5つ目のジムがあるのは、地方の中央に広がる乾燥地帯『カルデラ砂漠』。
かつて火山だった場所が干上がり、岩と砂だけの荒野となっている。
日差しが痛い。
雪山の次は砂漠だ。この地方の環境変化は、病人の自律神経を殺しにかかっている。
僕は喉の渇きを癒やすために水を飲もうとしたが、手が震えてボトルを落としてしまった。
すぐにキャンバス(ドーブル)が尻尾で拾い上げ、器用に蓋を開けて僕の口に運んでくれる。
「……ごめん、ありがとうキャンバス」
キャンバスは首を振り、スケッチブック代わりの岩に、サラサラと絵を描いた。
『元気な僕』の似顔絵だ。
嘘でも、そう描いてくれる気持ちが嬉しかった。
第5ジム『デザート・フォート』。
巨大な蟻地獄の上に作られた砦。
ジムリーダーは、砂漠のサバイバー、『ダスト』。地面タイプの使い手だ。
「この流砂の上で、足場を保てるかな?」
フィールドは常に流動する砂の上。
立っているだけで体力を消耗する。
相手のエースは、巨大なカバのようなポケモン、カバルドン。
特性『すなおこし』で、視界が茶色く染まる。
「砂嵐か……。ウツセミ(ヌケニン)は出せないな」
砂のダメージで即死するからだ。
僕はキャンバスを前に出した。
キャンバスはこの旅で、多くの技をスケッチしてきた。その引き出しの多さが鍵だ。
「カバルドン、『じしん』!」
砂漠全体が揺れる。逃げ場はない。
「キャンバス、『グラスフィールド』!」
キャンバスが地面に尻尾を走らせる。
以前、森でベイリーフが見せた技のコピー。
砂の上に緑の草花が芽吹き、地面を固める。地震のダメージを半減し、さらに毎ターン体力を回復するフィールド効果。
殺伐とした砂漠に、そこだけオアシスが生まれた。
「ほう、地形を変えるか。だが、『がんせきほう』!」
巨大な岩石が飛んでくる。
「ハヤテ(テッカニン)、交代だ!」
僕はハヤテを盾にしたくない。だが、攻撃を通すには彼しかない。
ハヤテが飛び出し、岩石をギリギリで回避する。
加速する翼。
「ハヤテ、舞え! 砂粒より速く!」
ハヤテが砂嵐の中で見えなくなる。
カバルドンが口を開け、噛み砕こうとするが、ハヤテはその巨体の周りを旋回し、関節部分をピンポイントで切り裂く。
『シザークロス』。
最後は、キャンバスがカバルドンの『あくび』をスケッチし、逆にカバルドンを眠らせて決着がついた。
5つ目のバッジ、『サンドバッジ』。
手に入れた瞬間、僕は砂の上に倒れ込んだ。
脱水症状。
薄れる意識の中で、ウィック(ランプラー)が僕の顔に覆いかぶさり、必死に熱を調整してくれているのがわかった。
6つ目のバッジは『フェアリー』。
7つ目のバッジは『ドラゴン』。
この二つのジム戦は、記憶が曖昧だ。
僕の病状が悪化し、現実と幻覚の区別がつかなくなっていたからだ。
覚えているのは、シリウス(キルリア)の献身だけ。
6つ目のジム戦。
僕の指示が遅れ、シリウスが敵の攻撃を受け続けた。
それでも彼は倒れなかった。
僕が気絶しそうになるたび、テレパシーで『立って、レン! あと少し!』と叱咤し続けた。
そして、7つ目のジムがある渓谷の街へ向かう途中。
イサナが、ただ、無言で一つの石を僕に手渡した。
「……『めざめいし』だ」
イサナは苦渋の表情で言った。
「お前のキルリアは、限界を超えている。お前を守るために、身体が悲鳴を上げているんだ。……進化させてやれ。それが、せめてもの情けだ」
イサナは去っていった。
その夜、僕はシリウスと向き合った。
彼は僕の手にある、青緑色に輝く『めざめいし』に触れた。
『癒やすだけじゃ、運命には勝てない』
『僕は、君の道を切り拓く刃になりたい』
石が輝く。
シルエットが変わる。
スカートのような姿から、鋭利な刃を持つ闘士の姿へ。
エルレイド。
肘に伸縮する刃を持つ、エスパー・格闘タイプ。
彼は進化した自分の腕を見つめ、静かに空を切った。
風が鳴る。
翌日の第7ジム、ドラゴン使いの『リュウゼン』との戦い。
シリウスは鬼神の如き強さだった。
ドラゴンタイプの弱点であるフェアリー技、ムーンフォースなどは失ったが、彼は氷の技『れいとうパンチ』を習得していた。キャンバスの指導のおかげだ。
巨大なボーマンダが襲いかかる。
シリウスは一歩も引かず、その懐に飛び込み、刃を突き立てた。
僕を守る盾ではなく、敵を屠る剣として。
7つ目のバッジを手にした時、僕はもう、自力で歩けなくなっていた。
シリウスが僕をお姫様抱っこのように抱え、ウィックが道を照らす。
異様な一行。
死にかけた少年と、彼を生かすためだけに戦う怪物たち。
あと一つ。
最後のジムが待っている。
シリウスがサーナイトを選ばなかったのは未来予知でレンくんの死期を見たくなかったからという理由もあります。
イサナくんは陰から応援してくれてます。書いていませんがたまにレンくんとバトルしています。