ブリスターヘッド・・・・・・私と同じ知識を持つであろう、これを読む者たちならば、今更説明すべきクリーチャーではないと思う。
通常のt-ウイルスとは異なる、変異型t-ウイルスに感染したゾンビの突然変異体。
変異株のt-ウイルスに感染したゾンビが致命傷を負って仮死状態となった時、その間に肉体を別物に再構成して蘇る現象がある。このV-ACT現象と呼ばれる現象を引き起こす変異株のウイルスに感染したゾンビがこの現象によって蘇ったクリーチャーは、【クリムゾン・ヘッド】と呼ばれる。
全体的に赤みを帯びた体色に、鋭利なナイフの如く発達した爪。
通常のゾンビとは比べものにならない程の俊敏性と身体能力を誇り、また食欲に支配されたような行動を取るゾンビとは異なり、獲物を仕留めることを重視するかのような行動を取る。
食するためではなく、生きるためではなく、ただ殺すために襲いかかる。
摂食衝動よりも、それを上回って余りある破壊衝動に支配された状態で復活したゾンビ────それが【クリムゾン・ヘッド】。
仮に、今から私が洋館内の方に出向いて、洋館の住民だったゾンビを殺し回って一定時間放置していれば、何体かはその【クリムゾン・ヘッド】として復活するだろう。
【ブリスター・ヘッド】とは謂わば、この変異型t-ウイルス製ゾンビにおける【クリムゾン・ヘッド】に相当する変異形態といえば、幾分か分かりやすいだろう。
勿論、異なる点はいくつもある。
瀕死の重傷を負い、仮死状態から体を再構成して復活するという点では、両者は非常に酷似した存在だ。
しかし、【ブリスター・ヘッド】の方がより外見的な変異が著しく、そしておそらくは肉体を再構成する速度やタイミングも異なる。
V-ACT現象によって誕生する【クリムゾン・ヘッド】は仮死状態の間に、体色が徐々に赤みを帯び、爪も鋭利なモノに徐々に変質していく。要するに仮死状態の合間にある程度時間をかけて徐々に肉体を変異する特徴があるため、起き上がってしまう前から、【クリムゾン・ヘッド】として蘇る予兆がある程度分かりやすいのだ。
だが、【ブリスター・ヘッド】の場合は違う。起き上がるその直前まで、変異の予兆がまるで見えない。叫び声を上げながら急激に肉体の再構成を行い、復活する。仮死状態の間に徐々に変異させていくのではなく、あるタイミングで急激な変異現象を起こして即座に立ち上がる。だから【ブリスター・ヘッド】として蘇るタイミング、予兆も一切掴めない。
そういう意味では【クリムゾン・ヘッド】よりも余程厄介と言えるだろう。
【クリムゾン・ヘッド】の方は体色が全体的に赤くなるという違いはありつつも、まだ全体的に人の面影を残しているのだが、【ブリスター・ヘッド】の場合は頭部自体がまるで赤い水膨れのように大きく膨れ上がり、眼球は膨れ上がった体組織に埋まり込んだのか外からでは確認できなくなり、更に口やその中の牙や舌なども巨大化し、前頭部には大きな水膨れ、後頭部は肥大化した脳組織がそのまま露出したような外見に変異する。
大きく変化したその頭部には、最早かつて人間だった面影はどこにもないクリーチャーへと変貌するのだ。
なぜか【ブリスター・ヘッド】だけではなく【クリムゾン・ヘッド】の事も一緒に説明してしまったが、まあそれはいいとして。
問題なのは、私の触手の粘膜を口に入れられたゾンビが、瀕死の状態から【クリムゾン・ヘッド】ではなく【ブリスター・ヘッド】として蘇ってしまったこと。
・・・・・・つまり、今の私の体内に数ある種類のウイルスの内、その中にこの変異型t-ウイルスが存在しているという事になる。
そもそも、変異型t-ウイルスとは、単純なB.O.W.として開発されたウイルスではない。
存在が世に露見するのはまだまだ先ではあるものの、存在自体は8年以上前からしている。
何せ、知識の中では、8年前である1990年にクロエを始めとしたデザインベイビーの被検体少女たちにスペンサーの血を混ぜた変異型t-ウイルスの投与実験が行われていたからだ。
