我輩は寄生虫である   作:ナスの森

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USS襲来

 

 ────アークレイ研究所、屋上ヘリポート。

 そのヘリポートにて、3機ほどの軍用ヘリがプロペラを回しながら着陸していた。

 森林を伝って飛び交う山風。

 その山風をヘリのローターが更に空気を乱す。

 そんな乱れた風に吹かれながら、赤いレンズの黒いガスマスクヘルメットを被った武装集団が集まっていた。

 

「チャーリーよりHQ。アークレイ研究所の屋上ヘリポートに着陸した。これより地上突入班とタイミングを合わせて突入する」

 

 隊長らしき男が通信機を取りながら、誰かと連絡を取っている。

 

『こちらHQ、了解した。

 アークレイ研究所の警備任務に当たっていたブラヴォーチームからの連絡が途絶えてから既に2週間が経過している』

 

「警備? フン、()()の間違いじゃないのか?」

 

 司令部の男の通信に対し、1人の隊員が小声で皮肉気に突っ込みを入れる。

 他の隊員たちも口には出さないものの、内心では同様の感想を抱いていた。

 彼らはの名はU.S.S。正式名称は『Umblera Security Survice(アンブレラ保安警察)』。

 アンブレラが擁する武装保安警察だが、それは表向きであり実態はアンブレラ社の機密を保守する目的で作られた特殊部隊である。

 

 そんな目的で設立された特殊部隊が、こんな山の中にある洋館の警備に派遣されるものだろうか?

 少なくとも、平時の警備員として送られるような状況ではなく、ここにいる彼らよりも先にこの洋館に任務に当たっているとされるブラヴォーチームの面々も相応の理由があり、警備任務という体裁で派遣されていた。

 

『彼らはこの館で起こったウイルス漏洩事故の証拠隠滅目的で派遣されていた。事態が露見せぬよう、館からの脱走者を捕縛、抹殺が彼らの任務だった』

 

 警備任務という体裁で派遣されていたブラヴォーチームたちの、その任務の実態が司令部の口から語られる。

 

『上層部はこの館を捨てる前に、ラクーン警察特殊部隊S.T.A.R.Sを派遣して館のB.O.Wとの戦闘データの収集を検討している。だがチームからの連絡が途絶え、研究所の状況が把握できない現状ではソレも難しいようだ。

 速やかに研究所の状況を調査しろ。またブラヴォーチームの生き残りが見つけた場合は、可能なら救出。その他の生存者がいればすぐに抹殺せよ。

 ────以上だ』

 

「聞いていたな? では、突入を開始する!」

 

 隊長の合図の元、ガスマスクの隊員たちはサブマシンガン(H&K MP5)を構えながらヘリポートエリアの角にあるエレベーターへと向かう。

 その途中で、自分達が着陸したヘリとは別のもう1機のヘリがあるのが彼らの目に入った。

 

「ブラヴォーチームの残したヘリか」

「彼奴ら、今頃どこで何をしているんだ?」

「それも調査するのが我々の任務だ、行くぞ」

 

 エレベーターの前に辿り着くUSSの隊員たち。

 隊長の指示の元に1人の隊員が前に出て、エレベーターのボタンを押すが反応がない。

 続けて2、3回、押してみるがエレベーターが動く様子がなかった。

 

「クソッ、電源が止まっている」

「電源を起動するボタンは館内だ。ここからでは無理だな」

「仕方ない。ラベリング用のロープを持って来い。降下して窓から突入する」

「了解」

 

 事前に館の構造などを頭に入れていた彼らは電源を復旧させる手段がこの屋上にはないと即座に判断し、次の突入プランへと切り替える。

 

「ヘリからロープを持ってこい! 窓から突入するぞ!」

 

 先頭の隊員が後ろに控えていた隊員たちにそう呼びかけると、彼らは一斉にヘリの方へと戻っていく。

 エレベーターのボタンを押した隊員ももうここに用はないと言わんばかりに、ヘリの方へ戻っていく仲間達へ続こうとした。

 その時だった。

 

「・・・・・・ん?」

 

 突如として、後ろから何かの起動音がなった。

 次に、ゴォオン、と低い内部音響を響かせながら、ソレは動いていた。

 

