ポケットモンスター 君がいた記録   作:人間国宝

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第9話

 

 

 

レクイエム・シティの外れ、古い墓地。

 静かな場所だった。ここで少し休息を取りながら、新入りのウツセミ(ツチニン)の特訓をすることにした。

 

 ウツセミは不器用だった。

 目は見えず、動きも遅い。けれど、ひたむきだった。

 僕が咳き込んで座り込んでいると、土の中から「きれいな木の実」や「光る石」を掘り出して、僕の手に押し付けてくる。

 

 

「……ありがとうな。優しいやつだな、お前は」

 

 撫でてやると、硬い甲羅の下で嬉しそうに震える。

 だが、その時は唐突に訪れた。

 

 特訓中、野生のズバットを倒した直後。

 ウツセミの身体が、激しい白光に包まれた。

 

 進化だ。

 僕は息を飲む。ツチニンの進化は特殊だとは聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。

 

 バキ、バキバキッ……。

 

 光の中で、甲羅が割れる音がした。

 まるで、自分の身体を引き裂くような、生々しい音。

 背中が割れ、中から現れたのは――

 

 ブゥゥゥン!!

 

 目にも止まらぬ速さで空へ飛び出した、黄金色の虫。

 テッカニンだ。

 そのスピードは音速に近い。残像を残して飛び回り、鋭い鎌を振るう。

 生命力の塊。速さの権化。

 それが、ウツセミの「新しい命」なのか。

 

「すごいな……! あんなに速くなれるなんて」

 

 僕は感嘆の声を上げた。

 だが、シリウス(キルリア)は空を見上げず、地面をじっと見つめていた。

 その表情は、どこか悲しげで、恐れを抱いているようだった。

 

『……キル?』

 

 シリウスの視線を追う。

 そこには、テッカニンが飛び立った後の「抜け殻」があった。

 土色の、割れた甲羅。

 動くはずのないゴミ。

 

 しかし。

 その「抜け殻」が、ふわりと浮き上がった。

 

「……え?」

 

 背中の割れ目の奥に、ぽっかりと空いた暗闇。覗き込めば魂を吸われるという、虚無の穴。

 頭の上には、天使の輪のような光の輪。

 ヌケニン。

 進化の過程で生じた、生ける屍。

 空を高速で飛び回るテッカニン(本体)と、無音で浮遊するヌケニン(抜け殻)。

 

 一つの命が、二つに割れたのだ。

 僕はリュックを探った。

 予備のモンスターボールが一つある。

 

 僕は震える手で、ヌケニンにボールを向けた。

 ヌケニンは抵抗しない。感情がないからだ。

 

 「……」

 

 何も伝わってこない。シリウスやウィックのような温かさも、ウツセミだった頃の優しさもない。

 ただ、そこに「死」が浮いているだけ。

 

「……似てるな、僕と」

 

 中身が空っぽで、いつ死んでもおかしくなくて、それでも世界にへばりついている。

 僕は吸い寄せられるように、ボールを投げた。

 

 カチリ。

 あっけなく収まった。

 テッカニン(ハヤテ)と、ヌケニン(ウツセミのまま)。

 僕のパーティに、また歪な仲間が増えた。

 

 

 

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