お腹の中にジャシン様がいるらしい件   作:笑嘲嗤

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第2話 忍びの里へようこそ

 火の国に辿り着いてから、人生で初めて汽車を見たときはとても驚いた。そして汽車を乗り継いで辿り着いた首都にはもっと驚いた。

 

「あれは建物なの?」

 

「ああ。ビルだね」

 

「山より高いみたい。怖くて住めなさそう」

 

「あはは。たしかにな。だがそのうち慣れるさ」

 

 ゲンジさんについていくと郊外の緑の豊かで湖に面した街に連れてこられた。

 

「ここに俺の別荘がある。お前には木の葉の里へ行く前にここで忍術の基礎をつけてもらう」

 

「忍術……」

 

「まあ何とかなるさ」

 

 次の日から修業が始まった。ゲンジさんは忍者じゃないと言っていたのに忍術を普通に使っていた。

 

「お前はチャクラのコントロールがうまいな」

 

「でも忍者は普通に水の上歩くよね?」

 

「それだってちゃんと修行してからだよ」

 

 水の上を歩いたり、木を足で登ったりする修業は本当は難しいそうだけど、俺にとっては簡単だった。

 

「じゃあチャクラの基礎コントロールはこれでいいかな。では忍術に入るが……これを持ってチャクラを流せ」

 

「紙?」

 

 何の変哲もない紙を渡された。言われたとおりにチャクラを流し込む。だけど何も起こらない。

 

「うん?何も起こらない?」

 

「紙だからじゃないの?」

 

「いやこの紙はな、こうなるんだ」

 

 ゲンジさんが紙を持ってチャクラを流すとそれに火がついて燃え尽きた。

 

「燃えるのが正解?」

 

「違う。個々人が持ってるチャクラの属性の性質に応じて何かが起きるようになってるんだ」

 

 ゲンジさんは赤い瞳でじーっと俺を見ていた。

 

「この印を試してみてくれ」

 

 目の前で印をやってくれたのを覚えて真似する。すると肺に熱さをちょっと感じた。俺はそれを吐き出す。すると火が出てきた。

 

「火遁だな。じゃあ次はこの印」

 

 その通りにやると体の周囲に風が巻き起こった。

 

「風遁。じゃあ次はこれ」

 

 やってみると右手から雷が出てきて地面を少し焦がした。

 

「これで三種の属性変化……では次」

 

 真似っこしてやってみると口の中に水が溢れたように感じたので吐き出すと水が出てきた。さっきの焦げた地面が湿った。

 

「水遁か。では最後だ」

 

 印を組んでみると地面が少し柔らかくなった。

 

「まさか土遁もなのか……五種全属性を実行できるのか?」

 

 俺は首を傾げる。言われたとおりにやっただけなのに不思議がられてもこっちが困る。

 

「これは驚いたな。……このことは他の誰にも言うな。使うときは人目に見られないようにしろ」

 

「うん。わかった。良くないの?」

 

「いいことなんだが、非常に困る。お前には忍術の才能がある。いや腹に宿ったジャシンのせいかもしれないな」

 

「ジャシン。そうなの?」

 

『違う』

 

「違うって言ってる」

 

「そうか。なぜなのか聞けるか?」

 

「ジャシン、どうして?」

 

『できるから私がいる』

 

「できるから私がいるって言ってる」

 

「説明不足だなぁ……。まあいいよ。しばらくは火遁重視にしよう。木の葉でも一般的だしな。まだ出力は弱いし訓練しよう」

 

 そしてその日は火遁ばかりやった。やったんだけど、修行の後には俺は地面に倒れてしまった。

 

「量としては大したことないはずなんだが。大丈夫か?」

 

「お腹減った。死にそう」

 

 俺は本当に腹が減っていた。減っていたというよりももうなんか死にそうな気配さえ感じていた。

 

『チャクラを食え』

 

「ジャシンがチャクラを食べろって言ってる」

 

「まさか……」

 

 ゲンジさんが俺の腕に手を当てる。するとそこからチャクラの光が俺に吸収されるのが見えた。

 

「チャクラが吸われたな。飢えは?」

 

「感じない」

 

 お腹の減りはもうなくなっていた。

 

「まさかお前はチャクラを他者から摂取しないといけないのか?」

 

「ジャシン。そうなの?」

 

『そうだ。チャクラを食え。それで死なない』

 

「そうだって言ってる」

 

 ゲンジさんは複雑な顔をしている。

 

「お前のチャクラの量ははっきり言って少ない。忍者としてはかなりギリギリだ。術を多用できない可能性が高い。才能とトレードオフになってるのか?まあいい」

 

 その日の修業はそれで終わった。次の日もゲンジさんと修業した。忍具とチャクラによる身体強化と体術が中心だった。

 

