ポケットモンスター 君がいた記録   作:人間国宝

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第14話

 

 

 最後の街、『エンド・ポイント』。

 

 地方の最北端、チャンピオンロードの麓にある、夜の街。

 第8ジムリーダーは、この街の葬儀屋も営む男、『グリム』。

 

 タイプは『悪』。

 ジムの扉は、巨大な棺桶の形をしていた。

 中は真っ暗闇。

 ウィックの灯りだけが頼りだ。

 

「……よく来たね、死にぞこないの少年」

 

 闇の奥から、鎌を持ったような影が揺らめいた。

 グリムだ。

 彼の周りには、ヤミカラス、アブソル、そして切り札のサザンドラが浮いている。

 

「君の魂は、もう半分あちら側に行っている。……ここで楽にしてあげようか?」

「お断りだ。僕の魂は、こいつらが繋ぎ止めてくれている!」

 

 総力戦だ。

 僕は震える手で、全員のボールを投げた。

 シリウス、ウィック、ハヤテ、ウツセミ、キャンバス。

 ルール無用の5対5のバトルロイヤル形式(このジムの特別ルールだ)。

 

 開幕、サザンドラの『あくのはどう』が炸裂する。

 悪タイプは、エスパーのシリウス、ゴーストのウィック・ウツセミにとって天敵だ。

 

「シリウス、下がれ! キャンバス、『きのこのほうし』!」

 

 キャンバスが眠り粉を撒くが、アブソルの『マジックコート』で跳ね返される。

 

「ハヤテ、攪乱しろ!」

 

 ハヤテが加速して飛び回るが、ヤミカラスの『おいかぜ』で相手も加速する。

 

 速さが拮抗する。

 圧倒的な不利。

 グリムが笑う。

 

「悪あがきだ。君の命も、ここまでだよ」

 

 サザンドラの三つの首が、破壊光線のチャージを始める。

 ターゲットは、僕だ。

 トレーナーを狙うのはルール違反だが、ここは『悪』のジム。勝てば官軍。

 

 

 動いたのは、ウツセミ(ヌケニン)だった。

 彼は指示を待たずに、僕の前にふわりと浮いた。

 

 悪技は、ヌケニンにとって「効果抜群」。

 当たれば即死。魂ごと消滅する。

 

 だが、ウツセミは背中の穴を大きく開いた。

 そこから、暗黒の霧が噴き出す。

 攻撃技じゃない。

 

 『おんねん』。

 

 「自分が倒された時、相手のその技のPP(使用回数)をゼロにする」呪いの技。

 

 ズドォォン!!

 

 破壊光線がウツセミを飲み込む。

 音もなく、抜け殻が砕け散った。

 

 ウツセミ……!

 だが、その瞬間、サザンドラが苦悶の声を上げた。

 喉が焼ける。最強の技が封印されたのだ。

 

「ウツセミが作った隙だ……! 全員、いけぇぇッ!」

 

 僕の絶叫。

 ハヤテがサザンドラの目を潰し、キャンバスがアブソルの足止めをする。

 そして、ウィックが放った『おにび』が道を照らす。

 その光の道を、シリウスが走る。

 エルレイドの特性『ふくつのこころ』。

 

 怯めば怯むほど、速くなる。

 死の恐怖を乗り越え、シリウスは光速の刃となった。

 

「『インファイト』!!」

 

 防御を捨てた、渾身の連撃。

 格闘技は、悪タイプに効果抜群。

 サザンドラの巨体が、空中に打ち上げられ、地面に叩きつけられた。

 

 静寂。

 闇の中で、グリムがゆっくりと拍手をした。

 

「……見事だ。死を囮にして、生を掴み取るとは」

 

 砕け散ったウツセミの残骸が、光の粒子となってボールに戻ってくる。

 瀕死だが、ポケモンセンターで回復すれば直るだろう。だが、あの恐怖に立ち向かった勇気は、本物だった。

 

 グリムから渡されたのは、黒曜石で作られた『エンドバッジ』。

 僕はそれを、懐中時計の最後の窪みに押し込んだ。

 

 カチリ。

 

 ジジジ……コーン、コーン、コーン。

 

 

 8つの歯車が噛み合い、時計が重厚な音を立てて時を告げた。

 0時00分から始まった旅。

 針は今、正午を指している。

 

「……揃った」

 

 チャンピオンロードへのゲートが開く音がした。

 

 その先には、雲を突き抜ける霊峰『クロノス』。

 そして、頂の祭壇。

 

 僕はシリウスに支えられながら、ゲートを見上げた。

 リミッターはもう鳴らない。完全に壊れている。

 

 僕の心臓が動いているのは、ウィックが常にエネルギーを吸い出し、循環させてくれているからだ。

 今の僕は、半分人間で、半分ポケモンみたいなものかもしれない。

 

「行こう。……最後の遠足だ」

 

 雪が舞い始めた。

 僕たちは、白い頂を目指して歩き出した。

 

 

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