呪術廻戦IF:呪術悲劇ハムレット   作:役を解かれぬ者

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第27話 決闘裁判

 

 

 

王宮広間を埋め尽くした燭台の炎が、不吉な夜の帳を赤黒く照らし出していた。

 石灰で引かれた円の内側に、乙骨憂太と伏黒恵が対峙する。

 

乙骨は、伏黒の瞳を覗き込んだ。

 そこに宿るのは、復讐という免罪符がなければ崩れ落ちてしまう脆い情熱。

 

――僕も、そんな目をしていたのか。

 

「……君になら。僕は殺されても構わない」

 

囁くような、伏黒だけに聞こえる静かな声。

 その暴力的なまでの慈愛こそが、耳元で呪いとなって伏黒を貫いた。

 

その沈黙を切り裂くように、禪院直哉が従者を引き連れて現れた。

 他人に鉄を宛がい、破滅へと誘導する手間に至上の愉悦を感じながら、彼は悠然と二人の間に割って入る。

 

直哉が伏黒の前に立った。

 盆の上には、細身のレイピアと短剣が並んでいる。

 その鞘には小さな紋章が刻まれ、燭台の炎を受けると、不吉な影となって石畳を這い回った。

 

「恵君。君にはこの『正義』を。……使い心地は、あの方が保証してるで」

 

直哉は剣の柄を向け、目を細めた。

 

「正当な処刑には、相応の道具が必要やろ。……俺は、こんな重たいもん持つのはごめんやけどな」

 

伏黒は剣を見た。その鈍い光が何を意味するかは、理解している。

 柄に触れた瞬間、掌から手首へ、壊死していくような冷気が駆け抜けた。

 里香がローズマリーを差し出した夜の記憶が、指先から剥がれ落ちていく。

 

「誠実な恵くん」と呼ばれた聖域が、毒の冷気に塗り潰された。

 

 

直哉は、今度は乙骨の前へ移った。

 差し出されたのは、何の変哲もない王宮の備品に見える二振りの鉄だ。

 

「乙骨君にはこれ。王様からの、せめてもの『温情』やね」

 

直哉は軽薄に微笑む。

 

「……まあ、すぐに折れてしもうたら、興醒めやけどな」

 

乙骨は無言でそれを受け取った。

 「温情」という言葉が嘲笑を隠す安っぽい包装紙に過ぎないことを、彼は理解していた。

 乙骨は手にした鉄の重みを静かに受け止める。

 

彼が手にしたのは武器ではなく、自らの破滅を完結させるための道具に過ぎなかった。

 

 

直哉が二人の間に立ち、毅然と背筋を伸ばした。

 その貌から私的な愉悦が消え、冷徹な「審判役」の仮面が張り付く。

 彼は声を張り上げ、厳かな口上を放った。

 

「ここに集いし衆目よ、静粛にせよ! 国王の御前なることを忘れるな」

 

広間を埋める人々の私語が、一瞬で凍りつく。

 

「これより行われるは人の裁きにあらず。正しき者に勝利を、偽りし者に死を与える、神の審判である」

 

直哉は鋭い視線で両者を射抜いた。

 その言葉が、伏黒の掌にある「毒剣」の存在をいっそう黒々と際立たせる。

 

「両名に問う。汝ら、卑劣なる工作によって、この神聖なる場を汚さぬと、万軍の主にかけて誓うか?」

 

乙骨と伏黒が、重い沈黙をもって応じる。

 

「ならば、剣を取れ! 神よ、正しき者を守りたまえ」

 

直哉は、対峙する二人の真ん中に立ったまま、白い手袋をはめた右手を高く掲げた。

 乙骨と伏黒。互いの殺気が交差するその点で、彼は唇の端を微かに吊り上げる。

 

――さて、どれだけ保つかな。

 

一気に、手が振り下ろされる。

 

「いざ――解き放て(Laissez-les aller)!」

 

その発声と同時に、直哉は踊るような足取りで二人の間から鮮やかに身を引いた。

 審判が消えた空白を埋めるように、二つの鉄が、夜の空気を切り裂いて走る。

 

直哉は上質な絹を滑らせながら、二人の死線が交錯するすぐ側を、音もなく移動し始めた。

 

有効打の一瞬を逃さぬよう、その双眸を細める。

 

最高級の舞台を特等席で眺める子供のような、純粋で残酷な期待が、彼の瞳を濡らしていた。

 

 

 

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