「世界初!暗闇で美しく黄色に光る深海魚、『光幻魚(こうげんぎょ)』本日11時から初公開!!...って書いてあるけど、本当に犯人はここに来るのかなぁ」
現在の時刻は10時12分。
僕は水族館のスタッフに、展示室に悪霊が現れる可能性があることを説明し、開館前に中に入る許しを貰った。
そして、今、もこ太と一緒に展示台の裏で息を潜めて身を隠している。
「ゴーストファイターの身分証明書を出すだけで捜査に協力してくれるとは、時代だねぇ...」
もこ太の言う通り、ゴーストファイターという職業がまだ世間に認知されていない時代だったら、水族館の人は悪霊なんて存在を信じなかっただろう。
「ほんと助かってるよ!ゴーストファイターの身分証明書にはね!スタッフの人に、水族館の窓を一部開けておくようにお願いしたけど...さあ、罠に引っかかってくれるかどうか...」
『ゴースト』は、世間のイメージだと“見えないモノ”なので、建物も壁も簡単に透けて移動できる!!なんてイメージがあるが、実際はそうではない。
壁を通り抜ける特別な力を持つ悪霊でもいない限り、封鎖された建物に入ることは難しいだろう。
この佐瀬水族館はまだ開館前。水族館の入り口は閉じている。今日は新種の公開ということで、警備も厳重だ。
入り口はない。...この展示室付近の窓以外は。
「事務所で読んだ資料によると、今回の悪霊は人が少ない時間を狙って盗みを働いているようなんだよね。
いくら悪霊の姿は一般人からは見えないと言っても、盗んだ物は別!!
もし超高級なりんごを盗んだとして、自分は透明でもりんごは透明にはならない。りんごを盗んでそのまま走り去ったとしたら、一般人からしたら『宙を浮くりんご』が見えている訳だ。
それを大勢の前でやれば、当然話題になっちゃうからね。
そんなことしてゴーストファイターの目に止まっても困るだろうから、盗みは基本的に人目のつかない時間を狙っているんだろう。
そしてこの光幻魚(こうげんぎょ)はこれまで別室で、かなり厳重に管理されていて、入る余地はなかった。
そしてようやく展示される本日!
人の少ない時間を狙いたい犯人!!当然、人の少ない開館前にどこか良い侵入場所がないか探すよね?そんな中、空いてる窓を見つけた暁には、とーぜんそこから侵入してくるっしょ!
どう!?僕の名推理、いい線いってるよね!!??」
「いつもは“迷”探偵だけど、今回はいい線いってそうだな」
「ちょ、いつもってなんだよもこ太!ぼ、僕の何を知ってるって言うんだよぉ!た、たしかにいつも割と脳筋寄りの思考って言われるけども!!」
もこ太は僕にはまるで興味がないようで、あたりを注意深く見張っている。
「それにしても、もこ太、この展示室だいぶ暗くないか?せっかく世界初公開なのに、こんなに暗かったら魚がよく見えないんじゃないかな...」
「この深海魚は暗いところでより強く光るらしいからな。そりゃ、部屋を暗くするわな」
もこ太の言う通り、光幻魚(こうげんぎょ)は美しい神秘的な黄色い光を放ちながら水槽の中を優雅に泳いでいる。
「たしかに綺麗だけど...でもこの暗さだとポケット探知機がよく見えないんだよなぁ」
僕がポケット探知機を取り出すと、もこ太はすぐに羽で画面を覆い隠した。
「おい馬鹿、こんな暗いところでそんなもん取り出したら明るさで私たちの隠れてる場所がバレるだろ、早くしまっとけ。それよりちゃんとハイドリングはつけたか?」
もこ太は自分の体につけているハイドリングをツンツンと叩きながら指差している。
このハイドリングは僕がもこ太に渡した物。身につけた者の霊力を少なく見せる効果のある腕輪だ。
「もちろん!職場に1つだけ予備の腕輪があったからね、ちゃんとパクってきたよ!」
「パクリをそんな誇らしげに話すんじゃねーよ...」
「いやいや、そもそも君に腕輪を渡したから僕の分がなくなったんだよ!?」
「あーれ?そうだったけかぁ?オボエテマーセン」
もこ太はわざとしゃくれ顎のように口を突き出し、僕を煽るような表情をしている。
(腹立つ...何か...何か言い返したい...!!!)
