(足りない、足りない、足りない、足りない。
もっと欲しい。もっともっともっともっと。
これじゃ足りない。足りない、足りない、足りない。
早く、早く、持って帰らないと)
「へい!!らっしゃいらっしゃい!!世にも珍しい売り物ばかりだよ〜!見ていかないかい!」
公園で開催されているフリーマーケットで、メガホンを片手に一際大きな声を張り上げている男がいる。
(珍しい物...欲しい)
男に近づき、レジャーシートの上に並べられた商品を確認する。が、どれもこれもガラクタばかり。
(珍しい物...ない)
「も、もこ太でーす!誰かあたちのこと、育ててくらさ〜い!」
帰ろうとした時、声が聞こえた。
ふわふわとした体に白い羽をつけた生き物が、なぜか体に見合わない大きな腕輪をつけて、喋っている。
この生き物の説明文として、大きな文字で『世界初!』『1匹しかいない貴重な生き物!』と書かれている。
(見たことない生き物...生き物?それともゴースト?
霊力、感じられない...変な形の生き物...初めて...欲しい。
欲しい欲しい欲しい。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
持って帰らないと)
謎の生き物を掴み、走り去る。
誰も追いつけないスピードで、ひたすら、ひたすら、ただひたすら走り抜けた。
そして、『家』に着く。
奪い去った生き物を、他の物と同じように、並べて置く。
(...まだだ。まだ、足りない。
もっと、もっとたくさん、持って帰らないと)
バンッ!!!!!!
突如、銃声がした。頭から霊力が漏れ出して、意識が遠くなる。
振り向くと、銃を突きつけている男性が立っている。
(あの男は...さっきの...)
「駄目だよ。欲しい物はね、ちゃんとお金を払って買わないといけないんだ」
(な、んで...この場所が...)
体から霊力が抜けていく。立っていられず、地面に仰向けに倒れる。
「プェ!!!」
先ほど盗んだ謎の生き物が、目の前にふわふわと飛んできて、ボクの顔目掛けて何かを吐き出した。
白くて四角い、何かの機械のようだ。
「あーー、腹の中にずっーーーとこれ入れているの不快だったわぁ...」
「ありがとう、もこ太のGPSのおかげで、ここまでたどり着けたよ」
-------------数時間前------------------
「あっ?私を商品として売る?」
もこ太は少し不機嫌そうな顔で僕の顔を睨みつけている。
「そう!!だって君って、見たことない珍しい見た目してるんだもん!しかも君は一般人から視認されない!
あの犯人専用の世にも珍しい商品の出来上がりだよ。ほら、これ見て!」
僕は先ほどお店で買ってきた、安物のメガホンとはっぴをもこ太に見せた。
「じゃーん!!これいいでしょ?もうすぐ佐瀬公園でフリーマーケットがあるらしいからさ、そこで作戦を実行しようと思って!」
「...フリーマーケットでメガホンもはっぴも別にいらないだろ」
「えぇ〜いいじゃん!雰囲気作りだよー!!それよりも、フリーマーケットが始まるであと2時間あるから、宣伝用のチラシを貼れるだけ貼っておこう!」
僕は急いで手書きで作った『世界初の生き物!佐瀬公園のフリーマーケットで販売予定!』という内容のチラシを貼れるだけ貼った。
そしてその後、僕はもこ太と一緒にレンタカーに乗って、佐瀬公園へと向かった。
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「ねぇママ〜。変は生き物いるよ」
「何言ってるの、何もいないじゃない。さあ、行くわよ」
「ねえママってば〜!!!」
抵抗する子供の言葉も虚しく、母親は足早に子供を連れた何処かに消えてしまった。
「...おい、私は犯人専用の商品じゃなかったのか?」
僕たちは佐瀬公園のフリーマーケットで商品を出店している。当日キャンセルの人がいたおかげでなんとか場所を確保することができた。
もこ太以外は、おもちゃ屋で買ってきた安物を適当に並べて置いている。もこ太が犯人の目にとまればと思ったが...
「い、いやーまさか君のことが見える子供がいるなんて...焦った...」
「あの子供の霊力はなかなか多かったからな〜。普段もゴーストが見えているんだろうな。将来の有望なゴーストファイター候補かもしれんなぁ?」
「そうだねぇ...。でも万が一にも買われたらどうしようかと焦っちゃったよ。そうだ、もしもの時のために、値段を変えておこう」
僕は値札を「10,000,000円」と書き直した。
「おいおい、フリーマーケットでその値段は流石に不自然じゃ...」
「まあまあ!いいのいいの!どうせ犯人なら、金を払わず盗んでいくはずだからさ!