「体術のセンスはそこそこかな。まあ合格点だな。忍具の使い方も器用だ」

 

「村にいたときは機織りが得意だったんだ」

 

「そうか」

 

 そして修業の終わりが告げられた。綺麗な着物を渡されて着替えさせられた。ゲンジさんはスーツを着ている。

 

「これから大名に会いに行く。それから木の葉の里に向かう」

 

「とうとう忍者になるの?」

 

「ああ。まあついてこい」

 

 ゲンジさんについていく。首都の真ん中にある大きなビルに入った。

 

「ゲンジさま?予定ではもっと先にお帰りのはずでは?」

 

 スーツを着た役人さんがゲンジに話しかけてきた。

 

「ああ。そうなんだが、ちょっと拾い物してな。大名様のところに通してくれ」

 

「大名様は貴族の皆様と会議をしております」

 

「どうせ遊んでるだけだろう。呼びつけろ。弟が来たぞとな」

 

「はい。わかりました」

 

 そしてとある会議室に通されて俺とゲンジさんはソファーに座って待っていた。

 

「ゲンジさんって大名様の弟なの?」

 

「そうだ。まあ分家に養子に出されたから継承権はないがな。それに母も庶民出で格が低いんだ。良くある話さ」

 

 ゲンジさんと話しているとドアが開いてぼやっとした雰囲気のおじさんが入ってきた。

 

「ゲンジ。大事な会議中に無礼ではないか?」

 

「そういうのは仕事してから言え。これにサインしろ」

 

「まったく。それにそっちのおなごは?幼いが別嬪じゃのう?余への貢ぎ物か?」

 

「人を売る趣味はない。早くサインしろ」

 

「まったく……」

 

 大名のおじさんは書類にサインをしてゲンジさんに渡した。

 

「いくぞナナシ」

 

「はい」

 

「待つが良いぞ」

 

 大名のおじさんに呼び止められた。

 

「そちらの子。ナナシちゃん。どうだ?余の後宮に入らぬか?うん?」

 

「え?あの。俺は忍者になるんで」

 

「忍びよりも余と共にいた方が楽しいぞよ」

 

「そこまでにして欲しい兄上。それにその子は男だ」

 

「なに?この美貌で男とな……ありじゃのぅ……」

 

 ゲンジさんが渋い顔している。

 

「忍びになるということは里に行くのか?」

 

「兄上には関係ないことだ」

 

「任務で指名しても良いのだな?」

 

「色ごと仕事はさせないからやるな。いいな」

 

 大名はゲンジさんの返事を聞いてしょぼくれていた。そして俺たちは会議室を出ていった。そのまま駅に向かい汽車に乗った。

 

「この葉隠れには鉄道が通ってない。近くの町まで行ってそこから乗合馬車になる」

 

「火の国はお金持ちなのに里には汽車はないの?」

 

「入れたがないんだ。もともと忍者の里だからな。交通は制限されている」

 

「ふーん」

 

 木の葉の里とはどんなところなんだろうか。少し楽しみな自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最寄りの街から馬車で木の葉の里までやってきた。落ち着いた雰囲気の街だった。

 

「なんか普通」

 

「はは。まあ忍者も人間だからな。街にまで変な細工は持ち込まないさ」

 

 やってきたのは火と書いてある大きな建物だった。中に入って受付に行ってどこかの会議室に通された。なぜか忍者の人も会議室にいた。俺たちをじっと睨んでいる。

 

「監視なんてつけなくても悪さなんてしないさ」

 

 ゲンジさんは出されたお茶を飲みながら悠々としている。そしてドアが開いて大きな帽子を被ったおじいちゃんが入ってきた。ゲンジさんがソファーから立ち上がったので俺もそうした。

 

「ひさしぶりじゃなゲンジ殿。座ってくれ。お互いに遠慮する仲ではないだろう」

 

「ええ。あなたは俺にとってはもう一人父のような人でした。アスマは元気ですか?木の葉丸くんは?」

 

「元気じゃよ。あとで会っていくといい。で、今日は何ゆえにやってきた?アカデミーで卒業式が終わったばかりでな卒業生の編成に忙しいのだが」

 

「これを持ってきた。見て欲しい」

 

 あの時大名に書いてもらった書類を渡す。

 

「忍者志願の推薦状?しかも大名様のサイン?」

 

 おじいちゃんが俺の方を見る。強い圧を感じる。この人只者じゃない。多分ゲンジさんよりずっと強い。

 

「大名直属の推薦あり。この子を忍者にしてやってくれ」

 

「前代未聞じゃな。下忍への志願登用は出身地の代官や村長くらいのサインでいいのだが。これでは名前が大きすぎる」

 

「だが形式上は問題ないでしょう。この子の身元は俺が保証する。忍者にしてやってくれ」

 