「お、おい!」

 

 思わず、ヘリに戻っていく他の隊員たちに呼びかける。

 何事かと思い、散り散りになった隊員たちも一斉に彼の方へと振り向く。

 そして、彼らもまたその異常に気付いた。

 エレベーターの電源が回復し、そして。

 

 現在のエレベーターの位置表示を示す、ドアの上の針が、段々と最上階(こちら)へと向かっていることに。

 なぜ、今になってエレベーターが動き出したのかと疑問に思うのも束の間。

 

 ────オオ・・・オオオオォ・・・・・・!!

 

 針とエレベーターの音が此方へ迫ってくると同時に・・・・・・彼らにとって()()()()()()()()()()も聞こえてくる。

 

「────総員、構え」

 

 慌てる様子もなく、隊長の指示に、隊員たちが一斉にMP5の銃口をエレベーターの扉の方へ向けて構え出す。

 言うまでも無く、セミオートではなくフルオートモードでの迎撃態勢だった。

 相手がB.O.Wの場合────それが例え研究の副産物であるゾンビであろうと、セミオート(単発射撃)で出し惜しむのは愚の骨頂であると彼らはよく知っている。

 

 

 響き渡るうめき声は、更に近くなってくる。

 

 

「なッ」

 

 

 先頭にいた隊員たちが動揺の声を上げる。

 エレベーターのドアは格子状のもので、扉の向こう側に誰が乗っているのか即座に確認できる。

 故に、一瞬だけ反応が遅れてしまった。

 

 エレベーターの扉が開く。

 

 そこにいたのは。

 自分たちとまったく同じ服装をしていた・・・・・・5人の人影だった。

 その人影の内の1人が、おもむろに、その左手に持っていたサブマシンガン(イングラムm11)を片手で無造作に乱射した。

 

 

「グアアアアァァッ!?」

 

 

 射撃とはとても呼べぬ、サブマシンガンの強烈な反動に振り回されながらの乱射。

 それでも、射手なりに計算していたのか、横向きに振るってばらまかれた弾はエレベーターの前で待機していた何人かのUSS隊員たちを蜂の巣にした。

 

 

「まさか、連絡の途絶えたブラヴォーチームか!?」

「なぜ此方に発砲を!?」

 

 

 動揺が広がる部隊。

 その隙を、“彼ら”は本能のまま、逃さなかった。

 

 

「ア“ァ”・・・!!」

 

 

 イングラムを乱射した個体の背後にいた個体が、更にエレベーターの部屋から飛び出して、目の前にいた隊員に噛みつく。ヘルメットを何処かに無くしたのか、醜悪に腐り落ちた素顔を晒した感染者は、容赦なくその牙でUSS隊員の肉を貪っていく。

 

「止せ、やめ、ギャアアアアアッ!?」

 

 仲間に銃撃されたという動揺から抜け出せず、その隙を晒してしまった隊員の悲鳴がこの屋上に響き渡る。

 そしてその動揺と悲鳴は部隊中に、一気に伝播する。

 後続の、他の3人の感染者たちが、同様に片手にイングラムを持ちながら前へと出る。

 そして、最初に撃った感染者と同様に、そのうめき声を上げ、片手に持ったイングラムを振り回しながら乱射し始めた。

 

「怯むな!撃て! 此奴(こいつ)ら、既に感染してやがる!」

「感染だと!? なんでSMGを撃てる知能が残ってるんだ!?」

 

Fire(撃て)!」

 

 隊長の指示の元、彼らもまたMP5をフルオートで連射して応戦し始める。

 方や闇雲に弾をばらまいているだけ。

 それに対して、USSの隊員たちは狙いを定めながら、ゾンビたちの体に正確に当てていく。痛覚は既にないゾンビたちであったが、その衝撃に押されて、上半身が後ろへ反れていき、イングラムの連射も制御できずに銃身が上に上がっていく。

 それに加えて、数はUSSの隊員たちの方が圧倒的に優勢。

 

 多少、アクシデントはあったものの、この場はとりあえず制圧できるだろうと、誰もが高を括っていたそのときだった。

 

