ポケットモンスター 君がいた記録   作:人間国宝

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第11話

 

 

 

 第3のジム、『ミラー・レイク』。

 巨大な湖の上に作られた、ガラス張りのステージ。

 ジムリーダーは、元トップモデルであり、氷と水の使い手、『ナルシス』。

 

 美しい男だった。だが、その目は氷山のように冷たい。

 

「君の噂は聞いているよ。レン君」

 

 ナルシスは手元のグラスを揺らしながら言った。

 

「死に急ぐ少年。ジムを荒らしているそうだね」

 

 情報が回っている。

 僕は冷や汗をかきながら、一番手のウツセミ(ヌケニン)を繰り出した。

 相手が水タイプなら、ヌケニンで完封できる可能性がある。

 

「……愚かだね」

 

 ナルシスはため息をつき、指を鳴らした。

 

「スターミー、舞台の準備を」

 

 現れたのは宝石のようなコアを持つスターミー。

 ナルシスの指示は攻撃技ではなかった。

 

「『あられ』」

 

 上空に氷の雲が発生し、鋭い氷の粒が降り注ぐ。

 天候ダメージ。

 

 『ふしぎなまもり』は、技のダメージは防げるが、天候によるスリップダメージは防げない。

 

 シュゥゥ……。

 

 氷の粒が一つ、ウツセミの体に触れた瞬間。

 彼のHP1は、儚く散った。

 何もできずに、ウツセミがボールに戻る。

 

 ナルシスは冷たく言い放つ。

 

「ヌケニン対策など、初歩の初歩。君はポケモンを道具として見ているようだが、その使い方が雑すぎる」

 

 正論だ。あまりに痛い。

 僕は唇を噛み切り、血の味を感じながら次のボールを握った。

 

 小細工は通じない。真正面からの殴り合い? いや、スターミーのスピードと火力に勝てるか?

 ハヤテ(テッカニン)のスピードでも、氷技を受ければ致命傷だ。

 

「……見せてやるよ。雑草の強さを!」

 

 僕はシリウス(キルリア)と、新入りのキャンバス(ドーブル)を同時に繰り出した。

 

「ダブルバトルか。……スターミー、『ハイドロポンプ』。ラプラス、『フリーズドライ』」

 

 高火力の濁流と、水を凍らせる冷気が迫る。

 まともに受ければ全滅だ。

 

「キャンバス、『スケッチ』した技を使え!」

 

 キャンバスが前に出る。

 彼が昨日、野宿の最中にシリウスの練習を見て『スケッチ』した技。

 それは、攻撃技でも防御技でもない。

 ――『トリックルーム』。

 

 空間が歪む。

 時間の流れが逆転する。

 

 「素早いポケモンほど、動きが遅くなる」異空間。

 超高速のスターミーとラプラスが、まるで泥沼にハマったように動きを止める。

 

 逆に、足の遅いキャンバスと、病気で反応の遅れている僕の思考が、誰よりも速くなる。

 

「なっ……! 氷のステージで空間歪曲だと!?」

 

 ナルシスの美しい顔が歪む。

 

「今だ! シリウス、キャンバス! 『手助け』からの『マジカルリーフ』!」

 

 キャンバスがシリウスの背中を押し、パワーを増幅させる。

 シリウスが舞う。

 必中の魔法の葉が、身動きの取れないスターミーのコアを直撃した。

 

 パリーン!

 

 ガラスが割れるような音と共に、スターミーが吹き飛ぶ。

 

「まだだ! ラプラス、耐えろ!」

 

 ラプラスが高い耐久力で耐える。

 『トリックルーム』の効果時間は短い。切れたら終わりだ。

 

「キャンバス、もう一つ……とっておきを見せてやれ!」

 

 キャンバスがニヤリと笑い、尻尾を振るった。

 彼が街中で見た、工事現場のカイリキーからスケッチした技。

 

 『ばくれつパンチ』

 

 ドーブルの細い腕から繰り出されるとは思えない、渾身の拳。

 ラプラスの横っ面を捉え、混乱状態に叩き込む。

 

 ジムリーダーは対策している。

 だからこそ、その対策の「さらに裏」をかく。

 有名ではない、セオリー無視の、野良犬のような戦い方。

 それが僕の――死に損ないの戦術だ。

 

 氷の粒が止む頃。

 フィールドには、息を切らしたシリウスとキャンバスだけが立っていた。

 

「……美しくはない。だが」

 

 ナルシスは倒れたラプラスを戻し、濡れた髪をかき上げた。

 

「その泥臭い執念、嫌いではないよ」

 

 投げ渡されたのは、水滴の形をした『レイクバッジ』。

 3つ目。

 

 だが、冷気で冷やされた僕の身体は、限界を超えて震えていた。

 リミッターの音が聞こえない。寒さで機能停止しているのか、それとも僕の心臓が止まりかけているのか。

 僕は意識を手放さないように、必死でバッジを握りしめた。

 

 

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