「……事情があるようだな」

 

「ああ。お願いいたします。この子に居場所を作ってやってください」

 

 ゲンジさんはおじいちゃんに頭を下げた。俺も一緒に下げる。

 

「わかった。よい。人質とはいえどもお前を猶子として育てたこともある。かまわないだろう。志願を認める」

 

「ありがとうございます。火影様」

 

「事情があると言ったな。通常里外の志願組はブートキャンプに放り込むのだが……いや。ちょうどいい。アカデミー卒業者たちと同じ待遇にする。ちょうど一名空きがある」

 

「キャリア組扱い?そこまでは求めてはいないが」

 

「こっちにも事情はある。ちょうどよいというわけじゃ。ではそちらの子。名を名乗ってくれ」

 

 俺は立ち上がって言う。

 

「ただのナナシです!よろしくお願いします!」

 

「……ある意味忍びらしい名前じゃな。……憐れだのう……」

 

 会談は終わった。住居が用意されて俺は一週間後から下忍になることが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーメン屋さんにやってきた。

 

「くぁ!アカデミー卒業記念のラーメンはやっぱりうまいってばよ!!」

 

 近くの席の金髪に碧眼の男の子がなんかちょっとうるさいけど、ラーメンはとても美味しかった。

 

「ゲンジさんラーメンといっしょにお米なんですか?」

 

「スープにつけたチャーシューをご飯と一緒に食べると美味いんだよ」

 

 変な食べ方だなぁと思った。

 

「アカデミー卒業者と志願者ってなんか違うの?」

 

「ああ。公式には待遇は同じってことになってるが、実際はアカデミーは将来の幹部候補生の育成機関だ。昇進も早いし卒業後の待遇もいい。志願者はブートキャンプで厳しく扱かれる。任務で叩かれる。まあそれでも志願者は絶えないがな」

 

「口減らし?」

 

「まあそんなところだな。どこも争いが絶えないからな。大戦は終わったが、小競り合いや経済権益戦争はずっと続いてる。忍者は食っていける。まあ死ぬリスクも多いけどな」

 

 そう語るゲンジさんの目にはどこか寂しさがあった。なにを見てきたんだろう。そう言えば俺のいた村も隣の村と水源を巡って戦って大人たちが何人も死んだ。隣町が忍者を雇ってたくさん死んだんだ。

 

「お前はチャクラを食う必要がある。忍者は大なり小なりチャクラを垂れ流してる。ここにいれば最低限は飢えずに済むだろう。そして任務に出て他所の忍びと戦えば満腹になれるだろう。業が深いよ……だが生きることは諦めるな。頑張れよ」

 

 ゲンジさんは俺の肩を抱いてそう言った。明日からは一人だ。だけどこの人は俺に優しかった。だからきっと大丈夫。俺は頑張れる。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火影の執務室に一人の暗部くのいちが来ていた。面を被ったまま火影の前に立っている。

 

「ヒヨリ。お前に新しい任務だ」

 

「わざわざここに呼ぶってことはSランク級ですか?」

 

「ああ。大事な任務だ。お前に新人の班を任せたい」

 

「新人の班?アカデミー卒業生ですか?私は中忍でさえないのですが」

 

「特例だが上忍に引き上げる。面を外して新人育成に当たれ。お前は十分里に貢献してきた」

 

 ヒヨリと呼ばれたくのいちは面を外す。まだ幼い面影があった。

 

「わたしが表に出ると日向宗家も分家もキレますよ?」

 

「かまわない。あやつらも変化を受け入れねばならぬよ」

 

 淡い灰色の瞳でヒヨリは火影の持つ書類を見る。そこには顔写真付きの下忍たちのプロフィールが載っていた。

 

「……わかりました。だけどお見合いの話を止めてくだいますか?」

 

「いいだろう。そちらの話はこちらで留めておく。ところで姓はどうする?日向を抜けたお前には苗字がないが」

 

「向日、むかいびとします」

 

「そうやって挑発するからキレられるのでは?」

 

「いいでしょう別に日向は嫌いなんです」

 

 ヒヨリの瞳の瞳孔がすぼまる。そして凄惨な笑みを浮かべる。

 

「この班はあぶれものの集まりのようですね。まあ楽しく任務させてもらいますよ。ええ忍者らしくね」

 

 火影はその顔をどこか憂い気に見てすぐに目を反らす。

 

「しかしくのいちだけとか珍しいですね」

 

「うん?」

 

「まあいいです。失礼します」

 

 そして面をつけなおしてから瞬身の術で日和は火影室から消えた。

 

「もしかしてナナシを女の子と勘違いしてる?……まあよいか」

 

 火影は窓越しに里をみる。今日も街は平和だった。

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