・・・・・・この実験の目的はただ1つ、老いが迫っているスペンサーの人格と記憶を別の若い人間の肉体に転移させることによって、新しい肉体に生まれ変わらせる事だ。
その記憶転移の目的に開発されたのが、この変異型t-ウイルス。
人間の血に込められたその人の記憶を伝承させることを目的に作られたこのウイルスを用い、スペンサーの血と混ぜて他人に投与することで、スペンサーは新しくその肉体に生まれ変わることが出来るという狙いだ。
・・・・・・正直言って、バカバカしいにも程がある。
知識の中では、本来【ブリスターヘッド】の出現が初めて確認されたのは、変異型tウイルスがB.O.W.開発に用いられ始める、今から28年後のローデスヒル療養所という場所だった。
その【ブリスターヘッド】が、このアークレイ研究所にて28年も早く出現することは、本来有り得ない現象だった。
だからこそ、もう、誤魔化しようがない。
本来ここにはいない筈の【ブリスター・ヘッド】が生まれてしまった以上、私の体内にはスペンサーたちの手により投与された変異型t-ウイルスの存在があることを、認める他ない。
それはつまり、スペンサーは記憶転移先の候補として、クロエたちだけでなく、私にも目を付けていたということに他ならない。
つまり、それが意味する事というのは────
────この体には、私のパパとママを惨たらしく殺し、今ものうのうと生きている
それが、たまらなく気持ちが悪い。
私の体に流れている血は、パパであるジョージ・トレヴァーと、ママであるジェシカ・トレヴァーの物だ。
断じて不老不死などという妄想に取り憑かれたクソじじいの血が入っていていいものではない!!
なのにスペンサーは、それをあっさりと穢したのだ。
パパとママが私に残してくれた血という形見すら、あの男は穢してくれたのだ。
パパとママの血に、特大の不純物を混ぜやがったのだ、あのクソじじいは。
それは、私にとってはこれまで投与されてきたどんなウイルスよりも、おぞましい代物だ。
私の怒りは、おかしい物だろうか?
一体どれだけ、私達を辱めれば気が済むのだろうか、あの男は?
記憶転移などという馬鹿げた実験のためだけに、私や無垢な少女達を己の血で平気で穢していく男を、どう許せば良い?
贖罪? レクイエム? 奴にはそんな事を口にする資格すらない。
まだボケたまま「新人類の神」などとほざいている時の方が清々しくすらある。
認める訳にはいかない。
この体にあの男の血が入っているなどと・・・・・・断じて、認める訳にはいかない!!
化け物にされたことよりも、其方の方が遙かに、私にとっては屈辱的だった。
「・・・・・・もう、なりふり、構ってはいられない」
ショックのあまり崩れ落ちていた体を、手すりを掴んで強引に立ち上がらせる。
「どうすれば、復讐できるか考えてきたけれど・・・・・・今の私には何もない。なら・・・・・・手段は選んではいられない」
背中から伸びたネメシスの触手を動かして目先まで移動させ、触手の先端を見つめながら、呟く。
「今の私の中には、これまで投与されてきたあらゆるウイルスが安定して共存している。Gの原型となるウイルスさえも。ネメシスの触手を通じて、その中からあらゆるウイルスを抽出することもできる。コストの掛かる変異型Ne-αも簡単に産み落とせる」
あぁ、笑えてくる。
今の私の体を欲しがる組織は、アンブレラを問わず沢山存在している事だろう。
反吐が出るような価値だが、今の私にはその価値があるということだ。
なら、その価値を生かさない手はない。
この体に流れるあらゆるウイルスが、私の武器だ。
────そして、それを生かすためには。
「・・・・・・ごめんね、パパ、ママ。多分、私もう2人に合わせる顔がなくなっちゃうと思う」
一粒、涙を流しながら自嘲する。
・・・・・・あぁ、さっきまで、ゾンビ一体を実験体にする事すら、躊躇があったというのに。
今の私には、もうそれが無くなっていくのを感じる。
私も、結局はアンブレラの人間やスペンサーと同じような外道に落ちるのだ。
「でも、汚れてるのはもう今更だ。あの男の血が入った時点で、私はもう十分穢れている。・・・・・・ならもう、どれだけ穢れようが同じだよね」
