「この辺りのはずなんだけどなぁ...」
ポケット探知機を片手に、悪霊の反応を確認する。
この辺りに反応はあるが、悪霊が見当たらない...
(...それにしてもだいぶ弱い反応だな。蓮さんも言ってけど、“弱く見せる”力なのか、もしくは単純に弱い悪霊なのか、どっちなのかな...弱い方だといいな)
僕がこのゴーストファイターという職に就いてから、3年が経過している。最初の1年では基礎体術や悪霊についての知識を学び、2年目は実践経験を積もう!ということで、蓮さんと2人で悪霊退治の仕事に赴いていた。
しかし、僕ももう3年目。
蓮さんから独り立ちの許可をもらい、最近は今日みたいに1人で仕事をする機会が増えた。
新入社員の時よりは、ある程度戦闘には慣れたと言っても、戦闘力は蓮さんの足元にも及ばないレベルだ。蓮さんから比べたら僕なんてミジンコ...正直、強い悪霊が来たら、怖い。結構、ビビる。
(いやいやいや、ビビるな僕!!震えるなよ、もうっ!こんな姿自分の子供に見せられないぞ!悪霊にも臆さない、かっこよくてイケイケのパパになるんだ!)
ホルスターから拳銃を取り出して、いつ悪霊が飛び出しても対処できるように銃の引き金に指を置く。
この銃は普通の銃と異なる、対悪霊専門の拳銃「ゴーストシューター」。
弾は実弾ではなく、その拳銃の持ち主の霊力が弾丸となって発射される。
霊力が多い人ほど撃てる回数は多くなる。
僕は一日十発くらいかな...数時間休んで霊力を回復すれば、もう少し撃てるとは思うけど。
でも蓮さんは休みなしでも30発は撃てるって言ってたんだよな...僕も一般人より霊力は多いとは言っても、蓮さんとは比べ物にならない。
まあ、蓮さん曰く「悪霊の体に何発も当てれば、傷口から霊力が漏れて悪霊は成仏していく。
だけどな、基本的に悪霊の弱点は頭だ。頭を一発打ち抜いちまえば、一発で倒せる。なんなら、霊力に満ち溢れた強い悪霊なら、体を何発撃っても倒せないことも多い。
だからな、覚えとけよ。何発撃てるかが大事じゃねーんだよ。
ちゃんと“頭”に当てられるかが、大事なんだ」
僕は気を引き締め、悪霊が好む人通りの少ない暗い場所を探す。
すると、路地裏から子供の声が聞こえてきた。
「うっ...だれか...助けて...うう...」
路地裏で子供がうずくまって泣いている。ひどくぼろぼろの服を着て恐怖で体をぶるぶると震わせている
「さっきから、幽霊がそこをうろうろして怖いんだ...お兄さん...助けて」
「なんだって!?大丈夫、もう心配ないよ、僕に任せて。
隠れても無駄だ!!出てこい悪霊!!僕が退治してくれよう!」
一度は言ってみたかったヒーローものの言葉を吐き、僕は子供の指指す方向に銃を構える。
幽霊は見当たらない。ゆっくりと足を進み、辺りを確認しつつ前に進む。
(あれ、そういえば、あの子の霊力は普通の子より少ないと思うけど、どうして幽霊が見えたんだろう。霊力が多い人以外は、見えない...はず...なのに)
そう思い、後ろを振り返った時、背後で鉄パイプを振りかぶる子供の姿が...........
「ばっかやろーーーーーーーーーーーーーー!!」
突然、誰かが子供に体当たりして、子供は大きく地面に転倒した。
「そいつは子供の姿に化けて人を騙す悪霊だ!化けている時は霊力の見た目も、生きてるやつと同じ薄い青色の霊力になるんだよ!逆に言えばそれ以外は特に何の力もない!私の渾身のボディタックルが入った今のうちにとっととやれぇい!!」
そこには見たことない、まるくてふわふわした薄いピンクの体に、天使の羽のような白い翼をはやしている生物がいた。
....しゃ、喋っている....明らかに現世の生き物ではない何かが喋っている....!!!!
起き上がった子供の姿は、先ほどとは異なり、骨がくっきり見えるほど痩せこけており、目も全体的に黒ずんでいて、皮膚も一部剥がれている。
そして、体にまとう霊力は、悪霊特有の青黒い霊力。
強い悪霊は自分の姿を好きに変えられると聞くが、一般的には、悪霊は生前の姿に近い見た目をしていることがほとんどだ。
(この子の姿は...この子の生前は...いったい...)