へい!!らっしゃいらっしゃい!!世にも珍しい売り物ばかりだよ〜!見ていかないかい!」
僕は買ったばかりのメガホンを片手に声を張り上げた。
「あー、おいお前!うるさいぞ!あんまり大声出すなよ...っておい!!来たぞ!」
もこ太の視線を辿ると、水族館で見つけた悪霊がこちらに近づいてきている。
視線がバレないように、僕はあえて正面を向き「らっしゃいらっしゃい〜」と続ける。
悪霊は商品を選定するかのように、一つ一つじっくりと眺めている。
「も、もこ太でーす!誰かあたちのこと、育ててくらさ〜い!」
(あ、あたち!?)
もこ太の突然のあたちアピールにびっくりしたが、悪霊はもこ太の見た目に驚き目を丸くし、両手でもこ太を掴むと凄まじいスピードで走り去っていった。
「よしよし、作戦通りだな」
資料によると、あの悪霊の盗んだ物は闇市で転売されているわけでもないし、かといってどこかで捨てられていた形跡もない。
つまり、僕の予想だと、盗んだ物は自分の手元に大事に保管しているんじゃないか。そしてこれまで盗んだ物を保管する「アジト」がどこかにあるはず。
僕はもこ太の口の中に入れたGPSを、車で追跡すると、そこにはボロボロの家があった。
家はつる状の植物で覆われており、今にも崩れそうな見た目をしている。
おそらく誰も住んでいない廃墟となった家を、アジトとして使っているのだろう。
音を立てないように忍足で、ゆっくりと家に侵入する。
埃の被った廊下を進むと、突き当たりに1つの部屋がある。ゆっくりと扉を開くと、そこには子供の背中があった。盗んだ大量の物を綺麗に並べ、それをじっと眺めている。
僕は静かに銃を突きつけ、その小さな背中目掛けてゆっくりと銃の引き金を引いた。
「あーー、腹の中にずっーーーとこれ入れているの不快だったわぁ...」
「ありがとう、もこ太のGPSのおかげで、ここまでたどり着けたよ」
力なく倒れた悪霊の体からは霊力が漏れ出し、記憶が溢れていく。
「この記憶、日本じゃないな。外国のどこかの記憶かな?」
そこには、ボロボロの洋服を見に纏い、やせ細った何人もの兄弟が手を繋いで歩いている光景が映っていた。
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「お腹が空いたよ、お兄ちゃん」
「私も、お腹空いたよー...」
「大丈夫だよ、ほら、このパンをお食べ」
弟と妹たちは、ひどくお腹を空かせている。ボクは小さなパンを皆に一つずつ分け与えた。
子供の1日分の食事としては、到底足りる量ではない。
両親は2人とも病で亡くなってしまった。
これからは、長男のボクが頑張らないと。
でも、ボクみたいな子供が働いても働いても、とても家族を養えるお金にはならない。
「こらぁ!!くそがき!!また盗みやがったな!!」
店主の声を無視して、僕はバックに詰めた食べ物を落とさないように、必死にバック抑えて、ひたすらに走った。
走って走って走って、早く、家族たちのもとへ。
「おい!!捕まえたぞ!!」
...ああ、ボクの足が、もっと早ければ、捕まらないのに。
何度も何度も鞭(むち)で打たれた。
それでも、家族のため、何度も何度も盗みを働いた。
どれだけ盗んでも、足りない。足りないんだ。
兄弟たちは病や飢えでどんどん痩せ細っていく。
「お兄ちゃん、この絵本、読んで欲しいの」
何処かで盗んできた本だ。ボクの家に本はこれだけしかない。妹はこの本が大好きだ。
「この本に出てくる『ニホン』っていう国はね、美味しい食べ物も、可愛いぬいぐるみもいっぱいあるんだって。いつか行ってみたい。お兄ちゃん、いつか、行けるかな?」
病に伏せて痩せこけた手を、ボクは優しく握りしめた。
「...うん、大丈夫。いつか、いつか必ず行けるよ。そうだ、絵を描いたんだ。君の大好きな、絵本に出てくるうさぎのキャラクター描いたんだけど、ごめん、にいちゃん絵が下手で...」
妹は痩せこけた手で震えながら紙を掴み、太陽のような笑みを浮かべた。
「ほんとだ!すごい、すごい可愛い!嬉しい...こんなに嬉しいの初めて」