「まあ、腕輪つけたところで、霊力に敏感な悪霊なら僕の霊力は気付かれてしまう可能性があるから不安だな〜...
あー、もこ太の霊力はカスカスだからその心配はないよね!ほんと羨ましいなーカスカスで!...って、イテッ!!」
僕もお返ししてやる!と言わんばかりにもこ太を煽っていたら、片翼で思いっきり顔面を引っ叩かれた。
(酷い...自分から煽ってきたのになんで僕が殴られるんだ...)
理不尽に耐えながら、殴られた頬をさすっていると、わざと少しだけ開けていた展示室の扉から、誰かが入ってくる。
青黒い霊力を纏っている。あれは......間違いなく、悪霊だ。
「おい、来たぞ」
耳元でもこ太が囁いた。悪霊は周囲を警戒しつつ、ゆっくりと展示室の真ん中に置かれたこの光幻魚(こうげんぎよ)に近づいている。
暗くてよく見えないが、14、5歳、あるいはもっと下に見える。
(また...子供の悪霊か...)
路地裏で出会った子供の悪霊を思い出し、胸が痛んだ。これから“パパ”になる自分としては、幼くして亡くした命を見ると、耐え難い気持ちになる。
もこ太は俺の髪の毛を引っ張り、耳元で話し始めた。
「おい、お前、分かっているな。あいつをギリギリまで引きつけて、確実に外さない場面で頭を一発、狙い撃て...っておい、お前聞いてるか?」
僕は隠れていた展示台の裏から飛び出した。
「見つけたぞ!!悪霊退散!!」
僕はそう叫び、悪霊にゴーストシューターを突きつけた。
悪霊は目を丸く驚いた表情を見せた。
と、思った途端、踵を返しとてつもないスピードで展示室の扉から出て行ってしまった。
あまりの速さに呆気に取られてしまい、ポカンとしている僕の後ろから怒号が飛ぶ。
「おい、馬鹿!!正面から行くやつがいるか!!」
もこ太が展示台から飛び出して、僕の頭に体当たりしてきた。
「で、でも、相手は子供だ!!正々堂々と行かないと...卑怯だ!!」
「はぁ〜〜...??お前...そういう変なところで真面目を出すなよ...」
「ぼ、僕はこれからパパになるんだ。それなのに、子供の背後を狙うような、そんな卑怯なパパになんて、なれないよ」
「なるほどな、じゃあお前は悪霊を取り逃がして街の治安を守らない立派なパパになりたいんだな」
「...っ...。ごめんなさい...」
もこ太の言う通りだ。子供相手に胸が痛むからと言って、正々堂々と戦ってそれで逃げられたなら、僕はゴーストファイターとして失格だ。
子供のために、完璧で立派な父親になりたい。
そのためには、まずゴーストファイターとしてきちんと職務を果たし、この地域の治安を守らなければならない。
「まあ、済んだことはしゃーない。魚も盗まれてないし。次に切り替えていくぞ。それじゃ名探偵さん、次の作戦立ててくださいよ」
もこ太は僕の肩をポンポンと叩いた。
...落ち込んだ僕を、もこ太なりに励まそうとしてくれているのかもしれない。
「次の作戦、か...あの逃げ足、尋常じゃない速さだった。おそらくあの悪霊の能力は、逃げに特化した能力だろう。見つかれば、またすぐに逃げられてしまうかも...
警戒心も高そうだ。僕たちゴーストファイターに目をつけられたと知れば、一度盗みに入った店はもう使わないかもしれないな...
この辺りの地域で、今回の水族館以外のイベントでやつが狙いそうなくらい大きなイベントなんて、今朝調べた限りでは無さそうだったしなぁ。
あ、あれ...も、もしかして、これもう詰んでないかな?も、もこ太ぁ、どうしよっ...」
僕は泣きそうになりながらもこ太の顔を見た。
もこ太は泣きそうな僕を見て、勘弁してくれよと言いそうな、面倒くさい物を見る表情をしている。
「もこ太ー...そんな冷たい目で僕のこと見ないでって...あれ?」
僕は、もこ太をまばたきせずにじーっと見つめる。
「お、おい、なんだよ?」
「そうた!これだよ!もこ太、僕いいこと思いついた!」