僕は、子供にゆっくりと銃を構える。目を逸らさず、彼をじっと見つめる。
「ごめんね」
僕は悪霊の頭を銃で撃ち抜いた。
「う、うわああああああ!!!!」
悪霊の体から霊力が天に昇るように消えていく。
その消えゆく霊力から、わずかにあの子の記憶が漏れ出して行く。
ずるい....
ずるい....
みんな、ずるいよ...
僕もお外で遊びたい....
いつまで入院すれば、いいのかな...
痛いよ、痛いよ...
お母さんも、もう、お見舞いに来なくなっちゃった...
どうして...僕だけこんな思いしなきゃいけないの?
痛いよ...痛いよ...
みんなが、憎い...
「あぁ、まただ」
悪霊を成仏させる時、いつもその消えゆく霊力から悪霊の記憶が漏れ出していく。
原因はわからない。ただ、榎本君が前に言ってたな...悪霊の霊力は生きている人間とは違って、記憶エネルギーを多く含んでいる。って。
だからこの瞬間、記憶の一部がうっすら見えることがあるって...
「この仕事をやってて、記憶を見る瞬間が1番辛いんだよなぁ...」
独り言のようにボソっと呟くと、先ほどのまるくてふわふわした生物が、羽をパタパタとさせ、僕の肩にちょこんと止まった。
「可哀想なやつではあったが、やつは人を騙し危害を加えていた。それは、許されることではない。だからお前が気に病むな」
謎の生物は、小さな羽で僕の頭をトントンっと叩いた。
慰めてくれているつもりなのだろう。それは、本来とても嬉しいことなんだけれども...僕はどうしても気になることがある。
「あのー...あなた、悪霊ですよね?」
謎の生物は、間違いなく悪霊と同じ青暗い色の霊力に包まれている。通常の悪霊と比べて、霊力はかなり少なく見えるが...
「...ん??いやいや、私は善良なただのゴーストさんでありまして...」
謎の生物は、僕の肩から離れて、今は空中をふかふか浮いている。霊力も、ちゃんと見える...けど...やっぱり...
「あの...どう見ても、霊力の見た目が悪霊の色と同じなんですけど...」
片手でポケット探知機を確認すると、ばっちりと反応がある。
(あぁ、そっか。さっきポケット探知機が反応しなかったのは、あの子供の悪霊は普通の人間の霊力に化けることが出来たから反応しなかったのか...
弱い悪霊の霊力は、ポケット探知機だと探知が難しく、近くに来ないと反応しないことが多い...
おそらく...事務所の悪霊探知機の反応も、あの子供の悪霊じゃなくて、このふわふわもこもこしている、ふわもこ太郎の反応だったんだな!
霊力が少なすぎて、この距離じゃないとポケット探知機が反応しなかったってわけか!)
「いや〜、霊力の色が暗いのは、そのぉ、ちょっと霊力を酷使しすぎて黒ずんでいるだけと言いますかぁ、えへ、えへへぇ」
ふわもこ太郎(命名:僕)は、自身の頭で体をポリポリと掻きながら「えへ、えへへ」と笑っている。
路地裏に冷たい隙間風が吹き、ヒューヒューと鳴っている。
僕と、謎の生物は数秒間沈黙になり、気まずい空気が流れる...が、当然、このままではダメだ!
「助けてもらった恩があるので申し訳ないですけど、これも仕事なんです!成仏してもらいます!!」
僕は申し訳ない!!と思いつつも、ふわもこ太郎に銃を構えた。
「え、あそこの奥に倒れている子供が!」
ふわもこ太郎は、その翼で僕の背後を指差した。
「え!!??」
振り向いたがそこには誰もいない。路地裏を抜けて改めて辺りを見回すが、やはり誰もいない。
「あぁ...!!!」
騙されたことに気がついて再度路地裏に戻り、ふわもこ太郎を探したが、そこにはもう誰もいなかった。
羽を使って逃げたのだろう、ポケット探知機にも反応がない。
「あぁ〜、もう!!!僕ってなんですぐに他人の言葉信じちゃうんだろうなぁ〜!!こんなんじゃ完璧なパパなんて程遠いよぉ〜〜!!」
僕の叫び声は路地裏の隙間風と共に、空へと流れて消えていった...