 ────ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ

 

 1番後ろで、その様子を見守っていた隊員が、後ろから聞こえてきた不吉な電子カウント音に気付いた。

 後ろを振り向くとそこには・・・・・・ブラヴォーチームのヘリのドアから飛び出した感染者が・・・・・・その手に赤く点滅するグレネードを手に持ち、此方を見据えているのが見えた。

 その様子を目撃した隊員は、ガスマスクの下で冷や汗を流す。

 

 

「アァ・・・!」

 

 うめき声を上げながら、よろめくようなぎこちない動きながらも、そのブラヴォーチームの感染者は一直線にMP5を連射する部隊の方へ、駆け寄ってくる。

 ゾンビが走り出すという事態に半ば混乱しながらも、隊員はその危険(アラート)を部隊の仲間達に知らせる。

 

「後ろだ!! 突っ込んでくる!!」

 

 その隊員のかけ声にUSSの面々はMP5の掃射をやめ、一斉に振り向く。

 手に持った、赤く点滅するグレネード。

 駆け寄ってくると同時に、そのグレネードの電子カウントが刻む間隔も段々と狭くなってくる。

 

「撃て! 近寄らせるな!!」

 

 MP5の掃射がグレネードを持ちながら駆け寄ってくる感染者を襲うが、それと同時に、攻撃が手薄になった背後から、エレベーターで上ってきた面々の感染者たちが再びイングラムの弾をばらまき、掃射を阻害した。

 

「くそッ、駄目だ、近寄ってくる!」

「これ以上迂闊に撃つな! 爆発する!」

 

「退避だ!」

 

 これ以上、進撃を阻めないと判断した隊員たちはバラバラの方向に散開して飛ぶ。

 刻む間隔が狭くなっていく電子カウント、そしてついに、彼らの中心にまで飛び込んだ死兵の特攻が、彼らの目を灼いた。

 

 退避したことにより、殆どの者は一命を取り留めたものの、迸る衝撃により動けず、爆音により受けた、意識をつんざく耳鳴りが彼らの世界を蝕んだ。

 彼らと、感染者達の間が違いがあるとすれば、それは1つ。

 彼らは、生きた人間で。

 感染者たちは、今や死をも恐れぬ死兵であるということだった。

 

「ハッ、カッ・・・・・・状況、は・・・・・・」

 

 最初に意識を取り戻した隊員が、横たわった体勢から目を開けるとそこには・・・・・・死屍累々が広がっていた。

 確かに先の感染者たちの自爆で息絶えた隊員は殆どいなかった。

 だが、逆に言えば、あのまま息絶えてしまっていた方がまだ幸せだったかもしれない、そんな光景を目にした。

 

「あぁ・・・・・・噓だ・・・・・・」

 

 ・・・・・・仲間たちの体を貪る・・・・・・感染者達の数が、増えていた。

 エレベーターから上がってきたブラヴォーチームも、そして今回派遣された自分達チャーリーチームも、皆して同じ衣装を身に纏い、アンブレラの部隊の証たるアンブレラ社のロゴマークまで同じだ。

 だから、男は暫く、増えた感染者たちの正体がさっきまで共に戦っていたチャーリーチームのメンバーであると気付くのに時間が掛かった。

 自分が爆発の衝撃で気を失った僅か数秒で、ゾンビ化したブラヴォーチームの凶歯に掛かったチャーリーチームのメンバーが次々と、新たな感染者として立ち上がっていく。

 その時、耳元で誰かの足音が聞こえた。

 誰かが、立っている。

 

「あぁ・・・・・・無事・・・・・・だったのか?」

 

 仲間の1人が無事であることが分かった隊員は、嬉しそうに笑いながら、彼に向かって手を伸ばす。

 

「頼む・・・・・・動けないんだ、手を・・・・・・」

 

 手を掴んで貰おうとしたその時。

 その仲間もまた、様子がおかしいことに、隊員は気付く。

 

「・・・・・・にぃんむ・・・・・・すい・・・・・・行・・・・・・」

 

 譫言のように言葉を発しながら、背中のレミントンを取り出し、レシーバーを引いてその銃口を隊員へと向けた。

 

