ポケットモンスター 君がいた記録   作:人間国宝

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第8話

 

 

『迷いの森』を抜けた先に待っていたのは、霧とは対照的な、整然とした白い石造りの街並みだった。

 

 『レクイエム・シティ』。

 死者を弔う大聖堂を中心とした、静謐な祈りの街。

 その街の入口、石橋の上に、白衣の男が一人立っていた。

 

「……遅かったな、レン」

 

 イサナだ。

 彼は腕組みをし、医者としてではなく、冷徹なトレーナーの目をしていた。

 足元にはタブンネではなく、首に植物の芽を巻いた恐竜のようなポケモン――ベイリーフが控えている。

 

「約束だ。ここで俺が勝ったら、強制的に入院させる。……手加減はしない」

「望むところだ。退くつもりはない」

 

 僕はウィック(ヒトモシ)のボールを握りしめる。

 街の住人たちが、何事かと遠巻きに見守る中、私闘が始まった。

 

「ベイリーフ、『ひかりのかべ』!」

「ウィック、『ひのこ』!」

 

 開幕、ベイリーフが光の壁を展開する。ウィックの炎が半減され、ベイリーフの厚い皮膚を焦がすに至らない。

 

 イサナの戦術は徹底していた。

 『こうごうせい』で回復し、『どくのこな』でこちらの体力を削る。

 「時間をかければ、レンの身体が先に参る」という、僕の弱点を突き刺すような遅延戦術。

 

「……卑怯とは言わないさ。それが一番、僕に効く戦い方だからな!」

 

 僕は唇を噛む。毒を浴びたウィックが苦しげに明滅する。

 僕の息も上がってきた。焦りがリミッターを過熱させる。

 だが、イサナの計算違いが一つあった。

 今の僕には、騎士がいる。

 

「ウィック、戻れ! シリウス(キルリア)、頼む!」

 

 交代で出したシリウスは、舞うようにフィールドに降り立った。

 イサナが眉をひそめる。

 

「進化したか。だが、毒への対策はないはずだ」

「毒が回るより早く、終わらせればいい。……シリウス、『めいそう』だ!」

 

 シリウスが目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。

 イサナは攻撃の手を緩めない。

 

「ベイリーフ、『のしかかり』!」

 

 重量級の一撃。しかし、シリウスは紙一重でかわす。

 僕の「痛み」を知る彼は、僕が長引けば倒れることを誰よりも理解している。だからこそ、防御を捨てて特攻を上げる選択をした。

 シリウスの周囲に、張り詰めた念力のオーラが渦巻く。

 一回、二回。限界までの積み込み。

 

「決めろ! 『サイコキネシス』!」

 

 カッ!

 

 目に見えない巨人の拳が、ベイリーフを上空から叩き潰した。

 リフレクターごと粉砕する圧倒的な火力。

 ベイリーフが悲鳴を上げ、石畳に沈む。

 

「……バカな。耐久特化のベイリーフを一撃で……」

 

 イサナが呆然とする隙に、僕は追撃の手を緩めなかった。

 その後も、イサナが出すポワルン、ラッキーを、覚醒したシリウスと、回復したウィックの連携でなぎ倒した。

 

 勝負あり。

 イサナが最後のボールを落とし、膝をついた。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……ッ」

 

 僕もまた、立っていられずにその場に座り込んだ。

 勝利した。けれど、視界がチカチカする。

 

 イサナが近づいてきた。

 彼は無言で懐から『なんでもなおし』を取り出し、僕のポケモンたちにスプレーした。

 そして、僕の手首を掴み、脈を測る。

 

「……心拍数160。危険域だ」

「でも……勝ったぞ。約束は……守れよ」

 

 僕が睨みつけると、イサナは苦虫を噛み潰したような顔をして、僕の手を離した。

 

「ああ、負けは負けだ。……行けよ。気が変わらないうちに」

 

 彼は背を向けた。

 その背中が「お前を死なせたくない」と震えているのがわかった。

 僕は礼を言う代わりに、深く頭を下げ、次の街へのゲートをくぐった。

 

 




イサナくんは陰からこっそり見守ってます。
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