐えた。

 

 

 そして、私はゆっくりと、そのゾンビを地面に寝かせてあげた。

 

 

 そして、待った。

 

 

 何もなければ、それでいい。

 ただ、私が外道に染まった、ただそれだけの事で済む、筈だった。

 

 

 でも。

 

 

『ア“────』

 

 

 現実は非情で。

 

 

『ア“ア”ア“ア”────』

 

 

 時間も経たない内に、息絶えた筈のゾンビの体が痙攣し始めて。

 

 それは、例のV-ACT現象に見られるソレではなかった。

 V-ACT現象を引き起こす変異株のt-ウイルスが、クリムゾンヘッドという別のクリーチャーとして蘇るならば、復活する前にある程度時間を要し、徐々に全身が赤みを帯びるなどの変異の前兆が見られる筈だった。

 

 でも、目の前のコレは違う。

 そんな予兆すら感じさせず、急激に・・・・・・その頭部が変異していく。

 

 

『ア“ア”ア“ア”ア“ァ”ァ“”ァ“”ァ“ッ!!!!』

 

 

 この世のモノとも思えぬような叫び声を上げながら、それは立ち上がる。

 似たような存在であるクリムゾン・ヘッドになりようのない個体のゾンビを選んだのは、万が一の可能性を除外するため。

 その上で、この現象が起こったのならば、もう、認めるしかない。

 蘇った目の前の個体は、クリムゾン・ヘッドなどではない。

 

 

「ブリスター・・・・・・ヘッド・・・・・・」

 

 

 “粘膜”を呑ませたゾンビが、変異した姿のクリーチャーの名が、口から漏れる。

 あぁ・・・・・・間違いない。

 

 

 

「やっぱり、そうだったんだ・・・・・・」

 

 力なく、両腕がだらんと落ちる。

 

「ギャ“ア“ァ”ァ“ア”ア“ア”“ア”―ッ!!」

 

 躍りかかってくる、さっきまでただのt-ウイルス製ゾンビだったブリスターヘッド。

 頭部が赤い水膨れのように膨れ上がり、脳組織が剥き出しになったかのような変異を遂げたソレは、ゾンビとは比べものならない程の凶暴性と俊敏性を持って迫ってくる。

 

 ・・・・・・その間の時間でさえ、私には遅く感じられた。

 その事実を確認し、奴への怒りを新たにするには十分な時間だった。

 

 

『ア“────?』

 

「・・・・・・もういい、休んで」

 

 

 ネメシスの触手を振るい、ブリスターヘッドの頭部を刎ね飛ばす。

 頭部を失ったブリスターヘッドの体は、そのまま崩れ落ちる。

 しばらく、間を置いて、やがて絞り出す。

 

 

「ふざ・・・・・・けるな・・・・・・本当に・・・・・・ふざけるな・・・・・・!!」

 

 

 怒りが、こみ上げてくる。

 贖罪などと宣うあの男の顔を頭に浮かべ、頭の中で何度も男の顔をグチャグチャにたたきのめす。

 それでも、怒りは静まらない。

 

 

「私から・・・・・・パパとママを奪うだけじゃ、飽き足らず・・・・・・あの男・・・・・・」

 

 ただのt-ウイルス製のゾンビだった筈なのに、例の粘液を呑ませた結果、ブリスターヘッドへと変異した。

 その結果が意味する所は、私に投与された数ある試作型ウイルスの中に、先ほどあのゾンビをブリスターヘッドへと変異させた、あの『変異型t-ウイルス』も含まれていたということだ。

 それは、つまり・・・・・・。

 

 

「あの男・・・・・・自分の記憶転移先の候補に、私を含めていたって事・・・・・・!?」

 

 気持ち悪い。

 

 気持ち悪い。

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い────。

 

 

「クロエ達のようなデザインベイビーすら飽き足らず・・・・・・私にまで変異型t-ウイルスを打ち込んで・・・・・・!! 自分の体を実験台にする度胸もなくて・・・・・・幼い女の子達や、私のような化け物にまで・・・・・・そこまでして、不老不死になりたいの・・・・・・!? どこまで自分勝手になったら気が済むのあのクソじじい・・・・・・!!!」

 

 

 ・・・・・・殺す、絶対に殺す。

 お前だけは・・・・・・私が考える限りの最も苦しい責め苦で、殺してやる・・・・・・!!

 

 

 オズウェル・E・スペンサー・・・・・・!!!

 




という訳で、ブリスターヘッド君の28年早くの登場。
難易度insanityで初っぱなからレンウッド通りに出現したコイツにボクのレオンが何度もコンティニューさせられました(半ギレ)。

実際、リサの不死身体質考えたら、スペンサー普通に自分の記憶転移先の候補にリサの事含めてそうですよね。
リサは始祖ウイルスに適合後も他の試作型ウイルスをいくつも投与されていたようなので、スペンサーが指示してこっそり自分の血を混ぜた変異型Tを投与させていてもおかしくなかったと思います。
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