「お、おい待て! 仲間だ───」

 

 隊員の必死の制止も空しく、至近距離で放たれた無慈悲な散弾が、隊員の頭を無惨にも吹き飛ばした。

 

「・・・・・・任ム・・・・・・ぞっこ“う”・・・・・・!!」

 

 仲間を撃ち殺したUSS隊員は、次なる獲物(仲間)を見定め、再びレミントンの銃身のレシーバーを引く。

 変異型t-ウイルスに感染したゾンビは、生前の習慣や記憶が通常のt-ウイルスよりも濃く残る。変異型t-ウイルスと混ぜ合わさった血に宿る記憶が、例え自我を奪われようとそのような生前の行動に突き動かせるのだ。

 

「クソっ・・・・・・」

 

 何とか生き残ったチャーリーチームの隊長は現状を俯瞰する。

 

「何て感染速度だ・・・・・・! 漏洩しているのは本当に只のt-ウイルスなのか!?」

 

 そんな疑問が思わず口から出る。

 只のゾンビならば、このような状況になってなどいない。

 彼らはアンブレラ社が保有するロックフォート島にてB.O.Wなどを相手に訓練をしてきた精鋭たちだった。

 だが、如何にB.O.Wを相手に訓練をしようと、走ったり、銃を撃ったりするゾンビたちの相手を想定した訓練など受けてこなかったのだ。

 

 既に、チャーリーチームの半数ほどは、感染者となってゾンビの仲間入りを果たしてしまった。元々対B.O.W向けに訓練を施された人間が死人となって蘇り、MP5やイングラムを乱射して残ったチャーリーチームに襲いかかる。

 

「た、隊長・・・・・・!!」

「何だ!?」

「う、上からもっ!!」

 

 怯えた部下が指さす方向へ目を向けると、隊長は、更に恐ろしい光景を目にした。

 このヘリポートの更なる上階である屋上の方向に、更に見覚えるのある者たちの群れがいた。

 自分たちと同じ、ヘルメットにガスマスクを装着した黒い衣装の特殊部隊たち。

 数にして30人。その特殊部隊たちが、ぎこちない、蹌踉めいた動きのまま、此方を見下ろしていた。

 屋上だけではない、積み込まれたコンテナの影からも、USSの感染者たちが現れてきた。

 

「この数・・・・・・ブラヴォーチームはもう全員・・・・・・!!」

 

「グアアァァっ!」

 

 更に遠くから別の部下の悲鳴が聞こえ、そこへ目を向ける。

 多勢に無勢だった立場も、今ではこちらがその無勢側。

 部下を撃ち殺したUSSゾンビの姿が隊長の目に入る。

 

 弾を撃ち尽くしたのか、引き金を引き直してももう弾が出ることはないだろう。

 そう思った瞬間・・・・・・そのゾンビは、懐からもう1本、イングラムのロングマガジンを取り出し、ソレを差し込み口に入れたり、出したりを繰り返し始めた。

 

「・・・・・・まさか、リロードしようとしているのか? そこまで、知能を保って・・・・・・!?」

 

 やがて2、3度出し入れして失敗した末、マガジンは見事に差し込み口に嵌まり、リロードが完了したUSSゾンビはまた、残る非感染者のUSSの隊員たちを見据える。

 

「・・・・・・撤退だ」

 

 やがて隊長は判断を下す。

 このままではいずれ撃ち殺されるか、よくて彼らの仲間入りかどちらかしかないだろう。

 

「総員、撤退!! 生き残った隊員達はすぐにヘリに戻れ! パイロット、すぐに離陸の準備をしろ!」

「わ、わかりました!」

 

 隊長の指示により、何人かの隊員が牽制にMP5をゾンビの軍団に向けて連射しつつ、仲間の撤退を援護する。

 やがて、隊長と殿に出ていた隊員以外の全てのメンバーがヘリに乗り終えると、ローターの風を吹かせたヘリが離陸を始めた。

 

「隊長! 後は我々だけです!」

「分かった、急ぐぞ! 至急、地上突入班に連絡し、合流して体勢を立て直す!」

 

 そう言って、離陸し始めたヘリへ飛び乗ろうと、張りし始めた、その時。

 

