最後の街、『エンド・ポイント』。
地方の最北端、チャンピオンロードの麓にある、夜の街。
第8ジムリーダーは、この街の葬儀屋も営む男、『グリム』。
タイプは『悪』。
ジムの扉は、巨大な棺桶の形をしていた。
中は真っ暗闇。
ウィックの灯りだけが頼りだ。
「……よく来たね、死にぞこないの少年」
闇の奥から、鎌を持ったような影が揺らめいた。
グリムだ。
彼の周りには、ヤミカラス、アブソル、そして切り札のサザンドラが浮いている。
「君の魂は、もう半分あちら側に行っている。……ここで楽にしてあげようか?」
「お断りだ。僕の魂は、こいつらが繋ぎ止めてくれている!」
総力戦だ。
僕は震える手で、全員のボールを投げた。
シリウス、ウィック、ハヤテ、ウツセミ、キャンバス。
ルール無用の5対5のバトルロイヤル形式(このジムの特別ルールだ)。
開幕、サザンドラの『あくのはどう』が炸裂する。
悪タイプは、エスパーのシリウス、ゴーストのウィック・ウツセミにとって天敵だ。
「シリウス、下がれ! キャンバス、『きのこのほうし』!」
キャンバスが眠り粉を撒くが、アブソルの『マジックコート』で跳ね返される。
「ハヤテ、攪乱しろ!」
ハヤテが加速して飛び回るが、ヤミカラスの『おいかぜ』で相手も加速する。
速さが拮抗する。
圧倒的な不利。
グリムが笑う。
「悪あがきだ。君の命も、ここまでだよ」
サザンドラの三つの首が、破壊光線のチャージを始める。
ターゲットは、僕だ。
トレーナーを狙うのはルール違反だが、ここは『悪』のジム。勝てば官軍。
動いたのは、ウツセミ(ヌケニン)だった。
彼は指示を待たずに、僕の前にふわりと浮いた。
悪技は、ヌケニンにとって「効果抜群」。
当たれば即死。魂ごと消滅する。
だが、ウツセミは背中の穴を大きく開いた。
そこから、暗黒の霧が噴き出す。
攻撃技じゃない。
『おんねん』。
「自分が倒された時、相手のその技のPP(使用回数)をゼロにする」呪いの技。
ズドォォン!!
破壊光線がウツセミを飲み込む。
音もなく、抜け殻が砕け散った。
ウツセミ……!
だが、その瞬間、サザンドラが苦悶の声を上げた。
喉が焼ける。最強の技が封印されたのだ。
「ウツセミが作った隙だ……! 全員、いけぇぇッ!」
僕の絶叫。
ハヤテがサザンドラの目を潰し、キャンバスがアブソルの足止めをする。
そして、ウィックが放った『おにび』が道を照らす。
その光の道を、シリウスが走る。
エルレイドの特性『ふくつのこころ』。
怯めば怯むほど、速くなる。
死の恐怖を乗り越え、シリウスは光速の刃となった。
「『インファイト』!!」
防御を捨てた、渾身の連撃。
格闘技は、悪タイプに効果抜群。
サザンドラの巨体が、空中に打ち上げられ、地面に叩きつけられた。
静寂。
闇の中で、グリムがゆっくりと拍手をした。
「……見事だ。死を囮にして、生を掴み取るとは」
砕け散ったウツセミの残骸が、光の粒子となってボールに戻ってくる。
瀕死だが、ポケモンセンターで回復すれば直るだろう。だが、あの恐怖に立ち向かった勇気は、本物だった。
グリムから渡されたのは、黒曜石で作られた『エンドバッジ』。
僕はそれを、懐中時計の最後の窪みに押し込んだ。
カチリ。
ジジジ……コーン、コーン、コーン。
8つの歯車が噛み合い、時計が重厚な音を立てて時を告げた。
0時00分から始まった旅。
針は今、正午を指している。
「……揃った」
チャンピオンロードへのゲートが開く音がした。
その先には、雲を突き抜ける霊峰『クロノス』。
そして、頂の祭壇。
僕はシリウスに支えられながら、ゲートを見上げた。
リミッターはもう鳴らない。完全に壊れている。
僕の心臓が動いているのは、ウィックが常にエネルギーを吸い出し、循環させてくれているからだ。
今の僕は、半分人間で、半分ポケモンみたいなものかもしれない。
「行こう。……最後の遠足だ」
雪が舞い始めた。
僕たちは、白い頂を目指して歩き出した。