「ここが...クリスチーヌさん達が特定してくれたアジトですか?」
ゴーストバスター犬であるポンデフルが突き止めたアジトに、僕と蓮さんはたどり着いた。
前回僕が調査したアジトと同じような見た目だ。灰色で四角い大きな建物。今回も使われていない倉庫をアジトにしているのだろうか。
息を潜めて中に入ると、そこは前回とは違い、生活感のある光景が広がっていた。
「タンスや子供用のおもちゃが置いてありますね...。ここには絨毯も敷いてありますよ」
絨毯を土足で踏むのは気が引けるので、僕は絨毯を避(よ)けながら歩いた。
「おい、春野。そういうとこで、お行儀の良さを出さなくていい。いつ敵が襲ってくるか分からないんだ。絨毯なんて避(よ)けなくていいから、もっと他のことを気にかけろ」
蓮さんのお叱りを受けて、僕は、(ごめんなさい...)と思いながら、絨毯を靴で踏みしめた。
「春野、お前の仕事はアジトにある霊力を事前に消しておくことだ。全ては無理かもしれないが、可能な限り消しておけ」
「はい!もちろん分かっています!」
僕は片手に持っているポケット探知機を確認する。ポケット探知機は、複数の弱い反応を検知している。
(霊力が小さすぎてポケット探知機の反応も曖昧だから場所の特定が難しい...けど、おそらくこのあたり!)
真上の天井を確認する。小さすぎてよく見えないが、かすかに青暗い点のようなものが付着している。
ホルスターからゴーストシューターを抜き、点をめがけて撃ち抜いた。
「ふぅ〜。榎本君の言ってた通りですね。そこらじゅうにあの悪霊の霊力が付着しているようです」
天井に付着している霊力を放置してしまうと、また天井に引っ張られて、僕の体が叩きつけられることになる。防護服は着ていると言っても、もう痛いのはごめんだ。
「あぁ、面倒だが見つけ次第少しずつ撃って処分してくれ。私の剣では天井に届かないからな」
僕は蓮さんの指示通り、ポケット探知機で見つけては撃ち抜き、一つずつ処分していく。
「...それにしても、ここがあの悪霊のアジトだとすると、ポケット探知機に大きい反応がないのが気になりますね。悪霊は、今はアジトにはいないんでしょうか...こ、こないだの件で、僕たちに目をつけられたと思って、もうこのアジトには帰ってこないんじゃないですか!?」
慌てふためく僕には目もくれず、蓮さんはあたりのタンスの中身や絨毯の下に何かないか、など、建物内を入念に調べている。
「春野、ポケット探知機はあくまで天井や壁に張り付いている霊力の探知に使え。あいつが霊力を応用してワープのような動きができるのであれば、ポケット探知機を見ていたところで、突然でかい反応がここに現れるわけだから、あまり当てにならないぞ。
それと、このアジトは今までのアジトとは違って、生活に必要な道具が置いてあることから、誘拐した子供達がどこかの部屋にいる可能性が高い。
やつが子供を諦めて逃げた、ということも考えられなくはないが、もし、ここに苦労して誘拐し集めた子供達がいるなら、その霊力を吸い取るためにやつは必ず戻ってくるだろう」
蓮さんは右腕の袖を捲(まく)り、身につけているハイドリングを僕に見せる。
「私たちはハイドリングをつけている...が、これはあくまで霊力を少なく見せる効果しかない。やつは霊力の匂いを嗅ぎ分けられるほど霊力に敏感だ。
弱い悪霊ならハイドリングをつけていれば近づいてもこちらの存在を感知されないだろうが、やつはそう簡単にはいかないだろう。常に注意しておけよ」
「アイアイサー!!」
僕は蓮さんに向かって大きな声で返事をしながら、背筋をきちんと伸ばして敬礼をする。
「...声がでかい」
蓮さんは、深いため息をついた...