 

 離陸をし始めたヘリが、途端に爆発を起こして横転した。

 

 

「なっ!?」

 

 目を見開く隊長。

 部下の方は、もう何が起こったのか分からないといった顔でその一瞬を目撃してしまった。

 そして────隊長は見た。

 

 

 ヘリの奥にいた人影。

 ヘリポートの片隅にいつの間に、現れていた、トレンチコートを着た大男の姿を、隊長は見てしまった。

 右手に括り付けた、リボルバー式のグレネードランチャーを思わせる大口径の筒。

 その筒から出る煙を一瞥した大男は、背中に背負った、もう1本の弾頭をその筒へ装填する。

 

「ロケットランチャー、だと?」

 

 それを右手に括り付けながら、何の苦もなく堂々と立ちはだかるその、2m以上ものある大男を目にして、隊長はとうとう絶望のあまり顔を歪めた。

 

 

「バカな・・・・・・そんな・・・・・・なぜ、ここにアレが・・・・・・!」

 

 

 その出で立ちを、USS部隊内で知らぬ者はいない。

 アンブレラの威信をかけた作品。

 トレンチコートのデザインや、口回りを覆う覆面など細かい差異はあれど、あれは間違いなく。

 

 

「なぜ、タイラントがここに・・・・・・!!」

 

 

 マシンガンやショットガン、爆弾を使うゾンビたち。

 果てにはロケットランチャーまで使うタイラント。

 今までの常識を悉く覆される出来事の連発で隊長の頭はもうキャパシティオーバー寸前だった。

 タイラントが歩み寄ってくる。

 ゆっくりと、隊長の脳裏に、じとじとと、その恐怖を浸透させていくように。

 そして、次の瞬間、隊長は確かに聞き取った。

 その声を

 

 

「・・・・・・U.S.S・・・・・・!」

 

 

 悍ましい、地に蠢くようなその声音で、タイラントは自分達をそう呼んだ。

 もう、恐怖を通り越して、隊長は一周回って冷静になった。

 ナゼかは分からない。

 一体、誰があのタイラントに命令を下しているのか分からない。

 

 今、ただ分かる事は。

 あのタイラントは、明確に此方の所属を把握し、その上で殺意を向けてきているという事実のみだった。

 

「逃げるぞ」

「逃げるって、ど、何処にですか・・・・・・ッ!!」

「いいから早く───」

 

 回りは武装したゾンビだらけ。

 だが、少なくともあのタイラントを相手にするよりはマシだろう。

 そう思って、部下を連れて何とかゾンビの大群を潜りぬけようとして────

 

 

「グオオオォォ・・・・・・!!」

 

 逃げようとしたその先に、高く跳躍したそのタイラントが、2人の目の前に着地する。

 腕を大きく振り上げ、その雄叫びを持って2人を恐怖のどん底に陥れる。

 

「う、うわああぁぁああ!」

「待て、落ち着け────ガ」

 

 恐慌状態になり叫ぶ部下を咄嗟に落ち着かせようとした隊長だが、タイラントの裏拳を腹に食らい、壁に叩きつけられ、床に倒れ込んだ。

 

「カ・・・・・・ハ・・・・・・」

 

 肺の空気が、一気に吐き出される。

 

「た、隊長・・・・・・あぁ・・・・・・」

 

 吹き飛ばした隊長に目も暮れず、タイラントは部下の方へ歩み寄っていく。

 最早走る体力すらないのか、部下は腰を抜かしただひたすら尻這いで後退していくのみだった。

 それを容赦なく、タイラントは歩み寄って追い詰めていく。

 やがて、壁に差し掛かったところ、部下は逃げ場をなくし、黒衣の執行者たる暴君は憐れな愚者を容赦なく見下す。

 

「アァ・・・アアアアァァ・・・・・・!!」

 

 木霊する悲鳴。

 追い詰めたタイラントが、部下の頭をヘルメットごと鷲づかみして持ち上げたのだ。

 悲鳴を上げながらも体を揺らして抵抗する部下であったが、足を地から離されてはその抵抗も意味を成さない。

 

 