「...大袈裟だよ。にいちゃんは、絵を描くのは得意じゃないし...」
「そんなことないよ!だって、これはね、お兄ちゃんが私のために描いてくれた、世界で一つだけの絵だもん!私、一生の宝物にするね!」
世界で1番大切な、ボクの家族。
あの子達が生きていれば、ボクがどうなろうと構わない。
あの子達のために、まだまだ盗まないと。
こんなカビの生えたパンでは、体に悪い。もっと、高級な、体にいい食べ物を持ってこないと。
大きな病院に行って、薬も持ってこないと。
それに、あの子達が喜ぶおもちゃやぬいぐるみも欲しい。
欲しい。欲しい。欲しい。
これだけじゃダメだ。足りない、足りない、足りない。
もっともっと、持って帰らないと。
全ては、あの子達の笑顔のために。
「おいお前!!また盗みを働いたな!!」
「家族のため...まだ、まだ足りないんだ...早く、持って帰らないと...」
何度も鞭(むち)で打たれたとしても。何度痛い思いをしたとしても。
ボクの家族が、家で待っているんだ。
「...お前、何言ってんだ?」
「お前の家族はもう一年前にとっくに全員死んでるだろう?お前は一体、誰のために盗んでいるんだ?」
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「持って帰らないと...必ず...だから、待っててね...」
今にも消えてしまいそうな悪霊が、小さな声を絞り出して、天井に手を伸ばしている。
『盗み』とは、彼の人生において、家族を守るために何よりも大事なことだったのだろう。
僕はゆっくりと悪霊に近づき、優しく手を握りしめた。
「もう、いいんだよ、もう盗まなくていいんだ。大丈夫、ほら、ゆっくり目を閉じて。家族みんなが君を待っているよ」
「ああ、あ、あ、ああ、ほんとだ。皆、そこにいたんだね」
悪霊は嬉しいそうに微笑み、そして、静かに消えていった。
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「僕が生まれたこの国は豊かだから分からなかったけど、きっと世界にはまだまだ、食べることさえままならないような子供たちがいっぱいいるんだよね。
僕はこれからパパになる。
自分の子供に貧しい思いをさせないように頑張るのもちろんだけど、じゃあ、自分の子されよければ他の子供たちはどうなってもいいのか。
そんな、パパにはなりたくない。
世界のどこかで泣いている子供たちがいれば、僕は見なかったことにはしたくない。
そして、僕の子供に、周りにも優しくできるように、僕の背中を見て学びなさい、と胸を張って言えるようなパパになりたい」
僕は、もう本当に誰もいなくなってしまった廃墟を眺めながら、決心した。
「ご立派なことだな。それでお前はどうするんだ?」
肩の上で寝転がっているもこ太が僕に問いかけてきた。
「まずは、すぐに出来ることから始めるよ。今日から定期的に募金しようと思うんだ!ほら、よく飲食店とかコンビニに募金箱があるんだろ!」
「へぇ、そりゃいいね。いくら募金するんだ?」
「そりゃ、もちろん思い切って一万円とか...あれ」
僕は財布を取り出して中身を確認した。
「う、うそだー!!!レンタカー代、メガホンとはっぴ代、それにGPSも買ったら財布の残高が1円になってるー!!ぎゃー!!ただでさえ今月は金欠なのにー!」
僕は絶望のあまり、財布を持ちながら膝から崩れ落ちた。その姿を見て、もこ太はお腹を抱えながら笑っている。
「ははは、1円でもいいじゃないか。募金しろよ。この国では1円相当の価値しかなくても、他の国ではもっと価値が上がるとも聞くしな。
それにお前よぉ、金持ちならまだしも一万円の募金はお前の給料的にもきついだろ。
何円でもいいんだ。続けることが大事なんだから」
「...なんか、もこ太が良い事いうと、腹立つね」
「おい!!私はこう見えてお前より大人なんだよ!!良いことの一つや二つくらい言うわ!!」
僕はもこ太と笑い合い、そして帰りに1円を募金した。
それからは、僕は募金箱を見ると、必ず募金をするようになった。