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僕と蓮さんは、数十分間アジトを調べた。
蓮さんの言うとおり、子供の服やおもちゃがあることから、このアジトには誘拐された子供達がいる可能性は高い。
が、この建物に部屋は一つだけ。この部屋内に子供が隠れられそうな場所もない。
「あーーーもう、どれだけ調べても子供達見つかりませんよ〜!結局ここも、こないだ調べた所と同じように、サブアジトなんですかねぇ」
榎本君と蓮さんの考えでは、こないだ僕が悪霊に襲われたアジトは、本拠地というよりはサブ拠点のような場所だったのではないか、と考えているらしい。
あの悪霊は、子供を誘拐する際の経由地点としてアジトをいくつか持っている、もしくは僕たちのようなゴーストファイターを撹乱させるためのアジトを持っている、など理由は様々だが、複数のアジトを持っている可能性がある。
そしてそのアジトのどれかに、誘拐された子供達が集まっているアジトがあるのではないか。というのが、事前に榎本君と蓮さんから教えてもらった考えだ。
しかし、これだけ隅々を調べて子供達が見つからないということは、今回のアジトはどうやらサブ拠点だったようだ。
「あーーーーー、疲れたーーー!!!」
気を張り詰めていた僕は、疲れが一気に体に回り、ゆっくりと床に仰向けに倒れ込んだ。
「おい、馬鹿!気を緩めるな!!」
豪快に大の字で寝転がる僕に、本日2回目の蓮さんのありがたいお叱りの言葉が降りかかる。
「春野...お、お前、よくその汚い床の上で...」
「いや〜、ずーっと張り詰めてましたから、疲れちゃいまして!それにここの床は、他とは違ってあまりほこりもたまってないからまだ綺麗な方ですよー!だからそんなドン引きした目で僕を見ないでください!」
「...なに?」
蓮さんは足早に僕に近づき、横になっている僕の服を思いっきり引っ張って持ち上げた。
「いててて!!痛いです蓮さん!!服がちぎれちゃいますよ!!」
無理やり引っ張り上げられたため、服が少し伸びてしまっている。
僕のクレームに耳を貸すことなく、蓮さんは床をコンコンと叩き、辺りを注意深く観察している。
「...あった」
蓮さんの手元をよく見ると、そこには灰色のボタンがある。
「え、そのボタン、いつからそこにありました?」
「このボタンには、床と同じ色の蓋がついていたから一見分からなかったな。この床を詳しく調べると、蓋を開けるための、わずかな隙間のようなものがあったから気がつくことができた」
「へぇー、なるほど。蓮さんはすごいですね、って蓮さぁぁん!!??」
何のボタンかも分からないのに、蓮さんは迷わずボタンをポチッと押した。
「あわわわわまずいですよ蓮さん!!これ、映画とかでよく見るやつ!爆発とかするボタンかも!!うわなんかすごい音してきましたよ!!」
ゴゴゴゴという地響きのような音と共に、床の振動も次第に強くなり、僕は体勢を崩して片膝をついた。
さきほど僕が寝転がっていた床が、扉のようにゆっくりと左にスライドして開いていく。
「春野、お前の言うとおり、映画のような展開だな」
これはいわゆる、床下に作られた“隠し扉”だろう。
僕と蓮さんが中を覗くと、暗くてよく見えないが、かなり奥まで階段が続いている。
蓮さんはスマホでライトをつけ、辺りを照らしながら階段を降りていく。僕もそれに続いて、同じようにスマホのライトで道を照らしていく。
(薄暗くて怖い。スマホのライトで照らしても、かなり暗い。何があるかわからない。怖いよ...)
と、考えているのはおそらく僕だけで、蓮さんは怯えている様子も、その足取りに一才の躊躇もなく、一直線に階段を降りていく。
2人で長い階段を歩いた先には、薄暗い廊下が広がっていた。
僕はポケット探知機を使い、周囲の霊力を破壊しなが進んでいく。
「...!!!れ、蓮さん、微かですけど、この先から子供達の声が聞こえませんか?」
薄暗い廊下の先から、微かに子供のような高い声が聞こえる。はっきりと何を言っているかはわからない。笑い声のような、高い声が少しだけこの廊下に響いている。
「きっとこの先に子供達がいるんですよ!急ぎましょう!!」
「...春野!!!」
突然蓮さんに肩を思い切り掴まれ、後ろに投げ飛ばされた。僕はその衝撃で、床に尻もちをつくような形で倒れた。
蓮さんは僕を庇うように前に立ち、ゴーストソードを構えている。
「...そっかぁ。やっぱり、来ちゃったんだね。坊や」
忘れもしない。思い出したくもない。
子供を諭すかのような、優しさに包まれた声で、狂気じみたことを吐く女。あの悪霊が、目の前に立っている。