「・・・や・・・・・・やめろ・・・・・・!!」

 

 

 その悲鳴を聞いた隊長は、朧気な意識のまま、倒れ込んだ状態でその光景に届くことのない手を伸ばす。

 

「頼む・・・・・・ソイツを殺すな・・・・・・」

 

 弱々しい声音での懇願。

 だが、その願いも空しく。

 部下を持ち上げるタイラントの左手の袖の隙間から、ナニカが飛び出す。

 ネメシス寄生体の証である、鍛え上げられた成人男性の腕よりも更に一回り太いその触手が、部下の頭を貫いた。

 藻掻く体が宙づりになり、動かなくなる部下の体。

 

 

「あ・・・・・・あぁ、そんな・・・・・・」

 

 

 絶望のあまり声を震わせる隊長。

 その光景に茫然となる最中で、USSチャーリーチーム隊長の世界はそこで途切れた。

 動けなくなった己に群がってきた、かつて仲間だったゾンビたちの群れが、隊長と呼ばれた男の肉を貪り尽くす。

 むしゃり、かじり、と。

 アンブレラの機密部隊として数々の悪事に手を染めてきた男の最期は、ゾンビ化した部下たちの群れに貪り食い尽くされるという惨いものだった。

 

 

     ◇

 

 

「マッドの方はうまくやってるようね」

 

 屋上のヘリポートから巻き上がる煙と炎を見ながら、洋館の正面玄関の前に立っていた少女がそう零す。

 顔面の右半分を包帯で覆った、14歳ほどの見た目をした美少女。

 

「・・・・・・なるほど、あれが“知識”“で言う所の”安心と信頼のカ○コン製ヘリ“という奴かしら」

 

 風に吹かれ、流麗な黒髪を払いのけながら何か納得したように呟く少女。

 だが、その口調と態度は。

 少女の目の前で繰り出される光景とは、致命的にそぐわないものであった。

 

「クソッ、なんだアイツは!?」

「なぜ弾が当たらない!?」

 

 その光景とは、先ほどから少女に向けてMP5を一斉掃射しているUSSチャーリーチームの地上突入班の部隊だった。

 数にして20人ほど。

 それらサブマシンガンを一斉掃射しているにもかかわらず、ソレに晒されている筈の少女はどこ吹く風といったように意に介さず、視線を屋上から彼らへと戻した。

 

「・・・・・・やっぱり、知っているのと知らないとでは力の使い方も雲泥の差ね。少なくとも、“知識”の私はこんな事できないでしょうし」

 

 そう言いながら余裕そうな少女に対し、弾が当たることはない。

 その弾は少女のすぐ目の前で、まるで“見えない何か”に阻まれるかのように弾かれ、少女に届くことはない。

 

(【t+Gウイルス】による電気反応。私の体内にはtウイルスとGの原型となるウイルスが共存している。この二種類をうまく組み合わせて作用させれば・・・・・・これくらいの電磁波バリアは作り出せるってことね)

 

 ────さすがに反則物(荷電粒子ライフル)をぶち込まれたらどうなるかは分からないけれど。

 そう心の中で付け加えながら、少女は目の前に迫っては弾かれる9mmパラベラム弾の群れを何の事もないかのように見つめた。

 

「────あら?」

 

 だが、突如として弾丸の雨が止む。

 

「このままでは埒が明かない!」

「グレネードを持ってこい! ランチャーの方もだ!」

「グレネード!」

 

 MP5を持った部隊が後退するとそれと入れ替わるように、さらにグレネードランチャーや手投げグレネードを持った10人ほどのUSS隊員が前に出てくる。

 そして、彼らはその榴弾を一斉に少女の方へお見舞いした。

 断続的に舞い上がり続ける爆風。

 リボルバー式グレネード弾と手投げグレネードによる協奏曲が、少女を包み込む。

 

 暫し、煙に包まれる玄関前。

 

「・・・・・・やったか?」

 

 城門の如く舞い上がった煙を前にして1人のUSS隊員が呟く。

 だが、煙が晴れると、そこにはまったくの無傷で立っている少女がいた。

 

「もう終わりかしら、傘のお遣い様方?」

 