決意して、立ち上がる。
幸い、教材となる資料はこの館にたくさんある。
そして、おあつらえ向きの
いくら異邦の知識を得たとは言え、20年前から時が動いていないこの頭にどれだけ詰め込めるかは分からないが・・・・・・それでも、やるしかない。
「・・・・・・実験、開始」
こうして私は、B.O.W.開発という禁忌に手を染める。
◇
「失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した・・・・・・」
中庭の先に構えた拠点の小屋にて、机の上に突っ伏しながら、私は延々とそう呟いていた。
B.O.W.やウイルス学に関する研究を始めてから数週間が経った。
幸いというべきか、ネメシスという外付けの頭脳体を得た影響か、館中にあった資料や教材から知識をスポンジのように吸収することができた。
今では、少なくともt-ウイルス研究に関しては十分な知識と実験技能が身についている。
・・・・・・だが、それを始める前に己がやらかしたポカがあまりにも酷すぎて、私はショックのあまり机に突っ伏すしかなかった。
「ウイルスの扱いには細心の注意を払うべきだって・・・・・・分かってた筈なのに・・・・・・これじゃあアンブレラ共の杜撰な管理を笑えないじゃない・・・・・・」
自分の間抜けぶりに反吐が出る。
なまじウイルスの扱いに慣れてきたからこその、慢心というべきか。
いや、それ以前の問題か。
「墓場を徘徊していた裸のゾンビたち・・・・・・そこらのシャベルとか・・・・・・鈍器を持って・・・・・・私に襲いかかってきた・・・・・・」
別に、ゾンビが襲いかかってくること自体は問題じゃない。
煩しさは感じるが、それだけだ。
問題は・・・・・・彼らがシャベルなどと言った武器を振るってこっちに襲いかかってきたことに関してだった。
「動きも・・・・・・普通のゾンビと違ったし、離れてると、ぎこちないながらも走って距離を詰めてきたし・・・・・・」
明らかに、普通のゾンビの動きではなくなっていた。
それに加えて簡単な武器を持って襲いかかってくるくらいには、知能が回復しているという事態。
そうなった原因の答えに行き着いてしまった私は、こうしてショックのまま立ち直れないでいた。
「彼奴ら共食いしていやがった・・・・・・!! この間・・・・・・私が放置してしまったブリスターヘッドの死骸を囓って・・・・・・変異型t-ウイルスに重複感染しやがったッ!!」
中庭を徘徊していた裸のゾンビたち。
彼らの近くにあった、所々を噛み千切られ貪られた跡のあるブリスターヘッドの遺体。何があったのか推測するには十分過ぎる材料だった。
せめて、放置するのではなくどこか離れたエリアに遺棄するなり、燃やすなりするべきだったのに。
よりにもよって何もしないで放置したが故に起こってしまった事態。
変異型t-ウイルスの恐ろしい点を、すっかり見逃していた。
あれ以来、変異型t-ウイルスを使って実験は行っていないし、アークレイ研究所が中心となって研究しているのがt-ウイルスだったのもあって、t-ウイルス以外のウイルスに関する資料は少なく、何が起こるか分からないが故に変異型の方の実験は後回しにすると決めていたのだ。
そこまで分かっていながら、あのブリスターヘッドの遺体を放置してしまっていた。
変異型t-ウイルスの恐ろしい点は、既にt-ウイルスに感染したゾンビさえも、重複感染させることで変異型t-ウイルス製のゾンビに上書きできてしまう所だ。
異邦の知識の中では、ラクーンシティの滅菌作戦から生き残った元市民のゾンビたちでさえ、重複実験により変異型tウイルス製のゾンビに上書きされ、更にそれによって28年間経ってさえ生きながらえてきたという恐ろしい事実があったというのに。
「あぁもう、私の、バカァ・・・・・・」
別に普通のゾンビが少し強いゾンビになった所で、今の私にとっては何ら脅威にはならないわけだが、アンブレラの事を強く責められないポカをやらかした挙げ句の結果であるという事実が、何より私の気持ちを沈ませた。