 妖美な笑みを浮かべながら立つ包帯の少女。

 そのあまりにも異常な光景に、USS隊員たちは一歩後ずさる。

 

「バカな、あれだけ打ち込んだのになぜ・・・・・・」

「今度は、こちらの番ね」

 

 狼狽えるUSS隊員たちなど目にも暮れず、少女は何かに集中するように目を閉じた。

 

 ・・・・・・やがて、少女の体が稲妻のような光に包まれていく。

 包まれたのも束の間、まだ足りないと言わんばかりに、次々と少女の体を凄まじいほどの電気エネルギーが帯びていく。

 やがて、エネルギーを充填し終わったのか、雷鳴が響く共に、凄まじい電気エネルギーを纏った少女がUSS隊員たちを見据えた。

 そして、少女の背中から幾数本もの細長い触手が、その電気エネルギーを帯びながら出現した。

 

「さあ、精々円舞曲(ワルツ)を踊ってみせなさいな」

 

 そう言うと、帯電の光を纏った触手が一斉に隊員の方へ伸びながら肉薄していく。

 まるでモグラ叩きのように地面を叩きつけながら、その度に本物の雷を思わせる雷鳴を響かせながら、USS隊員たちに襲いかかった。

 それを、触手を操る少女自身は一歩も動かず高みの見物に興じた。

 

「ぐ、グアアァァァッ、し、痺れ・・・・・・ッ!!」

「みんな、あの触手に触れるな! 瞬く間に感電死する!」

 

 帯電する触手たちはどこまでもしなやかに、どこまでも硬く、どこまでも早く、そしてどこまでも長く伸びていく。

 その動きに翻弄され、何人もの隊員が触手の電気に触れて瞬時に黒焦げにされていく。

 そして残る十数人の隊員がいつの間に一纏めに場所に誘導された。

 

「クソッ、誘い込まれた!」

「あの触手をどうにかしなければ・・・・・・!」

 

「もう遅いわよ」

 

 そう言い放つと、少女は。

 USS隊員たちの視界から、一瞬で消えた。

 まるで雷鳴に連れ去られたかのように。

 あまりにも一瞬すぎた光景に唖然となったUSS隊員たちだが次の瞬間。

 

 

 上空から、一纏めになった彼らへ光の鉄槌が下った。

 迸る雷鳴。

 帯電した少女は凄まじい速さで上空へ跳躍し、着地すると同時にその大地に向かって運動エネルギーと電気エネルギーをまるごと叩きつけた。

 

 

 吹き飛ぶ隊員たち。

 雷鳴が下った爆心地には、少女を中心に何メートルもの巨大なクレーターが出来上がり、吹き飛んだ隊員たちはそれと同時に意識を失った。

 

 

「殺しはしないわ。体に聞くこともあるしね」

 

 

 

 ────まあ、結局は実験台になってもらうのだけれど。

 その前に、彼らに聞かなければならないことがあったリサは、とりあえず彼らを生け捕りにすることにした。

 ・・・・・・丁度あの。かゆうま日誌飼育員が世話していたケルベロス用の檻があった筈なので、拷問部屋にも丁度良いだろう。

 

 

「ハァ・・・・・・それにしても・・・・・・」

 

 

 ため息を吐き、少女は気絶したUSS隊員の体の上に座り込んで地面を見つめる。

 

 

「私の戦い方・・・・・・これじゃあまるで女体化志望の変態(モーフィアス・D・デュバル)スペンサー狂いの変態(ヴィクター・ギデオン)を足したみたいじゃない」

 

 

 ────前者はともかく、後者はスペンサーへの復讐を誓う者としてはどうなのよ。

 そんな己を自嘲し、少女────リサ・トレヴァーはもう一度ため息を吐いた。

 まあ、そういう戦い方ができる以上、仕方ない。

 

 

「・・・・・・あれ、待って?」

 

 

 ハタと気付いて、リサは当たりを見回す。

 

 

「1人、足りない。焼き殺した人数を差し引いても、1人見当たらないわね」

 

 

 そう、相手にしてたUSS隊員の数が足りないことにリサは今更気付いた。

 若干、焦りが募ってくる。

 万が一、このアークレイ山中を駆け抜けてラクーンシティまで撤退されては、自分という存在がアンブレラに明るみになってしまう。

 それだけは絶対にあってはならないと、急いで姿を見失った隊員を捜そうとして。

 

 

「────あ」

 

 

 そして、見つけてしまった。

 研究所の玄関の扉が、開きっぱなしになっていたことに。

 さっきまでは玄関の扉は閉じていた筈だ。

 それはつまり・・・・・・。

 

 

「・・・・・・知―らない」

 

 

 何も見なかった、と言わんばかりに玄関の扉を閉じるリサ。

 ────今、洋館のホールには“アレ”がいる。

 作ったはいいものの、どこに飼っておけばいいのか分からなくて、とりあえず洋館のホールに徘徊させておいている“アレ”が。

 素直に感電しておけば、まだ暫く命はあったかもしれないのに。

 

 

「ご愁傷様。同情はしないけれど、冥福は祈っておくわ」

 

 

 玄関の扉の向こうから聞こえた悲鳴に対し、リサは合唱しながらやれやれと天を仰いだ。

 

 

「“バイオゲラス”・・・・・・まさか作れるなんて思ってもみなかったもの・・・・・・」

 

 

 そんなリサの呟きを聞ける者は、この場にはいなかった。

 




クリーチャー紹介

・リサ・トレヴァー
ご存じ本作の主人公。体内に多数のウイルスを保持しているため、t+Gウイルスを体内で自前で生み出せちゃったとんでも少女。
そのため、ガンサバイバー4におけるモーフィアス・D・デュバルのように電磁波バリアを生成して大抵の攻撃は防げちゃう。また防せがなくても元々不死身でかつ身体能力も化け物なのでどうにかなっちゃう。
さらにネメシスの触手と合わせて、レクイエムのラスボス戦第一形態ヴィクターのように触手に電撃を纏わせて操ることも可能。またヴィクターは施設から電気を吸収して帯電していたのに対し、リサちゃんは体内の「t+Gウイルス」の効果で自前で帯電できてしまうので、施設の力を借りなくともヴィクターと同じことができてしまう。

・変異ネメシスt型(通称:マッド)
リサ特製の変異Ne-αを寄生させられた元プロトタイラント。
今回は館のUSSゾンビたちを引き連れ、新しく派遣されたUSSチャーリーチーム屋上突入班のヘリを撃ち落とし、部隊を壊滅させる。
手に括り付けたロケットランチャーは館を警備していたUSSブラヴォーチームが置いていったもので、見た目は初代バイオハザードリメイクの無限ロケットランチャー。

・USSゾンビ
洋館のウイルス漏洩事件当時に、洋館の警備に派遣されていたUSSブラヴォーチームの人達・・・・・・だったモノ。
原作に登場するかゆうま飼育員の日誌において、脱走した研究員を射殺した警備兵たちがいたことが確認できる。原作においてこの警備兵たちがUSSなのかは明記されていませんが、証拠隠滅に館の脱走者の射殺任務に就くような人達が真っ当な平時の警備兵とは思えないので、おそらくこの警備兵達も本社から派遣されたUSSなのかなと思って登場させました。
作戦終了後、本来ならばS.T.A.R.S派遣を見越して洋館から撤収する予定だったが、撤収寸前に目覚めたリサの奇襲を受け壊滅、身ぐるみを剥がされて洋館の中に放り込まれ、仲良くゾンビ達の仲間入りを果たした。
その後、変異型tウイルス重複感染の実験を受け、レクイエムのBSAAゾンビたちみたくマシンガンを連射したり、グレネード片手に近寄ってくるようなゾンビたちに変貌。【Ne-δ】により敵味方の識別ははっきりできている。
迫撃砲を撃ってこないだけまだマシ(白目)

・バイオゲラス
今回、名前だけ登場。
リサが受け継いだ”知識”の中には「別のバイオハザードシリーズ」の知識も含まれていたため、ソレを再現した。
多分、名前を検索すれば一発で分かるのでここでは割愛。
リサ「なんかカメレオンにtウイルス感染させて遺伝子弄くってたらできちゃったんだもん」
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