こんな事でバイオハザードを起こしてしまうくらいならこの先思いやられる・・・・・・いや、既にもう起こってるのだからこの場に限っては大した事ではないないのだけれど・・・・・・。
「・・・・・・それにしても、不思議よねぇ」
ようやく心を入れ替え、机に突っ伏していた顔を横に向け、爛々と燃える暖炉の火を見つめながら呟く。
「“知識”の中では、最初から変異型t-ウイルスに感染して誕生したゾンビは、生前の習慣を色濃く反映して、一方通行ながらも言葉を発することもできる。これだけならば、通常のt-ウイルスのゾンビと違って、変異型t-ウイルスが感染者の脳にもたらす知能劣化が比較的小さい・・・・・・という事で説明が付くのだけれど・・・・・・」
通常のt-ウイルスゾンビは、発症の末に前頭葉の機能が破壊されて知能を失い、強烈な食欲による本能に支配され、結果的にゾンビに等しいような行動を取る。
変異型t-ウイルス製ゾンビはその前頭葉の破壊の度合いが、前者よりも小さいため、ある程度知能が維持される。
だが、先ほどの、中庭の墓場エリアを彷徨く裸のゾンビたちのことを思い出す。
「問題は、重複感染によって変異型t-ウイルスに上書きされたゾンビたちよね。通常のt-ウイルスに感染して一度は前頭葉を大きく破壊されているにも関わらず、最初から変異型t-ウイルスに感染した個体と遜色ないくらいには知能と肉体スペックが回復するのはどういう理屈なのかしら?」
知識を得た時から、頭の片隅で常々思っていた疑問だった。
最初から変異型に感染していた個体と違って言葉を喋れないのは、生前の習慣を形作っている記憶が、一度前頭葉を破壊されたことによって無くなっているからで説明は付くのだが、それだと武器を振るったりでっかい爆弾を投げたりチェーンソーを起動して振り回したりできる程に知能が回復することに説明が付かない。
・・・・・・というか、武器を振るうだけならまだしも、爆弾である事を理解して投げたり、チェーンソーの稼動方法を理解して振り回すのは明らかにおかしいでしょなんなのアレ。
間違っても、中庭の奴らにチェーンソーを持たせるのだけは控えよう。
「・・・・・・もしかして、ここで血の記憶伝承が関わってくる?」
既に脳を破壊されているにも関わらず、知能が回復するのは、そもそも変異型t-ウイルスの特性たる血に宿った記憶伝承の方が深く関わっているのだとすれば。
「そうなると、脳の劣化具合は問わないって事よね」
そう考えると、ついつい頭を抱えたくなる。
t-ウイルスゾンビについては、一応科学的には説明できるのに。
血の記憶伝承などと訳の分からないオカルトじみた性質を持つ変異型についてはどう研究を進めれば良いのか分からない。
「何にしても圧倒的にサンプルが足りない、か。仕方ないわね」
言って、立ち上がる。
「幸い、敵味方を識別できるようになるオプションの開発はできているし・・・・・・予定しているリッカーの研究用の数体を除いて、この際館中のゾンビを重複感染させようかしら」
いずれ送り込まれてくる、S,T.A.R.Sの面々には申し訳ないけれど、ね?
クリムゾン・ヘッドとブリスターヘッドの違いや、重複感染ゾンビたちの説明については大分独自解釈が入っていますのでご注意を。
レクイエム本編に登場する資料で変異型に関する説明が少ないのどうかと思う。
正直ゾンビ系以外のクリーチャーとか変異型関わってるのどうかすら分からないの多いし・・・・・・
・中庭の墓場ゾンビ達。
原作では絶対クリムゾンヘッドにならない裸のゾンビ達。おそらくV-ACT現象を起こす変異株ではなく、それより古い株のtウイルスに感染していると思われる。
・・・・・・今作では、前話でリサちゃんが放置してしまったブリスターヘッドの遺体を共食いしたことで、変異型に重複感染してしまい、武器を振るったり投げたりできるくらいには知能を取り戻した。
なのでチェーンソーを持たせたらおそらくはっちゃける。
リサ「絶対持たせないんだからね! あと爆弾も絶対近くに置かないから!」